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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【弐ノ幕】カミサマポスト
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依り代四つ

 英玲奈が小学校に着くと、事故を目撃してしまった児童たちの動揺が既に教室だけでなく他学年まで蔓延したあとだった。英玲奈のクラスは二年一組で、被害者の児童とは別クラスだが、不運にも飛び降りる瞬間を目撃してしまった児童がいたためにお通夜の雰囲気が教室内を満たしていた。気付けば、外は雨が降っている。重苦しい空の色が、余計に教室内の空気を沈鬱に染めていた。

 英玲奈が席についてランドセルを下ろすと、クラスメイトの女子が近付いてきた。


「あ……英玲奈ちゃん、二組の鈴木さんが……」

「知ってますよ。わたしも現場にいましたから」

「英玲奈ちゃんは、怖くないの……?」

「……わたしは、姉さんと一緒に登校していましたので」

「そっか……ひとりじゃなかったんだね……」


 哀しくない。怖くない。何とも思わない。そんな素振りを見せれば、異端分子として群からはじき出されてしまうことをよく理解している英玲奈は、クラスメイトに空気を合わせて強がっているふりをして見せた。


「それより、ゆなさんは大丈夫でしたか?」

「あたしはへいき。ギリ通り過ぎてたから。でも……」


 そう言って、ゆなと呼ばれた少女は斜め後ろへ視線を送る。視線の先には友人たちに宥められながらも涙を止められずにいる少女がいる。


「ひまりちゃんは、誰かが指差したときにつられて見ちゃったらしくて……」

「……そうですか」


 事故の瞬間は朝の投稿時刻真っ只中で、英玲奈たち以外にもたくさんの児童がいた。恐らく他のクラスでも彼女のような児童がいることだろう。

 鐘の音が学校中に響き、各教室に教師が到着する。英玲奈のクラスである二年一組の担任も、憔悴した様子で入ってきた。


「皆、もう知っていると思うけれど、二組の鈴木さんが今朝亡くなりました」


 担任教師の一言で、教室内の啜り泣きが一層ひどくなる。一組の担任は若い女性で、殆ど新任同然の教員だ。このような事態は初めてでどう対処すればいいかもわからず、今朝の職員会議で先輩教師や教頭に言われてきたことをどうにか伝えるだけで精一杯といった様子だ。


「このあと体育館で全校集会を行って、午前中の授業と給食が終わったら午後の授業はお休みで下校になります。皆さん、廊下に並んでください」


 ある児童は泣きながら、ある児童は俯いたまま友人を慰めながら、重苦しい雰囲気を背負った列が廊下に出来る。

 体育館での集会では、今朝の担任からの連絡事項に加えて、これから暫く集団登下校するようにということと、方向が異なりそれが難しい児童は、親に送迎してもらうことなどが告げられた。それと、鈴木紗愛は飛び降り自殺の方向で捜査が進んでいるということも、最後に言い添えられた。


「今日は寄り道せず真っ直ぐ帰るように」


 言われるまでもなく、半日授業をいいことにどこかへ遊びに行こうという元気のある児童はいなかった。

 二年一組と二組は、隣同士の列だ。いまは身長順に並んでおり、小学二年生にしては背が高いほうである英玲奈は後ろから二番目に並んでいる。前方の児童が良く見渡せ、二組の鈴木紗愛と連んでいた二人の後ろ姿も、彼女らがいじめていた少女の縮こまった姿も見える。


(……こんなつもりでは、なかったんでしょうけど)


 英玲奈の目には、いじめられていた少女の影が件の二人の影を逃すまいと捕えている様子が、児童の列を透かしてはっきりと映っていた。

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