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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【肆ノ幕】鎮魂のドールハウス

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ふたりきりの夜

 独りぼっちと独りぼっちが出会って二人になった。

 それを知るきっかけが哀しいものであったとしても、千鶴は真莉愛と出会えたことを心から良かったと思っている。そして願わくは真莉愛も同じ想いでいてくれることを。


 人形をベッドサイドの小さな椅子に置き、真莉愛は一つ息を吐く。


「……千鶴、お話聞いてくれてありがとうです」

「ううん、わたしのほうこそ……話しづらいことを聞かせてくれてありがとう。真莉愛ちゃんのこと知れてうれしい」


 千鶴の答えにはにかみ笑うと、真莉愛は千鶴の手を取り立ち上がった。その表情には先ほどまでの曇り空のような色はない。


「千鶴、お風呂行きましょう!」

「え? あ、うん……随分急だね?」

「日本には、仲良しの人ともっと仲良くなるための、裸の付き合いという言葉があると聞きました。なのでまりあも、千鶴と裸の付き合いをしたいです」

「うん!??」


 間違いのようなそうでもないような誤解を、真莉愛は目を輝かせながら求めてくる。仲良くなりたいという言葉を無下に断るわけにもいかず、かといってこの場で慣用句の説明をするのが正しい反応なのかもわからず、千鶴は真莉愛の勢いに圧されて気付けば頷いていた。


「行きましょう、行きましょう。まりあはずっと、お友達と一緒におうちでお泊まりをするのが夢だったのです」

「それは……わたしもだよ。だからってわけじゃないけど、次は真莉愛ちゃんがうちに泊まりに来てくれたらうれしいな」

「はいっ」


 花が咲いたような笑顔で頷く真莉愛に導かれ、支度をして浴室に向かう。真莉愛とは身長が近いお陰で着るものには困らないが、どれもこれも可愛らしくて目眩がする。


「これを……わたしが……」

「千鶴、どうしました?」


 白いフリルがたっぷり使われたネグリジェを前に呟く千鶴を、真莉愛が不思議そうに見つめている。嫌なわけでも、文句があるわけでもない。ただ、圧倒されてしまう。


「ううん、真莉愛ちゃんの周りにあるものってどれも可愛いなって思って」

「ふふ、ありがとうです。……あっ、わかりました。だから千鶴も可愛いのですね」

「!!??」


 屈託のない笑みで言う真莉愛の言葉と表情に、千鶴は心臓を撃ち抜かれた。

 一糸纏わぬ姿となった真莉愛は、それこそ石膏で作られた女神像のようで、目の前に確かに生きて存在しているのに我が目を疑いたくなってしまう。やわらかな曲線を描く白い体に、背を覆う長い金髪。髪と同じ色の長い睫毛に覆われた瞳はこの世に存在するどんな宝石にも当てはまらない不思議な色をしていて、それが事あるごとに真っ直ぐに自分を見つめながら微笑むのだから、本当に、心臓がいくつあっても足りない。


「千鶴、風邪引きますよ」

「う……うん、いま行く」


 真莉愛に続いて中に入ると、温泉施設と見紛う広さの浴室が出迎えて、またも言葉を失った。貿易が盛んだった頃に海外から来た豪商が建てた大豪邸だということは知っていたが、現実が想像を容易く飛び越えてくる。

 真莉愛に導かれるままぎこちなく隣に腰を下ろし、頭からシャワーを浴びる。湯気に紛れてチラリと隣を盗み見ると、玉肌が水を弾いてキラキラと輝いていた。


「あ、その匂い……」

「これですか?」


 シャンプーを手にした瞬間ふわりと香ったのは、普段真莉愛の体から香っているあの甘い花の香りだった。ボトルを見ても、英語なので何と書いているのかわからないが、描かれているのはいつぞや想像したジャスミンだった。


「真莉愛ちゃん、いつもいい匂いするなって思ってて……それだったんだ」

「はい、まりあのお気に入りです。千鶴も使ってください」

「うん、ありがとう」


 一つポンプを押して手に取ると、真莉愛と同じ甘い花の香りが手のひらからふわりと立ち上る。泡立ちも香りも良い上に、泡切れも洗い上がりも良く、トリートメントまで終えたときには自分の髪ではないような手触りになっていた。


「凄い、さらさらになった」


 感動に浸りつつ、体を洗う。ボディソープも同じ種類のものらしく、全身が真莉愛と同じ香りに包まれることとなった。

 泡を流しながら、曇り防止加工がされた鏡に映る自分の体を見つめる。そして、隣の真莉愛を見る。


(制服の上からだとわかりにくかったけど、やっぱり真莉愛ちゃんって……)


 人間は決して平等ではないのだとわかっていても、こうして格差が目に見えると少し落ち込んでしまう。と同時に、美人は三日で飽きるなどという言葉は全くの嘘だと確信するのだった。


「千鶴、ふわふわですよ、ふわふわ」

「えっ……ああ、ほんとだ。凄いね、泡風呂なんて初めて見た」


 真莉愛のことを言っているのかと思い、一度彼女のほうを見てしまったが、どうやら浴槽のことを指しているようだった。水面が白い泡に覆われており、真莉愛が雲の中にいるように見える。

 呼ばれるまま隣にそっと入ると、真莉愛が横からぎゅっと抱きついてきた。どうにも先ほどから上機嫌で、甘えたがりの子猫のようにすり寄ってくる。


「真莉愛ちゃん、どうしたの? さっきから凄くご機嫌だけど」

「まりあはいま、喜びを表現しています」

「なにかいいことあった?」

「千鶴と一緒だからです。夢が叶った喜びでいっぱいなのです」

「そっか、……うん、わたしも、真莉愛ちゃんと一緒でうれしい」


 ぎゅうっとしがみつく真莉愛の頭を撫でると、とろけるような笑みでまたすり寄ってきた。右腕が真莉愛のやわらかな胸のあいだに挟まれていることにほんのりと切なさを覚えつつ、自由な左手で頭を撫でる。

 真莉愛は、友達と家でお泊まりをするのがずっと夢だったと言っていた。そのことを喜んでくれているならと、千鶴はのぼせそうになるまで真莉愛に付き合った。

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