第124話 おしまい
「でもっ………」
ミルは何かを言いかけたが、リンカが指で彼女の口を塞いだ。
「みんな、見てて」
リンカは皆に手のひらを広げて見せた。
彼女の手の上には小さな光の玉が浮かんでいた。
「な、なんだそれ……?」
そしてその玉は一気に大きくなって船の周りを包み込んだ。
彼らはその光に包まれた瞬間、リンカの意識と繋がった。
その一瞬で彼らはリンカのこれまでの人生を見た。
そしてこれからの事も見えた。
リンカが計算して導き出した答え。
アンナとの戦いで起こりうるあらゆる可能性をリンカは計算していた。
そして光は消えた。
「これで、分かったでしょ。アンナに勝つには多分1つしか方法はない」
リンカがそう言った。
皆は突然の出来事に唖然としていたが、ミルだけはじっとリンカを見つめていた。
そして彼女はゆっくりとリンカの手を取った。
彼女は何かを言おうとしたが、涙があふれてきて言葉に詰まってしまう。
それでも彼女は呼吸を整えて、リンカに言った。
「私は、納得できないよ。頭では理解してるつもりだけど、やっぱりリンカちゃんを失いたくない」
そう言ってミルは涙を拭う。
「でもね、リンカちゃんの決めたことは否定したくないんだ。リンカちゃんの選択ならきっと正しい。リンカちゃんは最強だもん。私はそう信じてる。だから……」
ミルはそこですうっと息を吸った。
「がんばってね!! リンカちゃん!!」
ミルはそう言ってリンカに微笑みかけた。
「うんっ!! 私、がんばるっ!!!!」
リンカは溢れてくる涙をこぼさないように頷いた。
そしてリンカは船の縁に立って皆を見た。
「ミル、ハヤト、ニーナさん、アランさん、そして、みんなも……」
リンカは言った。
「お世話に、なりましたっ」
彼女は皆に向かって頭を下げた。
「リンカさん!!!!」
ハヤトはリンカを呼び止めた。
「リンカさん……僕……僕……リンカさんの事、今でも……」
ハヤトは涙を流し、息を荒げながら何かを言おうとした。
彼はそこから先の言葉を言い淀んでいる様子だった。
だがそれよりも先にリンカが答えた。
「それ以上言わなくても、もう知ってるよ」
リンカはハヤトに笑いかけるとそのまま空に向かって飛び立った。
「リンカちゃん!!!! がんばれ!!!!」
ミルが空に向かって叫んだ。
「がんばれ!」
「がんばれ!」
船から皆がリンカを応援する声が聞こえて来る。
「アンナさん……! みんなの為に……。人類の為に……。あなたをぶっ飛ばします!!!!」
リンカはそう言うと、全身からエネルギーを放って白い光に包まれた。
その光は大きく広がっていき、巨大な白鳥を形作った。
「今にこんな拘束解いてやる!!!!」
チェーンで拘束されているアンナは叫んだ。
「うああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
リンカは叫びながら猛スピードでアンナに向かって飛んでいく。
彼女の放つエネルギーはさらに大きく広がった。
その様子はまるで白鳥が翼を広げ、餌を目掛けて飛んでいく様子に見えた。
アンナは何とかチェーンを引き千切ろうともがくが、どうやっても壊すことはできない。
その間もリンカは真っ直ぐアンナを目掛けて飛んできていた。
「クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」
アンナは叫んだがリンカの勢いは止まらない。
「さよなら、みんな」
リンカはそう呟いて、そのままその巨大な顔の中に突っ込んで行った。
そして次の瞬間、激しい爆発が起きた。
その爆風によってロンドたちの船は吹き飛ばされてしまう。
「みんな!!!! 捕まれ!!!!」
吹き飛ばされる船の上で彼らは必死に捕まって衝撃に耐えた。
そして……。
しばらくすると光は消えた。
そこにはもうリンカもアンナも居なかった。
巨大な顔は消えたが、地面を覆い尽くした黒いエネルギーの塊は依然として残されていた。
「お……終わったのか……?」
ロンドが言った。
ミルは腰を落として涙を流した。
ニーナはミルの元へと近づいて、彼女を慰めるように肩に手を置いた。
ハヤトは思わず甲板から船内に戻ってしまった。
彼は暗がりの中、隠れて1人で大泣きしていた。
そんな彼を追ってやって来たアランは言った。
「大丈夫だ。もうここにいるみんなが君の家族だ。君は一人じゃない」
ハヤトはそんなアランを見て、泣きながら頷いた。
ロンド海賊団の面々はただぼうっと地上を見下ろしていた。
彼らは複雑な感情を整理しきれていなかった。
「ロンド、これでよかったのかな?」
クリスが言った。
「良い訳がない。だが、時に悪い選択肢しか残されていないってことはあるもんだ……」
ロンドは船の縁に座って言った。
「でも、あんまりっすよ……」
フォックスは肩に乗せた狐のメープルを撫でながら呟いた。
「ルアル……」
アルルはそう呟くと、突然船の縁まで近づいて、持っていたクナイや手裏剣を全て外に投げ捨てた。
「お姉ちゃん!? どうしたの!?」
「私はもう忍者を辞める。こんな人の居ない世界で忍ぶ必要なんかないでしょ?」
「だったら僕も辞めるよ!!」
ルアルもそう言って武器を全て捨ててしまった。
「ルアル、私達は忍者を捨ててもずっと一緒よね?」
アルルは呟いた。
「もちろんだよ! お姉ちゃん、どうしたの?」
「ごめん。なんでもない」
アルルは下を向いて答えた。
そして甲板の上にはもう一人居た。
小さな籠の中に入れられた赤ん坊。
彼は甲板の上で一際大きな鳴き声を響かせている。
その声は地上まで届いていた。
その頃、リンカは暗黒エネルギーの海の中に居た。
遠くでかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえる。
彼女は身動きを取ることもできず、ただ無力に底へと向かって沈んでいった。
力を使い果たしたリンカの意識は地面に近づくと共に次第に薄れていく。
隣を見れば自分と同じように沈みながらどんどん体が透けていくアンナが居た。
リンカも自分の手を見ると、薄く消えかけていた。
彼女は消えていく途中で、木崎リンカとしての始まりを思い出していた。
最後に全ての始まりを彼女は噛み締めた。
◇
リンカがアンナ達と共に意識体として異次元をさまよっていた頃。
アンナは恋人や家族を失った怒りや悲しみ、そして永久に続く異次元世界の時間によって次第に狂っていった。
彼女は異次元から抜け出して現実世界に戻ろうと試行錯誤を繰り返す中で、ついに現実の人間の命を奪い始めていた。
「アンナさん! 人を殺すのはやめてください!!」
リンカはアンナを追いかけては彼女を止めようと試みたが無駄だった。
「あたしは自分を犠牲にして全てを奪われた。なのになんであいつらはあんなに幸せそうにしているんだ!!」
アンナはいつもそう叫んでいた。
だがアンナの現実世界に戻ろうとする試みはことごとく失敗した。
彼女は何度も現実世界の人間に寄生しようと試みたが、彼女の持つエネルギーが強力すぎて肉体がすぐに崩壊してしまった。
そこで彼女は自分の新たな肉体としてサイファーを作り上げた。
だが、それは失敗だった。
サイファーは自らの意思を持ってしまいアンナの力を乗っ取ろうとしたのだ。
何とかサイファーから逃れたアンナだったが、計画が失敗したことで苛立っていた。
そんな所にリンカが現れた。
「アンナさん。現実世界に干渉するのはもうやめましょう。私達はもう死んだんです」
リンカは言う。
「リンカ……。お前の力をあたしに貸せ」
アンナは言った。
「お前の力があればサイファーも操ることができるかもしれない」
アンナはそう言ってリンカに襲い掛かった。
「嫌です!! 目を覚ましてください! アンナさん!!」
リンカは言ったが、アンナはリンカを掴んだまま離さない。
「嫌でも無理やり貰う」
アンナはそう言ってリンカの胸に手を当てた。
そして彼女はそのままリンカの力を吸い取ろうとした。
リンカは拘束されて身動きが取れない。
「だったら……。私は力を捨てます」
リンカはそう言って自分の力を3つのオーブに分けて現実世界に捨てた。
「き……貴様!!!!」
アンナはそのまま至近距離で強いエネルギーを放ち、リンカを攻撃した。
「うああああああああああああっ!!!!」
すると、リンカは吹き飛んでどこかへと消えてしまった。
次に気が付いた時、リンカは記憶を失っていた。
彼女はその後、何十年も異次元世界を彷徨う生活を続けた。
そんなある日の事だった。
いつものように街行く人々をぼうっと眺めていたリンカ。
人々はリンカの存在にすら気付かず、彼女の体を通り抜けて歩いていく。
そんなリンカだったが、彼女ははふと山の上が気になった。
あそこには人は住んでいるのだろうか。
その答えを確かめるべく、彼女は山の上まで行ってみることにした。
住宅街を抜け、建物がほとんどない山奥にたった1軒だけ小さな小屋があった。
リンカはその小屋へと近づいて中へと入ってみた。
その小屋には老夫婦が2人で暮らしていた。
「薬と食べ物を買ってくるからな。安静にしてろよ」
老人の男は布団に入って寝込んでいる女にそう言って、そのまま小屋を後にした。
リンカはその女に近づいた。
「このおばあさん、病気……なのかな?」
女は苦しそうな表情で横になったまま目を瞑っていた。
そんな彼女を見てリンカは思わず呟いたのだ。
苦しそうな彼女を救ってあげたいが、リンカには何をすることもできない。
でも、黙って見ているのも辛い。
そんな事を思ったリンカは何となく、彼女に向かって手を伸ばしてみた。
そしてリンカは布団の上にそっと手を置いた。
すると、なんとその女はリンカの手の上に自分の手を重ねた。
リンカは驚いて手を引っ込めたが、女は明らかにリンカの方を見ていた。
「あなたはどこから来たんだい?」
女は言った。
「わ、私のことが見えるの!? おばあちゃん」
リンカは驚いた表情で言った。
異次元世界でずっと生きてきたリンカだったが、自分のことが見える人間に出会ったのは初めてだった。
「ああ見えるさ。かなりぼやけてるが、確かにそこに居るだろう?」
リンカは頷いて答えた。
「私は見ての通り、もう先が長くなくてね……。爺さんには迷惑をかけてる」
「そんな……」
「あんた、妖精かい? だったら最後に私の願いを1つ叶えてはくれないか?」
「わ、私はたぶん妖精ではないです……。ごめんなさい」
「そうかい……残念だなあ……」
「叶えたい願いって何なんですか?」
「私らにはねえ、子供が居ないんだよ。妊娠できない体でね。だから、一度でいいから子供が欲しかった。まあ、老人のたわごとさ。気にしないで忘れておくれ」
そう言った彼女の表情はとても悲しそうに見えた。
リンカはもう一度彼女に手を伸ばした。
この人の願いを叶えてあげたい。
それだけを強く思って、リンカは彼女の手に自分の手を重ねた。
「願い……叶うといいですね……」
リンカはそう呟いた。
するとその手が突然光を放ち始めた。
「やっぱり、妖精さんだったんだな」
「な、なにこれ!?」
彼女の放つ光はどんどん強くなり、リンカを包み込んでいく。
やがて辺りは真っ白になり、何も見えなくなってしまった。
そして、木崎リンカは誕生した。
◇
そんな事を思い出していたリンカはついに沈み切って地面の底に着いた。
背中に地面のごつごつした感触と嫌な冷たさを感じた。
隣にいたはずのアンナは既に消えていた。
あれだけ暴れていたゼロももう動かない。
「よかった……。これでみんな無事に生きられる……」
リンカは安心して目を閉じた。
「ありがとう」
彼女は一言、そう呟いた。
上空では皆甲板に集まって、何をするわけでなくただぼうっと黒い海を眺めていた。
「ロンドさん、俺達これからどうなるんでしょう」
フォックスが聞いた。
「ただひたすら進むしかない……。この世界のどこかにあるもう1つの国を見つけるために」
「でも、もしどこにも無かったら?」
「俺たちはなんでこの船を作ったのか忘れたか? 一筋の希望を胸に、ただひたすら突き進むのが海賊ってもんだ。さあ、いつまでも感傷に浸ってないで、エンジンの出力を上げろ!! さっそく出発するぞ!!!!」
ロンドは叫んだ。
そして、彼らは宛てもなく果てしない旅へと出ていくこととなった。
2300年9月。
人類は、ニーナ・イェール、ミル・クリスタル、丸地ハヤト、アラン・ブラックウォール、クリス・ブラックウォール、ベン・ロンド、ピッカー、トラップ、フォックス、アルル、ルアルの11名を残して滅びた。
そして同日、木崎リンカは死んだ。
これでバニラパンチおしまいでーす!!
思ったよりずっと長くなっちゃいましたがなんとか終わりまでいけました!
ここまで読んでくれた方は本当にありがとうございます!!
しばらくは文章を修正していったりすると思います!!パチパチパチパチ




