第21話 ゴーレムとバトル!そして、図書館に住む変な男!
ゴーレムはその巨大な腕を振り上げた後、エリオに向かって一気に拳を振り下ろした。
だが、エリオは仁王立ちのままじっとその拳を見つめる。
「危ないっ!!」
全く攻撃を避けようとしないエリオにペギーが叫んだ。
だがエリオはそれを聞いても動かなかった。
そのままゴーレムの拳はエリオを上から潰すように飛んできた。
「きゃあっ!!」
ペギーとロージーは思わず顔を伏せる。
だが、エリオは無事だった。
ペギーロージーが顔を上げると、そこにはゴーレムの拳を片手で受け止めたエリオが無傷で立っていた。
「これが、危ないですって?」
余裕を見せるエリオにゴーレムは怒り狂って雄叫びを上げた。
「ゴオオオオオオオオオッ!!!!」
ゴーレムは続けざまにエリオを攻撃するが、彼女はその全てを防御魔法で防いだ。
「ふふっ。そんな攻撃じゃ私は倒せませんわっ!」
エリオは青白く光る魔法陣を展開し、ゴーレムを押し返す。
「ウオオオオオオオオオオッ!!!!」
「す、すげーー!!」
皆はエリオの華麗な防御に声を上げた。
「わたくしにできるのは防御だけではありませんわ」
そう言うエリオの手には青白い光が再び灯っていた。
ゴーレムはもう一度エリオに襲い掛かろうと近づいて来る。
エリオはやって来るゴーレムを待ち受けながら力を貯めた。
そして、ゴーレムが目の前に来た瞬間、エリオは手を前に突き出した。
すると彼女の手から放たれた青白いオーラがゴーレムを包み込む。
「吹っ飛びなさい!!」
エリオのその言葉と共にゴーレムは吹き飛んだ。
そしてゴーレムは大きくバランスを崩して地面に倒れた。
「わああああ!!!!」
皆からの拍手が舞い起こる。
「すごいやエリオさん! 流石スーペリアだ!!」
皆勝利ムードで騒いだが、エリオだけは真剣な表情で倒れたゴーレムを見つめていた。
「まだ、安心はできませんわ」
彼女の言う通り、ゴーレムはすぐに起き上がって再びエリオの元へと近づいて来た。
「ゴオオオオオオオオオッ!!!!」
ゴーレムはその巨体を揺らし、地響きを起こしながら近づいて来る。
再びゴーレムの拳がエリオを襲う。
エリオはゴーレムからの攻撃を防御魔法で防ぎながらも、隙を見て攻撃を繰り返した。
「食らいなさい!」
だが今度はなかなかゴーレムを吹き飛ばすことができない。
エリオの攻撃が当たっても少しのけ反るだけですぐに襲い掛かってくる。
エリオは次第に疲労を感じ、呼吸を乱し始めていた。
「ハァハァハァ……」
「お、おい……なんか勝てるか怪しくなってきたぞ……?」
生徒たちからはそんな声が聞こえてきた。
「皆さん、わたくしを見くびらないでもらえます? わたくしは闇雲に攻撃しているわけではありませんのよ」
そう言ってエリオがまた攻撃をすると、ゴーレムが今までより大きくのけ反った。
「ウオオオオッ!!」
よく見るとゴーレムの右肩の辺りが集中的に攻撃されており、その部分が崩れ始めていることが分かった。
「もう一回! 食らいなさい!」
エリオがもう一度右肩に向かって攻撃すると、砂が弾け飛んだ。
「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ゴーレムは痛そうに悲鳴を上げる。
ボロボロと崩れていく右肩。
そして、とうとう右腕が地面に落ちてしまった。
「おおーー!!」
生徒たちからは歓喜の声が上がった。
「片腕になってしまえば、こっちのものですわ」
エリオはゴーレムの腕が無くなった右側に周って攻撃を始めた。
ゴーレムは手を使った攻撃しかして来ない。
その為、腕が無くなればゴーレムからの攻撃は全く飛んで来なくなった。
エリオは常にゴーレムの右側を取り、攻撃を続けた。
「ふふっ、勝負あったも同然ですね。リンカさん、早めに棄権しておいたらどうです? 魔力値6のあなたにこのゴーレムを相手できるとは到底思えませんけど」
エリオは余裕が出てきてゴーレムの攻撃をかわしながらリンカに話しかけてきた。
「そんなのやってみないと分かんないじゃん!」
リンカは言った。
「まあ、いいですけど」
エリオがそう言いながらゴーレムの首元に攻撃をすると、今度はゴーレムの首が吹き飛んだ。
「あら? これで終わりかしら? ちょっと味気なかったですわね」
ゴーレムは首が無くなり、ついに動かなくなってしまった。
生徒たちからは拍手が起き、エリオは皆に向かってお辞儀をした。
鳴りやまぬ拍手を浴びながら、エリオはゆっくりと歩いてリンカの元へと近づいて来た。
「リンカさん、これで満足かしら? 先に謝っておけば今回は大目に見て許してあげますけど」
エリオは勝ち誇った顔でリンカに言った。
「なんでですか? 次は私の番です。まだ勝負は終わってません」
「ふ~ん。強情です事。いくらあなたが木崎源十郎の娘だからと言って、魔術も無しにアレに勝てるわけがありませんわ」
「だから、やってみないと分からないって言ってるでしょ~~?」
二人は睨み合いを続ける。
「み、みんな!! あれ見て!」
生徒のうちの一人が指を差しながら言うと、皆がその方向に注目した。
頭が無くなったゴーレムの頭部付近が何やらうねうねと動いていた。
「な、何あれ……」
「ゴーレムはまだ死んでないかも。気を付けて」
キャサリンが言った。
エリオがじっと見つめる中、ゴーレムの首の切断面から砂が溢れるように漏れ出てきた。そしてその砂はどんどん積み重なっていった。
切断された右腕も同様、漏れ出てくる砂で何かが形作られていた。
「顔と腕が……再生してる……!?」
リンカがそう呟いた。
彼女の言う通り、漏れ出てくる砂が形作ったのは無くなったはずの右腕と顔だった。
「な、なんですって!?」
やがて砂は綺麗に固まり、ゴーレムは完全に元の姿に戻った。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
今までで一番大きな雄たけびと共にゴーレムはエリオに向かって攻撃を仕掛けてきた。
エリオはジャンプして避けようとしたが、ゴーレムのスピードまでもが上がっており、避ける間もなくその巨大な腕に掴まれた。
「きゃあっ!!」
エリオは掴まれた状態で何度も攻撃をしてみるが、先ほどと違いゴーレムの方も防御魔法を使って防いでくるせいで、攻撃が全く効かなくなってしまった。
「く、苦しいっ」
エリオはゴーレムに強く掴まれ、苦しそうな声を上げる。
彼女は必死に攻撃を続けたが、ゴーレムには全く通用せず、彼女の放つ魔力エネルギーの光は次第に弱くなっていった。
「エリオさん! 危険だわ! 降参して!」
もはや勝ち目が無くなってしまったエリオにキャサリンが降参を提案した。
「先生、ダメですわ。私、こんなところで負けてられませんの」
エリオはそう言いながらも苦しそうな表情を浮かべる。
「先生の」
「言う通りです!」
「早く」
「降参してください!」
ペギーとロージーがそう言ったが、エリオは聞く耳を持たない。
「そんなこと言って、わたくしが降参したらバカにする気でしょう? そうはいきませんわ」
エリオはそう言いなが必死にもがいたが、ゴーレムの力はあまりに強く、抜け出すことができない。
「バカになんて」
「しませんわ!!」
「このままだと」
「死んじゃいますわ!!」
ペギーとロージーはエリオのことを心配そうに見つめる。
「ええ。死んでも結構ですわ。わたくしはこんな所で負けてはいけませんの。わたくし、死んでも負けませんから!」
エリオはそう言って目を瞑った。
彼女はここで負けるくらいなら死んでやるという程の覚悟だった。
「一体どうしたら……」
キャサリンは教師としての責任を感じ、ゴーレムをどうにかする方法を考えたが、思いつかない。
ゴーレムは試験を受けた人間以外が攻撃できないように特別な防御魔法で守られている。
ペギーとロージーが魔術を使ってゴーレムに攻撃をするも、全て弾かれてしまった。
「そんな……」
「ですわ……」
ゴーレムの腕の中に居るエリオはもうぐったりとして声も出せない様子だ。
このままでは大変なことになってしまう。
だが、誰もどうすることもできない状況だった。
そんな中、一人の少女が立ち上がった。
「私が……行きます」
彼女は拳を握り、ゆっくりとゴーレムに近づいていく。
「ダメよ!! 危ない! リンカさん!!」
リンカはキャサリンのその言葉には耳を貸さず、さらに拳を強く握った。
そして彼女は、足を肩幅に開き、腰を低く落とし、構えの体勢に入った。
「私が、彼女を助けますっ!」
リンカが力強く叫んだ。
「無茶ですわ!」
「ゴーレムは防御魔法に守られていますわ!」
ペギーとロージーが言った。
だが次の瞬間、リンカは鋭い目つきで叫んだ。
「うおりゃあああああああっ!!!!」
彼女はその叫びと共にゴーレムの右足向かってパンチを浴びせた。
彼女の拳がゴーレムの足に当たった瞬間、一瞬だけ足の周りが光り、防御魔法が展開されたが、彼女のパンチはそれを突き破り、ゴーレムの右足を粉々に砕いた。
「ゴオオオオオオオオッ!?」
ゴーレムはそのままバランスを崩して後ろに倒れてしまう。
その衝撃でエリオを掴んでいた手を放してしまい、エリオはそのまま地面に落ちた。
「けほっけほっけほっ……」
エリオは苦しそうに咳をしている。
エリオは朦朧とする意識の中、必死に目を凝らしてぼんやりとした視界の中に佇むリンカを見た。
「リンカ……さん……?」
エリオが呟いた。
倒れたゴーレムは右足を再生させながらゆっくりと立ち上がってきていた。ゴーレムはリンカを睨みつけている。ターゲットがエリオからリンカに変わったようだ。
リンカは自分の名前を呟いたエリオの方を見た。
「無事でよかったです。エリオさん」
リンカは言った。
「あ……あなた……一体何者ですの……?」
エリオが苦しそうになりながらも聞いた。
「この前も言った通り、私は木崎源十郎の娘です!!」
リンカはエリオの方を向いて答えながらも、立ち上がって襲い掛かってきたゴーレムに対しノールックで蹴りを入れた。
「ウァアアアア!!」
ゴーレムは再び大きく吹き飛んだ。
そのままリンカはゴーレムに向かって走っていき、空高く飛び上がった。
「これでも食らえ!!」
リンカはそのまま落下の勢いを利用し、ゴーレムの腹に向かってパンチを繰り出した。
リンカのパンチの衝撃はすさまじく、ゴーレムはしばらく立ち上がれなくなった。
そして、二度と立ち上がれないよう、リンカは何度も何度もゴーレムにパンチを浴びせた。
ゴーレムは腕をクロスさせ、防御態勢に入った。リンカの猛攻に耐えるので精一杯なようだ。
ある程度ゴーレムにダメージを与えたところでリンカは飛び上がり、くるっと後ろ向きに一回転して着地した。
そして再びゴーレムに向かって走りながらリンカは言った。
「焔流……一挙剛烈ッ!!」
リンカは大きく腕を引き拳を握る。
その拳には魔力こそ宿っていないが、彼女の全身の力が注がれており、強いオーラが集まってきていた。
ゴーレムはゆっくりと立ち上がり、そんなリンカを待ち受ける。
「食らえーーーーッ!!!!」
パンチの衝撃は凄まじく、辺りに突風が吹いた。
生徒たちは突然の風に悲鳴を上げる。
ゴーレムが張っていた防御魔法は完全に破壊され、岩と土でできた本体も音を立てて崩れていった。
リンカはボロボロになったゴーレムを前に手を合わせる。
そして服や拳に付いた砂を払うと、ミルの元へと戻って行った。
「リンカちゃん、お疲れ様」
ミルは笑顔で言った。
「ありがとう」
そんな二人のやりとりをその場に居た全員が唖然とした表情で見つめていた。
まさか拳だけでゴーレムを倒せるなどと誰も思っては居なかったのだ。
「す、すげーー!!!!」
一人の少年が思わず声を上げた。
それを皮切りに生徒たちは騒ぎ出し、リンカの周りに集まってきた。
だが、ペギーとロージーだけは倒れたエリオの元へと駆け寄った。
「あんなすごいパンチどうやったんだよ! 教えてくれよ!」
興味津々に聞いてくる生徒にリンカは返した。
「修業してもらったの。さっき言ったでしょ? 私、木崎源十郎の娘だから」
「えーー!!」
「そりゃ強いはずだぜ! 実は俺はあんたが勝つって最初から言ってたんだ」
「ねえねえ、木崎源十郎は小指でりんごを切れるってホント?」
木崎源十郎の名を聞いて皆が盛り上がっていく中、キャサリンがストップをかけた。
「はいはいはい! 一旦ストップ! おしゃべりは解散してからにしてくれる? あと、ペギーさん、ロージーさん、エリオさんを医務室へ連れて行ってくれる?」
ペギーとロージーが倒れたエリオを運び出した。
「エリオちゃん、大丈夫かな?」
ミルは心配そうに言った。
「きっと大丈夫だよ。あんなに元気な人だもん……」
リンカは言った。
その後はキャサリンがつらつらと連絡事項を述べ、そのままクラスは解散となった。
◇
クラスが解散した後リンカはミルと別れ、とある場所に来ていた。
「えーっと、地図によるとこの辺かな~」
リンカが来ていた場所は学園の中でもかなりの奥地。
他の場所よりも木々が多い茂り、古い建物が多い。
人通りも全くなく、少し不気味な場所だ。あれだけ居た警備員達も何故かこの辺りでは一切見当たらない。
「あっ、ここだ」
リンカが見つけたのは大きなドーム状の建物で、やはりここも少し年季が入って古びている。
「ごめんくださ~い」
リンカは巨大なアーチ状のドアに向かって呼びかける。複雑な模様の装飾が施された木製の扉だ。
だが中から返事が来る様子はない。
リンカがここに来た理由はアルバイトだ。
ニーナからアルバイトを用意したと言われ、ここへの地図を渡されたのだ。
「誰か居ますか~?」
今度は呼びかけながらドアをノックしてみた。
だがしばらく待っても返事は無い。
「入りますよ~?」
リンカはそう言いながらそっとドアを開け、そっと中へ入った。
そこは至る所に本が並ぶ図書館だった。
玄関から続く廊下は天井が高く広々としており、左右に2階層構造の巨大な本棚が構える。もちろん本棚の中にはびっしりと本が埋め尽くされていた。
柱や天井までが全て木で作られており、そんな木の香りと本の独特な香りがリンカの鼻を包んだ。
辺りには誰もいる様子がなく、ただただ静かな空間が広がっていた。
「誰も居ないのかな~?」
リンカがそう呟くと、上からスーッと何かが降りてきた。
降りてきたのは逆さまに座った男だった。
「わっ!! びっくりした」
リンカは突然現れた男に驚いた。
その男は椅子ごと逆さまになって空中に浮いており、手には怪しげな魔術の本を持っていた。学園の制服を着ているがその上からローブを羽織っている。
「人間がキョロキョロと辺りを見回す時は、何かを探しているか何かから隠れているかのどっちかだ。で、君はどっちだ? 10秒以内に答えろ。セキュリティの関係でね。じゃあ、カウントダウン始め。3,2,1、アウト! はい、終了。帰ってー」
リンカは両肩を男に掴まれ、くるっと180度回転させられた。
「あの、帰れません、私、アルバイトに来たんです」
リンカは振り返って言った。
「ああ、なるほど。アルバイトか。アルバイトは大変だぞ。上司にこき使われて、すぐに首にされる。辛いよな~。どうにかできないか? そうだ、いい考えがあるぞ。もうアルバイトなんて辞めたらいいんじゃないか? よし、君はもうアルバイトを辞めた! 今日はおしまい! はい、帰って!」
その男はもう一度リンカをくるりと出口へと向ける。
だがリンカは振り返る。
「帰れません。私、生活費が……」
「ああっ! もう! しつこいなあ。生活費ねえ……。よし! そうだ、これを押して」
男が逆さまのまま差し出してきたのはタイムカードと書かれた小さな機械。
リンカは言われた通りボタンを押した。
男はカシャカシャとその機械を振り始め、何やら箱の裏側をいじってもう一度リンカに差し出した。
「ほら、もう一回だ」
リンカがもう一度ボタンを押すと、カードが下から出てきた。
「これを入り口の機械に入れると、お金が出てくる。実に不思議な話だが、原理は謎だ。じゃあ、君はそのお金を持ってさっさと帰るんだ」
「だ、だめですよ。私まだ働いてません」
「いいか君、働かないのも労働の内だ。君が居ると僕がとても迷惑するんだよ。分かるな?」
「分かりません。掃除だけでもいいから働かせてください。あなたの邪魔はしないので」
「君は強情だな、参ったよ。どうしたらいいか……。あ、そうだ! 賃金を倍出すから帰ってもらうっていうのは……どうだ?」
「ダメです!!」
リンカが真剣な目で男を見たので、男はとうとう観念して言った。
「だよなあ……。分かったよ。君には負けた。じゃあ好きに働くといいさ。だが僕の邪魔だけはするなよ? 邪魔をしたら即帰宅だ。ただの帰宅じゃないぞ? 僕が君をマグロに変身させて海まで泳いで帰ってもらう」
「は、はい……」
男はそのまま固まって2人はしばらく黙って見つめ合った。
「なんだ? 何か言ってくれよ。気まずいだろ? 僕は沈黙が苦手なんだよ」
「いや、あの、なんで逆さまなんですか?」
「逆さまになると、頭に血が上るだろ? その方が本の内容が頭に入るんじゃないかとひらめいたんだ」
「結局頭に入ったんですか?」
「いいや全然。逆効果だ」
男はそう言って再びスーッと上に登りながら廊下の奥の方へと進んでいった。
「あの~お名前は?」
リンカは登っていく男に聞いた。
「僕はアランだ。君は?」
「リンカです。木崎リンカ」
「ふーん。よろしく」
「よろしくお願いします」
リンカがそう言った後はもう男から返事が返ってこなかった。
彼は何やらブツブツと呟きながら本を眺めている。
結局何も指示をもらえなかったリンカは仕方なく掃除をすることにした。




