第110話 魂の一撃
数分前。
船は地上に降りた衝撃で、その機能をほとんど停止し明かりもつかない状態になっていた。
そんな暗闇の中、ミルは電気系統を復旧させようとコントロールルームに向かっていた。
「マフラーの子はどこに行ったんだろう」
そんな事を呟きながら作業をする彼女だったが、何やら近くでガラスの割れるような音が聞こえた。
彼女は音のした方へと急行する。
そしてその犯人に銃を向けた。
そこに立っていたのがマフラーの男だった。
彼は治療ポッドを破壊し、リンカを取り出してその腕に抱えていた。
暗闇で表情はよく見えないが、彼はミルを見ても微動だにしなかった。
「リンカちゃんを離して!! あなたは何が目的なの?」
ミルは銃を向けたまま男に聞いた。
「あなた達こそ、リンカさんをこんなところに閉じ込めて、一体何が目的なんですか?」
男はそう言った。
彼の口調はまるでミル達に恨みがあるかのようだった。
「閉じ込める!? 私達はリンカちゃんが死なないように治療をしてるだけ! 早くポッドに戻さないとリンカちゃんが死んじゃうから!!」
ミルは叫んだ。
「ど、どういうことですか? あなた達はリンカさんの敵ではないんですか?」
男は動揺した様子で言った。
「敵!? 私達はリンカちゃんの仲間! あなたこそ一体誰なの?」
「僕は……」
そう言って彼はマフラーをずらして顔を見せた。
「僕はハヤトです。リンカさんの弟です……」
ミルは彼のその言葉に驚いた。
ミルはリンカの弟の顔を知らなかったが、よく見れば彼は明らかに大切な人を扱うような様子でリンカを抱えていた。
この人はリンカの弟で間違いないとミルは思った。
「だったら早くリンカちゃんを戻して!! お姉ちゃんが死んでもいいの!?」
ミルは慌てて言ったが、ハヤトはリンカをポッドに戻すどころかその場に下ろして横に寝かせた。
「大丈夫です。今僕がリンカさんを助けます」
彼がそう言いながら取り出したのは、古びた徳利だった。
それはリンカの家に祖父の写真と共に飾られていたものだった。
徳利は青白い不気味な光を放っており、彼はその栓を勢いよく抜いた。
「ど……どうするの……?」
ミルは聞いた。
「見ていてください」
徳利の開いた口からは不気味な光と共に煙が上がっている。
明らかに怪しい様子だったが、ハヤトはそのまま中の液体をリンカに飲ませた。
「それは何なの……?」
ミルが聞いた。
「これはおじいちゃんの残した徳利です。僕はこの数か月でこの徳利の正体を調べました。そしてやっと正体が分かったんです。中に入っているのはおじいちゃんだったんです」
「おじいちゃん?」
「そうです。彼の魂の一部がここには入っています。これがあればリンカさんも彼の生命エネルギーで目覚めることができるはずです」
「で、でもそんなことして大丈夫なの?」
「はい。大丈夫だって、おじいちゃんが言ってました! 徳利の中から声が聞こえたんです」
「でも……」
そんな謎の液体を飲んだリンカをミルは不安そうな顔で見つめる。
「リンカさん……目覚めてください……!」
ハヤトは手を合わせて祈った。
すると、しばらくしてリンカの体も徳利と同じようにぼんやりと青白い光を放ち始めた。
「ま……まさか!」
そして――――。
◇
サイファーを突き飛ばしたリンカだったが、彼を瓦礫の中から拾い上げると再び彼を殴った。
「私は!! あなたを!! 倒します!!」
彼女はそう叫びながら何度もサイファーを殴る。
「俺を倒してどうなる!! 今ここで王を失えばこの国はめちゃくちゃになるぞ!! それでもいいのか!!」
サイファーは叫ぶ。
「あなたは私から多くを奪った。とにかく私はあなたを倒すまで許さない!!」
リンカはそう言って拳を握った。
「焔流……一挙剛烈!!」
彼女は叫びながらサイファーに全力の一撃を叩きこんだ。
「うああああああああっ!!!!」
リンカの拳に突き飛ばされたサイファーは再び地面に倒れる。
「く……くそがァ……」
サイファーはリンカの重い一撃でかなりのダメージを負ったようで、しばらく立ち上がれずに地面を這うように動いた。
そんな彼の元にリンカはゆっくり近づいていく。
「し……死ねえ!!!!」
サイファーはリンカが近づいて来たのを良いことに、必死に起き上がってリンカに向かってエネルギー波による攻撃を浴びせた。
だがリンカはそれを片手で弾く。
彼女の遥か後ろで弾いたエネルギー波による爆発音が聞こえた。
「ば……バカな!!!!」
彼女はサイファーを掴み上げる。
だが、彼女はそのまましばらく固まってしまった。
サイファーを掴んだまま、鋭い目でじっと彼を睨みつけていた。
「こ……殺すのならさっさと殺せ。これ以上俺に仲間を傷つけられたくないんだろう?」
サイファーは言った。
彼の言う通りリンカは拳を握りしめる。
「焔流……」
リンカはそう呟いた。
だがその瞬間どこからか声が聞こえてきた。
「リンカ……リンカ……」
リンカは辺りを見回した。
だがその声の主は見当たらない。
それもそのはず、その声は彼女の心の中から聞こえてきていたのだ。
「おじいちゃん……?」
リンカは呟いた。
「リンカ、復讐心だけに駆られて人を殺すな。いつか後悔するぞ」
彼は言う。
「お、おじいちゃん、でもこいつは!!」
「ダメだ。どんなに恨みがあったとしてもだ。そんなことをさせるためにお前に力を貸したわけじゃない」
「で、でもっ……!!」
リンカは祖父に何かを言おうとした。
だが、その瞬間突然サイファーに腹を蹴られて突き飛ばされた。
リンカはすぐに立ち上がって構えたが既にそこにサイファーは居なかった。




