第74話 アダムの償い
しばらく2人はためらっていると突然穴の底から何やら奇妙な音が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
その音は段々上に向かって近づいてきていた。
リトは穴の底をよく見ると何かに気が付いた。
「水だ! 水が上がってきてるよ!」
「なんだって!?」
「は、早く飛ばないと飲み込まれちゃうよ……!」
「くっそ…………。わかったやるよ! やればいいんだろ?」
アランはそう言って深呼吸をした。
リトは彼が落ちないことを祈った。
そして次の瞬間、アランは思い切って飛び上がった。
「わっ!!」
全く届かないかと思われたが、アランは何とか階段に手を掛けた。
「絶対に登ってやるぞ!」
アランはそのまま手の力を使って階段の上に必死に乗り上げた。
「ハァハァハァ……。ほら! 君も早く飛ぶんだ!」
今この瞬間も下からやってくる水は彼らの元へと迫ってきていた。
アランがリトに手を伸ばすと、リトも思い切って飛んだ。
アランはリトの手を掴み、階段の上に引っ張り上げた。
「さあ、走るぞ!」
アランがそう言うと2人は急いで階段を上り始めた。
出口まで数十階ほどはありそうなその階段を2人は息を切らしながら必死に上っていった。
だが2人とも途中で限界に達した。
「も、もう無理~」
彼らは階段に座ってしばらく休憩を取った。
その間にも水はどんどん上へと上がってくる。
「でも待てよ……。ただの水なら逃げる必要なんてないんじゃないか? 泳げばいいだけだ」
そう言ってアランは下を見た。
するとその水の中で何かが跳ねているのが分かった。
「ああ、前言撤回。あの中はピラニアだらけだ」
アランはすぐさま立ち上がって再び階段を上り始めた。
「ちょ、ちょっとまってよ~」
リトも置いて行かれまいと彼に続いて階段を上る。
果てしなく続く階段に彼らの体力はどんどん奪われていく。
だがそれに対して水位が上がるスピードは速くなっていた。
その結果、彼らと水面との間の距離は次第に近づいてきていた。
「まずい! 早くしないと追いつかれるぞ!」
「ひぃい~!!」
彼らは最後の力を振り絞って全力で階段を駆け上がった。
「痛ァっ!!」
リトは突然足を抑えて倒れた。
飛び上がってきたピラニアに足を噛まれたのだ。
「大丈夫か!」
アランはリトに手を貸して落ちていた鉄の棒を拾うと、飛び上がってくるピラニアを叩き落とした。
「急ぐぞ」
アランはリトに肩を貸し、2人は階段を上っていった。
もうゴールは目前。
緑色の扉がすく目の前に見えていた。
「がんばれ。あとちょっとだ」
2人は階段を1段1段必死に上っていった。
だがゴールの直前。
扉まであと3階という所で彼らの前に1人の男が立ちはだかった。
「アダム!」
その正体はアダムだった。
「ここから先は通さない」
アダムはそう言って剣を2人に向けた。
「お兄ちゃん、もうやめて! そんな事したって無意味だよ!」
「お前は黙ってろ!! お前は本物のリトじゃない。リトは死んだんだ」
アダムはそう言って剣を構えたまま近づいてくる。
「ああ、かわいそうなアダム……。そうさ、君の言う通りさ。彼は君が閉じ込めた君自身の良心だ。君のリトを思う気持ちが彼をリトの姿にした」
「それがなんだ」
「これが何を意味するか分かるか? 君はリトを思っていた気持ちすらも捨てたんだ。今の君は何もない空っぽの殺人鬼だ」
「黙れぇ!!!!」
アダムはアランに切りかかったがアランはそれを避けてアダムの腕を掴んだ。
「リト! 今だ!! 君だけでも早く逃げるんだ!」
アランが叫んだ。
「でも……」
リトはアランを置いて逃げるのを一瞬躊躇った。
「いいから逃げろ!! 世界の命運は君にかかってるんだぞ!!」
「わ、分かった……!」
アランの言葉にリトは頷いて再び走り始めた。
「させるかあああああ!!」
アダムはリトを追いかけようとしたが後ろからアランに掴まれた。
「君はここで俺と一緒に沈むんだ」
アランはそう言ってアダムもろともピラニアだらけの水の中に飛び込んだ。
「うああああああああああああ!!!!」
2人は体中を人食い魚に噛まれ、すぐに水が血で赤く染まった。
「お前はここで死ぬと一生意識が戻らなくなるぞ!」
アダムが言った。
「知ってるさ。そんなこと」
アランはそう言いながらもアダムを離さなかった。
「くそがあああああああ!!!!」
アダムは叫んだ。
「うっ……!!」
アランは魚に噛みつかれ、水中に引きずり込まれた。
もうだめだ。
アランはどんどん水の中に沈んでいき、水面の光は遠くなっていく。
彼は心の中で呟いた。
「ニーナ、クリス、ビビエル、ミル、そしてリンカ……。みんな、幸せにな……」
彼はそんな仲間たちとこれまでに起きた出来事を思い出していた。
次第に意識もぼんやりしてくる。
「さようなら……」
彼がそう呟いた次の瞬間、突然水の中で何かが爆発する音が聞こえた。
アランは意識を取り戻し、辺りを見回した。
するとビルの壁数か所に巨大な穴が開いていることに気づいた。
そこからビルの水が一気に抜けていった。
ビルの中の水はその穴に向かって滑り落ちるように流れていき、水の中にいた生物も物質の全て穴の外に引きずり込んだ。
アランもそのまま引きずり込まれそうになったが、彼はとっさに階段の手すりに掴まるとその急流を必死に耐えた。
その流れの勢いはビルに開いた穴をさらに広げるほどに強力だった。
それでもアランは掴まったその手を離さなかった。
「放すもんか……!!」
ようやく水が抜けていき、アランが手すりをよじ登ろうとすると目の前に現れた少女がアランに手を差し伸べた。
「ニーナ!?」
そこに居たのはニーナだった。
「何故君がここに?」
アランはニーナの手を取って階段に戻ったがニーナはアランの質問には答えなかった。
アランはニーナに手を引かれそのまま緑の扉から外の世界に出た。
「うっ……」
アランが気付いた時にはもう元の場所に戻っていた。
アダムはぼうっと宙を見上げており、ニーナはその傍に倒れていた。
「ニーナ!!」
アランはニーナに近づいた。
「ニーナ! 起きてくれ!」
アランがそう言ってニーナの頬を軽く叩くとニーナは目を覚ました。
「……っ!」
ニーナはアランの顔を見て驚いた表情をすると、突然アランに抱きついた。
「な、なんだ……?」
アランは突然のニーナの行動に動揺した。
「あなたは私を守ってくれるって言った。勝手に死のうとしないで」
ニーナはアランに抱きついたまま小さな声で呟いた。
「すまない……。悪かった」
アランはそう言ってニーナの頭に手を乗せた。
そして彼は立ち上がるとアダムの元へと近づいた。
「アダム。君の負けだ」
彼は言った。
「ああ。分かってる」
「今はどんな気持ちだ?」
「正直お前には感謝している。俺はこれ以上の罪を重ねないで済んだ」
「そうだろう。だったらこれまでの罪を償う為に僕たちと戦おうじゃないか」
アランはアダムに手を差し伸べた。
だがアダムはその手を取らなかった。
「すまない。俺は弱い人間だ。自分が今までやって来たことを自覚してしまった。俺は自責の念に耐えられない……」
「自責など無意味だ。本当に反省しているのなら、思い切って前に進むべきだ。分かるか?」
アランが言ったがアダムは首を振った。
「すまない……。本当にすまない……」
アダムはそう言った後、フラグメントオーブを取り出した。
オーブは美しい緑色に輝きながらふわりふわりと宙に浮いた。
「何をやってる……?」
「罪の償いだ」
「まさか!? 君が死んでも誰も報われやしない! 本当に償いたいなら生きて償え!」
「分かってる……だが……無理だ。俺には耐えられない……」
アダムがそう呟くとオーブがさらに強い光を放ち始めた。
「やめろ!!!!」
アランはアダムを止めるべく近づこうとしたが、オーブの力に吹き飛ばされてしまう。
オーブの光はアダムを包み込み、アダムのエネルギーを吸収し始めた。
「ごめんな……リト……」
アダムは全ての生命エネルギーをオーブに吸い取られ、そのまま消えてなくなった。
「そんな……」
光が消えてアランは呟いた。
既にそこにはアダムの姿は無く、地面に突き刺さった剣とその傍に転がるオーブだけが残っていた。
アランは近づいてオーブを拾い上げる。
「それはどうする?」
ニーナが聞いた。
「そうだな。君が持っておいてくれ。これは僕にも扱うことが難しい代物だ」
「分かった」
ニーナはそう言ってオーブを受け取った。
すると突然どこからか声が聞こえてきた。
「アラン・ブラックウォール……。また俺の大事な仲間を殺したな……?」
「その声は……サイファー」
ニーナはそう呟いた。
「まさか!? どこだ!?」
アランは辺りを見回すが声の主は見当たらない。
「どこか分からないか? もっと必死に探せよ」
サイファーは言った。
「早く出てこい! サイファー!!」
アランはそう叫んで身構えるが、サイファーはどこにも見当たらない。
「ああ。出てきてやった。お前の後ろに居るよ」
突然そんな声がしてアランは振り向いたが、その瞬間彼は吹き飛ばされた。
「アラン!!」
ニーナが叫んだ。
「ニーナ……君は逃げるんだ……」
アランは倒れたまま言った。
「この俺から逃げられると思うか? 俺はもうこの国の王だ……。この国の中にお前たちが居る限り、俺の目からは逃れられないっ!!」
サイファーはそう言ってアランを踏みつけた。
ピラニアっておいしいのかな~?




