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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【伍ノ幕】 オニアソビ

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消えた影の行方

 鬼灯町中央公園は、その名の通り町のほぼ真ん中に位置している自然公園だ。遊具の類は敷地のほんの一角にしかなく、メインはその広さと舗装されたジョギングコース、小さい山の形に盛り土をした泥遊びエリアと、それに隣接する噴水と人工の浅い川で、夏になると水着姿の幼児が親につれられて水遊びをする姿が見られる。川とは言っても水深は三~五センチほどしかない。

 鬼事をするならジョギングコースの内側にある広場だろうとのことで、千鶴と桐斗は車止めを抜けて奥へと向かった。


「さすがに平日とはいえ夕方だから、まだだいぶ人がいるね」

「この辺、犬の散歩コースでもあるみたいですね」


 ジョギングコースを抜ける際、何人かの犬連れの人とすれ違った。飼い主だけでなく犬のほうも挨拶をしたり人見知りをしたりと様々だ。

 桐斗は散歩している犬を遠巻きに眺めながら、静かに嘆息した。


「たまにリードぶっちぎった犬が僕に向かって突っ込んでくるの、あれやめてほしい。盛りの時季になると増えるんだよね……僕、一応雄なのに。てか猫なのに」

「赤猫先輩、犬にもモテるんですね」

「うれしくなーい」


 桐斗にとっては死活問題だが、それでも比較的他愛ない部類の雑談をしながら広場を目指して歩く。暫く行くと、大きな噴水が見えてきた。噴水から四方に伸びる浅く細い水路を飛び越えると、小学校のグラウンドほどある広場に出る。植え込みや外灯などもあり、鬼ごっこをするには一番良い場所なのだが、どうやらここにはいないようだ。


「いないね。飽きて帰っちゃったのかな」

「小学生と違って遊べる場所も多いですし、気が変わったのかも知れないですね」


 試しにと、桐斗は目を閉じて耳を澄ましてみた。これは領域を特定し、範囲内にある目的の音を拾うという、彼の感覚特性の一つだ。


「んー……公園にはいないみたいだよ? 十人くらい集まってるんだよね?」

「はい、そのはずです。何人か抜けたとしても、五、六人はいると思うんですけど……それらしい人は見当たらないですよね」

「ねー」


 公園中を探し回るほどのことでもないため、ここにいないなら帰ろうかと踵を返したときだった。桐斗の視界の端に、鞄が置きっ放しになっている無人のベンチが映った。


「あれ?……忘れ物かな」

「どうしました?」


 進行方向を変えて進む桐斗について行く千鶴も、遅れてそれに気付いた。ベンチには所謂スクールバッグと呼ばれるものが、背もたれに引っかける形で取り残されていた。目の前まで来ると、鞄の詳細が見えてくる。アイドルの缶バッヂやキーホルダーで一面飾り付けられた、学校用にしては派手な鞄だ。


 千鶴は、それに見覚えがあった。


「これ……今日公園で遊ぶって言っていた人のものです。確か、隣のクラスの人だった気がします」

「忘れていった……ってわけでもなさそうだよね。こんな重たいバッグ」

「遊ぶのに引っかけて、そのあと……でも、途中でいなくなったとして、誰もこの人を探してないんでしょうか」

「勝手に帰ったと思い込んで、皆も解散しちゃったとか? でも、信じてないとしてもいきなりいなくなったら少しは探すよね……こんな派手なの見落とすかな」


 確かにと、千鶴は思った。いないと思ってただ引き返した自分と違い、仮に探したとしたらある程度見回るだろう。しかも十人近い人数がいて、誰一人この目立つ鞄に全く気付かないということがあるだろうか。


「えっ、重たっ」


 桐斗が片手で持ち上げてみると、じゃらっとキーホルダーの音がした。鞄本体と紐の歪み具合から見ても、中身は相当重たそうだ。


「スマホは入ってないか……高校生じゃあ連絡先とかも全部スマホで済ませてるから、こういうとき不便なんだよね」

「手帳を持つ習慣ってなかなかないですしね……わたしも転校してきたばかりなので、隣のクラスの人までは覚えてなくて」


 あれほど派手で目立つ人物なら、如何に人付き合いがあまり得意でない千鶴でも同じクラスであればすぐに覚えるだろうが、今日初めて会って一方的に話しただけの相手。圧倒されるばかりで名前を聞くという発想にも至らなかった。

 それがこんな形で徒となるとは思いもしなかった。


「一先ずこれは交番にでも預けるとして……その前に休んでこ」


 そのまま近くのベンチに腰を下ろすと、隣をペタペタと叩いて千鶴を促した。千鶴が座ったのを確かめるとなにも言わず膝の上に頭を載せる形で横になり、顔を見上げる。所謂膝枕の状態で桐斗は千鶴の手を握った。


「ちょっとだけこうしてて。帰りは送ってくから」

「はい、先輩」


 普段は桜司に阻まれてあまり傍にいられないこともあり、それを取り戻すかのようにくっついている。


「千鶴はさー、好きな子とかいないの?」

「え!? い……いないです……お友達としての好きなら、真莉愛ちゃんや伊織くんがいますけど……」


 突然の問いに、千鶴はうわずった声で否定した。


「そっかぁ……」


 千鶴の手を取り、自身の手のひらと合わせて比べながら小さく呟いた。千鶴の手は、桐斗の第一関節ほどしかなく、幅も小さい。桐斗はそれを見て「いいなー」と脈絡なく言ってから、指を絡める形で握り直して千鶴を見つめた。


「じゃあ、僕は?」

「赤猫先輩も好きですよ。たくさん助けて頂きましたし」

「それっておーじたちと一緒のカテゴリじゃん」

「でも赤猫先輩、白狐先輩と仲いいですよね。わたしが部室に行くと、ほぼ毎回花札で遊んでるじゃないですか」

「えーそう見えるー?」


 わざとらしくふくれっ面を作ってみせるが、否定はしない。それにくすぐったそうな笑顔が彼の本心を語っている。


「僕は、千鶴のこと好きだよ」

「えっ……」

「なんか、妹がいたらこんな感じかなって」

「ああ、なるほど……」


 目を丸くして驚いてから、妹と言われて安堵した千鶴の表情の変わりように、桐斗は可笑しそうに笑って「何だと思ったの」と揶揄った。


「さーて、そろそろ帰んなきゃだよね」


 桐斗は名残惜しそうに体を起こし、伸びをすると跳ねるように立ち上がった。千鶴もそれに続き、鞄をかけなおして立ち上がる。


「じゃ、交番寄ってから帰ろ」

「はい」


 片手に鞄、もう片方の手に千鶴の手を握りながら、桐斗は千鶴を伴って足早に公園を立ち去った。

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