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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【間ノ幕】鬼灯高校体育祭!

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晴れやかなりし

 午後の部最初のプログラムは、マーチングバンド部による応援だ。鬼灯高校体育祭の目玉とも言われており、これを目当てに見物に来る者もいるほどだという。


「練習してるところを校舎からちょっとだけ見たことあるけど、凄かったな……本番を通して上から見たら凄いんだろうなぁ……」


 楽器を携えてグラウンドに集合する部員たちを眺めながら、千鶴がぽつりと呟く。


「そんなら、上から見るか?」


 と、頭上から声が降ってきた。見上げるとそこには、半化生の姿をした柳雨が千鶴と桜司を見下ろしていた。


「え……先輩はともかく、わたしもいて大丈夫なんでしょうか?」

「旧校舎に運んだときみたいなもんだ。触れてる対象も認知の外に追いやられるから、ほれ、ずっと桜司に捕まってても、誰もおチビちゃんのことなんも言わないだろ?」

「言われてみれば……」


 いつもなら、学年問わず人気の伊織と一緒にいるだけで遠巻きにチクリと言われるというのに、更に人気で高嶺の花でもある桜司といてなにも言われないのはそういうことだったのかと納得した。


「ずっと抱えて飛んでるのも落ち着かねえし、屋上行こうぜ。狐のも来いよ」

「言われずとも」


 抑々の話、桜司は昼食を終えてから千鶴を一度も離していない。柳雨が上空に攫おうものなら未来永劫恨まれていたことだろう。


「んじゃおチビちゃん、高い高ーい」


 千鶴の目を桜司の手が覆い隠し、柳雨がおどけて言う。次の瞬間には、三人は校舎の屋上に立っていた。そしてそこでは、桐斗がおやつを広げて待っていた。


「あ、来た来た。当分一年生の競技もないし、ここで見よー」


 桐斗はフェンスに腰掛けて細い足を揺らしながら、いつも放課後に駅前で買っているお気に入りのいちごミルクを飲んでいる。手招きに従って桐斗の傍まで行くと、綺麗に整列したマーチングバンド部が眼下に見えた。


「千鶴、始まるよ」


 ホイッスルが鳴り、ドラムパートから軽やかに演奏が始まった。曲に合わせて隊列が変わり、複数の列が交差するように行き交い、やがて上空から見ると校章の形になる。楽曲は今年の流行曲を交えながら大会の課題曲を演奏しているようで、時折観客席から拍手が湧き起こる。

 カラーガードの高いトスに歓声が上がり、キャッチと同時に溜息が漏れる。演奏者と観客が一体となった応援演奏は、初夏の蒸し暑さを一時的に忘れさせてくれた。

 それら全てを上から見ていた千鶴は、瞬きも呼吸も忘れてしまいそうなほど、見事な演奏に魅入っていた。

 演奏が終わり、ドラムメジャーの指揮杖がスッと下ろされ、大きく一礼する。瞬間、グラウンド中に響き渡るほどの惜しみない拍手が送られた。


「……すごい……」

「ねー、すごかったー」


 飲み終わった空のカップを近くにいた柳雨に押しつけながら、桐斗が言う。上機嫌に足を揺らしながら、千鶴の頭を撫でた。


「一応、マーチングと弓道剣道は全国大会常連だからね、うち」

「そうだったんですか……」


 公立ではあるが町内唯一の高校であることと、部活動に力を入れている学校であるということもあり、名が知れている部もいくつかあるようだ。そしてその一つに、伊織が所属していることをいま知った。


「今度、伊織くんが大会に出るとき応援に行ってみようかな……」

「いいんじゃない? あの子なら喜んでくれるよ、きっと」

「はい、次の大会のとき、話してみようと思います」


 桐斗にそう返したときだった。

 千鶴を背後から捕えている桜司の腕に力がこもった。


「先輩も一緒に行きますか? たぶん、たくさん人がいると思いますけど」

「……お主を一人にはしておけぬからな」


 桜司の素直じゃない言い方に、隣で桐斗が呆れて嘆息し、柳雨が苦笑する。ぎゅっと抱き竦められながら、千鶴は擽ったそうに微笑んだ。


「そろそろ戻らないとじゃない?」

「あ……そうですね。団体競技がもうすぐなので……あの……」


 主に桜司へ向けて千鶴が言うと桜司は渋々といった様子で頷き、千鶴の目を隠した。次の瞬間には元いた場所にいて、グラウンドには太く長いロープが三本並んでいる。


「これ、手が縄臭くなるから嫌いなんだよねー」

「じゃあ、先輩は見てますか?」

「んー……千鶴がやるなら出ようかな。こういうの初めてだし」

「先輩、参加したことなかったんですか?」


 意外に思って訊ねる千鶴に、桐斗はいつもの愛想の良い笑みで言う。


「えーだって、僕らが高校に入ったのは千鶴に会うためだもん」

「え……? それって……」

「おーい、千鶴ー!」


 遠くから伊織の呼ぶ声がして思わずそちらを見ると、クラスの列が出来始めていた。桐斗の言葉も気にはなるが、詳しく聞いている時間はなさそうだ。


「……それじゃ、行ってきます」

「がんばれー! ほら、おーじは離す!」


 もの凄く仕方なくといった様子で腕が離れ、桐斗に背中を押されながら千鶴は伊織の元へ駆けていった。


「お待たせ」

「おう」

「千鶴、お昼ぶりです」


 傍には真莉愛もいて、千鶴をうれしそうに抱きしめて迎えた。背の高い伊織は後ろのほうに、背の低い千鶴と真莉愛はほぼ最前列に位置取って、曲と共に小走りで入場していく。学年別クラス対抗綱引きは総当たり戦で、各クラス二試合ずつ行う。最初の対戦相手は隣のクラスのようで、廊下で見かけた程度の、僅かに見知った顔がある。


「本当に行きおったな、彼奴」

「おチビちゃんと一緒に遊べるのがうれしいんだろ」

「……桐斗は向こうか」


 千鶴たち同様、二年生の最前列に並ぶ桐斗を見て、桜司と柳雨がしみじみ呟く。空が破裂するような号砲と共に始まった三学年分の対戦を遠巻きに眺めていると、いままでどこにいたやら、伊月も桜司たちに合流した。


「まあ、子猫ちゃんはオレらに比べたら人間に近いからな」

「学校で先輩として会うなんてトンデモ提案を真っ先に受け入れたのも彼奴だったか」

「確かに、手っ取り早いとは思うが……」


 高校生としていなければ、抑々千鶴が神蛇の件で影響を受けていたことに気付くのも遅れていたことだろう。護るべき相手が高校生なら、高校生として、或いは教員として傍にいるのが一番やりやすいのは事実で、実感として理解しているのだから、尚更だ。


「でもなあ……」

「うむ……」


 話し合いの結果外見年齢で役割を決めたとはいえ、神蛇のみが教師で桜司たち四人が生徒というのは、数千年生きている彼らとしては複雑なものがあるのだった。

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