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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【肆ノ幕】鎮魂のドールハウス

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蜜色聖少女空間

 芯まで茹でられた野菜はこんな気持ちなのだろうかと、天蓋付きベッドに横たわってぼんやりしながら、とりとめなく思う。泡風呂で散々じゃれあって、気付いたときにはのぼせる寸前だった。


「千鶴、大丈夫ですか……?」

「うん……初めてのお泊まりだから、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」


 火照った顔で笑って見せる千鶴を扇子で扇ぎながら、真莉愛は先ほどまでとは打って変わってしゅんとした顔で寄り添っている。そんな真莉愛の頬に手を伸ばすと、千鶴は擽るように撫でた。


「そんな顔しないで。大丈夫だから」

「はい……」


 天蓋を見上げると、星座の空が描かれている。紐で括られているカーテンはレースと厚手のものがあり、閉じるとちょっとした秘密基地のようになりそうだと思った。

 ゆであがっていた体が徐々に落ち着いてきたのを感じ、千鶴は体を起こして真莉愛と向き合う格好でベッドの上に座った。


「ありがとう、もう大丈夫だよ」

「ほんとに、何ともないですか……?」

「うん。……ほら、熱くない」


 手のひらで真莉愛の頬を包むと、ふにゃりと表情がとろけた。


「……そうだ。真莉愛ちゃんのことで気になってたことがあるんだけど……」


 頬から離そうとした手を真莉愛の手に掴まれたので、戸惑いつつもそのまま続けた。


「前に先輩が、真莉愛ちゃんには強い護りがついてるって言ってて……それがあるからわたしといてもへいきなのかなって思ってたんだけど、そのことってわたしが聞いてもいいのかな……?」


 千鶴の手を握る真莉愛の手に、少しだけ力がこもった。

 細部まで丁寧に作られた人形のような手が、千鶴の手を真莉愛の豊かな胸の中心へと導いていく。冷めたと思った頬が熱を帯びていくのを感じながらも、抵抗出来ずにいる千鶴の手が、ふわりと胸のあいだに包まれた。


「まりあは、うまれつき神様のお嫁さんなのです」


 そして千鶴の手を自らの心臓に添えたまま、真莉愛は静かに言った。


「まりあのおうちはずっと昔から、ある特徴を持って生まれた子の魂は神様のものだと言われてきたそうです。……まりあは生まれたときから神様が見えていました。そして物心ついたときには、神様のところに行くのだと何となく理解していました」

「真莉愛ちゃん、それって……」


 神様のところへ行くという言葉に微かな不安を感じて訊ねる千鶴に、真莉愛は静かに首を振った。


「千鶴や伊織たちと会えなくなるわけではないです。でも、神様のところへ行ったら、千鶴たちと一緒に大人になることは出来なくなります。なので、普通の生活は出来なくなると思います」

「真莉愛ちゃんは、それでいいの……?」

「はい。ずっと決まっていたことです。それに、あの火事で助かったのも神様が護ってくれたからです。まりあが見つかったとき、屋根や柱が殆ど崩れていたのにまりあだけ無傷だったそうです」


 普通の暮らしが出来なくなる。それは、家族ともこれまで通りいられなくなるということでもある。それでも真莉愛は、そんな自分の運命を当然のように受け入れていた。神様に嫁入りするという話は物語の世界でのことだと思っていた千鶴は、暫く真莉愛の言葉を消化しきれなかった。


「千鶴も、きっと同じです」

「……え……?」


 そんな千鶴に、真莉愛はあっけらかんと言って笑った。


「千鶴の傍にも、いつも護ってくれる神様がいるでしょう?」

「それは……そうだけど……」


 彼らは千鶴の知り得ない事情で、義務でしているだけだ。柳雨は先ほど僅かなりとも情が湧いていると言っていたが、嫁入りなどという話に飛ぶほどだとは思えない。仮に千鶴が慕っていたとして、婚姻は一人の意志で決めるものではないのだから何にしても自分には関係ないと、そう言い聞かせた。


「千鶴のこと、大切にしてくれているひとがいるでしょう?」


 真莉愛の言葉を聞いたとき、脳裏に『彼』の姿が過ぎった。

 それを見透かしたかのような微笑みで、真莉愛は千鶴を優しく抱きしめる。


「千鶴も、しあわせになってください」

「……真莉愛ちゃんにとってのしあわせは、神様のお嫁さんになること……?」

「はい。それもまりあのしあわせの一つです」


 真莉愛の祈りのような言葉にも素直になれずにいる千鶴に対して、真莉愛の意志には迷いがない。決して「そういうものと決まっているから仕方なく」という、後ろ向きな理由ではなく、自分を護っている神様の嫁になるというのだ。


「わたしの、将来のしあわせはまだわからないけど……でも、真莉愛ちゃんとこうしているいまはしあわせだよ。神様が赦してくれるなら、真莉愛ちゃんがお嫁さんになったあともこうしていられるといいな」

「はい……まりあもです。きっと、千鶴なら赦してくれます」


 知りたかったことを知ることが出来た代わりに、えも言われぬ喪失感が胸を隙間風のようにすり抜けていく。いますぐいなくなるわけでもないのに、なぜだか離れがたく、千鶴は暫く真莉愛を腕の中に閉じ込めていた。

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