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Phantom pain

[病院]

病人を収容して、診断や治療をする設備のある建物。




××××




 治療専用に建てられている建物のフロアから中庭を見下ろして、リザは深く息を吐いた。

 額と右目。左肩と左手首の辺りには包帯が巻かれ、右足は木を添えられながら固定されている。



 全治二ヶ月



 怪我自体はそれほど珍しいことではない。全身にわたる打撲や捻挫にとどまらず、骨折などの怪我は事件が起きれば日常茶飯事だった。

 リザの心を暗鬱とさせるのは、負った怪我などではなく。




××××




『私が、ここに存在することを喜んでいたとでも本気で思っているの、エリザ?』


 リザの目の前で悠然と微笑んでいるのは、リザの“姉”であり目標としてきたただ一人の女性。


『ミ……サ……』


 呆然と零れた言葉にミサは眉を寄せた後、どこか酷薄な笑みを浮かべた。


『その名前で呼ぶの、やめてくれる?』

『っ』

 微笑みながら、ミサはリザの左肩の傷を抉るかのように踏みつけた。

『いいこと教えてあげる』

 妖艶さも感じさせるような笑みを浮かべたミサに、リザはどこか呆然としたような視線を向けた。

『私はね、ずっと私たちの父……“邨木ムラキ司狼シロウ”という男を恨んでいたのよ』




××××




「……どうして、ミサ」

 窓ガラスに額を押し付けるようにして、リザは息を吐き出すかのように囁いた。


 超能力開発研究所

 その中でも、能力の開花率が高い者たちの定期健診中に起きた悪夢―大量虐殺。



ツキン...



 リザの胸が、不意に痛んだ。

 否―“あの時”にリザに付けられるはずだった胸の傷は、リザを庇ったミサが負った。

 ミサの胸にはあの時から、今も消えない長い傷痕が残っている。


 この痛みは所詮、幻覚痛ファントムペイン



 どこから間違えてしまったのか、どうしてこんな風になってしまったのか。



 優しい姉だった。シアとは違い、半分しか血は繋がっていなかったけれど。産みの母が同じで、本当の姉妹のように育った。



「……どうして」



 無意識のうちに包帯ごと左腕を握り締めて、リザは絶望的に呟いた。

「ミサ……」



 リザの苦しみに、返る言葉は何も無いけれど。

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