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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【壱ノ幕】還らずの路
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逢魔が時の影

 家の裏手にあるものは、使われていない農地と祠だけだ。もしもあの人影の主が祠になにかするつもりなら止めなければならない。夢は夢だと目を逸らすには、あまりにも事件が重なりすぎている。

 物陰からそっと様子を窺っていると、やはり彼の人物は祠に向かっている。


「あの……っ!」


 勇気を振り絞り、千鶴が声をかけようとしたときだった。


「わ……!」


 制服の後ろ姿が渦巻く風をはらみ、思わず一瞬目を閉じた。布がはためく音がして、頬を砂が掠めて飛んでいくのを感じる。


「……びっくりした……」


 溜息を吐きつつ怖々目を開ける。と、制服姿の人物はおらず、代わりに和服の青年が目の前にいた。更にその青年は大きな白い尾と、獣のような耳を頭上に生やしていた。

 いったいなにが起きたのか、目の前にいるのは何なのか、理解が追いつかずに呆然と立ち尽くしていると、和装の人物が振り返った。


「なんだ、千鶴。もう帰っていたのか」

「……ぇ……せん、ぱい……?」


 振り向いた顔は、桜司のものだった。目元に朱色の化粧がされていて、ふさふさした獣のパーツがついていることへの理解は全く出来ないものの、声も顔立ちも間違いなく彼のものだ。

 桜司は千鶴に見つかったことを特に気にする様子もなく、そして悪びれもせず千鶴にひらひらと手を振った。


「お主が戻る前に調べてしまいたかったが、まあ良い。邪魔するぞ」

「え、えっと、あの……いったいなにが……」


 朝から訳がわからないことばかり続いて、混乱が落ち着く暇も無い。奇妙なことなら祠が汚されたときから起きてはいるが、それにしても今日は朝から忙しい。

 だが千鶴の尤もな疑問に答えることなく、桜司は祠の周りをぐるっと一周すると目を細めて「ふむ」と一言。混乱する千鶴を置き去りに納得した声を漏らした。


「なあ千鶴、今日、神蛇という教師が休んだだろう」

「は、はい……何でも、インフルエンザかも知れないって」

「だったらまだ良かったんだがな。これは医者では治せん病だ」

「それって、どういう……?」


 疑問に塗れた千鶴の問いに、今度は答えてもらえるらしい。桜司は、指先でちょいと千鶴を招くと、誘われるまま寄ってきた千鶴を背後から懐に収めながら祠を指した。


「これが、神蛇小夜子の住処だ」

「え、えぇ!??」

「あやつの名は、神様の神に蛇と書く。我らもそうだが名が体を表しているのでな」

「先輩も、ですか……?」

「うむ」


 一つ頷くと、桜司は真上から千鶴の顔を覗き込んで、にんまり笑って見せた。


「名札を見て知っているだろうが、我が名は白狐。白い狐に桜を司ると書く。おーじはプリンスではないぞ」

「白い狐……ほんとに、先輩は……でも、こうして目の前にいるんですよね……」


 目の前にあってなお未だ信じ切れない様子の千鶴を見てからから笑うと、それよりと咳払いを一つして、祠に向き直った。


「神蛇はいま、理不尽な仕打ちを受けたことにより荒魂へ堕ちかけている」

「あらみたま、ですか……」

「神道の言い方なら単なる二面性の話だがな、此度の問題はちと違う。だがまあ、その辺の煩わしい話はあとだな。いま成すべきはお主の確保と保護だ」


 そう言うと、桜司は千鶴の目を着物の袖で隠した。

 目隠しが外されたとき、目の前の景色は祠の前ではなく、見知らぬ神社だった。

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