第40話 出航、ロンド海賊団
「ちょ、ちょっと!! どうしよう! 明日来るって言ったよね!?」
クリスは慌てて言った。
「は、速く逃げましょう!! 今すぐ逃げましょう!! お菓子はいくらまで持っていっていいですか!?」
フォックスは誰よりも慌てて、酒瓶を自分のカバンに何本も入れ始めた。
「お前ら、いいから落ち着け!!」
ロンドが叫んだ。
「どこに逃げたって一緒だ。すぐに見つかる」
「で、でも、だったらどうするんですか?」
ピッカーが聞いた。
「お前たちはこれまで何のために頑張って来たんだ? 何のためにこの船を仕上げてきたんだ。アンナと戦うためだろうが! 今こそ俺たちの力を見せつけてあいつを諦めさせるんだ!! それしか俺たちが生き残る方法はない」
「そんな……」
フォックスが愕然として酒の瓶を落とした。
「いや、ロンドさんの言う通りだ。ここまでやったんだから、がんばろうぜ?」
ピッカーが言った。
「そうだ!! お前たち! この船を明日の朝までに仕上げるぞ!! いいな!! 分かったらさっさと取り掛かれ!!」
「はいっ!! キャプテン!!」
ピッカー、フォックス、トラップ、クリスの4人が敬礼をしながら言った。
彼らはさっそく船の作業に取り掛かった。
「オーライ、オーライ、オーライ」
巨大なエネルギー砲をワイヤーで引っ張り上げて船内へと積み込む。
フォックスはせっせと食料や水、そして大量の酒を船内に積み込んでいった。
クリスも汗水たらして働いていた。
「ちょっと、トラップ! サボらないでちゃんと働いてよね~!」
船外に出て休んでいたトラップにクリスが言った。
「い、いいじゃないかちょっとくらい」
トラップはそういいながら水を飲んでいる。
「じゃあ私もちょっと休憩しようかな」
クリスはそう言ってトラップの傍に座った。
「ふ~」
クリスはため息をついた。
椅子に座ってぼうっとしていると、クリスの頭にふとアンナのことが過った。
「アンナって怖いか?」
トラップがクリスに聞いた。
「うん……。すごく」
クリスはアンナの部屋に一人閉じ込められて生活していた毎日を思い出した。
何度も逃げようとしたがアンナの強力な力の前には屈するしかなかった。
「あのさ、ごめんね」
クリスは小さな声でそう言った。
「何がだ……?」
トラップは何故謝られたのか分からなかったようだ。
クリスは船の方を見た。
皆必死になって働いている。
クリスが海賊団に入ることを反対していたフォックスも含めてだ。
そんな彼らを見ているとクリスの目に突然涙が溜まってきた。
「な、なんで泣いてる?」
泣いているクリスを見てトラップは動揺した。
「あ、あれ……。なんでだろ。分からない」
クリスは必死に涙を拭うがどんどん溢れ出てくる。
「怖いのか? アンナが」
船の中から出て来たロンドが言った。
「アンナは確かに怖いけど、でもそんなので泣いたんじゃない。今まで考えないようにしてたけど、みんなを巻き込んでしまったことで自分を責めちゃったのかも……」
「ほ~う」
ロンドは言った。
「ねえ、どうしてみんなは私のためにこんなにがんばってくれるわけ……? みんな死ぬかもしれないんだよ?」
「ほんとだよ!! なんでお前のために自分の命を危険にさらさなきゃいけないんだ!!」
フォックスが船の中から言った。
「うぬぼれるな!! クリス」
ロンドが叫んだ。
「俺たちはなにもお前のために頑張ってるわけじゃねえ。これは俺たちの夢なんだ!! 漢のロマンなんだよ!! な!? お前ら!!」
ロンドが立ち上がって熱弁した。
「そうっす。ロマンっす!」
トラップが言う。
「そ、そうだぞ! 当たり前だろ!」
フォックスも言った。
「ロンドさんの言う通りだ! 誰がお前なんかのために頑張るか!! バーーカ!!」
ピッカーはそう言ったが、その顔は笑っていた。
「う、うんっ。分かった。ロマンだね……」
クリスはようやく泣き止んで立ち上がった。
「よしっ!! 私も、ロマンのためにがんばっちゃおっかな!」
「ようし、お前らあともうひと踏ん張りだ!! やり切るぞ!」
「オー!!」
皆はそう叫んで仕事へと戻っていった。
彼らの作業は夜通し続いた。
そして日が上っても作業が止まることなく続けられた。
アンナはもうすぐやってくる。
皆は作業で汗をかきながらも、緊張で別の汗も出てきていた。
だがもはや誰もそのことには触れず、必死に働いた。
◇
翌朝早朝。ロンドは1人、1階で落ち着いて酒を飲んでいた。
そんな中、突然入り口の扉が途轍もない勢いで吹き飛んだ。
扉の先に立っていたのはアンナ・ブラックウォール、その人だった。
「早かったな。アンナ」
ロンドは落ち着いた様子で言った。
「ああ。今日はだいぶ早起きだったな。お前のために朝食も食べずに来てやったんだぞ?」
アンナは片手に持ったバナナを齧りながら言った。
「電話でも言ったと思うが、お前の欲しいものはここにはない。残念だったな」
ロンドはアンナの方を見ずに言った。
アンナはバナナを食べ終わると皮を投げ捨て、ロンドの前に座った。
「お前は嘘が下手だな~。あいつはここにいるんだろ? そんなこと最初からわかってるさ」
アンナはロンドの飲みかけの酒が入ったジョッキを掴むと、中に入っていた酒を一気に飲み干した。
そんなやり取りが行われている中、地下では皆大慌てで準備していた。
回路に問題が起きて船が一時的に飛ばなくなってしまっていたのだ。
それを4人がかりで大急ぎで修復作業にあたっていた。
「フォックス、スパナを取って!」
「は、はいっ!!」
「おいトラップ! 急いで急いで!!」
1階ではロンドがなんとか時間を稼ごうとしていた。
「まあ落ち着けよ。飲むか?」
ロンドは再びジョッキに酒を注ぎ始めたが、アンナがロンドの腕を掴んだ。
あまりの力にロンドは腕を動かせなくなり、酒が注がれ続けてとうとうジョッキから溢れだした。
「なんだ?」
ロンドが言った。
「早くしてくれないか? あたしは気が短いんだ。知ってるだろ?」
アンナが鋭い目つきでロンドをにらんだ。
ロンドは立ち上がり、赤のフラグメントオーブを取り出してアンナを吹き飛ばした。
ロンドは巨大な斧にオーブをはめ込んだ。
「ほう。そっちがその気なら、あたしは容赦しないよ?」
2人は睨み合ったまま間合いを取った。
「仲間の命は自分の命、自分の命は仲間の命。それがロンド海賊団の掟だ。掟を破るわけにはいかない」
「死ぬ気でクリスを守り切るって事か? 生憎だが、こっちも自分の命が掛かってる。引くわけにはいかない」
「どうしてそんなにクリスにこだわる?」
「彼女の肉体はあたしの魂と相性がいい。だから手に塩をかけて大事に育ててきたんだ。それを今更お前たちみたいな海賊に奪われてたまるか!」
「だったらなんで俺達に依頼した? 自分でやればよかっただろ?」
ロンドが聞いた。
「あたしには大いなる野望がある。こんな事のために力を自分の命を擦り減らすわけにはいかなかったんだよ!! それがお前らのせいで台無しだ!!」
アンナはロンドに向かって光の腕を伸ばした。
ロンドはオーブの力で応戦する。
ロンドが斧を振り、オーブの放った赤い光がアンナを包み込んだが、アンナはそれを簡単にはじいてロンドの体を光の腕で掴み上げた。
そしてアンナは自らの手でロンドの首を絞めた。
「時間稼ぎをしてるんだろ? 分かってる。お前を今ここで殺してもいいんだぞ? 殺されたくなければ、早く居場所を吐けよ」
「や、ヤバイ! ロンドさんが捕まった!!」
地下に居たフォックスがカメラの映像を見ながら言った。
「そんなこと言ってる場合か! 早く船を動かすんだよ!」
ピッカーが言う。
クリスは黙ってカメラの映像を見つめていた。
自分のせいでロンドが殺されそうになっている。
そう感じたクリスは何も言わず、飛び出して行ってしまった。
「おい! クリスがどっか行ったぞ! どうするんだ!」
「早く!! あいつのことはいいから作業を続けるんだ!」
ピッカーが叫びながら作業を続けた。
「ふっ。自分の野望のために命も懸けられないとはな……」
ロンドは薄ら笑いをしながら言った。そして斧を大きく一回転させてアンナの腕を振りほどいた。
「いいか? 野望ってのはな、自分の全てを懸けて取りにいくもんだ!! 自分の命どころか、他人の命を犠牲にして叶えようとするなんてもっての外だ!! そんなものは野望なんて呼ばねェ!!」
ロンドは叫んだ。
「ほう、じゃあ何て呼ぶんだ?」
アンナが聞いた。
「それはただの妄想だよ!!」
地下から出てきたクリスが言った。
「クリス!! お前、何やってる! 隠れてろって言っただろ!」
ロンドが叫んだが、アンナはその隙を狙い光の腕を伸ばしてロンドとクリスを締め上げた。
「ああ……クリス。ようやく会えたな。会いたかった」
クリスは苦しそうな表情を浮かべた。
「よくそんな口が聞けるね。あんたは悪魔よ! お父さんを殺して、そして私を何年も部屋に閉じ込めて監禁した!! どうしてそんなことができるの? 同じ人間でしょ? それとも……」
「あたしはすでに人間なんかじゃない。そんなものは超越している。だから、お前たちにあたしは倒せない。お前たちだって薄々気づいてるだろ?」
アンナはニヤリと笑みを見せた。
地下ではクリスが居なくなったことでさらに大騒ぎになっていた。
ピッカーがエンジンを起動させようとするが、何度試してもしばらくすると止まってしまう。
カメラの映像を見ると、ロンドとクリスがアンナに締め上げられているのが分かった。
「ヤバイよ!! このままだとみんな死んじゃうよ!! ああ、おしまいだ!! 俺は逃げるからな!!」
フォックスはカバンを背負って肩に狐のメープルを乗せた。
「おい待て! フォックス!! お前、ロンドさんを見捨てるのか!?」
アジトから出ていこうとしたフォックスの足が止まった。
「ああ……そうさ……」
フォックスは小さな声で言った。
「お前は確かにクズだ。だがな、人の恩だけは忘れない人間だろ? だからロンドさんはお前を海賊団に入れたんだ!」
「いいや……。それは間違ってる。俺はクズさ。根っからのクズで、どうしようもない人間なんだよ!!」
「おい、バカ!! 行くな!!」
フォックスはピッカーの呼びかけにも振り返らずにアジトから出ていった。
「クソッ!!」
「お、おい、どうする? 追いかけるか?」
トラップが聞いた。
「もういい。俺達だけでやるぞ」
ピッカーがそう言ってエンジンルームへと入っていった。
「エンジンを始動させるためのエネルギーが足りていないみたいだ」
トラップがコンピュータのパネルを見ながら言った。
「だったらまた別にエネルギー装置をつける必要がありそうだが、そんな時間はないぞ!」
モニターを見ると今にもロンドとクリスはアンナにやられてしまいそうだ。
「どうすればいいんだ……」
「どうにかしてエネルギーを起こす方法はないのか!?」
「1つだけあるさ」
その声の主の方をトラップとピッカーは見た。
そこに立っていたのは去ったはずのフォックスだった。
「お前が正しかったのかもな、ピッカー。やっぱり俺にロンドさんを見捨てることはできないみたいだ」
メープルがフォックスの肩から降りた。
「いけ! メープル! 今こそお前の力を見せる時だ!」
フォックスがそう言うと、メープルが口を開けてエンジン起動装置に向かって火を噴いた。
1階ではアンナがロンドの腹を何度も殴っていた。
「あたしは、自分の計画を邪魔する人間には容赦しない。お前は絶対に苦しめてから殺してやる」
アンナは言った。
「やめて!! もう降参するから!! お願い!!」
クリスがそう叫んだがアンナはロンドを殴り続けた。
「お前さっき言ったよな……? 自分は人間を超越してるって」
ロンドがアンナに言った。
「ああ。そうだ? 見てわかるだろう? あたしがただの人間に負けると思うか?」
「そうだな……。確かにお前のいう通りかもしれない。だが、俺達もそうなんだよ」
「そうって、どういうことだ?」
「俺達だってとっくに人間なんか捨ててるってことだ」
「なんだと!? あんんまり調子に乗るなよ……?」
アンナはロンドの首を締めあげた。
だが、ロンドは必死に手を伸ばし、落ちていた斧を拾い上げると、アンナに切りかかった。
アンナは不意打ちを食らってしまい、ロンドとクリスから手を放してしまう。
「俺たちはな……人間をやめたんだ……。そうさ、俺たちは…………海賊だ!!」
ロンドがそう叫ぶと突然部屋が大きく揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
ロンドはクリスの手を引いて、2人で壁際に立った。
「よく見とけ……? これが本当の野望ってやつだよ」
しばらくすると床が粉々に破壊されて下から船が現れた。
壁際に立っていたロンドとクリスはそのまま甲板から船の中に乗り込んだ。
船はそのまま高く上昇していき、アジトの2階部分も破壊してしまった。
「ああ、俺たちのアジトが……」
フォックスは名残惜しそうにアジトを眺めた。
アジトの屋根を突き破って船は外へと飛び出した。
「舵を切れ!! 建物にぶつかるぞ!!」
ロンドは船内に入ってピッカー達に指示をした。
船は轟音と共にどんどん高く浮かび上がっていく。
外を歩いていた人々は何事かと皆船を見上げた。




