第69話 アダムとリト
アランはアダムの水の力によって両手を拘束されているので身動きが取れない。
「うっ!!」
アダムはそのまま何発もアランを殴った。
「アラン!!」
畔でその様子を見ていたニーナはアランを助けようと湖の中に入って来た。
「おい! やめるんだ!! この男は水を操れるんだぞ!?」
アランは必死に叫んでニーナを止めようとするが、ニーナは言う事を聞かなかった。
「嫌だ。私はあなたを助ける……。約束だから」
アダムは水を操ってニーナの事もすぐに拘束してしまう。
「馬鹿だな……。僕は頼んでないぞ」
「あなたはいつも頼んでないのに私のことを助けてくれた」
「……。そんなこと、もう忘れたな」
アランは再びアダムに殴られる。
「く……くそっ……」
アランは必死に立ち上がってアダムの攻撃を迎え撃つ。
「私が昔の記憶に囚われて悩んでいた時、あなたは勝手に私の記憶の中に入ってきて私を助け出した。とても迷惑だった。でもあれがなかったら今の私はないから」
「記憶の中にねぇ……。そんなこともあったな」
アランがアダムの方を見ると彼はぼうっとニーナとアランの会話の様子を眺めていた。
「なんだ? 君も救い出して欲しいのか?」
「黙れ」
アダムはアランに向かって飛んできて腹を殴った。
「な……なんだ? そこまで怒るってことは図星だな……」
「黙れと言っている。早くオーブの在処を答えろ。女を殺すぞ」
アダムが言った。
「僕は君に対してずっと何か違和感を覚えていたんだ。それが何か少し分かったかもしれない」
「なんだと?」
「君は殺しが嫌いだろう? ニーナを殺すと言った時わずかに躊躇いの表情が見えた」
「俺はもう数えきれないほどの殺人を繰り返してきた。今更、躊躇いなどあるはずもない」
「確かに慣れは反応を鈍らせる。でも0にはできない」
「俺は今ここでお前を殺せるぞ?」
アダムはアランの首を掴んで言った。
「どうかな……? 君は悪役にどんな種類が居るか知ってるか?」
「……」
アランが聞いたがアダムは答えない。
「1つが殺しを殺しだと思っていないタイプだ。他人に対する共感能力が欠けている人間だ。そしてもう1つが何らかの理由で殺しを正当化しているタイプだ。自分のやっている殺しは正義だと、正しいことだと思い込んでいるんだ。さあ、君はどっちかな」
「どちらでもいい、早く答えろ!!」
アダムは剣を抜いて、その柄の部分でアランの腹を突いた。
アランは突き飛ばされて陸に乗り上げた。
アダムはその後を追い、アランの胸ぐらを掴み上げた。
「もうお前の話は聞き飽きた」
「だったらこれで最後にしてやろう」
アランは言った。
「なんだ?」
「そう、これで本当に最後だ。僕は秘策を見つけたんだ」
アランはそう言ってアダムの頭を掴んだ。
するとアダムは身動きが取れなくなり、視界が歪み始めた。
「な、何をした!?」
「君の記憶を覗かせてもらうんだよ!! 君の心の奥には何か闇が見える。それを解決すればもう戦う必要もないだろう?」
「貴様ァ!!」
アダムは体内に取り込んでいた幽霊達を解放してアランを襲わせた。
アランは幽霊達に腕を掴まれて引き剥がされそうになるが、必死に耐えた。
「邪魔される前に終わらせる!! さあ、セラピーの時間だ!!」
「うああああああああああああああああああ!!!!」
アランはそのまま魔術の力でアダムの記憶の世界へと潜り込んでいった。
◇
「っ……!!」
アランは気がつくとどこか知らない森の中にいた。
風が心地よく、空は快晴。
先ほど居た湖の畔とは全く別の場所だった。
「ここが、アダムの記憶の世界か」
アランはすぐに立ち上がってアダムを探した。
彼が森の中をしばらく進んでいると、開けた場所に大きな家が立っていた。
その大きさからすると明らかに貴族の家で、しかもその中でもかなりの金持ちだろう。
だがその家が建っている場所に違和感があった。
その家はブラックウォールの目の前に建っていたのだ。
つまりここはアウトサイド。
アウトサイドには似つかわしくない豪華な建物に疑問を持っていると、どこからか男の声が聞こえてきた。
アランはすぐに木陰に隠れて様子を伺った。
そこに居たのはやはりアダムだった。
「はっ! はっ!」
アダムは木製の剣を振りながら家の前で剣術の練習をしていた。
木でできた人形を的にして攻撃を浴びせていた。
アダムは汗をながしながらしばらく稽古を続けた後、剣を置いてしばらくベンチで休憩をとった。
そんなアダムの元に1人の見知らぬ少年が近づいてきた。
「お兄さん、上手だね」
少年はニコニコと笑顔を振り撒きながらアダムに話しかけてきた。
「何者だ、お前」
「僕の名前はリト。お兄さんは?」
「そういう意味じゃない。ここはホワイト家の敷地だ。部外者が入って来られる場所じゃない」
「ねえ、僕にも剣術教えてよ。こう持ったらいいのかな?」
リトは勝手にアダムの木刀を拾い上げて剣を構えた。
だがアダムはすぐにそれを無理矢理取り上げた。
「ああっ」
「やめろ。俺の物に触るな」
アダムは本気で怒っているようで、その顔を見たリトは悲しそうに俯いた。
「ごめんなさい……。じゃあ、見てるだけ……。見てるだけならいいよね? お願い……。僕、こんな風に外に出るの今日が初めてで……」
リトの表情を見ると嘘を言っているようには見えなかった。
何かこの少年には裏がありそうだ。そう思ったアダムだったが、彼を無理矢理追い出すこともできなかった。
「見るだけだ。少し見たらすぐに帰れ。この家の人間に見つかるとただじゃ済まされないからな」
アダムはそう言って剣を構えた。
するとリトは一気に明るい表情を取り戻して頷いた。
「うん、ありがと!」
リトは満面の笑みでアダムの事を見つめた。
「はっ! はっ!」
アダムはいつも通り稽古を始めたが、どうしても見られている事を意識してしまっていつものフォームが出せなかった。
「わぁ〜! かっこいい……」
それでもリトは羨望の眼差しでアダムを見つめていた。
時折邪魔にならないように小さな声で褒めたり小さな拍手をしてくれるリトに、さすがのアダムも少しずつ気分が高揚して次第にいつも通りのフォームが出せるようになってきた。
「はっ! はっ! おらっ!!」
それどころかいつも以上に綺麗にフォームが決まり、彼は夢中で剣を振り続けた。
彼は自分の世界に入り込んでしばらく稽古を続けた。
どれくらい続けただろうか、時間の感覚も忘れて夢中になっていた彼は、ふとした時かなりの時間が過ぎていることに気が付いた。
「ま、まずい。今何時だ?」
「うーんと、午後3時ちょっと過ぎかな」
リトが答えた。
毎日午後3時にはアダムの父親が一度家に帰って来て一服するのが習慣になっている。
もし父親と鉢合わせてしまうと、リトが見つかってしまう。
そんな思いで振り返ると、もうすでに門の所に父親の車が戻って来ていた。
「リト! 早く逃げろ!」
アダムはそんな叫びを上げてリトの方を見ると彼はすでに消えていた。
「どうしたアダム。何かあったのか?」
車から降りてきた父親がアダムに話しかけてきた。
「な、なんでもありません。お仕事お疲れ様でした」
「おお。ありがとう。お前も稽古はほどほどにしろよ」
父親はそう言って執事と共に家の中に入っていった。
そして翌日、アダムはいつものように稽古を始めると、またリトが現れた。
「こんにちは。お兄ちゃん」
リトはまたニコニコと笑顔で話しかけてきた。
「お兄ちゃんはやめろ」
アダムが言った。
「だって名前教えてくれなかったから」
「俺の名前はアダムだ」
「ふ〜ん。よろしくね、お兄ちゃん」
リトは悪戯っぽく笑うと、アダムの剣を奪って逃げた。
「お、おい!」
「ねえ、今日も剣術教えてくれないの?」
「ダメだ」
「なんで?」
「これはホワイト家の伝統ある剣術だ。部外者のお前に教えることはできない」
「ケチだなあ〜」
リトはすこし不満げな表情でアダムに剣を返してきた。
アダムは黙って剣を受け取った。
「でもさ、今日は剣を取っても怒らなかったね」
リトはニヤリとまた悪戯な笑みを浮かべた。
「勘違いするな、お前に慣れただけだ」
アダムはリトの方を見ないようにして剣を構えた。




