第27話 アンナ・ブラックウォールの誕生とシナプスの軌跡。
2294年冬。
非常に寒い朝だった。
12歳のアランはあまりの寒さに目が覚めて、布団から出た。
まだ眠っている家族を起こさないようにそっと扉を開いて廊下に出た。
まだ日が昇る前の廊下は真っ暗で不気味な雰囲気だ。家の中だがあまりの寒さに吐く息が白くなった。
アランは足を踏み外さないようゆっくりと階段を下りる。
すると突然誰かの話し声が聞こえ、アランは驚いて足を踏み外しそうになった。
「あなたの目的は何? 子供達にだけは危害を加えないでちょうだい」
どうやら一階でアランの母親が誰かと話しているようだった。
だがその相手はどこにも見当たらず、彼女はまるで壁に向かって話しかけているかのように見えた。
彼女は深刻そうな表情で話している。
「ママ? どうしたの?」
アランは恐る恐る声をかけた。
「あ、アラン!? こんな時間に起きてきちゃダメ! あっちに行ってなさい!」
いつも優しい母親だったが、その瞬間だけは大きな声でアランを怒鳴った。
恐怖を感じたアランはアランそのまま逃げるようにキッチンに駆け込んだ。
アランは怖かったが、母親が心配でキッチンから聞き耳を立てながら朝食をとることにした。
彼はすでに用意してあったベーコンエッグを食べ始めた。
母親はアランに聞こえないようにひそひそと話しているようで、会話の内容は聞き取れない。
何が起きているのか気になるアランはキッチンの扉から母親の方を覗き込んだ。
彼女は先ほどと変わらず壁に向かって話しかけているようだが、何かが変だ。
ぼんやりとした不思議な光が彼女の前に飛んでいる。
どうやら彼女はその光に向かって話しかけているようだ。
「あれ……なんだろう」
アランは目を凝らしてその光を見つめた。
すると次の瞬間、その光が急に強くなり辺りを包み込んだ。
あまりの眩しさにアランは目を背けた。
光が消えアランが再び母親の方を確認すると、そこには白く光り輝く翼の生えた女がいた。
その女には腕が四本あり、内2本は背中から生えていた。
その女の背中から生えきている光の腕が母親に向かって伸びていき、鋭い爪で彼女の肩を強く掴んだ。
「キャーー!!」
母親は突然の痛みに悲鳴を上げた。
「ど、どうした!?」
悲鳴を聞いた父親が2階から慌てて降りてきてその光景を目にした。
アランもキッチンから出ていき、母がまだ無事であることを確認した。
「アラン! 隠れてなさい!」
父親はアランに言った。
「い、いやだ!」
アランは母を助けたい一心で父の命令を断った。
「お前は、何者だ! ジェーンを放せ!」
「あ、あなた……。私は、大丈夫よ……」
アランの母親であるジェーンは震える声で言った。
「生憎だが、あたしにはもう手がなくてね。こいつは渡せないね」
女はそう言うと、そのまま大きく口を開けてジェーンの頭に噛みついた。
するとそのまま女の体はするするとジェーンの中に入っていき、最終的に消えてしまった。
ジェーンはそのまま意識を失って倒れた。
「ジェーン!!」
「ママ!!」
父親とアランが彼女に近づこうとしたが、彼女はそれを止めた。
「ジェーン! 大丈夫か?」
ジェーンはゆっくり立ち上がり、埃を払うと口を開いた。
「残念だが、もうジェーンはいない」
その声はもうジェーンの声ではなく、あの翼の生えた女の声だった。
「な、なんだと!? ジェーンをどこへやった!?」
「さあな。あたしにも分からない。でも、どっかにいるんじゃないか? たぶん」
「たぶんだと!? ふざけるな!!」
父親がその女に向かって手を突き出すと、緑色のオーラが女に向かって飛んでいった。
だが女はその攻撃を素手で弾いた。
「な、なんだと……!?」
「あたしにはそんなちゃちな攻撃効かないって。ムダなんだよ。悪いことは言わないから、大人しく降参しとけって」
女は椅子に腰かけてどこからか取り出したバナナを食べ始めた。
「ん~! うまい!」
「お前……何者だ?」
父親は怯えた様子で彼女に聞いた。
「私の名前はアンナ。だから、今はアンナ・ブラックウォールってとこか?」
彼女は食べ終わったバナナの皮を捨て、立ち上がったかと思えば背中から光の腕を生やし、その腕でアランを捕まえ引き寄せた。
「や、やめろ!! アランには手を出すな!」
父親が叫んだ。
「ああ、大丈夫大丈夫。殺しはしないさ。こいつは大事な大事な息子だもんな」
「ぱ、パパ~~!」
アランは泣きながら父親に助けを求めた。
「大丈夫だ、アラン!」
そう言いながらも父親は何もできずただアンナの様子を伺うことしかできなかった。
「お前にはもう1人子供がいるだろ? 違うか?」
「し、知らない。子供はアランだけだ!」
「ふ~ん」
アンナはそう言ったが、彼にもう一人の子供がいることは分かっていた。
どうしてやろうかと彼女は考えたが、結論が出る前に問題が解決した。
「パパ~、うるさいです。目が覚めちゃいました」
目をこすりながらぬいぐるみをもって階段の上に現れたのは妹のクリスだった。
「クリス! 来ちゃだめだ! 部屋に戻ってなさい!」
「パパ~? どうしたの?」
クリスはぼんやりとした様子でその場を動かない。
アンナはすぐに光の腕を伸ばして階段の上にいるクリスを捕まえた。
「ほ~ら、やっぱりもう一人いるじゃねえか!」
「ママ……? どうしたの……?」
クリスはいまだに状況が掴めていない様子だ。
2人の頭を掴んでアンナは満足そうな表情を浮かべた。
「2人をどうするつもりだ……」
父親がアンナに聞いた。
「それをお前に教える必要はない。問題は、お前をどうするかだ」
「私か……? 私はどうなってもいい! だから、2人だけは助けてくれ!」
「パパ! そんなのダメだよ! いやだ!!」
突然アランが泣き喚き始めた。
「うるせえ!」
アンナが彼の頭を強く掴むと彼は意識がスッと消えてその場に倒れた。
「お、お兄ちゃん!」
クリスが驚いた表情で言った。
「う~ん、あんたよく見るといい男だよな~。やっぱりこいつも見る目はあるなあ」
アンナは父親の胸ぐらを掴んで言った。
「だったらどうなんだ」
「よし、決めた。お前はあたしが殺してやる。ありがたく思えよ?」
「な、なんだと!?」
アンナは捕まえていたクリスを押し飛ばして横にどけると、光の腕を4本出して父親の体を掴んだ。
「大丈夫大丈夫、リラックスしろ。すぐに死ねるから」
「や、やめろ!! やめろーー!!!!」
アンナは5本目の腕を使い、その鋭い爪で彼の胸元を突き刺し、殺してしまった。
アランは朦朧とする意識の中その光景を見ていた。
「パ、パパ……。しんじゃ……ダメ」
部屋にはアンナの高笑いとクリスの泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
◇
「クリスちゃんって、アランさんの妹さんだったんですね」
「おお? クリスを知ってるのか?」
「はい、いろいろあって……。でも、まだ全然シナプスの話関係ないじゃないですか~」
「まあまあ、そう焦るな。安心してくれ。今から始まるから。その後、アンナは子供をどこからか何十人も連れてきて魔術や機械技術、スパイ活動の技術なんかを教え始めたんだ」
「でもなんででしょう」
「さあ。分からないが、それと同時にあいつはシナプスを再結成して再び活動を始めさせたんだ。シナプスは元々ジェーンが作った組織で、あいつの顔はジェーンそのままだからな。元メンバーを騙すのは簡単だ。
そして今に至る。ということはだ。シナプスはアンナの組織だって言うことになる。な? 悪い組織だろ?
だが、シナプスを再結成の目的がサイファーを倒すことだというのは本当で、何故かあいつはサイファーを殺したがっているみたいだ」
「なるほど。アランさんはアンナさんに捕まった後どうなったんですか?」
「僕たちはしばらくあの家でアンナから教育を受ける毎日を過ごしていたんだが、僕はついに16歳になり学園に行くことになった。
その目的は学園の中でシナプスのメンバーを増やすことだ」
「一体シナプスには何人いたんですか?」
「アンナが最初に集めた数十人の子供達は能力不足を理由にアンナ自身によって追放されていった。
その後学園で新たにシナプスメンバー集めて結成したが、それもリーダーが亡くなった事をきっかけに崩壊した。
そして、サイファーに木崎源十郎が倒されると、元々のシナプスのメンバーも解散してしまった。
最終的に残ったのはたった4人だけだ。それが、僕とクリス、そしてニーナ・イェールとビビエル・イェールだ」
「まさか!?」
「そうだ。彼女達は子供の時にアンナに連れて来れられて、僕達と同じ家で育った」
「そんな……。じゃあ、ニーナさんたちは今でも……」
「ああ。アンナの手下だ」
「アランさんは違うんですか?」
「僕は学園の中でシナプスが崩壊する混乱の隙を狙ってアンナから身を隠す方法を考えた。そしてこの図書館にたどり着いたってわけだ」
「ここ?」
「そう! この図書館には強力な魔術で結界が張られている。だから僕に敵対する人間は入れないし中を覗くこともできない。ここにいる限り僕はアンナには見つからないってことだ」
「だからずっとここにいるんですね」
「そうだ。僕はずっとここに居てクリスを救い出す方法を探していた」
「クリスちゃんはずっとアンナさんの元に居たんですか?」
「ああ。でも、逃げ出した」
「なるほど……クリスちゃんはアンナさんから逃げてたんだ」
「そうだ。アンナが長い間ジェーンの体に入っていたせいで、彼女の体が弱ってきていた。だから、あいつはクリスの体に乗り移ろうとしてたんだが、それを察知した僕がクリスを逃がした」
「逃がした?」
「ここから遠隔操作でアンナに攻撃を仕掛けたんだ。我ながらあればいい攻撃だった」
「でも、クリスちゃんは海賊に捕まってしまったんです……。大丈夫なんですか……?」
「ああ、大丈夫だ。クリスは上手くやってるよ。海賊を仲間に引き入れてアンナと戦おうとしてる」
「よかった……。でも倒せるんですか……?」
「いいや、無理だな。だから僕があいつを倒す方法を一刻も早く見つけなくちゃいけないんだ」
年代間違っちゃってたので修正しました




