彼と彼女の関係
「叫んだって、何も変わらないことくらい理解しているのだろう?」
感情のこもらない冷たい声で告げられた言葉を理解する前に、少女は言葉を告げた少年を睨み付けた。
「……」
「俺を睨んだところで、何が変わるわけでもないだろ」
肩をすくめて呆れたような声を出した少年に、少女は少年と同じくらい冷たい、泣き叫んで掠れてしまった声で零した。
「あんた、やっぱり“潜研”の人間よ……能力の開発専門で、人の気持ちなんてこれっぽっちも理解してない」
「なら、お好きなように」
少女の言葉に特別反応を示さず、少年は呆れたように溜息混じりにそう告げると、その場を後にした。
「人でなし」
少年の背中に向かって、少女は吐き捨てた。少年は、その言葉を耳にしても眉一つ動かすことなくその場を後にした。
××××
「また、やってる」
泣き崩れる少女を放って歩いていた少年の背に、先ほどの少女とは異なる少女が声をかけた。
夕暮れの空に、少女の漆黒の髪がふわりとなびく。染めているのだろうか、髪の一部、毛先に程近い場所は日の光を受けて金色に輝いていた。
「……リサ」
「不器用ね、タツキ」
くすくす、といいたいことだけを告げてリサはただ笑った。
「彼女、知り合い?」
ひとしきり笑って気が済んだのか、目尻にたまった涙を拭いながらリサは首を傾げた。
「……」
「潜在能力開発研究所のことを知っているようだったから」
眉を寄せた少年―樹生の様子に気づいたのか、リサは敢えて言葉にした。
それでも樹生のほうに視線を向けないあたり、彼女がその話題に対して、それほどの興味を抱いていないことが伺える。
口調も、答えるも答えないも樹生の自由だ。そんな風に言っているかのようだ。
「俺は知らない……潜研には、あの程度の女なら吐いて捨てるほどいた。男のほうも」
「ま、そうだけどね」
興味なさ気に告げた樹生の言葉に、期待をしてはいなかったのか、リサは肯くと樹生に視線を向けた。
「でも、それが“任務”に支障をきたすとしたら話は別。……言わなくてもわかっていると思うけれど」
「当たり前だ」
淡々と告げるリサの言葉に、樹生も当然だといわんばかりの態度で頷くと、二人そろってその場を後にした。
ただ、その場所には少女の泣き声だけが残った。