第36話 絶対負けないリンカは負けたのか? 炎の魔法少女、変身しまーす♡
「リンカっ……」
ビビエルは愕然としてその場に腰を下ろした。
リンカ達が下敷きになった瓦礫の山を眺めながらビビエルは泣きじゃくる。
「どうして……あんなこと……どうして!?」
瓦礫はビビエルが見上げるほど高く積み重なり、普通の人間にはどかすことさえ難しいだろう。
「ビ……ビエル……。き……きこえる?」
その時、インカムから途切れ途切れになりながらもニーナの声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん!?」
ビビエルがそう答えると、ニーナの声が鮮明になって聞こえてきた。
「よかった。繋がった。2人とも無事?」
「無事じゃないよっ……!」
ビビエルが叫んだ。
「何が起きた? 教えて」
「リンカが……リンカが瓦礫の下敷きになって……。もう、私にもどうにもできない。リンカは死んだの!!」
「そんな……」
「お姉ちゃんのせいだから! お姉ちゃんがリンカを巻き込んだから……」
「ごめんなさい……」
ニーナが静かに言った。
「シナプスなんてやってたらいつか誰かが死ぬ日が来るとは思ってたけど……。今日なんて……。私もリンカを止めるべきだったんだ……」
「ビビエルは悪くない。私の責任」
「もういいよ……誰の責任だって……。リンカは帰って来ない……」
ビビエルは落胆して顔を俯けた。
だがその時、突然瓦礫の山が動いた。
ビビエルは立ち上がり、慌てて銃を構える。
「ま……まさか?」
ビビエルの脳裏に嫌な想像が過った。
まさかアーミーが生きていたんじゃないか、彼女は一瞬そう思った。
岩が砕ける音と共に瓦礫の山を動かした犯人が現れた。
そこに立っていたのは、右手にオーブを握ったリンカだった。
「リンカ!!」
ビビエルは銃を投げ捨て、リンカに駆け寄った。
「よかった……よかった……!!」
ビビエルは大泣きしながらリンカに抱きつく。
「び、ビビエルさん……」
リンカはフラフラになりながらもビビエルの事を抱きしめた。
「ほんとに、ほんとのほんとに死んだかと思ったんだから!! 二度とあんな無茶しないでよ!?」
ビビエルはリンカに怒鳴った。
「ごめんなさい……」
「でも、どうやってあんな中生きてたの?」
ビビエルが聞くと、リンカは手に持っていたボロボロになったシールド装置を見せた。
「これです。壊したはずだったんですけど、不具合で一瞬だけ起動したみたいなんです」
「ありがとうありがとう、インフィニティシールドくんありがとう……」
ビビエルはリンカの持っていた装置に何度もキスをした。
「リンカ、よかった」
ニーナが珍しく上擦った声で言った。
「ニーナさんも、心配かけてごめんなさい」
リンカが謝った。
「じゃあ、早く帰ろ。急いでリンカの傷の手当しないと」
ビビエルが言った。
「うんっ……。帰りましょう」
リンカは瓦礫の山を一瞬だけ見て言った。
「オーブもゲットできたし、結果的にはミッション成功だったのかな? リンカがボロボロになっちゃったけど」
「でもこれでサイファーとも戦えるかもしれませんね」
「うん……。そうだけど……無理しちゃだめだよ? またこんなことになったら怒るからね?」
ビビエルは心配そうに言った。
「そんなに心配しないでくださいっ。私、絶対負けませんからっ」
「どうかな……死んでも負けないとか言い出すもんな……」
ビビエルはリンカに疑いの目を向ける。
「そうだお姉ちゃん、この場所を一体誰から聞いたの? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの? 2人とも死にかけたんだからさ」
「それは……」
ニーナは言い淀む。
「いいから教えてよ! 私達には知る権利がある!」
ビビエルは強く言った。
「きっと、ビビエル怒る」
ニーナは小さな声で言った。
「だったら尚更聞きたいよ! 誰なの?」
「…………アンナ。アンナ・ブラックウォール」
ニーナはボソッと言った。
「まさか!?」
ビビエルは驚いていたが、リンカは何も言わなかった。
「お姉ちゃん、アンナとは縁を切ったって言ってたよね!?」
ビビエルはニーナがアンナの下で動いていたのを知らなかったようだ。
「これには理由がある」
「理由!? そんなものあったってあんなやつと関わるなんて許せない! もしかして今回のも全部アンナが仕掛けてたんじゃないの!?」
「そんなことはない。信じて」
「信じられないよ! 私達がアンナに何をされてきたか、彼女が何をしてきたか覚えてるでしょ!?」
「ええ。全部覚えてる。だから。アンナからあなたを守りたかった。アンナとあなたが出来るだけ関わらないようにずっと黙ってた」
「そんなの言い訳にしか聞こえないよ! お姉ちゃんがあいつに従うことでどれだけの人が苦しむと思ってるの!?」
「分かってる……。それでも……」
「お姉ちゃんのバカ!! お姉ちゃんなんて大嫌いだから!」
ビビエルはニーナの言葉を遮って言った。
「び、ビビエルさん、ニーナさんを許してあげてください……」
ヒートアップしていく会話に思わずリンカが割り込んだ。
「リンカは黙ってて! これは私達姉妹の会話なんだから!」
ビビエルがそう叫んだが、突然ニーナが言った。
「ちょっとまって」
ニーナの声は何やら深刻そうだ。
「なに!?」
ビビエルは怒鳴るように言った。
「犯人が動き出したと今連絡が入った」
ニーナが言った。
「そんなの知らないよ! 今はそんな話してないでしょ!?」
ビビエルはまだ怒鳴っていたが、リンカが止めた。
「犯人は、一体誰なんですか!?」
リンカがニーナに聞いた。
その時、コツコツコツという足音と共に誰かが近づいてくる気配がした。
「犯人は……」
ニーナが犯人の名を言いかけた瞬間、リンカとビビエルは灼熱の炎に包まれて吹き飛ばされた。
リンカ達は倒れて、持っていたオーブを落としてしまう。
「いったたた……」
倒れた2人の元に足音の主が近づいて来た。
そこに立っていたのは……。
「森山リリィ。生徒会副会長」
ニーナが告げた。
リリィは片手に大きなラジカセを抱えて立っていた。
彼女はラジカセを地面に置いた。
「は~♡ ここまで自分の思い通りになると参っちゃうね~♡」
リンカが落としてリリィの元に転がってきたオーブを拾い上げて彼女は言った。
「リリィさん……何でですか?」
リンカが聞いた。
「ごめんね~♡ 愛する彼氏の為だから。許してね♡ かよわい女の子はやっぱり男には逆らえないんだよね~♡」
「じゃあ、まさか……あんたはサイファーの……!!」
「ふ~ん。察しは良いじゃん♡ そうだよ。私が今回の犯人で、そしてサイファーのガールフレンド♡」
「そんな……」
「じゃあ、察しのいいあなた達だったら分かるよねー? この後どうなるのか」
リリィはそう言いながらリンカ達の周りをぐるぐると回る。
「ど、どうするつもり……?」
「あなた達は死にまーす♡」
リリィはそう言ってラジカセを起動させると、音楽を鳴らし始めた。
暗い夜道にそぐわぬ軽快な音楽が鳴り響き、リリィはリズムに乗って踊った。
彼女は一回転してリンカ達の方を向くと、首に下げていた大きな宝石を首から外して手に持った。
彼女が宝石から手を離すと、宝石は浮かび上がって輝き始めた。
「現在、過去、そして未来、全てを繋ぐ魂達よ。その大いなる力で我が肉体に炎の力を……」
リリィがそう告げると、宝石の輝きは強さを増していく。
「アクセスッ♡」
リリィの言葉と共に宝石は突然燃え上がり、リリィの姿が見えなくなるほどの強い光を放った。
炎は次第に大きくなり、リリィを丸ごと包み込んだ。
渦巻く炎に近寄れず、リンカ達はその暑さに腕で顔を覆った。
「な、何なの一体……」
炎は突然小さくなってほとんど消えた。
そして、炎の中から現れたリリィの衣装はいつの間にか変わっていた。
赤いアクセントの入った白いワンピース。胸元には赤いリボンが輝いている。
そして彼女はどこからか現れた長いステッキを持ち、その先端には先ほど彼女が持っていた宝石が埋め込まれていた。
「魔法少女リリィ、登場♡」
リリィはそう言いながらラジカセを踏みつぶして壊した。
音楽が止まり、辺りは静まり返った。
「リンカ、ビビエル、逃げて」
ニーナが言ったが時すでに遅く、2人はリリィの放った炎に再び包まれた。
「うわああっ!!」
2人は再び吹き飛ばされる。
ビビエルが倒れながらも光線銃で応戦するが、炎の壁を作って弾き返された。
「ねえねえ~! 早く死んで♡ キャハハハ」
リリィはステッキを炎で包み、リンカに向かってまるでバットのように振った。
リンカはアーミーにやられた肩を攻撃されてしまい、悲痛の叫びをあげた。
「リンカ!!」
ビビエルがリンカに駆け寄る。
「なんか弱すぎてつまんないよ~! がっかり♡」
リリィは2人に向かって杖を向けた。
「じゃあね、また来世でね♡」
リリィはそう言って、巨大な炎の渦を作り出し、リンカ達に向かって飛ばしてきた。
リンカはその時、あることを思い出した。
彼女はポケットからアランに貰った1枚のコインを取り出した。
「それってまさか」
ビビエルがコインを見て言った。
炎はまるで蛇のように蜷局を巻いてリンカ達に向かって来ていた。
もう飲み込まれる、そう思った瞬間にリンカは持っていたコインを親指で弾いた。




