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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【壱ノ幕】還らずの路
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白蛇様のお家

 玄関を飛び出したところで足を止め、門へと向かいかけた足を反転させた。行き先は家の裏手、空き地との堺にある小さな祠だ。


「白蛇さん、行って来ます」


 しゃがんで手を合わせ、挨拶をすると、今度こそ外へと駆け出した。

 この祠は、家が建つ以前からここに祀られている白蛇の祠だと、不動産屋から説明を受けている。この土地と家に縁があるらしく前の住人も手入れを欠かさず行っており、そのお陰か一財を築いたとも言われている。

 千鶴は特別信心深くはないが、かといって祠やお社、お地蔵様などをわざわざ粗末に扱う性格でもない。なにより家が建つ前からここに住んでいるなら、自分たちが白蛇の元に住まわせてもらっているようなものだ。ならば挨拶と手入れは最低限のお礼だと、前の住人同様きちんとこなしていた。


「えっと……靴を持って職員室、だっけ」


 学校に着いてまず向かう先は、教室ではなく職員室だ。片手に靴を提げて前の学校の内履きに履き替え、プレートを頼りに職員室を探し出す。半開きの扉をノックすると、中から複数の応答があった。


「失礼します。今日からこちらにお世話になる、四季宮です」


 そう言いながら扉を開けると、背の高い女性教師が歩み寄ってきた。長い前髪で顔の右半分を隠し、黒一色の衣装で身を包んだその女性は、教師だと言われなければ女優かなにかだと勘違いしそうな、不思議な色気を帯びている。


「わたくしがあなたのクラス担任の神蛇よ。よろしくね、千鶴ちゃん」

「は、はい、よろしくおねがいします!」


 緊張を露わに答える千鶴を見、神蛇はクスッと口元に笑みを浮かべた。


「それじゃあ、行きましょうか。まずは昇降口で靴箱の場所を教えるわね」

「はい」


 先導されるままついて行き、一年の靴箱前まで来ると、端のほうを指差された。一年A組は千鶴を含めて三十三人となるらしく、一番端の一番下に千鶴の名前があった。


「基本は五十音順だけど、あなたは途中からだから、一年生のうちはここになるわ」


 他のクラスメイトより少し綺麗なネームプレートが示す場所に靴を預けると、神蛇は子供にするように「いい子ね」と言って頭を撫でた。


「もうすぐHRだから、一緒に行きましょう。皆いい子たちだから大丈夫よ」

「はい」


 未だ緊張が解けない様子の、真っ直ぐ伸びた千鶴の背に手を添えて教室へ導く。その道中、見慣れない制服を着た生徒がいると囁く声やあからさまな視線に晒されながら、漸く教室に行き着いた。

 チャイムの音と共に、神蛇に誘導されるまま教室に入る。ガタガタと慌てて着席する音に紛れて、廊下でも聞いたような囁きあう声が聞こえてくる。


「皆、前にも説明した通り、今日から転入生が来ることになったわ。さ、千鶴ちゃん、ご挨拶なさい」

「はい、えっと、四季宮千鶴です。今日からこのクラスにお世話になります。よろしくお願いします」

「席は一番後ろの端っこになるわね。真莉愛ちゃん、千鶴ちゃんをよろしく」


 神蛇が示した場所は、後部扉のすぐ脇、一番後ろの席だった。隣は男子生徒なので、すぐ前の女子生徒に委ねたのだろう。真莉愛と呼ばれた生徒は、金髪に蒼とヘーゼルが混じった不思議な色の瞳をした生徒だ。彼女は千鶴と目が合うとふわりと微笑み、手をひらひら振って見せた。


「千鶴、よろしくです」

「うん、よろしく、真莉愛ちゃん……でいいのかな」

「はい、まりあはまりあです」


 噛み合っているようないないような、不思議な会話をしながら席に着く。

 間もなく授業の時間となったが、教科書もまだ届いていない千鶴は、暫し迷ってから隣の男子生徒に声をかけた。


「あの……教科書、良かったら見せてもらえないかな……」

「あ?……ああ、まだ来てないんだ」

「うん、ごめんね……週明けには制服と一緒に全部届くんだけど……」

「そっか」


 男子生徒はそれだけ言うと、千鶴と自分の机のあいだを詰めてその真ん中に教科書を置いた。


「そうだ。名前、言ってなかったな。俺、大御門伊織」

「伊織くん、だね。ありがとう」


 安堵した表情で千鶴が笑いかけると、伊織は「別に」と呟いて視線を逸らした。


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