第117話 ゼロの誕生
「自分のせいじゃないの?」
リンカがそう言うと、教授はその拳で扉を強く叩いた。
「世の中バカばかりだ!!!! 私はお前達のようなバカにこのマシンの素晴らしさを嫌でも理解させるために、プログラムを改良したんだ」
「改良だと……?」
「このマシンの欠点はただ1つ。人類の脅威となる可能性だ。私はそれを逆手に取った」
教授はマシンに近づいてその手で撫で始めた。
「私はこいつにある目的を植え付けたんだよ。それは、人間を食べ尽くすという目的だ。こいつは一度動き始めたら人類を滅ぼすまで人間を殺し続ける」
「な、なんだと!?」
「なんでそんなことを……?」
「馬鹿だな……。子供には分からないか? 復讐だよ。私を認めなかったこの世の全ての人間達をこいつが殺してくれるんだ!!」
「そうなったらお前も死ぬはずだ!」
アンナが言った。
「残念だがそれは違う。こいつは主人には従順でな。私のことは食べやしないさ」
すると部屋の中にさらにもう一人男が入ってきた。
「教授……」
入って来るなりそう言ったのは教授の手伝いをしていた日野だった。
「日野くん。やっと来てくれたか」
「日野! お前も教授を手伝ってたんだろう!? どういうつもりだ!!」
アンナは日野に掴みかかった。
「俺は手伝えばやりたい研究やらせてやるって言われたから手伝っただけっす」
日野は言う。
「馬鹿か!! それで人類が滅亡してもいいって言うのか!?」
「人類滅亡……? 何言ってんすか。ただのコンピューターにどうしてそんなことができるって言うんですか?」
日野の言葉にアンナは彼から手を離してしまう。
そんな彼に教授は突然笑い始めた。
「日野君……。残念だけどそれができるんだよ」
教授は呟いた。
「君達はこのカーネル・ゼロの力を甘く見ているね。こいつはたった10秒で世界中の言語を会得し、20秒で地球上の全ての物質の状態を計算できる。そして30秒でエネルギーを操れるようになり、自らの肉体を作り上げてしまう」
「そんなバカな。エネルギーを操るなんてそんな機構カーネル・ゼロには存在しない。不可能だ」
日野は言う。
「君はバカだな……。私が何もかも君に教えていると思うか? なんにせよ君達はもう終わりだよ。残念だが、私の復讐に付き合ってもらうよ」
教授はそう言うと、そのままコンピューターを操作してカーネル・ゼロの電源を入れてしまった。
その機械は光を放ち、唸るような起動音を部屋の中に響き渡らせた。
その迫力にリンカやアンナは圧倒されてしまう。
「だ、だめだよ!! 起動させちゃダメ!!」
リンカはそう叫ぶと、近くにあったパイプ椅子を持ち上げ、カーネル・ゼロに向かって叩きつけた。
だがその機械はびくともしない。
「無駄だ! もう手遅れだ! こいつのお陰で私の復讐は完成する!!」
カーネル・ゼロはさらに強い光を出し、火花を散らし始めた。
あまりのエネルギーに部屋の明かりは点滅し始め、しばらくすると完全に消えてしまった。
それと同時にカーネル・ゼロが鳴らしていた轟音も消えてしまう。
「て……停電か?」
真っ暗になった部屋の中で何が起きたのかを必死に確認しようとする彼ら。
しばらくすると予備電源に切り替わったのか、再び点滅しながら部屋の明かりがついていく。
だがそこにはもう教授の姿はなかった。
その代わり、彼らの前に見たこともない生物が立っていた。
二足歩行で人型の生物。そいつは不気味な黒いオーラを放っていた。
そしてぎょろりとした白い目でこちらを見つめている。
「な……なんだ……。こいつは……」
「私はゼロ……。人間を食べるために生まれてきた」
彼はそう呟くと腕を突き出した。
そして次の瞬間、部屋中が強い光に包まれたかと思うと、ゼロは消えてしまった。
「ど……どうなったのかな……?」
リンカが呟いた。
彼らはしばらく呆然と立ち尽くしていると、突然外から悲鳴が聞こえてきた。
彼らは窓から外の様子を確認した。
そこにはゼロが巨大な口を開けて通行人を丸のみしている姿が見えた。
さらにゼロはどんどん自分の体を分裂させて増殖していた。
倍々に増えていくゼロは構内を歩く人々を次々と襲っていった。
「おい!! お前!! 責任とれよ!! これをどうにかする方法はないのか!!」
アンナは日野に掴みかかる。
「どうにかって言われても……」
ゼロを生み出した巨大マシンは既に機能を停止しており、ゼロは完全に独立して動いていた。
機械を壊したところでどうにもならない事はアンナも理解していた。
「そうだ。教授の研究を応用して引き継いでる先生がいた気がするっす」
「よし、なら今すぐ連絡を取れ!!」
アンナはそう言って日野から手を離すと扉から廊下の様子を覗いた。
「ダメだ。廊下にもあのバケモノがたくさんいる」
「わ、私が倒すよ!!」
リンカはそう言って部屋にあった金属の棒を持った。
「連絡取れたっす。どうやら何か解決方法を知っているみたいで、今すぐ来てほしいって言われたっす」
「よし、分かった! じゃあここから一気に廊下を走って階段を降りるぞ。目指すは駐車場だ。あたしの車が停めてある」
「じゃあ、開けるよ」
リンカは扉に手を掛けて言った。




