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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【肆ノ幕】鎮魂のドールハウス

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闇を彩る濡れ羽色

「―――わたしは色々あって、胎内で死亡した赤子の体を借りて現世に生きている天狗です。わたしが見かけたときには母子共に死ぬ寸前で、そのときわたしも深手を負って死にかけていて……魂のない体に憑依することで互いの命を繋ぎました。そうしないと赤子だけでなく母親も死んでしまう。これは人助けだと言い訳をして……」


 廊下を進みながら、英玲奈はぽつりぽつりと話し始めた。


「兄さんも、姉さんも、両親も、普通の子供とは違うわたしを気味悪がったりせずに、平等に愛してくれました。まあ、あとになって、姉さんも特殊な目を持っていることを知ったんですけど。それがなくとも、彼らは変わらず育ててくれたと確信しています」

「……うん、わたしもそう思うよ」


 千鶴が迷わず同意すると、英玲奈は千鶴の手を握って俯いていた顔を上げた。


「わたしは彼らの恩に報いたいんです。そのせいで、万一あの家にいられなくなったとしても、それでも……」

「大丈夫。真莉愛ちゃんもご両親もお兄さんも、英玲奈ちゃんを追い出したりしないと思うよ。あんなに優しい人たちだもん」


 千鶴の真っ直ぐな言葉に、英玲奈の瞳に宿っていた昏い不安の色が微かに和らいだ。

 歩きながら周囲に耳を澄ませる。開かれたままの扉を一つ一つ覗き、閉じている扉は警戒しながら開いて中を確かめ、真莉愛の姿がないと落胆して次へと進む。

 そうして歩いていると、これまで見てきた中で一番広い部屋に出た。


「ここは……見たところ、イベント展示用の部屋にするつもりだったみたいですね」

「本当だ。ショーケースが残ってる」


 だが、歴史的価値のあるものを展示する部屋にしてはなにかがおかしい。千鶴が首を捻っていると、窓の外から突風が吹き込んできて反射的に目を閉じた。

 風に煽られながら、千鶴は頭の片隅で先ほどの違和感の正体に気付いて、一人納得をしていた。書物にしろ陶器にしろ、価値あるものを展示するのに大きな窓があることがおかしかったのだ。


「びっくりした……って、黒烏先輩!?」


 風が止み、そろりと目を開けると何故か天狗の姿をした柳雨が千鶴たちの前にいた。柳雨は千鶴と英玲奈を交互に見ると、首を傾げつつ口を開く。


「懐かしい気配がしたから来てみたら……なんだ、紅葉か」

「その名で呼ぶのはやめてください。いまのわたしは英玲奈です」

「ふーん……? まあいいや。で、おチビちゃんはなんでこんな廃墟に?」


 珍しく英玲奈がムッとした表情で柳雨を睨み、低く抗議する。それを聞いているのかいないのか、柳雨は千鶴に向き直るとうちわで軽く扇ぎながら訊ねた。


「実は、真莉愛ちゃんが家に帰ってなくて……色々あって、てがかりらしいてがかりがこの地図しかなかったから、ここに探しに来たんです」

「ほーん、なるほどなあ。そんじゃ、オレ様も手伝ってやるよ。せっかく来たしな」


 手書きの地図を見せながら千鶴が説明すると、柳雨はそれを覗き込みながら頷いた。


「いいんですか?」

「ああ。それに事情を聞くだけ聞いて帰ったらおチビちゃんに泣かれそうだからな」

「別に、泣いたりはしませんよ。だって、先輩はわたしが特異点なせいで関わらざるを得なくなってるだけだから、真莉愛ちゃんまで助ける義理はないですし……」

「ま、そりゃそうだわな」


 軽薄な笑みで言いながら、柳雨は部屋の外へ歩き出した。それに続きながら、千鶴と英玲奈も周囲に気を配る。


「でもさ、オレ様も別に冷血動物じゃねえわけ。こんだけおチビちゃんと関わってて、何の情も湧かないほど、オレ様たち薄情じゃねえんだわ」


 英玲奈と並んであとに続いている千鶴から、先を歩く柳雨の表情は読めない。ただ、声に僅かながら怒りを含んでいる気がして、千鶴は俯いた。


「……ごめんなさい。何度も助けてくれたのに、ひどい言い方して……」


 英玲奈の手を握りながら、千鶴は自分でも驚くほど沈んだ声で言った。

 ずっと、嫌々助けているのだと思っていた。そういう役目だから仕方なく付き合っているだけなのだと、人間嫌いな本心を押し込めて役割を果たしているものだと。そう、思い込んで……そして、目の前のひとを真っ直ぐ見られていなかった。


「……ま、誤解されても仕方ねえとは思うけどな。オレ様以上にアイツらの人間嫌いは筋金入りだし、最初は確かになんでオレ様がって思ってたのも事実だ」

「いまは、違うんですか……?」

「人間嫌いは別に、変わんねえかな。ただ、おチビちゃんとその周りのヤツらまで全部まとめてどーでもいいって切り捨てるほどじゃねえよ。少なくともオレ様はな」


 振り向いて、いつもの軽い笑みを浮かべながら千鶴の髪をくしゃりと撫でる。千鶴は柳雨の手のひらのぬくもりを感じながら、ひどく内省した。


「さて、この先だな。魄の臭いがすげえする」

「……ここまでくれば、わたしにもわかります。姉さんもここに……」


 両開きの扉が三人の目の前にある。扉の上には、文字が掠れて白くなったプレートがかけられており、傍らにはさび付いた消火器が転がっている。


「これは……」


 柳雨が扉を開けると、中はお城の一室かと見紛うような、豪奢な部屋だった。ただ、高価な調度品やカーペットや壁に掛けられた絵画など、どれも経年劣化でひどい有様となっていて、元が煌びやかであっただろうことが想像出来る分、いままで見てきた中で一番凄惨に見える。

 なにより異様なのは、そんな荒れ果てた部屋のあちこちに座り込んでは、古く汚れた玩具で遊ぶ少年少女がいることだった。彼らは人が入ってきたのも構わず虚ろな表情で汚れた人形や車輪の駆けた車の模型で遊び続けている。

 どこからかオルゴールの音が聞こえる。この遠く微かな音は、真莉愛の異変を千鶴へ告げるかのようにかかってきた電話で聞いたものに似ている気がして、耳を澄ませた。


「ねえ、あそこ……まさか、真莉愛ちゃん……?」


 千鶴が部屋の奥を指差す。

 庭園を飾るガゼボのような鳥籠型の柱と屋根がついた一角があり、その中に天鵞絨に金縁で装飾をした玉座めいた椅子がある。そしてその椅子に、くすんだ桃色のドレスを着た、やわらかな金髪の少女が座らされていた。

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