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バニラパンチ  作者: うみこん(宇宙みかんコンピューター)
第二章 学園
23/124

第23話 学園生活2日目! 再び起こった事件、そして王子トーマス登場。

「ふう~」


 薄暗い部屋の中でリンカは一人になると、ため息をついた。


 新しい刺激だらけの怒涛の一日を過ごしたリンカは流石に疲れを感じていた。


 彼女はしばらくベッドの上に座ってぼうっと虚空を眺めた。


「……そうだ。ハヤトに電話しなきゃ……」


 彼女は棚に仕舞っていた父からの手紙を取り出すと、ハヤトに電話を掛けた。


 電話はすぐに繋がった。


「もしもしハヤト?」


「リンカさん! お久しぶりです」


「久しぶりって、まだ2日くらいしか経ってないよ!」


「でも、凄い長く感じました……」


「大丈夫? 一人でちゃんとやっていけてる?」


「はい! アルバイト先のおじさんがすごく優しい人で、良くしてくれて助かってます」


「よかった~……。元気なんだね」


「もちろん元気です! リンカさんは学園、どうですか?」


「まだ始まったばかりだけど、色んな事が新鮮ですっごく楽しいよ! 友達もできたんだ! 多分初めての友達……。私ずっと山に籠って修行ばかりしてたから……」


「僕は友達じゃないんですかー?」


「うーん、ハヤトは友達って感じじゃないな~。家族だもん。友達以上でしょ?」


「友達以上恋人未満ってとこかぁ……」


「え? 何か言った?」


「いえっ! なんでもないです」


「それで、ハヤトに言っておかないといけない事があってさ」


 リンカのその言葉にハヤトが息を呑んで身構える様子が電話越しに伝わってきた。


「実は、僕もあるんです」


 ハヤトが言った。


「そうなの? おじいちゃんのことなんだけど」


「手紙……ですよね?」


 ハヤトが聞いた。


「知ってるの?」


「はい。昨日、僕の元にもおじいちゃんからの手紙が届いたんです。それで、色々知りました」


「そっか……」


「それでおじいちゃんに、リンカさんに負けないくらい強くなれって言われました!」


「あはは! 絶対無理だよ~」


「そんなの、やってみないと分かんないじゃないですかー!」


「分かるよ~」


「いいですよ。いつか僕がリンカさんを守れるくらいになって見せますから」


「うーん。いつになるかな~」


「すぐです!」


「そっか~。楽しみだな。じゃあ、修業もちゃんと頑張ってね」


「はい! もちろんです! リンカさんも勉強頑張ってください!」


「うんっ。じゃあ~、またすぐに帰るからね」


「はい。また、会いましょう」


「じゃあね」


「さようなら」


 リンカはそのまま電話を切った。


 電話が切れると、部屋から音が消え、再び静けさを取り戻した。


「ミルの部屋、行こうかな……」


 リンカは枕と着替えを持って、ミルの部屋へと向かった。


「おかえりなさい。リンカちゃん」


「いらっしゃいでしょ……?」


 ミルの部屋はリンカの部屋と同じ構造だったが、その雰囲気が大きく違っていた。


 部屋はかなり暗く、赤いライトを下から照らしていてぼんやりと部屋全体が赤い。


 天井にはミラーボールが取り付けられ、キラキラとした反射光が妙な雰囲気を醸し出していた。


「あ、どうぞ座って?」


 ミルにそう言われたが、机の上には大きな水晶玉が置かれている。


「う、占うの?」


「あ、ごめんね~。これは片付けとくね」


 ミルはその大きな水晶を持ち上げてクローゼットの中に押し込んだ。


「ありがと」


「そういえば、アルバイトはどうだった~?」


 ミルが聞いた。


「うーん。なんだかよく分かんなかった。ミルは学園の奥にある図書館知ってる?」


「学園の奥? そんな所に図書館あったかな?」


「それで、今日は図書館にアルバイトに行ったんだけど、すっごい変な人が居てね、名前は確か~アランさん!」


「あ~!! もしかして、図書館に住む男アランのこと~?」


「図書館に住む男?」


「そう! 図書館に住んでて、たまにやって来た人間を食べて暮らしてるんだよ! 大丈夫だった? 食べられてない? あれ!? リンカちゃん、腕が2本しかない!?」


 ミルはリンカをペタペタ触って齧られていないか確認する。


「腕は元々2本だよ……。でもそんな怪物みたいな感じじゃなかったよ! 確かに変な人ではあったけど……」


「そうなの~?」


「うん。しばらく掃除係のアルバイトとして雇ってくれるみたい」


「そうなんだ! でも気を付けてね。闇の組織シナプスのメンバーだって噂もあるから」


「ミルはシナプスの事も知ってるの?」


「シナプスは有名だよ。とんでもない恐ろしい組織で学園を裏から操ってるんだ」


「そ、そうなの? でも、アランさんはシナプスの事は嫌いって言ってたけど……」


「それでも、図書館の怪物やシナプスにはあまり近づいちゃだめだよ? 食べられちゃうかもしれないから」


「それは大丈夫だと思うけど……でも」


 そこまで言ってリンカは少し黙った。


「どうしたの?」


「私、そのシナプスに誘われたんだ」


「えっ!!」


 ミルはひっくり返るほど驚いた。


「生徒会長のニーナさんに言われて。でも、そんな噂みたいに悪い組織じゃないと思う。サイファーを倒すための組織だってニーナさんは言ってた」


「サイファー……」


 ミルは唖然とリンカの事を見つめた。


「あ、あの、まだ全然入るって決めたわけじゃないんだけどね!」


 慌ててそう言うリンカだったが、そんな彼女の肩をミルはがっしりと掴んだ。


「なんで? 凄いじゃん!! 入ろうよ!!」


 ミルは目を輝かせながら言った。


「えっ!?」


「秘密の組織のメンバーってすごくかっこいいじゃん!」


「かっこいい……? さっきは近づいちゃダメだって……」


「だってリンカちゃんが悪い組織じゃないと思ったんでしょ? だったらいいんじゃない? それに、誰かから頼られるって凄いことだよ。リンカちゃんが強いから誘われてるってことだもん」


「そっか……そう言われたらそうかも……」


「だから、自信もって、秘密結社シナプスに入ろう!」


「ちょ、ちょっと考えてみます……」


「うん。私は応援するよ」


「ありがとう。ミル」


 リンカの感謝の言葉にミルは笑顔を見せた。


「あ、そう言えば……」


 ミルはそう言うと自分のカバンを取り出して何かを探し始めた。


 そして二冊の本を取り出した。


「これ、リンカちゃんの分」


 ミルは二冊の本の内の一冊をリンカに渡した。


「これって……」


 リンカが受け取った本は『魔術の基本』というタイトルの書かれた教科書だった。


「図書館で借りてきたんだ」


「えっ。でも今日は私も図書館に居たはずだけど」


「違うよ。多分リンカちゃんが行ったのは今は使われてない旧図書館だね。新図書館は別の場所にあるんだ」


「そうなんだ~。ありがとう! 今度案内して!」


「うん。任せてよ!」


「ところで明日はどんな授業をするのかな?」


「なんだろう? 魔術を教えてくれるのかな? 例えばヤモリをイモリに変える呪文とか。イモリにな~れ~、イモリにな~れ~。あっ、タモリになった」


「え! すごい! もうそんなことできるんだ! 楽しみだな~」


 二人は和気あいあいと話しながら楽しいひと時を過ごす。


 リンカはミルから受け取った教科書を握りしめ、これからの学園生活に胸を高鳴らせた。


    ◇


 同じ頃。


 セントラルシティの高層ビルの最上階。


 サイファーは大きな窓からリンカ達の居るセントラル学園を見下ろしていた。


「計画通りに。頼んだぞ」


 サイファーは何者かに電話でそう伝えると、電話を切った。


「上手くいくのか?」


 サイファーの後ろに立っていたアダムが言った。


「俺はあいつの事は高く買ってる。あいつが今まで一度でも失敗したことがあるか?」


 サイファーはそう言いながら空のグラスをアダムに差し出した。


 アダムは背中に背負っていた巨大な剣を下ろし、柄の部分に取り付けられた瓶を外すと、中に入っている液体をサイファーのグラスに注いだ。


 青白く光る液体がグラスの中で揺らめく。


 サイファーはそれを一気に飲み干し、グラスを床に叩きつけた。


「アダム。準備をしろ。さっそく出かけるぞ」


 そう言って彼らはその部屋を去った。


 窓から差し込む夕日が砕け散ったグラスの破片に反射して美しく光った。


   ◇


 翌朝。リンカ達は寮を出て集合場所へと向かっていた。


「えっと~、今日も中央広場集合だったよね」


 リンカが昨日のキャサリンの話を思い出しながら言った。


「あれ? なんだかすごい人が集まってるよ~」


 リンカ達のクラスの集合場所になっているはずの広場に何故か大勢の人が集まっていた。明らかにクラス外の人間も集まっている。


「なんだろう? 行ってみよう!」


 二人はその人混みに近づいていくと、人だかりができている理由が分かった。


「っ!!」


 リンカは息を呑んで声も出なかった。


 また、人が殺されたのだ。


 今度は二人。同じ手口で腹を刺され、遺体が広場の中央に浮かんでいた。だが、前回と違う点がもう一点。腹のあたりが切り刻まれ、そこに魔法陣が描かれていた。


 そして、その遺体にはどちらにも血で"Cipher"と書かれていた。


 生徒たちは動揺してガヤガヤと騒いでいる。そんな生徒たちを警備員達が追い返そうとしているが、誰も言う事を聞かない状態だ。


 そんな混乱の中、生徒会長を非難するような声が聞こえてきた。


「会長! この責任はどう取るおつもりですか? 2日前あんなことがあったばかりなのに。警備はちゃんとしていたんでしょうか?」


 その声を上げていたのは、風紀委員長のベッキーだった。


「警備は厳重だった。でも特に不審な侵入者は見当たらなかった」


 遺体の傍に立っていたニーナが淡々と答えた。


「だったらどうしてこんなことが起きるんでしょうか? 管理がずさんだったからに決まってます! これは責任問題ですよ? 今すぐ緊急会議を開くことを要求します!」


「分かった。あなたの言う通りそうする。でも、その前に遺体の回収をさせて」


 ニーナは屈んで遺体に手を掛けようとしたその時、集まっていた野次馬の生徒たちがどよめいた。


 何が起きたのかとニーナが顔を上げると、そこには意外な人物が居た。


 そこに立っていたのはこの国の王子であるトーマス・ブラッドだった。


「り、リンカちゃん! あれ、トーマス王子だよ?」


 さすがのミルも王子の登場に動揺してるようだ。


 彼はまるで中世の貴族を思わせるような服装に剣を差し、使用人を侍らせてゆっくりと遺体の方へと近づいた。


「これはこれは学園の生徒会長さんではないですか」


 トーマスはニーナに言った。


「トーマス王子。要件は何?」


 ニーナは王子に対してもいつもの様子で答えた。


「単刀直入に言うと、君には今回の事件から手を引いてもらいたいんです」


「なぜ?」


「実は我々と普段から親しくしてくれている人物がいまして、彼がその遺体を欲しがっているようなんですね。なので、遺体に関しては我々王国警察が引き受けようかと思いましてね。もちろんあなた方が事件を調べるのは自由ですが」


「王国警察にそんな権限はない。学園で起きた事件は学園内で処理することになっているはず」


「ふっふっふ。あなたは誰にものを言ってるのかお分かりですか? ここは君主制国家ですよ? 王族のいうことは絶対です。あなたに口答えする権利はない。違いますか?」


 トーマスはニーナを嘲笑うかのように言った。


「三日だけ時間を頂戴」


「ほう、三日も? 贅沢ですね。では、あなたはそれに見合うものを何かくれるというんですか? 何もタダで三日も貰おうとしてるんじゃないでしょうね?」


「もちろん、用意してる」


「言ってみなさい。それ次第では考えてあげてもいいでしょう」


「あなたの賄賂の話を黙っていてあげる」


「な、何のことですか? そんな話は知りませんね」


「あなたは沢山の人間から賄賂を受け取ってる。大企業や、この学園の以前の生徒会長とも取引してる。私が独自に調べた。証拠もある」


「ふ、ふんっ。そんなもの、あなたが公表したところで誰が信じると言うんです? 人望は私の方が上です。皆、私の言う事を信じるに決まってます」


「私は今ここで発表してもいい。どうする?」


 ニーナは胸ポケットから携帯端末を取り出してトーマスに見せた。


 しばらく二人は沈黙のまま見つめ合ったが、ニーナが端末に手を掛けたところでトーマスが折れた。


「わ……分かった! 分かったから、やめてください」


 トーマスは息を荒げながらニーナの手を止めた。


「三日後ですよ。三日後絶対に回収に来ますからね」


「分かった」


「さあお前達、行きますよ!」


 トーマスはぜえぜえと息を吐きながら使用人を連れてニーナの元を離れた。


 すると、彼はエリオが居ることに気が付いた。


「お~、愛しのエリオじゃないか。制服がきまってるな。学園生活はどうだい?」


「おはようございます、トーマス様。順調に過ごしてますわ」


 エリオはじっとトーマスの方を睨みつけながらも挨拶を返した。


「ほうほう、そうか。それは良かった。お前がいじめられて泣きべそをかきながら帰ってきてもらっては困るからね」


 トーマスのその言葉にエリオは黙って答えない。


「おや? 知らなかったかい? お前をここにやったのは厄介で目障りなお前をあの家から追い出すためなんだぞ? お前の兄と同じようにね」


 トーマスは笑いながら言った。


「……分かってますわ」


「そうだ、あいつは今頃何してるだろうね? 行方不明だって聞いたが……。はっ、もしかして!! 死んだのか!?」


 トーマスは大げさに手を口で覆うポーズをしながら言った。


「……っ!!」


 エリオは怒りのあまりトーマスに殴りかかりそうになったが、拳を握りしめて必死に抑えた。


「安心してください。お兄様はそう簡単に死ぬような方ではありませんわ」


 落ち着いて言い放ったエリオに、トーマスは興味を失ったようにそっぽを向いた。 


「ではエリオ、私はこの辺で失礼するよ。まあ、あの家にもうお前の居場所なんてないからな。帰ってこようなんて思わないことだね」


 そう言ってトーマス達は学園から去っていった。


「私だってあんな所、帰りたくありませんわ」

 

 エリオはトーマスに聞こえないように呟いた。


「あなたの望み通り緊急会議をする。すぐに会議室に来て」


 ニーナがベッキーに向かって言った。


「わかりました」


「リンカ、ミル。あなた達も一緒に来て」


 ニーナがリンカ達に向かって言った。


「私達ですか?」


「あなた達は最初の事件の第一発見者だから、重要」


「わ、わかりました」


 そのまま歩いて行ってしまうニーナに、リンカとミルの二人は慌てて後をついて行った。

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