第68話 サイファー王国の誕生
その頃、王の飛行艇はアラン達が戦っている場所にほど近い森林の中に墜落していた。
彼らは必死に飛行艇の中から這い出て来て雨を避けるために木の下で休んでいた。
「ど、どうしてこんなことに……。これからどうなるんでしょうか……」
そんな事を呟く彼らの元に1人の人物が近づいてきた。
怪我をして眠りかけていた王のジョセフをトーマスが叩き起こした。
「お父様! お父様! 助けがきましたよ!」
トーマスは希望の笑みを浮かべながらその人物が近くまで来るのを待った。
その人物が彼らのすぐ近くまで来るとようやくその正体がわかった。
「お前は……」
「ごきげんよう。トーマス様」
その正体はサイファーだった。
「おい! なにがごきげんようだ! あの透明男を寄越したのはお前だろう!! 私たちを殺してどうするんだ!」
トーマスが叫んだ。
「落ち着くんだ、トーマス」
王のジョセフはそう言ってサイファーの方を見た。
「何が目的で来たんだ、ウェイン」
王はサイファーに向かって言った。
「その名で呼ばれるのは久しぶりですね。王様。俺は挨拶に来ただけですよ」
「挨拶か……。エリオのことは先ほど聞いた。どうだ、酒でも飲んでいかんか? もう我々がお前にとって唯一の家族だろう?」
王は金属製のボトルを懐から取り出して言った。
「こんな時にお酒なんて……」
トーマスが言った。
「こんな時だからこそ酒を飲むんだろうが」
王はそのままボトルに口をつけて酒を飲んだ。
「もうエリオのことを知っているとは、さすがですね。生憎ですがお酒は遠慮しておきます」
「そうか。じゃあ何が欲しい? お前にはどんな役職でもつけてやれるぞ。警察なんてどうだ? お前の一言で国中の警察隊を全て動かせるぞ?」
「お父様! それは私の……」
トーマスが割り込んで言った。
「トーマス、お前は黙ってろ」
王が言った。
「役職ですか……魅力的ですね。でも俺の欲しいものとは少し違います」
「なんだ? 何が欲しいんだ。なんでも言ってみろ。用意してやる」
王はそう言ったがその声は震えていた。
彼はサイファーに怯えていたのだ。
トーマスは何かを言おうとしたが、王のその姿を見て口をつぐんだ。
「俺が欲しいものですか…………それは…………」
何かを言いかけるサイファーにその場に居た皆が息を飲んだ。
彼が何か危険な事を言おうとしている事を皆は感じ取ったのだ。
サイファーもその様子が分かったかのようにニヤリと笑みを浮かべた。
王族としてのウェイン・ブラッドではなく、サイファーとしての笑みだった。
そして彼は呟いた。
「お前の命だよ、ジョセフ」
サイファーはジョセフを蹴り倒して踏みつけた。
「ああ、この瞬間をどれだけ心待ちにしたことか! あの城で暮らしている間、ずっとこの光景を想像していた」
「や、やめるんだ、ウェイン! お前の言うことはなんでも聞いてやる!!」
王が叫んだ。
「ああ、じゃあ聞いてくれよ!! 苦しんで死ね!!」
「うああああああああああああああっ!!」
サイファーはジョセフを強く踏みつけた。
「おい!! その汚い靴をどけろウェイン!!」
トーマスが叫んだ。
「あ? なんだと?」
「お前はサイファーが産んだ出来損ないだ!! お前などに正当な王族の血統である私たちが負けるはずがない!」
トーマスはそう言って手のひらをサイファーに向けた。
「違う。俺自身がサイファーだ!」
サイファーはそう言ってトーマスを宙に浮かせ、木の幹に叩きつけた。
「うあっ!!」
そして今度はジョセフの胸をもう一度踏みつける。
「うあああああああああああああっ!!」
「おおっと。今、肋骨が何本か折れたんじゃないかァ? ああ、気持ちいい……。アハハハハ」
「や……やめてくれ……。助けて……」
「なんだって? お前は幼い頃の俺がそう言ったら助けてくれたのか? 違うよなあ? じゃあだめだ」
サイファーはそう言ってそのまま王の心臓を踏み潰した。
「うっ……!!!!」
王はそのまま目を閉じて息絶えた。
「はぁ〜。次はお前だ、トーマス」
サイファーはトーマスに近づいた。
「く、来るなっ!!」
サイファーはそんなトーマスの叫びも気にせず、手のひらを木に向けた。
すると木の枝が大きくしなってトーマスを取り囲んだ。
「な、なんだ!?」
そして木の枝はトーマスの手足や腰に巻きついていく。
「ああ、トーマス。王族にとって大事な大事なトーマス。お前が居なければ俺はサイファーにはならなかっただろう。残念だが、お前は生まれた時からこうなる運命だったんだよ」
「や、やめろ……!」
トーマスの体に巻きついた木の枝は彼の体をどんどん強く締め付ける。
「やめるはずないだろう。俺はいままでこの瞬間為に生きてきたんだ……。もっと噛み締めさせろよ」
「う……うあっ!!」
彼の体はどんどん締め付けられていき、最後には息もできなくなった。
「わ……私は……あんな見苦しい命乞いはしない……。ブラッド家として……王族として……華々しく散ってやる……」
「ほう、見かねた度胸だ。見直した。だったらさっさと散らせてやるよ」
サイファーはトーマスに背を向けた。
「じゃあな」
「うあああああああああああああああああああああああっ!!!!」
サイファーの別れの一言と共にトーマスの体は木の枝に引き裂かれて死んだ。
「や……やめて……」
側で2人が殺される様子を見て怯え切っていた王妃のマーガレットは震えた声で言った。
「私は……あなたに酷いことはしてない……だから逃して……」
城ではあまり関わり合いのなかった2人なのでそれを理由にマーガレットは命乞いをした。
「そうなだあ……。まあいいだろう。俺にもあの2人のようにお前に恨みはない。さっさと逃げろ」
「あ……ありがとう……ございます」
マーガレットは震える足を必死に動かしながらサイファーから走って逃げた。
しばらくその様子を目で追っていたサイファーだったが、急に立ち上がって手のひらを突き出した。
「きゃあああああっ!!」
走るマーガレットの側に生えていた数本の大木が、突然彼女に向かって倒れてきた。
そして彼女はその下敷きになってしまった。
「ハッハッハッハ! すまないなァ。気が変わった」
彼はそう言いながら王の遺体から王冠を取り上げた。
「俺は……ついに」
彼は王冠を見つめながら呟いた。
「俺はついにこの国の頂点に立ったんだあああああああ!!!!」
そんな彼の叫びが森の中に響き渡った。
◇
その頃アランとアダムは依然として湖の上で戦っていた。
雨は止んだがもう日は暮れかけて夕日が見えていた。
「アラン!!」
そんな時、湖の畔から少女の叫び声が聞こえた。
そこにいたのはニーナだった。
「ははは……。彼女にはこんな所見せたくなかったんだけどな」
そんな事を呟くアランにアダムは剣を突きつけた。
「お前はもう終わりだ。すぐに楽になる」
アダムはそのまま剣を引いた。
そしてアランは覚悟を決めて目を瞑った。
だが、アダムは手を止めて剣を下ろした。
「なんだ? 急に心変わりでもしたか?」
アランが聞いた。
「お前は王がオーブを持っている事を知っていた。何故だ?」
「何故そんな事を教える必要がある? 教えたら助けてくれるのか?」
「いいから答えろ」
剣を突きつけるアダムに対しアランは硬く口を閉ざした。
「まさか、お前はもう1つの強者のオーブの在処も知ってるな?」
「だったらどうするんだ?」
アランが聞いた。
「無理矢理にでも吐かせる」
アダムはそう言って剣を鞘に仕舞うと、霊達に何か合図をした。
すると霊達は一斉にアダムに向かって飛んでいき、彼の体内に入って行った。
「お、おい……。どうなってるんだ……?」
アダムは8体の霊を体内に取り込む事でそのエネルギーを吸収した。
彼はオーブによる緑色のオーラと霊体エネルギーによる青白いオーラを放ちながらアランの首を掴んだ。
「お前を殺すのは止めた。オーブの在処を答えるまで痛めつける」
彼はそう言ってアランの腹を思い切り殴った。
お、おう・・・。




