晴れ空の下で
良く晴れた空に、開幕を告げる昼花火が上がった。
鬼灯高校体育祭は全校生徒が三つの組に振り分けられ、得点を競い合う。組み分けは各学年のクラスで分けられるが、そのままA組などの呼び方ではなく、それぞれ色名がついており、組色の鉢巻きを体の目立つところに着けることが義務づけられている。
上は半袖の体操着にジャージを羽織り、下はハーフパンツという出で立ちで、生徒の波に流されるようにして千鶴たちも校庭に整列した。
宣誓の挨拶は、毎年三年生の中から運動部で好成績を残した生徒が選ばれるようで、今年はサッカー部キャプテンの男子生徒が行った。彼がマイクの前に立ったときに女子生徒のざわめきが微かに上がり、彼の人気を表わしていたようだった。
最初の競技はクラス対抗、男子生徒による騎馬戦となっている。
参加する男子生徒の中から「どうせ担ぐなら女子が良かった」とか「俺らはクラスで一番のチビを獲得したから勝ったな」という声が上がっている。そんな和やかな会話を聞き流していると、どこからか抗議の声が聞こえ、男子生徒の「いってえ!?」という悲鳴と地面に倒れ込む痛そうな音が続いた。
「あれ、赤猫先輩だ」
見れば「一番のチビ」と言った男子生徒に跳び蹴りを食らわせた桐斗が、仁王立ちで憤慨している。
「ギリギリ一番じゃないもん!!」
「わ、わかった、悪かったって」
袖の余ったジャージの上着に、裾を折り返したハーフパンツ、白いハイソックスと、それからいつもと違うポニーテール姿。鉢巻きの結び方には決まりがないため、桐斗は頭上でリボンが出来るような形でヘアバンド風に縛っていた。
「なんだ彼奴、随分馴染んで居るな」
「白狐先輩! 青龍先輩も」
背後からの声に振り向けば、桜司と伊月がいた。二人ともジャージ姿で、桜司は前を開けているのに対して伊月は胸元まできっちりファスナーを上げている。
「柳雨も出るらしい」
「えっ、そうなんですか?」
伊月は千鶴に頷き答えると、グラウンドの奥を指した。そこには、桐斗とは違う色の鉢巻きをした柳雨がクラスメイトらしき男子生徒と談笑している姿があった。
「先輩たちは出ないんですか?」
「いや、俺は……」
「彼奴らを見ているほうが面白いからなあ」
桜司の言葉に同意するように、伊月が頷く。
競技開始を告げるアナウンスが校庭中に響き渡り、応援席の視線がグラウンド中央に集まった。桜司に背後から確保された形で、千鶴も二人の対戦を見守る体勢になる。
「位置について、よーい……」
スターターピストルの乾いた音が空気を震わせ、両チームが一斉に走り出した。勢い余ってつんのめる騎馬や、落馬する生徒などがちらほら見える中、野太い雄叫びと共に両軍がぶつかり合う。彼らの声に負けじと応援席からの声援も熱く、時折応援している生徒の勝敗に一喜一憂する黄色い声もあがっていた。
「赤猫先輩、乱戦に強いですね……」
遠くから見ていると、土煙が上がる中で四方八方から迫る手をすり抜けては、反撃の一手で得点代わりの鉢巻きを奪っている。背後からの手にも敏感に反応する姿はまさに野生の猫そのもので、気付けば彼の手には、相手チームの色をした鉢巻きが大量に確保されていた。
「おーい! 女子に負けてんじゃねーぞ!」
「タマ取ったれー!!」
桐斗の活躍に対して、相手チームの応援席からヤジが飛ぶ。それに舌を出して答える余裕を演じながら、襲ってきた相手を反撃で仕留めて見せた。
「柳雨も負けておらぬが……あれはいいのか」
「スポーツマンシップとしては……どうなんでしょう……」
柳雨はというと、乱戦状態の中で横から取られそうになると風を起こし、目眩ましで隙を作って逃げ出すという手を使っていた。中央で巻き上がっている土埃の三割ほどは彼の仕業ではないかと思えてならない。
やがて終了を告げる号砲が二回打ち鳴らされ、最終的に残っていたのは桐斗と柳雨を含めたほんの数人だけだった。得点の計算が終わると、鉢巻きが持ち主たちへ返されていく。数分ぶりに地面に降り立った桐斗がチラリと千鶴たちのほうを見たかと思うと、顔の傍でピースサインを作りながらウィンクをした。
「ちーづるーっ!」
上機嫌に正面から突撃してきた桐斗が、桜司を巻き込んで千鶴に飛びついた。千鶴は桐斗の突撃を受けても全くふらつかない桜司の頼もしさに内心感謝しつつ、抱き返して「お疲れさまです」と労った。
「僕の勇姿、見ててくれた?」
「はい、しっかり見てました。格好良かったです」
「えへへ、やったー!」
「あーくっそ、負けたー!」
猫が懐くときの仕草のように頭をすり寄せながら全身で喜ぶ桐斗を、千鶴が撫でる。その後ろから悔しそうに笑いながら柳雨も合流し、部員が揃った。
「あれ? でも、黒烏先輩も残ってましたよね?」
「いやあ、そうなんだけどなー」
「僕を仕留めたら柳雨の勝ち、僕が残ったら僕の勝ちって遊びだったからねー」
「チキンプレイをしたらその時点で負けっていうルール付きでな」
白熱していた理由はそれだったのかと、観戦していた三人は納得した。
「そうだ、千鶴はお昼ごはん真莉愛ちゃんたちと?」
「はい、その予定です」
「じゃあさ、僕その隣で食べていい?」
「え、はい、それはもちろん構いませんけど……」
桐斗の申し出に答えた瞬間、背後から抱き竦めている桜司の腕に力がこもった。
「えっと……白狐先輩も一緒に食べますか?」
「………………」
応答の代わりに、千鶴の肩口に桜司の顔が埋まる。宥めるように頭を撫でていると、いつどこから持ち出してきたのか、伊月が桜司の後頭部をリレー用のバトンで叩いた。




