第115話 ブラックウォール正体表す
「おいクリス、そんな所で何やってるんだ? 怪我は大丈夫なのか?」
ロンドが聞いたが、クリスは何も答えずそのまま黙って近づいてくる。
「おい、大丈夫か……?」
ロンドは再び尋ねたがクリスは無言のままだ。
クリスはロンドの傍まで近寄ると、彼の抱える赤ん坊をじっと眺めた。
「サイファー……」
彼女はそう一言だけ呟いた。
「そうだ。倒したら赤ん坊になっちまった」
ロンドがそう言うと、クリスは突然赤ん坊の頭を手で強く掴んだ。
赤ん坊は大きな声で泣き叫ぶ。
「な、何やってるんだ!?」
彼女は依然としてロンドの質問を無視し、手からぼんやりと白い光を放ち始めた。
光が赤ん坊の頭を包み込むと、彼は急に泣き止んで大人しくなった。
「ど、どういうことだ……? お前、どこに行ってたんだ?」
ロンドは聞いた。
「その質問に答える必要はない」
クリスはロンドを睨みつけて言った。
「お前…………クリスじゃないな?」
ロンドが言った。
「ロンドさん何言ってるんですか? どう見てもクリスじゃ……」
フォックスがそんなことを言っていると、クリスは突然ロンドの首を掴み上げた。
ロンドは思わず赤ん坊を離してしまい、彼は地面に落ちて大泣きをする。
「き……貴様……いつの間にクリスの中に入ったんだ……?」
ロンドはクリスに聞いた。
「さっきだ。お前ら5人にあたしの力が分散されていたせいで意識を抑え付けられていたからな。クリスに力を集約させてもらった」
彼女の正体はクリスではなく、クリスの体を乗っ取ったアンナだった。
「どういうことですか?」
リンカが聞いた。
「こ……こいつは、アンナだ! お前ら全員ここから逃げろ!!」
ロンドはアンナに首を掴まれたまま叫ぶ。
「あたしから逃げられるか?」
アンナはそう言って手に持っている杖を見せた。
その杖はサイファーの杖だった。
3色のオーブがキラリと光る。
「な……なにっ!?」
彼女は杖の力を使ってロンドを吹き飛ばした。
「うあああああああっ!!!!」
「ロンドさん!!!!」
既に大きなダメージを食らっていたロンドにとってはそれが致命傷になりかねなかった。
海賊団の面々は倒れたロンドに必死に駆け寄る。
「アンナ!!!! クリスちゃんから出ていけ!!!!」
リンカは叫びながらアンナに殴りかかる。
だがアンナはリンカの拳を片手で受け止め、彼女を突き飛ばした。
「うああああっ!!」
突き飛ばされたリンカは倒れる。
「さ、さっきサイファーに何をしたんですか!! あなたは何が目的で……!!」
起き上がったリンカは叫んだ。
「あいつの記憶を消したんだよ。いつまでもあたしの事を覚えていられちゃ困るからな」
「どういうことだ? 何故君はそんなにサイファーに執着している? 理由を話せ」
アランが聞いた。
「サイファーは元々あたしが現世で生きるために作った肉体だ」
「肉体?」
「ああそうだ。意思を持たないただの肉体のはずだった。だが失敗だった。その体が意思を持ってしまった。そしてそいつはあたしの力を奪おうとしてきた。その体とあたしの力はリンクしている。そのせいでサイファーはあたしに近づくだけで力を奪うことができる」
「だから君は僕たちにサイファーを倒させたかったってわけだな」
アランが言った。
「そうだ。あたしはサイファーが無力な赤ん坊に戻る度にそいつの中から自分がサイファーであるという記憶を消してきた。あたしの存在を知らなければ力を奪うことはできない」
アンナは言う。
「記憶を……」
「つまり、もうサイファーはこの世から消えた。そいつはもうただの赤ん坊だ。それが何を意味するか分かるか?」
「ど、どういうこと?」
リンカが聞いた。
「誰の邪魔も入らずあたしの計画が実行できるって事だ!!」
そう言った彼女は背中から大きな光の翼を広げると、空高く飛び上がった。
「一体……何をするつもりなんだ」
「これで、すべて元通りになる。こんなふざけた世界とはおさらばだ」
アンナはそう呟いて杖を突き上げる。
「さあ、バケモノめ!!!! さっさとその姿を現せ!!!!」
アンナは叫んだ。
アンナの持つ杖からは赤、青、緑の3色の光が同時に放たれる。
「うわっ!!!!」
その様子を見ていた皆はあまりの眩しさに目を覆った。
すると、しばらくして地響きが起こり始めた。
ドン……。ドン……。
どこか遠くで大きな爆発が起きている。
しかも一か所からではなく、四方八方、至る所から何度も爆発音が聞こえた。
「なんだ!? 何が起こってるんだ??」
皆は辺りを見回す。
その爆発音はどうやらこの国を取り囲む壁の方から聞こえてきているようだ。
ハヤトとミルは瓦礫の山に登って壁の様子を確かめた。
「か……壁が!!」
瓦礫の上に登ると遠くまでよく見渡すことができた。
そこから見えたのは、この国を取り囲む巨大な壁が地面を削りながら動いている光景だった。
「こ、こっちに迫ってきてるよ!!」
壁はどんどん国の中心に向かって押し寄せており、アウトサイドのあらゆる建物を飲み込んでいくのが見えた。
「アンナ!! 貴様、何をした!!」
ロンドが叫ぶ。
「まだまだこんなもんじゃない!! 本番はこれからだ!!」
アンナが叫んだのとほぼ同時、遠くでさらに大きな爆発音が聞こえた。
「うわっ!!!!」
地面が大きく揺れ、彼らは地面に倒れた。
ゴゴゴゴゴゴゴと何か巨大なものが蠢くようなそんな音が響き渡る。
彼らは音のする方を見上げた。
そこには恐ろしい光景があった。
ブラックウォールの壁から長い首を天高く伸ばした巨大な顔がこの国を見下ろしていたのだ。
さらにその首はどんどん伸びてこちらへと向かってきていた。
「な……なんだあれは!!」




