第15話 祖父からの手紙。そして、謎の貴族3人組を発見する。ヤー!
リンカは鍵を開けて寮の部屋の中に入った。
その部屋の中はリンカが想像していた以上に豪華だった。
ふかふかのベッドにラジオ、鏡台にキッチン、そして風呂と洗濯機までついていた。
少しコンパクトだが必要なものはすべて揃っており、リンカは安心した。
クローゼットを開けると制服と寝巻用のガウンが数着、綺麗に揃えてハンガーに掛けられていた。
リンカは荷物を下ろしてベッドに腰かけた。
彼女はふうっと息を吐いてそのままベッドに倒れた。
今日は色々なことがあった。
数時間前までは自分がこんな所に居るとは思いもしなかっただろう。
それに……祖父の死の真相も知ってしまった。
「……そうだ」
ニーナに渡された祖父からの手紙のことを思い出したリンカはベッドから起き上がってさっそく便箋を開けた。
手紙にはこう書かれていた。
リンカへ
この手紙をお前が読んでる時、わしはどうなってるか分からん。わしは死んだか?
わしが死んでも気にすることはない。
こんな老いぼれはほっておいてもいつか死ぬ。たまたまそれがちょっと早く来ただけだ。
お前もよく知ってる通り、わしは武術以外はからっきし駄目だ。なんにもできないわしのせいで幼い頃からお前には苦労を掛けた。
最近は家のことはお前やハヤトにまかせっきりになってしまった。申し訳ない。
この手紙を書いたのはお前にどうしても伝えておきたいことがあったからだ。
わしはお前が産まれる前のことをあまり話してこなかった。
お前が産まれる前、わしとばあさんはあの小屋で二人で暮らしておった。
戦いが終わり、わしは役目を終えた。このままゆっくりと死んでいくんだろう。
そう思っていた。そんな矢先、ばあさんが突然お前を身ごもった。ばあさんが七十の時だ。
そう、わしはお前の祖父ではない。信じられないかもしれないがわしとばあさんがお前の両親だ。
奇跡が起こったんだ。
お前が産まれてしばらくしてばあさんは死んじまったが、お前のおかげでその寂しさも感じる暇はなかった。
一度も子供を授かる事がなかったわしらにとって、お前との暮らしは毎日が刺激的だった。
気力を失いかけてたわしにお前は生きる気力を与えてくれた。
お前が産まれてきてくれたこと、本当に感謝している。
もちろん天国のばあさんも同じ気持ちだ。ありがとう。
お前はあんな山奥の小屋で育ったもんだから、あまり楽しい思いをさせてやれなかった。
もっと子供らしい経験をさせてやりたかったというのがわしの唯一の心残りだ。
わしが学園のことを話すとお前はいつも目を輝かせて聞いていたな。お前に届いた学園への招待状はわしからの感謝の気持ちだ。
受け取ってくれ。これからはわしのことなど忘れて、学園で良い仲間を作れ。
仲間は生きていく上で最も大事なものの1つだ。それだけは忘れるな。わしからお前への最後の教えだ。
そして最後に1つだけわしの願いを聞いてくれ。
ハヤトのことだ。
お前は強い。あいつが来てからずっと強くなった。そんなお前ならもう分かっているだろうが、わしはお前がお前自身や誰か大切な人を守れるように強く育てたつもりだ。
だから、ハヤトを守ってやってくれ。もちろんお前自身のこともな。
この世界にはお前が思っている以上に危険で恐ろしい人間が多い。くれぐれも気をつけろ。
木崎源十郎
リンカは祖父の手紙を抱きしめ、泣きじゃくった。
「おじいちゃん」
次々とあふれ出てくる思い出と涙はとどまることを知らず、夜はどんどんと更けていった。
「ありがとう。おじいちゃん。おじいちゃん、大好き」
そんな事を布団の中でずっと呟きながら、リンカはいつの間にか眠りについていた。
◇
翌朝、リンカは洗濯した道着を干して、制服に着替えた。
泣きすぎて腫れてしまった目をごまかすために部屋の引き出しに入っていた眼鏡をかけ、リンカは外に出た。
空は雲一つない良い天気だ。
小鳥たちの鳴き声が聞こえる気持ちいの良い朝だった。
あの後、祖父の手紙と一緒に今後学園生活で必要になる品のリストが挟まれていた事にリンカは気が付いた。おそらくニーナが入れてくれたのだろう。
リンカはそれらの品を揃える為、買い物に出ようと考えていた。
「でもこんなのどこに売ってるんだろう。ビビエルさんに聞きに行こうかなあ」
そう思ってとぼとぼ歩くリンカの目の前を突然少女が走って通り抜けた。
「まって〜」
彼女は虫取り網を持って叫びながら何かを追いかけているようだ。
そして今度はリンカの方に向かってきた。
「わっ!」
リンカはとっさに避けると、リンカの前を一匹の蝶がひらひらと飛んでいく。どうやら少女はこの蝶を追いかけているようだ。
「走ると危ないよ~」
「まて~~い」
リンカの声も届かず、少女は夢中で蝶を追い続けている。
そんな中、別の方向からドレスを着た3人組がこちらに歩いて来るのが見えた。
蝶を追いかける少女はそんな事に気付くはずもなく、必死に走り回っている。
だが運の悪いことに、蝶は歩いている3人組の方向へ飛んで行ってしまった。
「危ないっ!」
リンカがそう叫んだが時すでに遅く、少女は道を歩いていた3人組にぶつかってしまった。
「あちゃー」
ぶつかった相手は真っ白で綺麗なドレスを着ており、その両脇にいた2人もそれぞれ赤と青のドレスを身に纏っていた。
見るからに貴族といった感じだ。
「いったたた……。ちょっとあなた。この私にぶつかるなんてどういうつもりですの?」
白のドレスを着た少女が虫取り網の少女に言った。
「ごめんね、蝶が言うこと聞かなくて」
虫取り網の少女は素直に謝る。
「あなた」
「私たちが」
「一体誰だか」
「分かって」
「ますの?」
両脇にいた少女達が交互に言った。
「うーん」
少女はしばらく考えた。
「もしかして、ダチョウ倶楽部?」
「くるりんぱ。って誰が上島竜兵だよ!」
白ドレスの少女が帽子を回すそぶりを見せながら怒った。
「上島竜兵とは言ってないけど」
「3人組だったらみんなダチョウ倶楽部だと思わないで頂戴。この私は、あのジョセフ国王の姪、エリオ・ブラッドですわ!」
「そして私はそんなエリオ様と親しくさせていただいております、ペギー・ウェスト」
「同じくロージー・イースト」
「おーっほっほっほ」
彼女らは3人で高らかに笑った。
「そうなんだ。ぶつかってごめんね」
虫取り網の少女は彼女らに謝った。
「人の名前を聞いておいて、自分は名乗らないのは失礼じゃないかしら?」
「あ、そっか~。私はミル・クリスタルだよ」
「クリスタル、聞いたことない苗字ね。あなた、いいかしら? まだ入学して日が浅いから知らないみたいだけど、この学園においては家柄がものを言うの。名も無い家のあなたみたいな人間が私のような名家出身の人間にぶつかるなんてことは許されないのよ。そんなことがあったらどうなるか、ペギー、ロージー、見せてやりなさい」
「まかせて」
「ください」
「ですわ」
ペギーがきらりと指輪が光る手をミルに向かって突き出すと、彼女の魔術でミルはふわりふわりと宙に浮かび上がった。
「わわっ」
そしてロージーも魔術を使って風を起こした。空中で無防備な状態で風を受け、ミルのスカートがめくれてしまう。
「わあ、飛んでる~」
宙に浮かんだミルはむしろこの状況を楽しんでるようだ。
「おっほっほっほ。ずいぶんと子供くさいおパンツですこと。もっと辱めを受けさせてあげなさい」
「もちろん」
「ですわ」
ミルはさらに高く上がってしまい、周りにいる人からチラチラと見られ始めた。
「いやーん」
「こらー! いじめはダメです!」
リンカは思わず彼女らの元へと駆け寄った。
「いじめですって? 人聞きの悪い。これは礼儀のなっていない庶民に対する立派な教育です。部外者は黙ってて」
「ぶつかっちゃったのは事故ですよね? 悪気はないんだから許してあげてください」
ペギーとロージーはそんなリンカの言葉を無視し、魔法の力を使ってミルを上下に揺れ動かした。
「あっはっはっは。これが貧乏人のダンスですか? お下品な事」
エリオは高笑いをしながら言った。
「ちょっと、聞いてますか!?」
リンカが大きな声を上げた。
「あなたちょっとうるさいですわよ。王族の私に向かって失礼ではないですか? だいたい、名乗ることもせず私達に話しかけること自体常識外れです。ペギー、ロージー、この人にも痛い目に遭わせてやりなさい」
エリオは言うと、ペギーとロージーはリンカの方を向いて指輪を構えた。
「もちろん」
「ですわ」
2人は不敵な笑みを浮かべながらリンカの方へ近づいて来る。
「名前を言えばいいんですか? 教えてあげますよ」
リンカはそう言ってそばにあった銅像を両手でがっしりとつかんだ。
「私は木崎リンカ……。木崎源十郎の……娘です!!!!」
リンカはそのまま掴んだ銅像を思い切り持ち上げた。辺りに砂埃が舞い上がる。
「いじめ、やめないと怒りますよ」
リンカは銅像を持ち上げたまま言った。
彼女のその様子をエリオ達は目を見開いてしばらく見つめた。
そして、ペギーとロージーは慌てて後ずさりしてリンカから離れた。
「ぺ、ペギー、ロージー、そういえば私たち、お茶会があるんでしたね、そんな人たち放っておいて早く行きましょう」
エリオは動揺した様子で言った。
「行きましょう」
「行きましょう」
そして3人はそそくさとその場から逃げていった。
逃げていく彼女を見てリンカはゆっくりと銅像を地面に下ろした。
だが、ミルはまだ空中に居た。
ペギー達が離れたことで魔術が解けてしまったミルはそのまま風に飛ばされてしまう。
「うわあっ!」
そして彼女はちょうど水たまりに落下してしまった。
「いたたた」
「大丈夫?」
リンカはミルの元へ駆け寄った。
「うん。私は平気だよ。ありがとう」
「服が汚れちゃった。どうしよう」
ミルは泥まみれになった自分の服を見ながら言った。
「ここの寮に住んでるの?」
リンカが聞いた。
「そうだよ。でも、今日私の部屋の鍵が壊れちゃって。今、部屋に入れないんだ。業者の人はお休みだから来るのは明日になるんだって」
「それは散々だったね……」
「ふふふ。しょうがないよ。今日の私の運勢、最悪なんだ〜」
「ねえ、よかったら私の部屋のシャワー貸してあげるよ」
「ほんと? ぜひ貸してほしいな。あ、でもタダじゃ悪いから、私のセクシー生写真をサービスしちゃうね」
「い、いや要らないかな……」
リンカはしりもちをついているミルに手を差し伸べた。
「ありがとう」
「あの人たちもあんなことするなんて本当にひどいよね。私許せないかも」
「そう? 私は全然怒ってないよ? 全然。むしろ王家の人はあれくらい偉そうにしてもらわないと困っちゃうよ」
「ほんと? 少しは怒ってもいいと思うけどな」
「でも学園にもいい人っているんだね。王族偏見クソ野郎しかいないと思ってたよ」
ミルはリンカの手を取ってにっこりと笑った。
「いや、結構怒ってるよね……?」
2人はリンカの寮に向かって歩き始めた。
「私、リンカ。昨日からD棟の寮に入ったの。よろしく」
「私はミルだよ。私もD棟。一週間前にここに来たんだ。これからよろしくね」
「えっ? そうなの? ていうことは同じ学年だよね? よかった。私ずっとアウトサイドに住んでたから不安だったんだ。知ってる人ができてうれしい」
リンカはミルの手を取って喜んだ。
「私もアウトサイドにはよく行くよ? パパが住んでるんだ」
「そ、そうなんだ! それは結構心強いかも」
「でも、アウトサイド出身ってことはここでは言わないほうが良いかな。さっきのエリオちゃんみたいに人を見下す人も少なくないから」
「そっか……ちょっと悲しいな」
「私もここでは貧乏人と思われないように、服の裏地に"金持ち"って刺繍を入れてるんだ。ほんと、恐ろしい場所だよ」
ミルは服をめくって刺繍をリンカに見せてくれた。
「それって効果あるのかな……」
「多少ね」
「でもなんで蝶なんか追ってたの?」
リンカがミルに聞いた。
「蝶って魔力の強いところに向かって飛ぶ性質があるんだ。それで少し研究してみようと思って」
「そうなの!? すごいなあ。なんだか改めて魔術学園に来たって感じがしてきた」
「私ってやっぱり学生っぽいかな~? うれしいな」
2人はリンカの寮に到着し、中へと入った。




