第107話 勝利か敗北か
だが彼女たちがそんな感動の再会をしている最中もサイファーはエネルギーを放ちどんどん弱っていっていた。
「うあああああああああああああっ!!!!」
サイファーは叫びながらさらに強いエネルギーを放出した。
その影響で辺りがまるで地震のように揺れ始める。
「サイファー。今度こそあなたの負けだよ!! 覚悟して!!!!」
ビビエルはそう言ってもう一度スイッチを押した。
するとサイファーの体を眩い光が包み込んだ。
「くそがあああああああああああああああっ!!!!」
サイファーはそう叫びながら大きな爆発を起こした。
「うわああああっ!!!!」
サイファーの放った衝撃は広範囲に広がり、ビビエル達も吹き飛ばされてしまう。
そしてサイファーはついにその手から杖を離してしまった。
赤、青、緑の三色のオーブが埋め込まれたその杖はくるくると回転しながら空を飛んだ。
杖はそのまま地面に落ちると、アスファルトの亀裂の穴の中に入り込んで見えなくなってしまった。
そしてさらにもう1つ、爆発と共に飛んできたものがあった。
それは黒いオーラを放ちながらニーナ達の前に降り立った。
「ま……まさか!!」
その黒いオーラはぐにゃぐにゃと形を変えながら最終的には人の形となり、そのまま横たわった。
「ぼ……僕は……」
それはサイファーに吸収されていたアランだった。
「アラン!!!!」
ニーナは怪我をした体を引きずりながらアランに近づくとそのまま抱きついた。
「よかった……。生きてて……よかった……」
「ニーナ……」
アランは驚いたような嬉しいようなそんな表情でニーナやビビエル達の顔を見た。
「おい!! ニーナ!! 俺もいるんだぞ!! おかえり悪魔さんって言え!!」
アランの背中から飛び出した熊が言った。
「……いやだ」
ニーナはアランに抱き着いたまま呟いた。
熊はニーナのその言葉に驚いた後、悲しそうな表情でアランの体の中に戻っていった。
「アラン、私に感謝してよね。頑張ったんだから」
アランに近づいて来たビビエルは言った。
「ああ……本当にありがとうビビエル。だが、もうちょっと手加減してくれてもよかったんじゃないか? サイファーだけじゃなくて僕の体までボロボロだ。これじゃあ一週間は寝込んだままだぞ」
サイファーは酷く痛む全身の怪我を見せながら言った。
「贅沢言わないでよね」
ビビエルはアランの怪我をデコピンで弾いた。
「いったァア!!」
ビビエルは痛がるアランを見て笑いながらも彼らの元を離れどこかへと歩いていく。
「ビビエル、どこに行くの?」
ニーナが言った。
だがビビエルはその質問には答えず足を止めようとしなかった。
「ビビエル、もう帰ってきていいんだよ?」
ニーナのその言葉にビビエルはようやく足を止めると振り返った。
「ごめん。無理だよ。もう元には戻れない」
彼女は悲しそうな表情で言った。
「どうして? あなたは裏切ってなかった。しかも私達に大きな貢献をしてくれた。戻ってもみんな納得してくれるはず」
ニーナはそう言ったがビビエルは納得していない様子だった。
「サイファーを倒す為とは言え、私は沢山の人を傷つけた。それに……」
「それに、何?」
ニーナそう聞くと、ビビエルは何か言いたげな悲しい表情をしながらも黙ってしまった。
「そうだよなァ……ビビエル……。お前は戻れないよなァ……」
突然ビビエルの後ろからそんな声が聞こえてきた。
「サイファー!?」
サイファーはまだ生きていたのだ。
彼はボロボロの体で石の上に座ってこっちを見ている。
「お前は忘れてないだろう? 俺たちは確かに仲間だった」
サイファーは言った。
「いいえ。ビビエルはずっと私達の仲間。あなたなんか仲間じゃない」
ニーナが言った。
「ニーナ・イェール。お前のような甘ったれた人間には分からないだろう? 俺の言う仲間というのがどういう事を意味しているかを」
「ごめんね……。お姉ちゃん。私、サイファーの仲間になっちゃったんだ」
ビビエルはそう言って手のひらをニーナに見せた。
その手には魔法陣が刻まれ光を放っていた。
「ど、どういうこと……?」
「魔術……契約か……」
アランが呟いた。
「その通りだ、アラン・ブラックウォール。仲間だ仲間だと口で言うだけなら簡単だ。だが俺は口先だけの奴は信用しない。だから仲間になった全員と魔術契約を交わしているんだよ。もし俺の事を裏切ればこの世から消えるっていう契約をなァ。アッハッハッハッハ!!」
サイファーは高らかに笑った。
ニーナがビビエルを見ると確かに彼女の体はぼんやりと光を放ち、次第に消えかけているように見えた。
「ビビエル!! そんな……っ!!!!」
ニーナはビビエルの手を握る。
ビビエルの手はもう半透明になっており、地面が透けて見えた。
「私は本当にあなたに酷い事をした……。あなたは一人で頑張ってたのにあなたを追い詰めるようなことを……」
ニーナが言った。
「謝らないでよ。全部私が決めたことなんだから」
「私はあなたに小さい頃から指図ばかりしてきた。それに関しては反省してる。だからあなたが辛い思いをして成し遂げた事は姉として素直に誇りに思ってる」
「ありがとう……。でもごめんね。お姉ちゃん。サイファー、倒せなかったや……」
ビビエルはその体がもう半分ほど消えていき、ほとんど透明になってしまっていた。
「ここからは私達に任せて」
ニーナは言う。
「うん。お姉ちゃん達ならきっと……」
ビビエルはそこまで言って言葉を止めた。
彼女の眼には涙が溢れてきていた。
彼女は湧き上がって来る感情を抑えきれず、ニーナに抱きついた。
「ごめんっ……私……まだ、死にたくないかも……」
彼女は涙を流しながら言った。
「大丈夫。大丈夫だから。お姉ちゃんがずっとそばにいる」
「うん。お姉ちゃん。ずっと離さないで。ずっと、ずっと……」
2人は抱き合ったまま泣いた。
「親たちに捨てられて、2人きりになってしまった時もこうやってあなたは私に抱きついて来た」
「うん……」
「あの時は本当にその先どうなるか予想もつかなかったけど、でも何とかなった」
「そうだね……」
「だから大丈夫、ビビエル。これからだってきっと……」
ニーナはそう言うと、ビビエルは彼女から手を離した。
「あはは。お姉ちゃん、私死ぬんだよ? まあでも、お姉ちゃんが言うと本当に大丈夫な気がしてくるよ」
そんな事を言うビビエルの姿はもうほとんど消えかけていた。
だが彼女が涙を拭って満面の笑みでニーナに微笑みかけているのははっきりと分かった。
「ビビエル。あなたは本当に私の自慢の妹。これからもずっと」
ニーナは言った。
「お姉ちゃんだって、すごいお姉ちゃんだよ。だから、私の最高のアシストを受け取って最後は綺麗なゴールを決めてくれるよね?」
ビビエルはそう言って腕を突き出す。
「約束だよ。絶対にサイファーを倒して」
「うん。約束する」
ニーナはそう言ってビビエルの手を取ろうとした。
だがニーナがビビエルに触れた瞬間、彼女の体は光の粒となって散ってしまった。
キラキラと美しい光の粒はゆっくりと天に向かって登っていく。
気が付けばニーナは腰を落として大粒の涙を流していた。
「ビビエル……。私はずっとずっと、あなたのお姉ちゃん……だから」
彼女はそう呟いてしばらく泣いた。
そんな彼女を見つめるアルル、ルアルと海賊団の面々。
彼らは悲し気な表情をしながらも自分たちが何もできなかった悔しさに拳を握りしめていた。
アランはニーナに近づき、そっと彼女の背中に手を添えた。
「ニーナ。何もできなくてすまない……」
アランは言うと、ニーナは首を振った。
「アラン。私達は彼女のためにも絶対に負けられない」
ニーナはゆっくり立ち上がってサイファーを見た。
「サイファー。私達はあなたを倒して見せる」
「ほう、威勢だけは褒めてやろう。だがお前たちはこの俺が全員この場で殺してやる」
サイファーはそう言うと、彼も立ち上がってニーナ達の方へとゆっくり歩いてくる。
「でも君はもうオーブを失っただろう? それに相当なダメージを受けてるはずだ。君の中に居た僕には分かる」
アランが言う。
「だから何だ? 俺は元々最強の魔術師だ。オーブを失った所でその事実に変わりはない!!」
サイファーはそう叫ぶと背中から白い翼を生やした。
彼の放つ白いオーラは辺りの瓦礫を舞い上がらせた。
「感動のショーはもうここでおしまいだ。ここからは物語の終わりまで地獄が続くぞ。辛けりゃ目を閉じてなァ」
そしてサイファーはニーナ達に向かってエネルギーを放った。




