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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【参ノ幕】廃れ神

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三ッ首様

 辿り着いた頂上には休憩所があり、一同はそこで休息を取る。屋外に設置された古い木製のベンチと長机、街ではあまり見かけないメーカーの自動販売機に小さな食堂と、時代を感じる光景が広がっている。

 頂上を示す細い石碑の近くには山の縁起を記した看板がある。課外授業であるという名目上、担任教師が各クラスに向けて山を舞台にした民話を話し聞かせた。


「それじゃあ、お話するわね」


 ―――その昔。山間に一つの村があった。その村は山の恵みと綺麗な川の水のお陰で夏も冬も大きな苦労なく生きることが出来ていた。そしてその恵みは、山のお社に住む三ッ首様という神様のお陰だと信じられていた。毎年中秋には三ッ首様に感謝を捧げ、無事冬を越して新年を迎えられるよう祈りを捧げる祭が行われる。

 しかしあるとき、この村だけでなく日本各地をひどい日照りが襲った。草木は枯れ、川は細り、村人は飢えと渇きで老人や赤子から死んでいった。

 困り果てた村人は、まだ誰のものにもなっていない娘を山に送り、直接願いを届けに行かせようと一人の若い娘を選んだ。選ばれた娘は村のため、なにより家族のために、神様の元へ行くことを承諾した。

 娘が山を登り始めると、山道は見る間に霧に包まれた。

 来た道も行く道もろくに見えない中、どうにか足下の細い道を頼りに進んで行くと、ふいにどこからか声がした。


『この先に行けば、二度と村には戻れないぞ』


 娘は足を止めずに『承知の上で参りました』と答えた。

 更に進んで行くと、またどこからか声がした。


『三ッ首様は、名前の如く恐ろしい神様であるぞ』


 娘はそれでも足を止めずに『これまで村をお守りくださったお方を、恐ろしいと思うことなどありません』と答えた。

 更に進んで行くと、またどこからか声がした。


『もしも逃げ出せば、生きたまま三つに裂かれて喰われてしまうぞ』


 娘はそれでも足を止めずに『逃げ出すつもりはありませんが、もしも私が逃げ出したときは、どうぞそのようになさいませ』と答えた。

 すると目の前に立派なお社が現れ、誰もいないのに扉が音もなく開いた。まるで娘を迎え入れるように開いたままの扉へ向けて、娘の背後から冷たい風が吹いている。娘は扉の前で三つ指をついて頭を下げ、


『村よりの使いで参りました。三ッ首様、どうか村をお救いくださいませ』


 と申し述べてから、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。暗い社を見渡すと、奥に大きな蛇の体を持った男が座していた。色白などというものではなく陶器の如く白い肌に白い髪、そしてなにより、顔の左右に長く伸びた結い髪の先が白蛇となっている異様な姿。二匹の蛇が作り物でない証拠に、風もないのに自在に蠢いている。

 娘はその姿に驚き小さく声をあげるが、約束通り決して逃げ出すことはしなかった。それを見た三ッ首様は娘を大層気に入って、これからも村へ実りを齎すことを約束し、嫁として迎え入れた。


「―――というお話よ。昔話ではよく見かける、神様への嫁入りのお話ね。こういう、人とそうでないものとの婚姻の物語を異類婚姻譚というの。覚えておいてね」


 神蛇が最後にそう言い添えると、一人の生徒が手を上げた。


「先生、そういうのって鶴の恩返しみたいなのでもだいたい悲恋? てかあんま上手くいかなくて最後さよならみたいなのが多いけど、それはハッピーエンドなの?」

「そうね……いま残っている資料では無事お嫁さんになりました、というところまでのようなのよ。でも、人と神様の寿命は違うから、お嫁さんが亡くなるまではしあわせに暮らしたのではないかしら」


 生徒の質問に神蛇が答えると、質問した生徒やその周りの生徒は「良かった」だとか「珍しいね」だとか「でもお嫁さん死んだら一人じゃん?」などと口々に話し始めた。


「人と神様の寿命は違う、かぁ……」


 当たり前ではあるが、改めて言葉にすると何故か胸がつきりと痛む。嫁に迎えるほど気に入った人間が死んだあとの神様は、どうなるのだろう。人の寿命は短いものだと、当然のように受け入れて一人で過ごすのか。それとも、また新たな人間を嫁に迎えたりして過ごすのか。


「………先輩にも、そういう相手がいたのかな」


 また、胸が痛んだ。

 それは、彼らが過去に大切な人を失ったかも知れないことに対してなのか、それとももっと別の感情なのか、そしていま『誰』を思ったのか。千鶴にはわからなかった。

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