第123話 滅び行く世界
「そんな弱いエネルギーじゃダメ。それに、多分シールドの不調の原因もこのエネルギー供給不足が原因だと思う……」
「じゃあそれさえ解決できれば良いってわけだな……」
「強いエネルギーか……」
トラップはしばらく考えた。
その時、船の外から何かが爆発するような轟音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
彼らは船から顔を出して外を見ると、ゼロの巨大な顔がビルに突っ込んでビルを破壊しているのが見えた。
「あれって……。もしかして、使える……?」
クリスは呟いた。
「おい、まさか……!!」
「そうだよ。あそこに強力なエネルギー源があるじゃない」
クリスはそう言うとタービンを持ってそのまま船内の奥へと進んでいった。
「おい待て!! 無謀すぎるだろ!! そんなこと、やらないよね?」
「いいや。やるよ」
クリスはそう答えて、船の一番奥の部屋にあった大砲の横にタービンを置いた。
「私達がロンドに吹っ飛ばされた大砲。これを使ってこのタービンをあの巨大な顔のところまで飛ばせないかな?」
クリスは言った。
「なるほど……!! それはいけるかもしれない!」
ピッカーは言う。
「アホ!! いけるもんか!! そんなの!!」
文句を言うフォックスだったが、トラップはそんな彼の肩の上に手を置いて彼をなだめる。
「大丈夫。死ぬ時はみんな一緒」
トラップは言った。
そしてクリスは壁にあったレバーを引いた。
すると、大砲を乗せた床がエレベーターのように上へと上がっていき、そのまま甲板へ出た。
クリスの引いたレバーによって他に3つの大砲が同時に甲板へ上がってきた結果、甲板には4つの大砲が見事に並んだ。
「みんな、エンジンルームからタービンを持ってきて。ケーブルはエンジンと繋げたままで!」
クリスはそう言うと、彼らはさっそく大砲の準備を始めた。
一方のロンドたちは、際限なく増え続けるゼロの猛攻に堪えかね、ついに船内へと逃げ込んできてしまっていた。
「何やってるんだ、クリス」
甲板に出てきたロンドがクリスに聞いた。
「エネルギーが足りないから、タービンをあの巨大な顔にぶつけるの。そうすればエンジンがかかるはず」
彼女はそう言いながら作業を続けた。
甲板にやって来たロンドたちは、時折船の壁を伝って登ってくるゼロを処理しつつ、クリス達の作業を見守った。
「急いでくれ。今にこの甲板も覆い尽くされてしまうぞ」
ロンドは言った。
「みんなどう?」
クリスが聞くと、ピッカーたちは重そうなタービンを大砲に積み込む所だった。
「どうもこうもあるか! 死なないように祈るだけだ!!」
フォックスは言った。
そして彼らは無事タービンをセットし、大砲の準備を終えた。
クリスは上空を動き回る巨大な顔を見て発射するタイミングを見計らう。
そんなクリスの元にニーナが近寄って来た。
「手を貸す」
そう呟いた彼女は何やらインカムで連絡を始めた。
「どういうこと?」
「リンカに誘導係を頼んだ」
「ありがとう」
クリスが礼を言うと、ニーナはそのままゼロの駆除に戻った。
ニーナの言った通り、上空を飛び回るリンカは船の近くに巨大な顔を誘導するような動きに変わり、大砲の狙いが付けやすくなった。
「みんな! すぐ打てるように準備しておいて!」
クリスがそう言って皆は頷く。
今まで前後左右に飛び回っていたリンカだったが、彼女は真っ直ぐ船へと向かって飛んできた。
「まだ……もう少し……。もう少し……」
どんどん近づいてくるリンカとそれを追いかける巨大な顔を前にクリスは緊張の汗を流す。
一方で船を襲ってきていたゼロの大群は船の周りをほとんど覆い尽くすほどに増え、どんどん甲板の上に飛び込んできていた。
「クリス!! 早くしてくれ!! 先に俺たちが死んじゃうよ!!」
フォックスが叫んだが、クリスは答えない。
「あと3秒……」
「今だ!!!! 撃てえええええ!!!!」
クリスのその叫びと共に4人は一斉に大砲を発射した。
だが発射の瞬間、フォックスがゼロに襲われてしまった事で、方向が大きく傾いた。
フォックス以外が撃った3発は見事顔に命中。
タービンは高速で回転し、青白い光を放つエネルギーがケーブルを伝って船内に流れ込んでくるのが見えた。
だがフォックスの放った一発は途中で地面に落ちてしまっていた。
「だ、だめ!! これじゃエネルギーが足りない!!!!」
クリスは叫んだ。
さらにそれと同時に後ろからゼロが掴みかかってきてクリスは拘束されてしまう。
同じようにピッカーとトラップもゼロに拘束されてしまった。
「も、もうだめだ……俺達……ここで食べられて死ぬんだあああああ!!」
そんな弱音を吐くフォックスにロンドは言う。
「大丈夫だ。まだ大砲は一発ある」
ロンドはそう言うと、甲板の床を踏みつけた。
すると、床がスライドして中から小さなスイッチが出てきた。
ロンドはすぐにそのボタンを押す。
「ど、どういうことですか?」
すると、床の下からゆっくりと第5の大砲が現れた。
「万が一の時の為にもう一発隠しておいたんだ」
ロンドは言った。
「でも、もうタービンはないよ!!」
クリスが言ったが、ロンドはそのまま自ら大砲の中に入ってしまった。
「な、何するつもり!?」
「タービンがなければ、俺が飛ぶ!!」
ロンドはそう言って大砲を起動させた。
「バカ!! 何言ってるの!! 死んじゃうよ!!!!」
「俺を舐めるなよ? 俺はロンド海賊団のキャプテンだ」
「で、でも!!」
「安心しろ。5分で戻る」
ロンドはそう言い残すと、そのまま大砲によって船外へと飛ばされた。
「ロンドさん!!!!」
ピッカーたちはゼロの拘束を振り払うと、船から乗り出してロンドの様子を見守った。
ロンドは大砲によって飛んで行き、そのまま地上に降りると傍に落ちていたタービンを拾った。
フォックスが打ち出したタービンだ。
その様子を見て巨大な顔はロンドに向かって飛んできた。
「アンナ!!!! お前にはさんざんな目に合わされてきたからな!!!! 今日ばかりは俺達に協力してもらうぞ!!!!」
ロンドはそう叫んで重いタービンを持ち上げた。
「受け取れえええええええええええっ!!!!」
ロンドはそう叫びながらタービンを思い切り投げた。
勢いよく飛んでいったタービンは巨大な顔に直撃し、エネルギーがケーブルを伝って船に流れ込んだ。
すると、船は突然轟音を鳴らし始めた。
そして同時にシールドが再び展開された。
強力なシールドによってゼロの大群は外へと弾き出され、先ほどよりも強い光が船を包み込んだ。
そして……。
ゆっくりと船は地面から離れ、上空へ浮かび上がっていった。
「や、やったぞ!!!! 飛んだ!!!!」
「でも、ロンドは!?」
クリスは地上を見回したが、ロンドの姿は見当たらない。
ロンドを探している間も船はどんどん上空へと浮かんでいってしまう。
「私、ロンドを探してくる!!!!」
クリスは言ったが、ある人物に腕を掴まれた。
「ロンド!!!!」
「ロンドさん!!!!」
腕を掴んだのはロンドだった。
ロンドはタービンから伸びるケーブルを伝って船までよじ登ってきていた。
「キャプテンを残して出航はさせるわけないだろ?」
ロンドは笑って言いながら船の上によじ登った。
「おい、みんな地上を見ろ!!」
アランが叫び、皆は地上を見た。
すると、黒い塊が国中を覆い尽くしてしまっているのが見えた。
元々船があった場所も既にゼロの大軍によって覆われていた。
「俺たちの国もこれで終わりか……」
ピッカーが呟いた。
「リンカちゃんは……?」
彼らは辺りを見回すが、あの巨大な顔もリンカの姿もゼロの大群に覆われてしまって見当たらない。
それでも皆はただ静かに地上の様子を見守った。
もはや彼らに出来るのはただ祈る事だけだった。
小さく波打つ黒い海。
だが、じっと見つめているとその波は次第に激しくなっていくのが分かった。
「リンカちゃん……っ!!」
ミルは言った。
すると、その黒い海から白い翼を生やしたリンカが巨大な顔と共に飛び出てきた。
彼女はその巨大な顔を操るアンナと戦い、決着をつけようとしていた。
「アンナ!! 彼らだけは殺させないから!!!!」
リンカは巨大な顔に向かって叫ぶ。
「あいつらを殺さなきゃ今まで死んで来た人間は全員無駄死にだ!! それでもいいのか!!」
「これ以上殺す必要はどこにもない!!」
リンカは言う。
「黙れ!!!! あたしは間違っていない!!!!」
そう言ってアンナとリンカはぶつかり合った。
強い衝撃が辺りに広がって船が揺れる。
「リンカちゃん!! もう逃げよう!! 船は動いてるから!!」
ミルがリンカに向かって叫んだ。
リンカはミルの方を振り返った。
「ミル……。ごめん、私は一緒に行けない。アンナを倒さないと!」
リンカはそう言って再びアンナの方を向くと、エネルギーを放ってその巨大な顔を突き飛ばした。
そして手から光のチェーンを無数に伸ばすと、巨大な顔をそのまま拘束した。
「どういうこと!? リンカちゃん!!!!」
「ミル、私は元々この世界の人間じゃない。ここに居るべきじゃないの。だから、もう今日で全部おしまい」
「貴様ァアアアアアアア!!!! 何をするつもりだ!!!!」
アンナが拘束を解こうと激しく暴れながら叫ぶ。
そんなアンナに向かってリンカは再びエネルギー波を放った。
「リンカちゃん! 分からないよ!! どうして……?」
ミルはリンカの名を呼び続ける。
それでもリンカはミルに背中を向けたままアンナに攻撃を続けた。
「リンカちゃん!! お願い…………。お願い…………」
リンカはミルの必死な呼びかけに負けたのか、アンナを突き飛ばすとミルの方を振り返った。
彼女は目に涙を浮かべてミルを見つめていた。
すると突然リンカはミルの元まで飛んで来て彼女に抱きついた。
「り……リンカちゃん……」
「ミル、あなたはずっと一人で私の傍にいて私の事を待っていてくれた……。あなたは私の一番大切な友達……」
リンカは泣きながら言った。
「これからも、そうだよ……?」
ミルは言った。
「でも、だからこそ私はミルを守りたい」
「そしたら、リンカちゃんが居なくなるんでしょ? だったら私は嫌だ……」
ミルは目に涙を浮かべて言った。
「ぼ、僕も嫌です!!」
ハヤトが言った。
「リンカ、君は恐らく僕たちが想像できないような運命をこれまで背負ってきたんだろう? 今の君を見ていればそれは何となく感じる。だが君を必要としている人間がここには沢山いるんだ。それだけは紛れもない事実だ。どうにかできないのか?」
アランが言った。
彼のその言葉を聞いて、リンカはミルから離れ、地上を見下ろした。
「見てください。もうこの国の人達はみんな亡くなってしまいました。それだけじゃない。元々この世界中に何十億と居た人々も滅びてしまった。それは私が元々生きていた時代の人間のせいなんです。私はこの時代の人間ではありません。とっくにいないはずの人間なんです。だから私が犠牲になってでも、アンナを止めなきゃいけない」
リンカは言った。
彼女は覚悟を決めた表情をしていた。




