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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【弐ノ幕】カミサマポスト

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矛盾が六つ

「巫山戯るな!!」


 千鶴が百鬼夜行部の部室扉を開けると同時に、桜司の怒号が飛び込んできた。自分が言われたのかと思い思わず足を止めるが、桜司は部屋の奥を向いている。視線の先には同じく怒りとも呆れともつかない表情で桜司を見据える伊月がいる。

 千鶴に気付いた桐斗が人差し指を口元で立てる仕草をしながら千鶴を手招き、桐斗の傍らの椅子を引いて座るよう促す。何とも言えない鋭い緊張感に包まれながら着席し、視線でなにがあったのか桐斗に訊ねた。

 が、桐斗が答えるよりも先に、桜司がその答えを叫んだ。


「冗談ではない! 千鶴を囮にしようなど、よくも言えたな!!」

「冗談のつもりで言ってはいない。……忘れたのか。俺たちの役目は特異点の保護と、怪異の浄化だ。他に術はないだろう」


 経緯は全く不明だが、千鶴は喧嘩の中心は自分にあるようだと理解した。それならと立ち上がり、桜司の傍へ歩み寄る。


「白狐先輩」

「何……っ! 千鶴!?」


 桜司は千鶴が来ていたことにも気付いていなかったらしい。珍しく目を丸くして驚く桜司を、珍しいものを見たような気持ちで見上げながら、千鶴は彼を宥めるべくキツく握り締められた桜司の手を優しく両手で包んだ。


「えっと、いま来たばかりなのでよくわからないんですけど、わたしに関わることならわたしにも聞かせてください」

「ぐ…………仕方ない……だが我は、それでも反対だからな」


 今し方のやりとりを見た桐斗は、千鶴も桜司の扱いに慣れてきたな、と思ったが再燃されても面倒なので胸の内に留めた。


「以前、お主にも少しだけ荒魂の話をしただろう」

「はい。神道で言われているのとはちょっと違うんでしたよね」

「然様。我らの言う荒魂とは堕ちたる霊、魄のことを指す。祀られなくなった神や死後誰にも弔われず忘れられた死者などがなりやすい」

「そーゆーのってね、だいたい幸せだった頃を取り戻そうとしたり、仲間を増やそうとしたり、つまり何らかの方法で生きてる側に影響を与えてくるんだよね」


 説明を受けながら、先の神蛇小夜子の出来事を思い返してみる。彼女は守るべき者に祠を穢されたせいで堕ちかけた。嘆きと哀しみによる暴走。あのまま放置すればいずれ完全に堕ち切って、祟りを振りまく存在となってしまっていた。

 わざわざいま説明しているということは、その堕ちた魂が関係あるのだろう。


「その……荒魂が、いまなにかに影響を与えてるってことですか?」

「まーね。千鶴はカミサマポストの噂って知ってる?」

「えっ、それがそうなんですか?」


 具体的な語が一つもない千鶴の脊髄反射的な問いに、桐斗は笑って頷いた。そこへ、柳雨と神蛇が揃って入ってきた。


「おーい、話はまとまったかー?」

「まーだだよー」


 桐斗が柳雨に答えると、桜司の機嫌がまた少し悪くなった。よく見れば柳雨の手には女子中高生が使うような可愛らしいメモセットがある。


「カミサマポストがそうだとして、どうしてわたしが出てくるんですか? 今回はまだなにもしてないような……?」


 前回は敷地に神蛇の社があったことと、助けを得られそうな存在に見つけてもらえる可能性にかけて千鶴が中継役に使われたが、今回は強いて言うなら飛び降りを目撃した程度で、祟りの印のようなものもなければ悪夢も見ていない。疑問に思って訊ねると、桜司は千鶴を背後から抱きしめてつむじに顔を埋めた。


「……伊月のヤツが、そのポストを引きずり出すために千鶴に手紙を書かせようなどとほざきおったのだ」

「そうでもしなければ、止める術がない」

「まあねー。アイツ、こっちから働きかけないと出てこないタイプだから」


 伊月が冷静に答えると、千鶴を抱え込んでいる桜司の腕に力がこもる。恐らくは彼も理解しているのだろう。他に手段はないのだと。だが、心がそれを許さないのだ。


「それしか、方法がないんですよね……?」

「…………だが、それでは……」


 渋る桜司に、呆れたような嘆息が横から届く。誰と言うまでもなく伊月だ。

 と、それまで黙って見守っていた神蛇が前に進み出て、口を開いた。


「千鶴ちゃん、わたくしの件を覚えているかしら」

「え……と、はい……」


 神蛇は千鶴を優しい眼差しで見つめながら、背後の桜司を諭すように話し始めた。


「わたくしのときも、祠をただ綺麗にするだけでは解決にはならなかったわ。祠と魂の浄化が行われて、初めて解決出来たことなの。今回のことも同じよ。旧校舎のポストをただ壊すだけでは何の意味もないの。そうね……千鶴ちゃんの痣をお化粧で隠す程度の誤魔化しにしかならないわね」

「しかもあのポスト自体怪異が具現化したもんだから、壊してもすぐ直っちゃうしね」

「それは……本当に、解決とは言えないですね……」


 神蛇自身も忘れたいだろう過去を引きずり出してまで諭す姿に、桜司も押し黙った。


「千鶴は、怖くはないのか……?」


 絞り出すような声で、桜司が呟く。

 千鶴は自身の体を抱き留めている桜司の腕に手を添え、考えながら話し始めた。


「全然へいきかって言われたら、ちょっとは怖いです。ほんの二週間くらい前までは、なにも知らずに生きて来たので……でも、囮をするってことは、準備して挑むってことなんですよね……? 知らない間に怖いことになっているわけじゃないなら、わたしはへいきです」


 そこまで言ってから、千鶴は部室内の全員を見回して微笑んで見せた。


「わたし、先輩たちのこと信じてますから」


 言うと同時に桜司の腕に一層力がこもり、千鶴は内心囮どうこう以前に、感極まった桜司に絞め殺されそうだと思った。

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