第14話 クリスとロンド海賊団、その後。彼らは何故海賊なのか。
アウトサイド某所。
ロンドたちに連行されたクリスは彼らの拠点に閉じ込められていた。
クリスは扉をドンドンと叩いて叫ぶ。
「こらーー!! 出しなさいよ!! いつまで閉じ込めておくつもりーー? お腹すいたよ!! バカ!! アホ!!」
いくら叫んでも開かない扉に疲れ果てて、クリスはため息と共に腰を下ろした。
しばらくじっと黙って座っていると、廊下を誰かが歩く音が聞こえ、扉が開いた。
「おい、ロンドさんが夕食を取るから全員集まれってさ」
やってきたピッカーがクリスにそう言った。
クリスは立ち上がって部屋を出た。
ピッカーの後に続いて廊下を歩く。
「なんで私まで一緒に食べなきゃいけないの? 一人で食べたいんだけど」
クリスは部屋から出られたにしては不満そうだ。
「それがロンド海賊団の掟だからだよ! 食事は必ず全員で食べろってね」
「捕虜は普通例外でしょ……?」
クリスはぶつぶつ文句を言いながらもピッカーの後をついていった。
廊下を出て階段を降りた先の部屋には木製の大きなテーブルが置かれており、そこに酒や料理が豪勢に並べられていた。
「よし、全員揃ったな」
ロンドはクリス達の事を見て満足そうだ。
「おい、そういえばみんな見てくれよ! 俺の新しいスニーカーだよ。エアマックスマックスってんだ。かっこいいだろ~?」
ピッカーは椅子の上に立ち、机の上に足をのせて自分のスニーカーを見せた。
「残念。俺たち流行り物には全然興味ないの。興味あるのお前だけ」
「なんだよケチだなぁ~」
そんなやり取りをしているとロンドが怒った。
「おい! 机の上に足を乗せるなと言ってるだろ!」
「す、すみません! ロンドさん」
ピッカーは瞬時に机から脚を引っ込めた。
「椅子の上に立つのもダメだ!」
「はいっ!」
ピッカーは椅子の上から素早く降りて席に着いた。
「ようし、お前も早く席につけ」
ロンドがクリスに言うと、クリスは嫌そうな顔をしながらも一番端の席に座った。
「じゃあ、全員手を合わせろ!」
「はいっ!」
ロンドの号令と共に全員がパンッと手を合わせた。それを見てクリスも一緒に手を合わせた。
「いただきます!」
ロンドが言うと続けて他の皆もバラバラに『いただきます』と言って食事を食べ始めた。
食卓に並んでいるのはソーセージやステーキ、ローストチキンとどれも肉ばかりで脂っこいジューシーな香りがしている。
まだ子供のクリスにとっては少し量が多い内容だ。
そんなクリスも彼らに続いて料理を食べ始めた。
「そういえば聞いたかぁ? この前行ったあのアグネスのババアの店、バイトが一人もいなくなってしばらく休業するらしいぞ!」
フォックスがずいぶん嬉しそうに話し始めた。
「どうやら、あいつはドランクストリートの皆に嫌われていたらしい。周りの店のみんなは大喜びなんだってさ。確かにどうしようもないババアだったからな、この際このまま店を畳んでほしいぜ」
フォックスがハッハッハと笑いながら言った。
「お前は本当に人の悪口が好きだな。ろくな死に方しないぞ」
ピッカーが言った。
「それでも俺は悪口をやめないね。悪口がない人生なんて何が楽しいんだ?」
そうやってピッカーやフォックスたちが話している間もトラップは黙々と食べ続けた。
よく見るとトラップの周りには数匹のハエがたかっており、彼自体からも何か嫌な臭いが漂ってきていた。
「おいトラップ! お前また風呂に入ってないだろ! 前に入ったのはいつだ!」
ピッカーが言う。
「み、3日前だ」
「嘘つけ! 3日でそんな事になるか! 俺は2週間と見た。100ウォール掛けてもいい。お前は?」
ピッカーはフォックスに聞いた。
「3週間に300ウォール!」
「よし、乗った!」
「入ってないのは3週間だ……」
「よっしゃ!」
フォックスがそう言ってピッカーに手を突き出すとピッカーはしぶしぶ100ウォールコインを3枚彼の手に乗せた。
「そういえばお前ってなんで追われてたんだ?」
「へ……?」
突然クリスに質問が飛んできた。
彼女は自分が話しかけられるとは思っておらず、咄嗟に答えられなかった。
「おい、やめろ」
それまでずっと黙って食事を取っていたロンドが急に口を開いた。
「そいつにあまり話しかけるな」
彼はクリスの方を見ないようにして言った。
「なんでですか?」
「情が移るだろうが」
「なるほど……」
「私としては情が移ってもらった方が得だけど。ふんっ。そんな態度ならぜ~ったいに教えてやらないから」
クリスはそっぽを向くと、そのまま食事を食べ始めた。
「お、お~いちょっと気になるなあ……」
トラップが言った。
「というか……」
クリスは後ろを向いたまま言った。
「私っていつまでここに居なきゃいけないの?」
「お前の引き渡しの日が来るまでだ」
ロンドが答えた。
「それって結局いつまで?」
クリスは振り返って言った。
「さあな。それは向こう次第ってわけだ。まあ、気にするな。ちゃんと食事は出すし、部屋も用意してるだろ? じゃあ俺は食べ終わったから部屋に戻る。片付けは当番のやつ、よろしく頼むぞ」
ロンドはそう言って階段を登っていった。
「わかりました! ロンドさんっ」
「ちょ、ちょっと待って!」
クリスが立ち上がって追いかけようとしたが、ピッカーに止められた。
「ダメだダメだ。食事はちゃんと食べ終わるまで席を立つなっていうのがここの掟だ」
クリスは渋々座ってまた残っている料理を食べ始めた。
クリスは食事を全て食べ終わると、膨れたおなかを支えながらロンドの部屋へと向かった。
「た……食べすぎた」
ロンドの部屋は2階の一番奥にあった。
クリスはノックもせずに扉を開いた。
「ちょっと、1つ聞かせてほしいんだけど」
「なんだ」
ロンドはベッドに寝転がって雑誌を読みながら答えた。
「あんたたちはなんで私をさらったの?」
「もちろんお前の母親と取引をしたからだ。知ってるだろ?」
「それは、お金?」
「いいや、金なんかよりももっと価値のあるものだ」
「それって何?」
「夢だ。やつは俺たちの夢を叶えるための品を提供してくれる」
「なるほどね。だったら私がそれよりいいものを提供すれば引き渡すのをやめてくれるんでしょ?」
「まあ、考えてやってもいい」
「だったらさ~。ほら、あんた私とチューしたいでしょ?」
「はぁ~? 何言ってんだ?」
予想だにしない発言に思わずロンドは雑誌を読むのをやめてクリスを見た。
「ねぇ、正直に言ったらどうなの? チューだよ。チュ~~」
クリスは唇をとがらせて見せた。
「けっ。俺はお前みたいなガキ女にはまったく興味ないね」
ロンドは首を横に振りながら再び雑誌を読み始めた。
「だったらあんたはどういう人がタイプなの?」
「俺が愛するのはただ1つ、青くて広い、海だけだ!!」
ロンドはずっと読んでいた『月刊大海原』と書かれた雑誌を見せてきた。
「あっそ!! 分かった! じゃあ、あんたたちの仕事を見せてよ。私が手伝ってあげるから」
「生憎だが俺たちの仕事に女はいらねェ。これは男の仕事だ!」
「はぁ~~?? 女がどうとか本気で言ってるの? あんたね、言っておくけど人をその人の能力以外の事で判断するのはやめた方が良いよ。次生まれ変わった時に後悔したくなければね」
「だったら俺にどうしろって言うんだ?」
「私にチャンスをちょうだい。もし使えなければ私のことはどうとでもしていいから。でも私が少しでも役に立つって分かったら、引き渡すのはやめて」
「はぁ~~」
とロンドは大きくため息をついたものの、持っていた雑誌を置いて立ち上がった。
「引き渡しをするかどうかを決めるのはあくまで俺だ。だが……まあチャンスくらいならやってもいいだろう……。ついてこい」
「ほんと!? やった……!」
ロンドは部屋から出て1階に降りた。クリスはその後をついて行く。
そしてロンドは部屋の奥にあった大型の業務用のエレベーターに乗り込んだ。
「こっちだ」
クリスも慌てて乗り込むと、エレベーターのドアが勢いよく閉まった。
エレベーターは大きくガタンと揺れると下へ向かって降りていった。
カタカタと音を鳴らしながらエレベーターはゆっくり降りて行く。
エレベーターの中には特に階数の表示は無く、しばらく降りると勝手に止まった。
そして、ドアが開いた先には驚くべきものが待っていた。
そこにあったのは巨大な船だ。
大航海時代の船を彷彿させる風貌でありながら金属で作られた巨大な船で、高くそびえ立つ3本の柱には大きな帆を張っていた。
「す……すごい」
「どうだ! これが俺たちの夢だ!」
「これあんたたちが作ったの……?」
「もちろんだ。時間は掛かったがな」
「ふ~ん。すごいじゃん」
「俺たちの夢はこの船を空高く飛ばせて壁の向こう側へ行く事って訳だ」
「なるほどね~」
クリスはうんうんと頷いた。
すると突然バチンと火花が弾ける音がした。
「ろ、ロンドさんすみません。またショートしちゃいました……」
トラップがやってきてロンドに言った。
「問題ない。もう一回試してみろ」
「はいっ!」
「ちょっと待って」
クリスが止めた。
「ここは私にやらせてよ。私の腕の見せ所なんだから」
「なんだ~? ガキに出来る仕事じゃねえぞ」
ピッカーが言った。
「ふんっ。舐めないでくれる? これでも私、機械には強いんだから」
クリスはトラップから道具を全部奪うと、フンフン鼻を鳴らしながら船の中へと乗り込んでいった。
船の中からはカンカンカンと物凄いスピードで機械をいじる音が聞こえてきて、部品がいくつか外に飛んできた。
「お、おい! あんまり雑にいじるなよ!」
そんな文句を言うピッカーにもお構いなしでクリスは船の修理を続けた。
「ほら、もう一回! 動かしてみて?」
クリスが船の中から顔を出して言った。
「もうできたのか!? そんなわけ……」
「じゃあ、もう一回行くぞ~」
フォックスがそう言ってコンピューターを操作して船を起動させた。
すると船は唸って振動を始めた。
今までにない轟音でロンドやピッカーたちは驚いた。
船の振動は段々細かくなっていき、ついにその巨体が空中に浮かび上がった。
「と、飛んだ!! 飛んだぞ!!」
だが、数十センチほど浮かんだ所で再びバチンという音と共に火花が弾け、船はそのまま落下した。
「す……すげぇ~!!!!」
「うーん。ちょっとまだ手を加える必要があるかも」
出てきたクリスはそう言ったが、ピッカー、トラップ、フォックスの3人は興奮気味でクリスの功績をたたえた。
「お前! すごいよ!!」
「あ~、ちょっとお前のこと見直したよ! いや、結構見直した!」
「すごい」
「ふんっ。この程度ですごいだなんて。あんた達一体今まで何やってたの?」
クリスはそう言ってそっぽを向いたがみんなに褒められてまんざらでもなさそうだ。
「俺たちの船が少しの時間でも空中に浮いたのはこれが初めてだ」
ロンドが言った。
「そ、そうなんだ! じゃあやっぱり私のことが必要になったでしょ?」
クリスは目を輝かせて言った。
「それとこれとは話が別だ。俺は部屋に戻る。まあ、精々頑張りな」
ロンドは彼らに背中を向けて部屋に戻ろうとした。
「な~にそれ! お礼の一言も言えないの? 大人なのに!」
「そ、そうですよロンドさん、一応こいつのお陰で進歩したわけですし」
ピッカーがそう言うと、ロンドは振り返って言った。
「ピッカー、部屋の中では帽子は脱げ! トラップ、お前はズボンを履け!」
そう言って彼はそのまま部屋に戻ってしまった。
「あ~あ、行っちまった」
「いい帽子なのになあ」
ピッカーは名残惜しそうにキャップを脱いだ。
「俺たちも休憩するか?」
トラップがズボンを履きながら言った。
「おし、休憩だ。トランプやろうぜ! トランプ」
「私も入っていい……?」
クリスが聞いた。
「うーん。まあ、いいだろう! お前も入れ!」
そう言われてクリスは喜びの笑みを浮かべた。
「大体よ~、お前がなんで狙われてたのかそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
ピッカーがトランプをしながら聞いた。
「おいそれはズルいだろ~!」
フォックスがピッカーの出したカードに怒った。
「私のお母さんが悪魔にとりつかれているから」
「悪魔? うっそだ~」
「本当だよ」
クリスは真剣な表情で言った。
「私がまだ小さかった頃に悪魔がお母さんの体に入ったの。お母さんは今もそいつに乗っ取られてる。でも最近はその体に長い間入っていた影響で、かなり弱ってきてるの。だからそいつは私の体を欲してる。私に乗り移ろうとしてるってこと。だから逃げてたの」
「ほう、じゃあ俺たちは悪魔に雇われてお前を捕まえたってわけか」
「うーん。どうも信じられないが、悪魔ってどんなやつなんだ?」
「あいつの目的が何かは分からないけど、凄く恐ろしい女。今まで何人も人を殺すのを私は見てきた。あいつとはまともに戦っても絶対に勝てないよ。まあ私が捕まるのも時間の問題ってわけだね」
クリスは持っていた最後の手札を捨てて1番に上がった。
「あ、もう上がりやがった!」
「それで、捕まったらどうなるんだ?」
「お母さんと同じように私の意思は消えて無くなって、そいつに支配されるでしょうね」
ピッカーがクリスの事を同情の目で見た。
「私は死ぬのは怖くない。でも、あいつに操られる事だけは許せない。もし、捕まってしまったら死ぬ覚悟だって出来てるから」
「嘘だな」
フォックスがトランプのカードを出しながら言った。
「お前は死ぬのが怖い。だから逃げてるんだよ。死ぬのが怖くない奴なんていないね。それが人間なんだよ」
「ふんっ。もう私への質問は終わり! 今度は私があんた達に質問するから!」
「じゃあ、何を聞きたい?」
「大体あんた達は何であんなクソデカ海賊男を慕ってるわけ? あいつってそんなに魅力的?」
「もちろんだ! ロンドさんは俺達の恩人だぞ!」
「そうだそうだ!!」
3人は声を揃えて言った。
「俺は昔、エンジニアとして働いていたけど、毎日みんなにいじめられてた。死のうと思ったこともあったが、そんな俺をロンドさんが拾ってくれた。だからロンドさんは命の恩人」
トラップがずっとつけていたゴーグルを外してニッコリと笑った。歯が何本か無かった。
「俺なんか、泥棒やってたんだぞ。俺が盗みに入った家がたまたまロンドさんの家で、俺の技術を見込んで雇ってくれた。本当だったら今頃塀の中さ」
ピッカーが言った。
「俺だって俺だって! 俺は元々腰抜けで……人間が怖くなって森の中でメープルと2人で住んでたんだよ! そこにロンドさんが毎日のように訪ねて来てくださるようになって、そこからこうやって少しずつ心を開いて明るく話せるようになったってわけなんだよ!」
フォックスは泣きそうになりながら言った。
「お前は今でも腰抜けだろうが」
ピッカーは笑いながら言った。
「う、うるせえ!」
「ふーん。あんた達も苦労してたんだ」
クリスは言った。
「まあ、お前ほどじゃないけどな」
「でも、ロンドさんはあんまり人を傷つけるようなことは好きじゃないはずだ。お前の言ってることが本当だとしたらなんで……?」
「分からない。でも、もしかしたら脅されてるのかも。例えば、私を見つけて引き渡さなければ仲間たちを襲う、とか?」
「なるほど、それだったら十分あり得る。ロンドさんは仲間想いの人だ。仲間を守るためならなんでもやるっていうお方だからな」
「なんて熱い男なんだ~」
フォックスが泣き出した。
「だったら、お前のこともロンド海賊団の仲間だって認めてもらえればいいんじゃないか? そうすればロンドさんはお前の為にも戦ってくれる」
ピッカーが言った。
「なるほど! ピッカー、頭いい」
トラップは納得した。
「だったら、仲間だって認めてもらえるように、今から船の整備がんばろうぜ」
「よし! やってやるぞ!」
「ちょ、ちょっとまってよ! なんであんた達がやる気になってんのよ!」
「まあ、ロンドさんが言ってたように、お前に情が移っちまったのかもな!」
ピッカーたちはよし行くぞと言って早速船の整備に取り掛かった。
「バッカじゃないの……」
クリスはそう呟いたが、その口元は嬉しそうに笑っていた。
クリスも含めた4人は長い間船の整備を頑張った。
クリスによる的確な指示もあり、作業は順調に進んでいき、テストの度に船が浮かぶ時間が伸びていった。
「あんたたち~! 怠けるな~!」
「ちょ、ちょっと休憩させろよ~……」
長時間の作業が続き、ピッカー、トラップ、フォックスの3人はヘトヘトになって倒れこんでいた。
「あんた達はこの船で壁の向こう側を見に行くのが夢なんでしょ?」
「そうだ! 当ったり前だ! この船をいつか本当の海で走らせるのが夢なんだよ!」
「だったらもっとがんばりなさーい! もうちょっとだから!」
「は、は~い……。スパルタだ」
ピッカーたちは渋々立ち上がって再び作業に取り掛かった。
だが時間が経つに連れ夜は更けていき、眠気に耐えられなくなったピッカーたちはいつの間にか眠っていた。
そんな中でもクリスだけは依然として黙々と作業を続けていた。
すると、エレベーターが降りてくる音が聞こえた。やって来たのはロンドだ。
「おい、お前まだやってたのか……? もう日が昇ってるぞ」
ロンドは1人で整備を頑張っているクリスに驚いた様子だった。
「あともう少しだから……」
クリスはそう言って整備を続けた。
「お前、どうしてそこまで頑張るんだ? 頑張ったってお前の引き渡しが無くなることなんかないって薄々気づいてただろ?」
「分かってるよそれくらい。でも、なんでだろ……。あんた達の話を聞いてたら私もちょっと海が見たくなったのかも」
「ほ~。お前にもようやく海の良さが分かってきたか」
「よし、できた! ロンド! スイッチを入れて船のエンジンを起動させてみて」
「最終テストといった所か。おもしろい」
ロンドはコンピューターを操作して、船のエンジンを起動させた。
船は再び振動と共にゆっくりと浮かび上がった。
ピッカーたちはその振動と騒音でようやく目を覚ました。
クリスはストップウォッチを持って船が浮かんでいる時間を計り始めた。
「これまでの最長記録は1分。この船のエンジンの周期が1分半だということを考えると、浮いてる時間が1分半を超えれば成功だよ」
ストップウォッチの時間はゆっくり進んでいく。
30秒、40秒、50秒……。
そして、最高記録の1分を超えた。
「み、みんな! あと10秒だ!」
目を覚ましたピッカーが言った。
「5! 4! 3! 2! 1! 0……!」
ピッカー達の0のカウントが終わったが、船は依然として浮かんだままだ。
「や、やった!」
トラップが万歳のポーズを取った。
「やった~~!!」
フォックスがピッカーとハイタッチをする。
「やった! やった!」
ピッカーは喜びのあまり小躍りをしていた。
「ほら、お前も!」
クリスもフォックスにハイタッチを求められ、渋々返してやった。
ロンドがエンジンを切ると、船はゆっくりと下がっていき、地面に着いた。
ロンドはゆっくり船の方へとやってきて、クリスを見た。
「今回に関しては素直に褒めてやってもいいだろう……。お前はすごい奴だ。ありがとう」
ロンドはクリスに向かって手を差し出した。
クリスはその手を取ってロンドと握手をした。
「ろ、ロンドさん! こいつはすごく役に立ちます! もう、こいつも海賊団に入れてやってもいいんじゃないですか……?」
ピッカーが恐る恐るロンドに聞いた。
ロンドはしばらく黙ってしまい、沈黙のまま時が流れた。
「お、俺は結構反対したんですけどね……」
フォックスが沈黙に耐えられず口を開く。
「オイ!」
フォックスはピッカーに小突かれた。
「……わかった。考えてみてもいい。だが、海賊団の掟通り俺達4人で多数決を取る。賛成多数ならお前は晴れてロンド海賊団の一員だ。だがそうでなければ、お前を母親に引き渡す。それでいいな?」
「わ、わかった!」
クリスは緊張の面持ちで答えた。
「じゃあ、聞こう。お前たちの中でこの女、クリス・ブラックウォールをロンド海賊団に入団させることに賛成する者、挙手!」
ピッカーはビシッを手を上げ、フォックスもそれに続いてゆっくり低めに手を上げた。
トラップは寝起きでぼーっとしていたが、ピッカーが小突くと彼も手を上げた。
「賛成3人だな……。分かった。じゃあ掟通り、クリス・ブラックウォール! お前をロンド海賊団5人目のメンバーとして迎え入れることを正式に決定する!」
「やったぁ!!」
クリスは今までにないほど大きな声を上げて喜んだ。
「よかったな」
ピッカーがクリスに言った。
「だが、お前たち! こいつを入れたからには覚悟しろよ。今度の敵はお前たちが思っている以上に強い」
「ど、どうしよう……俺降りようかな……」
フォックスが小声で言った。
「だ、大丈夫です! 俺が頑張りますから!」
「わたしもわたしも! がんばる!」
「ふん、いいだろう。あと、クリス! お前も海賊団に入るからには掟と団歌を覚えてもらう」
そう言ってロンドは辞書のように分厚い本をクリスに2冊渡した。
「お、重いっ」
「よ~し、お前たちクリスの海賊団加入を祝って団歌斉唱だ!」
「はいっ!」
そう言ってピッカーが指揮をしながら4人は歌いだした。
春は桜が花開き 夏はアジサイがスッポポポン 秋は紅葉もきれいだが 冬になれば葉も落ちる
でも俺達に季節は関係な~い!
春夏秋冬朝昼晩まで 海を目指して船を漕ぐ
進め! 進め! いざ、壁を超えろ
俺たちゃ、無敵の海賊団 泣いてる赤子も笑わせる 俺たちゃ、ロンド海賊団




