第119話 ブラックウォール誕生の経緯
アンナ達しばらく車を走らせ、ようやく空港にたどり着いた。
車は空港のゲートを抜けてそのまま飛行場の中へと入っていった。
そして滑走路の傍にある大きな倉庫のような建物の前で車は止まった。
「ここか……」
3人は車を降りた。
目の前で飛び立つ飛行機の轟音が響き渡る。
夕暮れのオレンジ色の光が、広大な滑走路を美しく照らしていた。
すると、彼らの元に1人のブロンドヘアの女がコツコツとヒールの音を鳴らしながら近づいて来た。
白衣を着ていた為、研究関係者だろうと分かった。
「日野くんと、黒壁さんね。それと、妹さんかしら? 教授から話は聞いてたわ。私はここの責任者をやってる、ジェイミー・ホワイトよ。よろしく」
女はアンナに握手を求めるがアンナは断った。
「こんなことやってる場合じゃない。今すぐ教授の化け物を止めないと、大変なことになる」
「もう、日本人はせかっちなのね~。分かったわ。こっちへ来て」
ジェイミーはそう言って彼女たちを建物の中へと案内した。
「大体の状況は日野君から聞いた。私も教授の研究はよく知ってたからそんなことが起きる想定はしていたわ。だから反対していたのよ。でもまさか、意図的に起こすとはね……」
「それで、アレに対抗する方法はあるのか?」
「ある」
ジェイミーはハッキリと答えた。
「私のマシンは我ながら完璧よ。彼のマシンの重大な欠点を補っている」
「重大な欠点ってなんだ?」
「それは魂がないこと。機械に同情はないわ。だから平気で人を殺してしまう。私はそれを危惧していたの」
ジェイミーはそう言いながら、大きく重い扉をゆっくりと開けた。
その奥には大学で見たカーネル・ゼロと似た巨大な機械があった。
「す、すごい……ここにもあったんだ……」
リンカは見上げながら呟いた。
カーネル・ゼロとの違いは機械の周りに椅子が並べられている事。
「魂ってどういうことだ?」
「これのマシンは、カーネル・ソウル。私がそう名付けた。その名の通り、魂を持つ計算機なの」
ジェイミーはそう言って機械に近づいた。
「もちろんこれ単体ではただの機械。でもこの椅子に7人の人間が座り、カーネル・ソウルと接続することで、全員の意識が融合して1つの最強の計算機を作り上げることができる。そして私の計算によればだけど、このマシンはカーネル・ゼロの計算能力を超えるポテンシャルを持ってるわ」
「おいちょっと待て、人間をコンピューターにしてしまうってことなのか?」
「そうよ。そうすればゼロのように人を殺しまくったりしないでしょ?」
「そんなことが倫理的に許されるのか?」
「あなた頭が硬いのね。もっと頭を柔らかくして考えたらどう? 科学の進歩には犠牲はつきものよ」
「でも、このままだと日本どころか世界が終わるっすよ。早く座ったらどうっすか」
日野はすでに椅子の一つに腰かけていた。
「お前、馬鹿か! 機械の一部にされてしまうんだぞ!」
「いいっすよ。面白そうなんで」
日野は言った。
「アンナさん……私もやるよ! これ以上みんなが殺されてほしくないから」
リンカもそう言って座ってしまった。
「流石だわ! あなた達は将来有望ね」
ジェイミーは嬉しそうに言った。
「お前は明らかにこの状況を楽しんでるだろ? あたしはそれが気に入らない。だが確かにこの状況を打開するにはお前に頼るしかないのも事実だ。やるんだったら、絶対に成功させろよ?」
アンナはそう言って不満そうな顔をしながらも椅子に座った。
「姉さん、何やってるんですか?」
そこにやって来たのは白衣を着た一人の研究員だった。
彼はジェイミーの弟のようだ。
「キュー! あなたも椅子に座って。これから凄い実験が始まるんだから!」
キューはアンナ達に軽く頭を下げると、そのまま椅子に座った。
「これで4人ね……。あと3人どうしようかしら」
「おい、とにかく早くしてくれ。人が殺されてるんだ」
アンナが苛立った様子で言った。
「そうね。選んでいる暇はないわね……」
彼女はそう言ってコンピュータを操作すると、マイクに向かって呼びかけた。
「研究員3名はコンピュータルームへ至急来て。誰でもいいわ。とにかく急いで」
しばらくすると放送を聞いてやって来た研究員たちがジェイミーに言われた通り椅子に座った。
「じゃあ、準備はいいかしら?」
「いいわけあるか」
アンナは言った。
「まあ、それもそうね。これからあなた達はカーネル・ソウルを介して意識が接続される。あなた達の意識は融合して1つになるわ。でも安心して。それは一時的なもの。しばらくすればあなた達自身の意思で解除できる。あなた達の目的はゼロを止めること。これはあなた達にしかできない事よ。もしあなた達が失敗すれば……。まあ、とにかく成功を祈ってるわ」
ジェイミーはそう言ってコンピュータを操作し始めた。
すると、カーネル・ソウルの機械が光を放ち始め、椅子に座ったリンカ達は拘束具によって身動きが取れない状態になった。
「アンナさん……」
リンカは不安そうな目でアンナを見た。
「大丈夫だ。何とかなる」
アンナはそう言って目を閉じた。
リンカの背後から放たれる光はどんどん強くなり、ジェイミーはゴーグルをつけた。
部屋全体が揺れているように感じた。
「では、意識の世界へ。いってらっしゃい」
ジェイミーのその言葉と共にリンカも目を閉じた。
そして……。
リンカ達の意識は繋がり、1つとなった。
あらゆる物質の構造を理解し、見ることができる。
彼らにはこの世の全てが手に取るように分かった。
繋がれた7人の存在をそれぞれ感じながら、彼らは意識の中で世界中を飛び回った。
まるで地球儀を回すようにあらゆる場所を一瞬で駆け抜けた。
すると、ゼロによって殺されていく人々の悲鳴が聞こえてきた。
膨大な数に増えたゼロが人間一人一人を殺す瞬間が彼らにははっきりと見え、その痛みや苦しみさえも感じることができた。
それは7人にとって目を背けたくなるほど辛かったが、見たくなくても見えてしまう。
彼らはゼロを止めようと、すぐに倒す方法を計算し始めた。
その結果、彼らはゼロと同じようにエネルギーを操る方法を見つけることができた。
そうしてゼロとソウルの戦争が始まった。
既に何万体にも増殖していたゼロだったが、その半数はソウルの攻撃よって死滅した。
だが、彼らにはゼロを止めることはできなかった。
あまりに早い増殖スピードにソウルの攻撃は追いつかなかった。
実体を持つゼロに比べ、実体を持たないソウルは弱かったのだ。
それでもソウルは最後まで実態を持とうとしなかった。
それはゼロのようなバケモノになりたくないという彼らの意思が働いてしまったせいだった。
それがソウルの最大の弱点にして、ソウルがゼロに敗北した原因だった。
結局ゼロは増殖を続け、世界は暗黒エネルギーで覆い尽くされることとなる。
その間、ソウルにつながれた彼らは人々が死にゆく瞬間を全て見届けることになった。
その中にはリンカの両親もアンナの恋人も含まれていた。
リンカはあまりに残酷で悲惨な光景を目にして酷く心を痛めたが、それ以上に繋がれた意識の中でアンナが傷ついていくのを感じた。
それは恋人や家族を失った悲しみと、教授を無理やりにでも止めてしまえばよかったという自責の念によるものだった。
彼らはゼロに敗北し苦しんでいたが、完全に諦めた訳ではなかった。
世界はゼロに覆われてしまったが、彼らのいた空港から数百キロ圏内だけは全力を尽くして作り上げたエネルギーシールドによって守り抜いた。
その中に残っていた人間たちはシールドのお陰で生き残ることができた。
だが既に建物などはほとんど全て跡形もなく破壊されてしまっていた。
そしてソウルはゼロに対抗する手段を人間に与える為、魔術を作り上げた。
呪文や魔法陣を介してカーネル・ソウルの力の一部を使うことができるようにした。
そうして、このブラックウォール王国は誕生した。
ソウルに繋がれていた彼らだったが、世界がゼロによって覆い尽くされ、ゼロの力とソウルのシールドが均衡状態になった後、再び意識がそれぞれ分かれた。
だが元の肉体は破壊されてしまっており、現実に戻ることはできなかった。
そして彼らは現実に干渉することのできない意識体となり、永久に異次元をさまようことになってしまった。




