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バニラパンチ  作者: うみこん(宇宙みかんコンピューター)
第二章 学園
30/124

第30話 魔術師リンカ。鷹に罵られる。

「お~! よくやったな! まさかできるとは思ってなかった……。びっくりだ」


 奥の部屋から出てきたアランはリンカに拍手をした。


「え!? 騙してたんですか?」


「もちろん悪気はない。師匠として弟子には厳しくしなきゃいけないと思ったんだが……ちょっとやりすぎちゃったかな」


「そんな!!」


「でも分かっただろ? これが魔術の基本中の基本、エネルギーの集中だ」


「エネルギーの集中……」


「体の持っているエネルギーを1点に集めて放出する。これだけなんだよ、魔術は。簡単だろ?」


「簡単じゃないですよっ!」


「でも、そう考えると魔術も武術も変わらないな。体の本来持っているエネルギーは人によって決まってる。そこに武術も魔術も関係ないって事だ」


「たしかに……。おじいちゃんも言ってました。武術は自分の持っている体の力を最大限引き出して相手にぶつけるための技術だって」


「ほらな~。言っただろ? 僕って武術の才能もあるかもなあ……。テコンドー習おうかな」


「それでアランさん、次はどんな修業なんですか?」


 リンカが目を輝かせながら聞いた。


「何言ってるんだ? 今日はこれで終わりだ。風呂に入って寝るぞ」


「そんな……」


「ここに泊まるなら布団は倉庫にあるやつを適当に使っていいぞー。多分開けてない新品の物があったはずだ。腐って無くなってなければ。ちなみにシャワーはそっちだ」


 アランはそう言いながらまた部屋に戻ろうとした。


「私、まだできます! 修業させてください!」


「おいおい、君はアホか? がんばるのは良いことだが、後々の影響を考えないのは愚か者のやることだ」


「影響って?」


「これ以上やってケガでもしたらすべてが無駄になる。戦いは3日後だろ?」


「わ、わかりました……」


「分かればよろしい」


 そんな話をしていると突然バサバサッと羽の音と共に何かが入ってくる音がした。


「お~! タカさん! やっと帰って来たか~」


 アランはタカさんと呼んだ大型の鳥を抱きしめた。


「タカさん?」


「よし、君たちにも紹介しよう。鷹のタカアキさん、通称タカさんだ」


「タカです」


 鷹が言った。


「喋るの~? 声も渋くてかわいい~」


 ミルが言った。


「彼は世界一賢いタカだからな。喋れて当然だ。僕が教えたんだぞ? ただし言葉をマネするだけで会話する能力まではないけどな」


「でもタカさんはどこに行ってたんですか?」


「もちろん偵察だ。僕はこの図書館から出られないからな。彼が僕の目の代わりだ」


「なるほど。それでいろいろと外のことも知ってたんですね」


 リンカはタカさんを見つめた。


「かっこいいですね、触ってもいいですか?」


 リンカはそう言ってタカさんを触ろうした。


「触るな。ミルク臭いガキめ」


 タカさんがそう言った。


「タカさん、言葉理解してますよね……?」


 タカさんは再び飛び立って図書館の屋根裏に行ってしまった。


「ああ~いっちゃった」


 ミルが残念そうに言った。


「よし、僕はもう寝ようかな」


「早いですね」


「早く寝たら早く起きられるだろ? リンカもちゃんと早く起きるんだぞ?」


 アランはそう言って部屋に戻っていった。


「私達はどうする?」


 リンカがミルに聞いた。


「せっかくだから泊っていこうよ~」


 ミルは泊まる気満々のようだ。


「私、シャワー浴びてくる~」


 そう言ってミルはシャワー室へと走っていった。


 結局2人ともシャワーを浴びて図書館に泊まることにした。


 本棚と本棚の間に布団を敷いて、2人で横になった。


「なんか合宿みたいでワクワクするね~」


「うん、そうかもっ」


「そう言えば、リンカちゃんはアランさんとどういう関係なの~?」

 

 ミルがニヤニヤしながら聞いた。


「どうって? ただのアルバイトだけど……」


「え~、そうなの? じゃあリンカちゃんはアランさんのことどう思ってるの?」


「どういうこと?」


「だって、先輩で男の人でしょ? なんか、恋始まりそうだよね~」


「な、ないよ!! そんなの! だってまだ会ったばかりだよ!?」


「そうなの? でも、もう手とか繋いじゃったんじゃないの~?」


「そ、それは関係ないでしょ~!」


「あ~! やっぱり繋いでる~」


「も~! 意識しちゃうからやめてよ~」


「あははは」


 2人はしばらく恋の話に花を咲かせた後、眠りについた。


    ◇


 翌朝リンカはアランに言われて、もう一度魔術を使ってみることになった。


 魔力増強リングをつけたリンカは再び机の上に置かれた本を浮かせる魔術に挑戦する。


「がんばって、リンカちゃん」


 今度はその様子をミルと鷹のタカさんも見守っている。


「いいな? 棒の上に逆立ちしたときのように、全身の力をこの本1点に向けて注ぐんだ」


「わかりました! やってみますっ!」


 リンカは深呼吸をして目を閉じた。


 そしてメリケンサックを握った拳をゆっくりと上げた。


「行きます!」


 リンカは目を開けると、彼女の右手が赤く光った。


 そして、バタンバタンと音を立てながら本が揺れ始め、ゆっくりと宙に浮かび上がった。


「や、やった!! やりました! アランさん、ミルちゃん!」


 リンカは喜んで手を上げると、本は一気にアランの顔面目掛けて飛んでいった。


「やったやったリンカちゃん~!」


 リンカはミルと2人で抱き合って喜んでいる。


「アランさん、ありがとうございます!」


 リンカはアランの手を握った。


「ああ……。おめでとう」

 

 アランは本をぶつけられたことに怒りながらもリンカの成功を称えた。


 本を浮かせる魔術には成功したが、そこからもリンカの修業は続いた。


 杭の上の逆立ちも続け、リンカが逆立ちできる時間はどんどん伸びていった。


 最初は1時間だったのが、2時間、3時間、最終的には5時間まで耐えられるようになった。


 そして本を浮かせる訓練も終わり、実際にアランと戦うことになった。


「ほら、攻撃してくるんだ! もっとだ!」


 アランはリンカの攻撃を誘う。


 リンカが拳をアランに向かって突き出すと、その手から赤い光が放たれ、アランに飛んでいく。


 アランはその光を片手で掴み取り、リンカに投げ返す。


「う、うわっ!」


 リンカは突然返ってきた攻撃に対応できず、そのまま吹き飛ばされてしまった。


「おしいなあ。君はまだ防御魔法が弱い。そんなんじゃ魔術師には勝てないぞ?」


「もう一度やらせてください!」


「よし! かかってこい!」


 そうやって2人は実践的な訓練を重ね、ついに3日後がやって来た。


「リンカ!」


 水を飲んでいたリンカに、アランが突然攻撃を仕掛けてきた。


 リンカは咄嗟にその攻撃を防御魔法で防いだ。


「ちょっと~アランさん、不意打ちはズルですよ!」


 リンカは怒っていたがアランは笑っていた。


「いいや、それだけ防御ができるようになれば安心だ。君は一人前の魔術師だ。まあ、リングなしじゃあ魔術は使えないけどな」


「アランさん、このリング持って行ってもいいですか?」


 リンカは腕にはめた魔力リングを見せて言った。


「いいや、だめだ。残念だが、そのリングは実践向きじゃない。容量が少なすぎるんだ。だからトレーニングの時しかつけてなかったろ? それ以外の間はずっと充電してたんだ。実践で使ったりしたら途中でバッテリーが切れて、死んじまうぞ?」


「そ、そんな……」


「だから、君自身の力で戦うんだ。リンカ。君は十分強くなった。魔術を完全に理解したんだ」


 アランはリンカの腕からリングを取り上げて言った。


「分かりましたっ。アランさん」


 2人は真剣な表情で見つめ合った。


「なんだか2人とも、いい感じだね~」


 ミルが言った。


「ちょ、ちょっと、ミル茶化さないでよ~」


 リンカは恥ずかしそうだ。


 その時、またバサバサと翼の音を鳴らしながら外に出ていたタカさんが帰ってきた。


 だが、様子がおかしい。


 帰ってくるなり図書館の中を激しく飛び回り、大きな声で鳴いている。


「どうしたんだタカさん! 返事をしてくれ!」


 アランが呼びかけるが、タカさんは答えない。


 タカさんはしばらく飛び続けた後、そのままリンカ達の元に向かって落ちてきた。


 落ちてきたタカさんを見ると大けがをしており、瀕死の状態だった。


「な、何があったんですか!? タカさん大丈夫なんですか……?」


 アランはしばらくタカさんの様子を確認した後、黙って首を横に振った。


「彼はもう助からない」


 アランはそう一言だけ言った。


「ごめん……な……さい」


 タカさんは最後の力を振り絞ってアランにそう伝えた。


「タカさん、謝らなくていい。君は十分やってくれた。安らかに眠ってくれ」


 アランはタカさんの瞼をそっと閉じてあげた。


「どうしてこんなことに……」


「タカさんには君たちがこれから向かう場所へ偵察に行ってもらっていたんだ。だが何者かによってこんな姿にされてしまった。リンカ、あそこは君たちが思っている以上に危険な場所だ。だからサイファーも入れ替え魔法なんていう回りくどい方法を使って侵入しようとしたんだ」


「私、絶対勝ちます。タカさんの分も絶対に負けられません」


「リンカ、何かあったら必死で逃げろ? もう誰の死ぬ姿も見たくない」


「はいっ。私だってそうです」


 リンカは頷いた。


 丁度その時、図書館の前にニーナとビビエルの2人が迎えに来るのが見えた。


「じゃあミル、アランさん……。私、行ってきます」


「頑張ってね」


 ミルがリンカの手を握った。


「気をつけろ。死ぬなよ?」


 アランはそう言いながら1枚のコインをリンカに投げた。


 コインは光を反射して一瞬だけ表面が虹色に光った。


 リンカはそれを慌ててキャッチした。


「何ですか? これ」


「これは僕からの応援の気持ちだ。困ったときに親指で弾くといい。こうやってな」


 アランは指でコインを弾くポーズをして見せた。


「わ、わかりました」


 リンカはよく分からないままそのコインをポケットにしまった。


「おーい、リンカ~。そろそろ準備するよ~?」


 外からビビエルがリンカを呼ぶ声が聞こえた。


「はい!!」


 リンカはそう言って図書館を後にした。

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