第37話 ニーナは生徒会長退任! リンカもビビエルも追われて大変だ。雨でビッショビショ
リンカの弾いたコインはゆっくりと回転しながら空高く上がっていき、あるところでピタリと止まった。
コインはそこから落ちてくることはなかった。
そしてリンカ達が炎に包まれることもなかった。
「ど……どういうこと?」
リンカが辺りを見回すと、迫ってきていた炎が空中で止まっている。
それだけでなくリリィの動きや木々の揺らぎ、星の瞬きまでもが完全に止まっていた。
この世界で動いているのはリンカとビビエルだけだった。
「これ……クロノコインだ!」
ビビエルが言った。
「く、クロノコイン?」
「このコインを弾いたら一番高いところで時間の流れが止まるんだよ! そして、コインが落ちてくるにしたがって段々時間の流れが戻っていく。地面に付いた時に丁度元に戻るってわけ」
確かにコインを見ると、少しずつだがゆっくりと動き始めていた。
「そ、そうだ! 今のうちにリリィさんを倒しましょう!」
リンカがそう言ってリリィに殴りかかったが、彼女の拳はリリィの体をすり抜けた。
「ダメダメ。時間の流れが変わっている間、私達は別の次元にいる。元の次元には干渉できないよ」
「そんな……」
「さ、早く今のうちに逃げるよ!」
ビビエルはリンカにまた肩を貸して歩き始めた。
リンカが後ろを振り返ると、リリィの放った炎がゆっくりとリンカ達が元居た場所に向かって伸びていっていた。
あれに巻き込まれたら本当に死んでいたかもしれない。リンカはアランに感謝した。
2人がしばらく歩いていると、だんだん木々が揺らぐ速度が速くなっていった。
そしてコインがどこかで遠くではじける音と共に時間が再び元の速度で動き出した。
「コイン、リリィさんに盗まれませんか?」
リンカが聞いた。
「大丈夫。あれは1回きりで壊れちゃうから」
まだまだ暗い夜道を2人はボロボロの体で必死に歩き続ける。
すると突然何か機械の音が聞こえた。
「あ、来た来た。よかった」
ビビエルがそう言うと、彼女たちの目の前まで円盤のような乗り物がやって来た。
その円盤は地面から数十センチ浮いた状態で移動してきた。
「な、なんですかこれ」
「いいでしょ? 私が作ったんだ。さあ、乗って乗って。飛ばして帰るよ」
ビビエルとリンカの2人は円盤に乗り込み、猛スピードで学園に向かって走り出した。
しばらくすると突然大雨になった。激しい豪雨で雷まで鳴り始めた。
ビビエルは円盤にシールドを張って雨を凌いだ。
「雨、強くなってきましたね」
「リリィの炎もこれで鎮火するよ」
「そうだといいんですけど」
リンカはそう言いながら自分の傷を確認した。
「い、痛っ」
傷を見ようとして服をめくっただけで激痛が走った。
「あんまりいじっちゃダメ! 余計ひどくなるでしょ」
「は……はい」
リンカはそのまま黙り込み、ぐったりとシートにもたれかかった。
しばらく走って2人が学園に着くと、何やら警備員達が建物の前に集まっていた。
「こんな夜に何をやってるんでしょう?」
リンカが聞いた。
「わかんない……。行ってみよ」
リンカ達は何が起きているのか確認するために建物の傍まで近づいた。
そこには警備員に囲まれて両腕を掴まれているニーナが居た。
彼女は雨に打たれて全身濡れている。
「お姉ちゃん!?」
ビビエルは言った。
「ビビエル、リンカ。ごめんなさい」
ニーナは悲しそうな表情で答えた。
「一体どういうこと?」
リンカが聞くと、ニーナの背後からベッキーとリリィが出てきた。
リンカ達はリリィの登場に後退りする。
「も、もう帰ってきてる……」
「あ~♡ リンカちゃん、ビビエルちゃん! 一足遅かったね~♡」
リリィは笑いながら言った。
「リリィさんの報告によりますと、ニーナさんはあなた達2人に指示をしてフラグメントオーブを盗ませたらしいではないですか。まさか生徒会長が犯人だったとは驚きました……。しかも殺人の目的がオーブにあったとは……。もしかして殺したのもあなた達ではないですか?」
ベッキーがリンカ達に聞いた。
「ち、違います! 犯人はリリィさんです!」
リンカが言った。
「なんて事を言うんですか? あなた達がオーブを奪ったという証拠映像をリリィさんから頂きましたから。もう言い逃れはできませんよ! さあ、私達にオーブを渡しなさい! 人殺しに持たせてはおけません!」
ベッキーが手を出して言った。
「持ってません! リリィさんに奪われたんです! リリィさんに言ってください!」
「嘘ばっかり! あなた達の嘘にはうんざりです。まあいいでしょう。ニーナさんの後にたっぷり話を聞かせてもらいます」
ベッキーは警備員に合図をして、ニーナをどこかへ連れて行かせようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください! ニーナさんはどうなるんですか? 生徒会長辞めなきゃいけないんですか?」
「もちろん生徒会長としては懲戒免職になります。でも、そんなことだけでは済まされません。サイファーと繋がっているという容疑も残っています。もしそれが明らかになれば王国警察の方で処理していただく他ありません。そうなれば最悪の場合、死刑でしょうね」
「そ……そんな……」
リンカは落胆した表情で言った。
「もちろんあなた達も同罪ですから、安心して地獄へ行けます。さあ、彼女たちを捕まえなさい!」
ベッキーが命じると警備員達がリンカ達の元へと向かってきた。
「り、リンカ。やりたくないけど、やるしかないかも……」
ビビエルはそう言うと、銃を構えた。
麻酔銃だ。
彼女は襲い掛かってくる警備員達を一瞬で眠らせ、リンカの手を引いて走り出した。
「ど、どこ行くんですか?」
「分からない! 見つからないところに!」
ビビエルは走りながら答えた。
「だったらいいところがあります!」
リンカはそう言ってビビエルの手を引いて走り出した。
「こっちです!」
「あそこって……」
リンカ達が向かっていたのはアランの居る図書館だった。
後ろを振り向くと警備員達はまだ追ってきていた。
水溜まりを蹴りながらリンカ達は走る。
「あんなところに入っても逃げられっこないよ!」
ビビエルは言った。
「大丈夫です! 信じてください!」
図書館の目の前までたどり着いたリンカとビビエルだが、その直前で2人の警備員に掴まってしまった。
その後ろから何人も他の警備員が追いかけてくる。
「は、離してください」
リンカは抵抗したが、アーミーとの戦いの疲れで力が出ない。
ビビエルも銃を奪われてしまった。
「大人しくしろ!」
警備員が言った。
「ど、どうしましょう、ビビエルさん……」
ビビエルはここから逃げ出す方法を全力で考えたが何も思いつかない。
2人は腕を引かれ、警備員達に連れて行かれる。
だが突然図書館の方から誰かの声が聞こえた。
「僕の図書館の前で騒がしくするのはやめてくれないか? 僕は音楽を聴いてるんだ。音楽は良いぞ。心も体もリラックスできる。こんなギスギスした世の中には音楽がなきゃな」
「アランさん!」
声の主はアランだった。
彼は図書館の扉を開けて玄関に立っていた。
警備員達は全員アランに向かって銃を向ける。
「バカ! こんな大勢相手にできるわけない! 早く隠れて!」
ビビエルは叫んだが、アランは聞く耳を持たない。
「ほう、僕を殺す気だな。だったらこれはどうだ? 君たちにも音楽を聞かせてやろう」
アランは手のひらサイズの小さな蓄音機を手に持って、ハンドルをくるくると回した。
警備員達は突然耳を抑えて苦しみ始めた。
「さあ、今のうちに早く中に入れ!」
アランが叫ぶと、リンカとビビエルは急いで図書館の中へと入った。
警備員達には図書館の存在自体が認識できていないようで、リンカ達が中に入った途端見失ったように別々の場所へ散っていった。
アランは図書館の扉を閉めて鍵をかけた。
「リンカちゃん!」
安心して気が抜けた途端ぐったりと倒れてしまったボロボロのリンカにミルが駆け寄った。
「ミル……!」
「心配したよ~。よかった」
「再開を楽しむのは後で! 早く手当を!」
びしょ濡れのビビエルが言った。
アランがリンカを抱え上げ、図書館の机の上に寝かせた。
服をめくって現れた傷にアランは思わず目をそらした。
「これはひどい。全くなんて悪趣味な奴なんだ。君が奴を殺してくれてせいせいするよ」
アランはそう言いながらビーカーに奇妙な色の液体を注ぎ込み、火で煮詰め始めた。
そこに乾燥した薬草を何種類か入れて混ぜ込んだ。
「なにやってるの?」
ビビエルが聞いた。
「魔法薬の調合だ。魔法薬は科学調合の薬なんかよりも何倍も治りが早い。僕にかかればこれほどの傷でも一晩でよくなる」
アランはそう言いながら机の上にチョークで魔法陣を描き始めた。
「魔術って言うのは不思議だね」
ビビエルはアランのその様子を見ながら言った。
「小さい頃はよく見せてやっただろ? そういえばビビエルは怖がって見てなかったか? ニーナの後ろに隠れてた気がするな」
アランは笑いながら言った。
「そ、そんなことない! って、私の事怒ってないの?」
「もちろん怒ってたさ。鬼の形相でな。あれは、アンナと手を組んでたのが悪い。でももう違うだろ?」
「う……うん。多分」
「ニーナはどうか知らないが」
「お姉ちゃんは……」
ビビエルはそのまま何も言えなくなった。
2人は黙り込んでしばらく沈黙が続く。
「妹さんの名前なんだっけ?」
ビビエルが先に口を開いた。
「クリスだ」
「クリス!? クリスってまさかあの……?」
ビビエルは海賊たちに追われていたクリスの事を思い出した。
「ああ、ビビエルもリンカと一緒に会ったんだったな。どうだ? べっぴんだっただろ? でも同じ家で暮らしてたのに分からなかったなんてな」
「だって私クリスちゃんの事、一度も見たことないから。クリスちゃんはいつもアンナの部屋に閉じ込められてたし……」
「そう。分かってる。だから僕はあいつが許せないんだ」




