第63話 友達か兄か
「これで終わりじゃない」
アランはそう言って両手を広げると、雨粒をまるで針のように引き伸ばしてアダムに向かって飛ばした。
アダムはその攻撃を防ぎきれず、体の至る所に針が刺さって血を流してしまう。
「血も透明とは便利だな」
アランはそう言いながらもう一度攻撃をしようとした。
だが、アダムはすぐにアランの後ろに回って彼の襟元を掴み上げた。
「俺を倒すのはそう簡単じゃない」
アダムはそう言いながらアランを掴んで一気に上昇した。
彼らはそのまま雲を抜けてその上に出た。
アランはアダムの手を振り払ってようやく解放されたが、そこは快晴の空の下。
アダムの動きが一切見えなくなってしまった。
「ど、どこだ!?」
アランはそう呟きながら高度を下げようとしたが、再びアダムに首元を掴まれると上空に向かって思い切り投げ飛ばされた。
彼は必死に箒に掴まってなんとか落下せずに済んだ。
「くそっ。いつまでも隠れてばかりの恥ずかしがり屋め」
アランがそんな事を言っていると、突然彼の腕が切り裂かれて血を流した。
「うあああっ!!」
彼は突然の痛みに叫び声を上げる。
アランはすぐにシールドを張ったがアダムから見えないエネルギー波が飛んできて吹き飛ばされた。
「このまま殺すっ!」
アダムはそう叫びながらアランの元へと猛スピードで飛んでいった。
◇
その頃、リンカとエリオは依然として戦闘を続けていた。
エリオは雨粒を凍らせるとそのままリンカに向かってナイフのように飛ばした。
だが、リンカは一瞬エネルギーを解放するだけで飛んできた氷を全て溶かしてしまった。
「リンカさんも強くなりましたわね」
エリオが言った。
「エリオさんもね」
リンカが答えた。
2人はしばらく見合ったまま沈黙を保っていたが、突然エリオが飛び上がってリンカに襲いかかる。
彼女は拳を凍らせてリンカに襲いかかったが、リンカは片手で受け止めた。
だがその時彼女は一歩足を引いて水溜りに足を踏み入れてしまった。
「ひっかかりましたわね」
エリオはそこでニヤリと笑い、水溜りを一気に凍らせるとリンカは足を動かせなくなった。
「し、しまった!」
リンカが足に気を取られているうちにエリオはリンカを思い切り殴って突き飛ばした。
だがリンカも負けじとすぐに立ち上がってエリオに向かっていく。
リンカはエリオの攻撃を避けつつ攻撃を食らわせようとした。
だが彼女は一瞬だけ躊躇してしまい、逆にエリオに突き飛ばされた。
「躊躇していたらわたくしを倒せませんわよ」
エリオはそう言って襲いかかってくるが、リンカはなかなかエリオを攻撃できずにいた。
「やっぱりこんなの無理だよ! 私にはエリオさんと戦う理由がない」
リンカがそう言ったがエリオは攻撃の手を止めなかった。
エリオは拳に冷気エネルギーを貯めて、リンカに向かって一気に放出した。
リンカは吹き飛ばされて倒れると、そのまま手足が凍りついて動かなくなった。
「戦う理由ならわたくしにはありますわっ!!」
エリオはそう言いながら氷の剣を作ってリンカに向かって走って行った。
彼女は剣をしっかりと握るとリンカに向けた。
「もう迷いはありませんっ!! わたくしとお兄様のために死んでくださいっ!!」
彼女はリンカに向かって剣を振り下ろそうとした。
リンカも目を瞑って覚悟を決めたが、その剣がリンカの胸を刺すことはなかった。
「ど、どうして、ですの……」
エリオは剣先をリンカの胸に向けたまま固まっていた。
そしてその手は小刻みに震えていた。
「やっぱり、そうだよ……。エリオさんに人は殺せないよ」
リンカが言った。
「そんなことありませんわっ!! こ、これはきっとリンカさんだから……」
エリオは思わず持っていた剣を落としてしまった。
地面に落ちた氷の剣はそのまま砕けて溶けた。
「それは違うよ! リンカちゃんが相手じゃなくても、エリオちゃんは誰も殺さない!!」
突然そんな少女の声が聞こえてきた。
「み、ミルさん!?」
そこに立っていたのはミルだった。
「城で待っててって言ったのに……」
リンカはそう言ったが、ミルはエリオの方に走ってきて、彼女を抱きしめた。
「もういいんだよ。強がらなくて。もうエリオちゃんの味方はお兄さんだけじゃない。私たちがいるから」
ミルはエリオを抱きしめたまま言った。
「で、でも……でも……」
エリオはそういいながら涙を流した。
「お兄さんが大切なのは分かる。でもそのせいでエリオちゃんや他の人達が傷つくのは絶対に間違ってるから」
「うっ……うっ……」
エリオは泣きじゃくって声も出せない。
「私たちと一緒に来てよ」
ミルが真剣な表情をして言った。
「私達と戦おう?」
リンカが立ち上がってエリオに言ったが、彼女は俯いたまま何も答えなかった。
しばらく泣き続けたエリオはようやく落ち着いてきた様子で答えた。
「わたくしにはもうどうしていいか……わかりませんわ……」
そんな3人の元にどこからか乾いた拍手の音が聞こえてきた。
「ああ、友情っていいよなぁ。泣けるよなあ」
「さ、サイファー!!」
「お兄様っ……」
近づいてきた男はサイファーだった。
「お、お兄様。ここはわたくしに任せてください……。わたくしがっ……わたくしが、なんとかしますから……」
エリオはそう言ってサイファーを追い返そうとした。
だがサイファーはその場を動かず、エリオの首にかかっていたエレメンタルジェムを手に取った。
「エリオ、お前は実に優秀な妹だ。俺の自慢の妹なんだ。小さい頃からず〜っとそうだった」
「は、はい。わたくしにとってもお兄様は大切なお兄様です」
「そうだよな? だったら、分かるだろう? もう一度だけチャンスをやろう。こいつらを、木崎リンカを殺せ……。殺すんだ、エリオ」
「でも……」
「お前は俺のたった一人の妹だ。俺はお前を愛してる。お前はどうなんだ?」
サイファーはエリオに笑いかけて言った。
「もちろん、愛してます。お兄様。分かりましたわ……。私はお兄様の為ならなんだってやります……」
エリオは氷の剣を生成してゆっくりとリンカ達に近づいた。
「エリオちゃん!!」
ミルがエリオの名を呼んだ。
それでもエリオはリンカに近づいていく。
リンカは両手を広げていった。
「来て。エリオさん。私はあなたを信じてる」
そんなリンカにエリオは一瞬驚いた表情を見せたが、一度目を閉じると覚悟を決めて叫んだ。
「リンカさん、私はあなたを殺します!!」
エリオは剣を掴んだままリンカに向かって走っていった。
リンカはそれでも両手を広げたままその場から動かなかった。
エリオはリンカの方を一瞬見た。
リンカはエリオに向かって笑いかけた。
「私も!!」
ミルはそう言ってリンカの横に立った。
彼女もリンカと同じように両手を広げて言った。
「来て! エリオちゃん!」
そんな2人の姿を見て、エリオの目にはまた涙があふれてきた。
「そんなことしたって!! わたくしの意思は揺るぎませんわ!!」
エリオは泣きながら叫んだ。
そして、リンカの胸を刺す直前。
「大丈夫、私達がついてる」
そんな言葉がエリオの耳に届いた。
その瞬間エリオの氷は砕け散り、彼女はそのままリンカの胸に飛び込んだ。
「ご……ごめんなさいっ……。ごめんなさいっ!!」
エリオはそういいながら泣き始めた。
そんなエリオをリンカは抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だから」
リンカが呟いた。
「俺の言うことが聞けないのか!! エリオ!!」
サイファーが叫んだが、エリオは泣き止まなかった。
「お兄様……わたくしにはできませんっ!! 彼女達はわたくしの大切な大切な友達、ですもの……」
「そうか、友達か……。分かった……。もういい。それだったらしょうがない……」
サイファーはそう言うと、持っていたジェムを片手で砕いた。
「……っ!!」
ジェムが壊れるとエリオは突然苦しそうな表情を浮かべてその場に倒れた。
「エリオさん!!」
「エリオちゃん!!」
2人はエリオに何度も呼びかけて無事を確かめようとしたが、エリオから全く返事はない。
「息もしてない……。心臓も動いてない……。どうして!?」
エリオを抱えていた2人をサイファーは吹き飛ばした。
「うわあっ!!」
「エリオちゃんはどうなったの!?」
ミルがサイファーに聞いた。
「あ? 死んだよ。知らなかったか? ジェムに魂をリンクさせた人間はジェムが壊れると死ぬ」
「なんで!? なんで殺したの!? あなたの妹でしょ!?」
リンカが叫んだ。
「お前らのせいだろうがァ!!!! お前らさえ居なければエリオは俺の言うことを聞く従順な妹だったんだ!!」
サイファーはリンカに飛びかかって胸倉を掴んだ。
「お前はリリィに加えてエリオも俺から奪ったんだよ……。お前だけは許さないからな……。木崎リンカァアアア!!!!」
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