第39話 支配者のオーブの真の力。そして、ついに動き始めたアンナ。海賊団はビール飲む。
駆けていくエリオを見て生徒たちはまたざわめきだした。
エリオはサイファーの傍まで寄って言った。
「お兄様……」
彼女は複雑な表情でサイファーを見上げた。
「よく来たなエリオ。リリィ、エリオを頼む」
「は~い♡」
リリィはエリオの手を引いてサイファーの後ろへ連れて行った。
「さっきリリィから紹介があった通り、この俺がここの新しい生徒会長だ。よろしく頼むよ。生徒諸君」
サイファーは自分の杖を撫でながら言った。
「お、おかしいじゃないか! 生徒会長は学園の生徒がなるはずだ! 外部の人間がなれるはずがない!」
1人の生徒が叫んだ。
「そ、そうだそうだ!! なんでお前なんかが!!」
その生徒に加担して他の生徒達も抗議を始めた。
「お前ら全員黙れええッ!!!!」
サイファーが叫んだ。
「俺はうるさいのは嫌いだ」
サイファーはゆっくりとスピーチ台から降りて生徒たちに近づいていく。
「いいか? 俺はこの学園の元生徒だ。そして今までず~っと停学中だった。だが、たった今生徒会長の任命を受けてそれは解除された。だから俺は現段階ではここの生徒だ。分かるか?」
生徒達は静まり返った。
「俺がわざわざこんな寂れた学園に出向いた理由は他でもない。ここを俺の拠点にするためだ。そしてお前たちを、俺の部下にしてやる為だ。どうだ? 嬉しいか?」
「お、お前の部下になんか……。俺はならないぞ……!」
1人の生徒が言った。
「ほ~う? お前は俺の力を侮っているようだな。いいだろう。お前たち全員よ~く見てろ……」
そう言ってサイファーは青く光り輝く杖を見せた。
「これは支配者のオーブ。この世の全てを支配する力を持ったオーブだ。誰もこの力には逆らえない。これが……この世で……最強の力だ!!」
サイファーは杖を天高く振り上げた。
杖が青い光に包まれると、生徒や警備員達のはめていた指輪も青く光り始めた。
「な、なんだこれ!?」
だが、ミルの指輪やリンカのメリケンサックは光らなかった。
「まさかあれは……。リリィさんが配っていた指輪!」
光り始めたのはリリィが配っていた指輪だけだった。
指輪の光はしばらくすると収まったが、生徒達の様子がおかしい。
皆機械のように全く動かなくなり、目には青い光が灯っていた。
「み、みんなどうしたの!?」
ベッキーが言った。
「よし、お前たち! 全員集合だ」
サイファーがそう言うと、生徒達はぞろぞろとサイファーに向かって歩き始めた。
「ちょ、ちょっとみんな!」
それを止めようとするベッキーは押しのけられて倒れた。
「あれが支配者のオーブの力……。人間を操る力だよ」
ビビエルが言った。
「操られているのはリリィさんが配っていた指輪をつけた人たちだけですね」
「それでも相当な数いるよ。無料で配ってたからね。ほとんどみんながつけてるはずだよ」
生徒達はサイファーに近づくと、皆一斉に足を止めた。
「回れ~右っ!」
皆はサイファーの言う通り右回りで後ろを向いた。
「アッハッハッハ。楽しいなこれは」
残された生徒たちは皆怯えている。
「サイファ~♡ もういいでしょ? 派手にやっちゃおうよ」
リリィが言った。
「ああ。分かった……。じゃあ、さっさと片付けようか。お前ら全員、皆殺しだァ!!」
サイファーがそう言うと、操られた生徒や警備員達が残された生徒達に襲い掛かる。
生徒達は次々捕らえられてしまう。
ビビエルは麻酔銃で、リンカは拳で応戦しながらミルを連れて逃げた。
「どうしよう! みんな捕まっちゃいました」
リンカが言った。
「あいつが最初の殺人を犯したのは警備員を増員させるため……。警備員が増員された状態でもう一度殺人が起きれば必ず内部犯が疑われる……。そして私達にオーブを取りに行かせることでお姉ちゃんが犯人として疑れて懲戒免職になるように仕向けたんだ!! そうすればサイファーが生徒会長として就任できる! そうだ……。全部あいつらの罠だったんだ!!」
「ビビエルさん!! 速く逃げないと!! 危ないですよ!」
リンカはそう言ってビビエルの腕を引き、3人はなんとか図書館まで戻った。
「アランさん! 大変です! サイファーが……」
リンカが言った。
「ああ。分かってる……」
アランは落ち着いた様子で言った。
「ちょっと、なんでそんなに落ち着いてられるの? 全部罠だったんだよ!?」
ビビエルがアランに言った。
「これが落ち着いてるように見えるか!? 僕はそれどころじゃないんだ!! ああ、大慌てだよ! 一体どうしたらいいんだ!」
アランは頭を掻きむしりながら言った。
「ど、どうしたんですか?」
リンカが聞く。
「クリス達の居場所がアンナに見つかったんだよ!」
「そんな……」
2人がそんな会話をしている中、ビビエルは荷物をまとめ始めた。
「ビビエル。なんで荷物をまとめてる?」
アランが聞いた。
「私はお姉ちゃんを助ける。サイファーが出てきた今、一刻も早く助けないと命が危ない」
「いいや。ダメだ」
アランはビビエルの腕を掴んで止めた。
「なんで? 放してよ!」
「君は何も分かってない! サイファー達の恐ろしさを。今の状態で勝てるはずがないだろう? 僕らの力じゃサイファーどころかあのリリィっていう女にさえ勝やしない」
「そんなの分かってるから、だから対抗できるメカを作るの!」
「そんなの作って一人で戦うつもりか? やめておくんだ」
「そうですよ! クリスちゃんを先に助けて、海賊のロンドさんにも手伝ってもらいましょう? 彼は赤いオーブを持ってましたよね?」
「リンカの言う通りだ。フラグメントオーブが1つでもあればリリィには勝てるかもしれない」
「そんなこと言って、もしその間にお姉ちゃんが殺されたらどうするつもり!? 責任とれる!? 取れないでしょ? だったら黙ってて。私一人でやるから!」
「ビビエルさん!! 待ってください!!」
リンカは追いかけてビビエルを止めようとした。
だが、アランがリンカの腕を掴み、首を横に振った。
「そんな……」
「大丈夫だ。あいつの事は後で必ず助けに戻る。僕たちはできるだけ早くクリス達の元へいこう。ミル、君も手伝ってくれるか?」
「私~? いいよ~。なんか楽しそうだし」
「でも、どうやってアンナを倒すんですか?」
「これだよ」
アランが1枚の紙切れをリンカとミルに見せた。
そこには魔法陣が描かれている。
「それはアンナに対抗するため僕が作った。彼女を止める唯一の方法だ」
「これをどうするんですか?」
「ミルはどこか広い場所にその魔法陣を描いてほしい。これを使ってな」
アランは倉庫からタイヤの付いた奇妙な機械を出してきた。
台車のように持ち手が付いており、押したり引いたりできる。
地面に触れる部分には大きな針のようなものが付いていた。その針で魔法陣を描くようだ。
「これで、魔法陣を……」
「私はどうしたら?」
リンカが聞いた。
「リンカはできるだけアンナの足止めをして欲しい。ロンドと共にな」
「分かりました!」
「アランさんはどうするの~?」
ミルが聞いた。
「僕はしばらくここで準備をする。この魔術はあまりに強力でもしかしたら失敗する可能性もある。だから準備は念入りにしないと……。もし失敗したら君たちは逃げろ」
アランは真剣な表情で言った。
リンカとミルの2人は息を呑んだ。
◇
少し前。ロンド海賊団のアジトにて。
ロンドたちは海賊船の改造を皆で行っていた。
船のある地下室には金属を切る音やねじを打ち込む音などが響き渡り、至る所で火花が飛んでいた。
「ようし! お前たち、休憩だ!」
「ひゃっほ~」
フォックスが一番乗りに船から飛び出て休憩に入った。
フォックスはサーバーでビールを入れてジョッキで一気に飲み干した。
「か~! 仕事終わりのビールはたまんないね」
「おい、まだ終わってないぞ。ただの休憩だ」
ピッカーが言った。
「でも、大分出来てきたよね! もうちょっとで動かせるんじゃない?」
クリスは嬉しそうに船を眺めながら言った。
「そうだなぁ。これも全部お前のお陰だ!」
ロンドがクリスの肩を強く叩いた。
「痛っ!! ちょっと、強く叩きすぎ! このバカヂカラ大男!」
「な、なんだと貴様!! もういっぺん言ってみろ!! この野郎!! 待ちやがれ!」
ロンドはクリスを追いかけ、クリスはべ~っと舌を出しながら逃げた。
「賑やかだ……」
トラップが噛みしめるように言った。
「確かに、クリスが入ってから活気づいたかもな」
「俺は前の方がよかったな~」
フォックスが言った。
「なんでだ?」
トラップが聞く。
「だって、仕事量は前の方が少なかっただろ? アンナも怖いしね」
「しょうもない理由だな~。だからそんなしょうもない顔してるんだよ」
ピッカーが言った。
「なんだと? そんなことないよな~? メープル」
フォックスは肩に乗せていた狐に話しかけた。
狐のメープルはそっぽを向いて何も答えない。
「でもしょうもない顔ってどんな顔だ……?」
トラップは頭を抱えて考え込んだ。
そんな会話を続けていると、突然アジトの電話が鳴った。
ロンドはクリスを追いかけるのをやめて、電話の方へと向かった。
電話が鳴りやんでくれないかとロンドは願ったが、その願いは叶わずしばらく電話は鳴り続けた。
ロンドは恐る恐る受話器を手に取り電話に出た。
皆は電話の内容を聞こうと聞き耳を立ててロンドに近づいた。
「ようやく見つけたぞ、ロンド……!」
声の主はアンナだった。
「な、なんだ? アンナか? どうした? まだクリスは見つかってないぞ」
ロンドは答えた。
「そんな嘘はもういい。知ってるぞ。そこに居るんだろ? 早く渡せよ、あたしに隠れてこそこそ何してるんだ?」
「嘘じゃない。ここにクリスは居ない。逃げられたんだ」
「報酬が欲しくはないのか? インフィニティシールドだぞ?」
「クリスを見つけられてないんだったらしょうがないだろ?」
「ふっふっふ。まあいい。明日の朝、あたしが直々にお前の所に行ってやる。覚悟してろ。これ以上抵抗すれば仲間の命はないと思え」
そう言って電話は切れた。




