第116話 封じられていた記憶
さらにこれだけでは終わらない。
迫ってくる壁の中から黒いオーラを放つ人型の生物が次々と出現して街の方へと向かって来ていた。
さらにその生物は人間に襲い掛かると、巨大な口を開けて人々を丸ごと飲み込んでいった。
彼らは建物を次々と破壊していき、中に居る人間たちを襲った。
「どうだ!! これがあたしの計画の全てだ!! ブラックウォールは崩壊した!! 人類は今日、滅亡する!!!!」
アンナは叫んだ。
リンカはその様子を眺めたまま呆然と立ち尽くしていた。
「リンカちゃん、大丈夫?」
ミルが近寄ってきてリンカに問いかける。
「う……うん」
「おいみんな!! あいつらが来たぞ!!」
ピッカーがそう叫ぶと、確かに生物の群れが近づいて来ているのが見えた。
ニーナは両手に銃を構え、戦いの準備をする。
ハヤトもナイフを持って構えた。
そしてその生物の群れが彼らの元へと到達すると、一斉に襲い掛かってきた。
ニーナは次々と敵を撃ち落とし、ハヤトはナイフで切り裂いていった。
ロンド達も何とか立ち上がって必死に戦った。
リンカはその様子を見て妙な既視感を覚えていた。
「この光景……。どこかで……」
リンカはその様子を以前に見たことがあったのだ。
彼女の心の奥底に沈んだ遠い遠い昔の記憶。
その記憶がだんだんと遠くから近づいてきていた。
リンカの心の中には大きな記憶の扉が現れた。
その扉は僅かに開き、隙間から光が漏れ出ている。
リンカは扉に手を掛ける。
向こうに全ての答えがある。そんな気がした。
リンカはその扉を少しだけ押して開こうとした。
だがその瞬間、扉は彼女の意思とは裏腹に一気に全開になった。
リンカはその勢いで扉の向こう側へと吸い込まれて行ってしまった。
◇
大学にやって来ていた、黒壁アンナと三島リンカ。
教授が隠れて何をやっているのか突き止めようとした彼女たちは、誰にも見つからないように実験室へと向かった。
「や、やっぱりやめようよ~、こんなこと」
「いつまで言ってるんだ。一度決めたことは最後まで突き通せ」
そう言ってどんどん進んでいくアンナの後ろをリンカはついて行った。
そしてアンナはこっそり借りてきた鍵を使い、実験室の中に入った。
中は暗く、誰も居る気配はなかった。
「セーフ。誰か居たら見つかってた所だったな」
「明かりはどこかな……?」
リンカは暗がりの中、明かりのスイッチを探す。
「しかし、こんな広い実験室があったとはな……」
中は暗かったが、音の反響やかすかに見える部屋の様子でその大体の広さが分かった。
その部屋は1階から3階まで突き抜いて作られている為、天井はかなり高い。
それに加えて、広さ自体も通常の教室6個分程はあるようだ。
「あ、あったぞ。明かりのスイッチはこれだな?」
アンナはそう言いながら部屋の明かりをつけた。
するとその部屋の全貌を見ることができた。
「す、すっごーい」
その部屋の中央には巨大な1台のコンピューターがどんと構えていた。
それはまるで1つの建物かと思える程に巨大で、その周りにはクモの巣のように複雑な配線が張り巡らされていた。
「な……なんだこれは……」
アンナはそう言いながら傍にあったモニターの画面を確認してそれが何のための機械かを探った。
「こんなとんでもないマシン、普通じゃないぞ。研究費でこんなものが買えるとは到底思えない……。一体どうやって……」
アンナはそんなことを呟きながらコンピューターを操作した。
「へそくりでもあったのかな~」
リンカはそんな事を言いながら機械を見て回る。
アンナはその機械に埋め込まれたプログラムのソースコードを読んで分析し始めた。
「カーネル・ゼロ……」
リンカは機械に付けられたラベルを見て読み上げた。
彼女はそのままその機械に手を伸ばして触れようとした。
「触るな! リンカ!」
「ど、どうしたの……?」
「これを見るんだ」
アンナが見せてきたのは不規則に並ぶアルファベットの表。
「な、なに? それ」
「これは……DNAだ」
「DNA……?」
「何をしようとしているかは分からないが、この機械はどうやら生きているらしい」
「どういうこと? じゃあ、喋ったりするのかな?」
そんな事を2人が話していた時、突然部屋の扉が開いた。
2人は同時に扉の方を見た。
そこに立っていたのは教授だった。
「とうとう君に見つかってしまったか」
教授は言った。
「教授! これはどういうことだ!」
「君が見た通りだよ。私は君の能力は評価している。君の分析に間違いはない」
「だったらどうしてこんなものを……」
「分からないか? すばらしい計算機だろう? 恐らく計算速度は世界一だ。世界一頭のいいAIがこの中には入っているのさ」
「AIって、これはもはや生物じゃないのか? こんなもの動かしたら機械が自分の意思を持ってしまうんじゃないのか?」
「ああ、君の言う通りだ。だからこれは未完成なんだ。だが、この研究は素晴らしいと思わないか? これほどの物を作り上げることができる人間が世界に何人いる?」
「だが、危険だ。こんなもの学会が認めるわけがない」
「君の言う通りだよ。アンナくん。私の研究を認める人間は結局現れなかったよ。皆に反対されたが、それでも私はこれが正しいと信じていた。だから必死になって努力して、この研究を実現しようと日夜働いた。1人でも努力し続ければ人はついて来てくれると信じていた……。だが結局誰も私の元には現れなかった。結局私は多くの時間とお金を失い、多額の借金も背負った上、研究は失敗。そして、家族さえも私の元から離れていった」
「失敗したのなら何故こんなものを置いてあるんだ? 今すぐプログラムを消去すべきだ」
「そこに関しては君は理解が甘いようだね。たしかに研究としては失敗だった。だが、これほどの物を作れる人間がこの世界に私の他に居るか? この研究の敗因は私じゃない。私の力を認めなかった学会やその他大勢の人間たちだ」




