第101話 ブラックウォール邸に待ち受けていたもの
クリスは勢いよく扉を開いた。
中に溜まっていた空気が一気に外へと流れ込み、古びた埃の臭いが5人を包む。
中は暗く、人間がいる気配はない。
クリスが明かりをつけると、高い天井についたシャンデリアの一部の灯りだけが弱弱しく部屋を照らした。
しんとした広い部屋の中、埃をかぶった大きな階段が2階へと続いている。
それ以外は家具もほとんど置かれておらず、何もかも引き払われた様子だった。
「お前、いつまでここに住んでいたんだ?」
ロンドがクリスに聞いた。
「1年前のはずだけど……」
つい1年前まで人が住んでいたとは思えないその様子にクリス自身も驚いていた。
「本当にここで合ってるのか~?」
フォックスが言った。
「絶対に合ってる。ここは確かに私が過ごした家」
クリスは階段の手すりにあった傷を見ながら言った。
そして彼女は階段を1段ずつ登っていった。
「お、おい気をつけろ。何があるか分からないんだぞ」
そう言うロンドだったが、クリスは気にせず階段を上っていく。
階段を1段1段上る度、彼女の頭の中にはこの家で過ごした思い出が蘇ってきた。
幼い頃、母と暮らした日々の事。
母が殺された日の事。
アンナの元で暮らした日々の事。
兄が家から居なくなった日の事。
そしてこの家と別れた日の事。
そうやって階段を上っているといつの間にか残す所あと1段。
彼女は最後の一段を登ろうとした。
だがその時、突然に足が重くなりそのまま動かなくなってしまった。
2階にはあのアンナと過ごした部屋がある。
その記憶が鮮明に残っており、体が拒否していたのだ。
アンナと過ごした日々で感じていた嫌な気持ちが湧き出るように蘇ってくる。
そんな感情を振り払い、クリスは最後の一段に足を掛けた。
だが彼女はそこで異変に気付いた。
小さな白い光が宙に浮かんでいる。
それはまるでこっちに来いと誘っているかのようにゆっくり点滅しながらクリスの事を見ていた。
クリスはその光に吸い寄せられ、ゆっくり手を近づけていった。
そうだ。もっと来い。こっちだ。
そんな声が光の中から聞こえてくるような気がした。
クリスは何かに乗っ取られたかのようにその手で光に触れた。
するとその光は一気に大きく広がり、正体を現した。
「クリス!!」
ロンドのその叫びで我に返ったクリスは慌てて階段を降りてロンドたちの元へと戻った。
その光はまるで翼を広げたような形で広がっている。
彼らがじっとその奥を見つめていると、中から声が聞こえてきた。
「あぁ……。ようやく見つけてくれたな、クリス。やっぱりお前はあたしの最愛の娘だ」
それは確かにアンナの声だった。
「アンナ!!!!」
ロンドは叫ぶ。
「私はあんたの娘じゃない!」
クリスは叫んだ。
「そう怒るな。あたしの力を借りに来たんだろ? 分かってたぞ」
アンナは言った。
「じゃあ、力を貸してくれるって事?」
「そんな事誰が言った? 力を貸すのはお前たちの方だ」
アンナがそう言うと、開いていた入り口の扉が突然閉じた。
「敵の拠点にまんまと乗り込んでくるお前らはバカだな。罠かどうかも考えなかったのか?」
「うるさい!! 例え罠だろうとこのロンド海賊団を倒すことなどできない!! ねえロンドさん!!」
フォックスはロンドの後ろに隠れながら言った。
「ああ。扉を閉じたくらいでなんだ? お前はどうせそこから動けないんだろう? だからこんな古びた家にずっと閉じこもっていたわけだ」
ロンドは言った。
「そうだそうだ~!」
「確かにそうだ。だがあたしが動く必要はない」
アンナがそう言うと、突然クリスが階段に向かって歩き始めた。
「おいクリス! 何やってる」
「か、体が、勝手に動いてるの!!」
ロンドたちはクリスの腕を引っ張って引き戻そうとする。
「はははは! 精々頑張れ。まあ無駄だと思うがな」
アンナの言う通りクリスの力は凄まじく、ロンド達もろとも階段の上へと引っ張られていってしまう。
「このままじゃ俺達全員飲み込まれちゃうよ~!!」
「大丈夫だ!! きっと俺達ならアンナの力にも耐えきれる!!」
ロンドは言った。
「いや…………。やっぱりだめ」
クリスは呟いた。
「どういうことだ?」
「ロンド、これは私の家の問題なの。やっぱりあなた達を巻き込むことはできない」
「今更何言ってるんだ! 俺たちは仲間だ! 仲間の問題は海賊団全員の問題だ!!」
ロンドは言った。
「分かってる。絶対にそう言うって思ってた。だから……」
クリスはそう言ってポケットの中からスイッチを取り出し、何かの装置を起動させた。
するとロンド達が付けていた腕輪が光始め、強力な磁力で両腕がくっついて離れなくなった。
「な!! なんだこれ!!」
そして彼らはそのまま宙に浮かび、身動きが取れなくなった。
「クリス!! どういうことだ!!」
ロンドは怒った様子で言った。
「ごめん。やっぱり犠牲になるのは私一人で良い」
そう言ってクリスは階段を上っていく。
「やめろ!! クリス!!」
ロンドは叫んだがクリスはそのまま階段を上りきり、アンナの光に触れた。
「クリス・ブラックウォール。やっぱりお前は見込みがある」
アンナはそう言ってクリスの体の中に飛び込んだ。
「うああああああああああああああああああ!!!!」
クリスはアンナの光を全身で受け止め、そのエネルギーが体から放出される。
建物は揺れ、溜まっていた埃や古くなった板が割れて破片が落ちてきた。
「クリス!! 俺が言うのもなんだがな、ロンド海賊団の掟は絶対だ。破ることは許されない!!」
ロンドが叫んだ。
「こんなもの!! 俺たちの絆に比べれば脆い!!」
ロンドはそう言って力尽くで拘束を解こうと腕を引っ張った。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
そんなロンドを見て、ピッカーがトラップも同じように無理やり拘束を引きちぎろうとした。
「ロンドさんやめてください!! 腕がちぎれちゃうでしょ!!」
フォックスのそんな心配も他所に、ロンドはなんと腕の力だけで拘束を引きちぎってしまった。
「うああああっ!! ハァハァハァ……!!」
「ば、バケモンだ……」
ロンドはそのまま階段を登ってクリスの肩に手を置いた。
「ロンドっ!!」
クリスは驚いた様子でロンドを見上げた。
「俺も、この力を受け止める!! うああああああああああああっ!!」
アンナのエネルギーである白い光がロンドの体内にも入っていった。
「俺達だって!!!! うおおおおおおおおおっ!!!!」
そう叫んだピッカーとトラップも拘束を引きちぎって階段を駆け上がった。
彼らもロンドと同じようにクリスの肩に手を置いた。
「うああああああああああああああああ!!」
アンナのエネルギーが彼らの体内に流れ込む。
「ちょ、ちょっと! 何してるんだメープル!!」
突然フォックスの肩から降りたメープルが彼の靴紐を噛んで宙に浮いた彼の体を引っ張り始めた。
そんなメープルが向かう先はもちろん彼らの元。
「や、やめてくれ~!!」
フォックスはそんな事を叫びながらもそのまま引っ張られ、アンナのエネルギーが放つ光の中に飛び込んでいった。
「うあああああああああああああああああああああ!!!!」
全員が叫び、アンナが自分たちの体を乗っ取ろうとしている事を感じた。
「俺達なら、俺達ロンド海賊団なら、きっと……耐えられるっ!! 命がけで耐えろおおおおお!!!! お前達!!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
海賊団は全員必死に踏ん張り、アンナに意識を乗っ取られないよう流れ込んでくるエネルギーを耐えた。
「私一人じゃできなかったかもしれない。でも、あんたたちと一緒なら、出来る気がする!!」
クリスが叫んだ。
「ロンド海賊団は無敵だあああああああああああああああああああああ!!!!」
そんな叫び声と共に全員の体から一気にエネルギーが放出された。
階段の手すりは吹き飛んで剥がれ落ち、天井につるされたシャンデリアも破壊され明かりが消えた。
そしてアンナのエネルギーが放っていた光も消え、辺りは真っ暗になった。




