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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【伍ノ幕】 オニアソビ

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流行病が如く

 翌日の昼休み。

 千鶴が真莉愛と伊織の三人で昼食を取っていると、なにやらクラスメイトが集まって騒いでいる声が聞こえた。何気なく視線をやれば八人ほどの集団が出来ていて、放課後集まって影踏み鬼をしようと話しているところだった。

 中心になっているのは長い黒髪の女子生徒で、彼女の友人との会話を聞きつけた他のグループが加わり、徐々に輪が拡がっていく。


「ほら、このサイトにもあるじゃん? 夕方に影踏み鬼をすると本物が混じってきて、そいつに影を取られるとか、人数が増えるとか減るとか」

「いやどっちだよ」

「はぁ? お前そんなもん本気にしてんのかよ」

「してないけどさあ、こーゆーの小学校以来じゃん」

「あたしはさんせー! なんか面白そーだし」

「やるなら公園? グラウンドは部活で使えないし」

「だな。途中でコンビニ寄ってこうぜ」


 最初は渋っていた生徒も、数年ぶりに子供じみた遊びをするのも悪くないかもという空気に流され、最終的に集まっていた八人とその中の一人と仲が良い二人が混ざって、合計十人で遊ぶことになったようだ。


「流行ってるのって小学校だけじゃなかったんだね」

「……そうみたいですね」


 集団は既に放課後の気分で、途中コンビニでなにを買うかなどの話題で賑やかに盛り上がっている。そんな彼らのほうを、真莉愛が心ここにあらずといった様子でぼんやり見つめていた。


「真莉愛ちゃん……?」

「え……あ、何でもないです。ちょっとぼうっとしていました」


 そう言って取り繕ったときだった。開きっぱなしだった教室の後部扉から室内へ声がかけられた。声の主は黒烏柳雨だ。


「おチビちゃん、放課後部室な」

「? はーい」


 千鶴が答えると、集まって話していた生徒のうち一人が振り返り、パックジュースのストローを咥えながら話しかけてきた。


「四季宮さん、いつの間に先輩と仲良くなったの?」

「えっと……転校してきてすぐのときに、色々お世話になって」

「ふぅん」


 所謂ギャルと呼ばれる風体の生徒は、指先で大胆に巻いた茶髪を玩びながら扉の外を見た。長い爪に点在するラメやストーンが、指先がくるくると踊る度に煌めいている。


「あの先輩たちさあ、めっちゃモテるんだよね。うちのクラスにも告ったヤツいるとか聞いたけど、誰かと付き合ったって話は全然聞かねーんだわ」

「そうなんだ……? わたし、あんまりそういうのわからなくて」

「あーそんな感じするー。恋愛とか全然縁なさそー」


 けらけらと笑いながらあまりにも悪気なく同意され、千鶴は内心で「そうだよね」と思うしかなかった。

 髪弄りに飽きた指先が、今度はスマートフォンを弄り始めた。手帳のようなカバーの表面にも、爪同様にギラギラした装飾が施されている。


「てかさあ、四季宮さんって霊感ある感じ? ホラーとか余裕なほう?」

「まさか、全然だよ。映画とかでも苦手だもん、本物なんてとても……」

「だよねー! てか自称霊感少女とか中二で卒業しとけって話だし。でもさあ、なんかそーゆーの見ちゃうと試したくなるってゆーか。ぶっちゃけあんなんうち全然マジだと思ってなくてー、面白そーだから乗っかったみたいな? 心霊スポットとか行ったことあるけど、別になんもなかったし」


 愛想笑いしか出来ずにいる千鶴に構わず、彼女は一方的に口をついて出た話を次々に繰り出しては一人納得するという片道通行の会話を流していく。

 暫くして遠くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえると、じゃあねー、と笑いながら友人の元へ戻っていった。

 嵐が去ったような心地で、千鶴はパックの紅茶を啜る。


「……中二で卒業っていうか、その頃は平和だったっていうか」

「まりあは生まれつきなので……」

「お前ら、揃いも揃って難儀だな」


 しみじみと言いながら、伊織は焼きそばパンを囓った。


 昼休み終了の鐘が鳴り、午後の授業が始まる。教室内では昼食後の睡魔に負けて机に伏せた頭がいくつか見られるが、教師もわかっているのか諦めているのか咎めもせずに淡々と業務をこなしていく。

 黒板では「人が獣に堕ちるのは如何なるときであるか」といった解説が山月記という物語に沿って進んでいる。この授業に於ける解釈は、恨み辛みといった負の感情に心が囚われたときだとされた。

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