07.(それだけのモノ)
◆Present day 7
──一緒に出ないのですか?
なんで俺が。ここの連中は皆、優秀だぞ。人フロも適切に作ってある。
──見せしめはしない、とのことでしたが。
うん。しない。
──何も?
うんにゃ。全員、〆るよ。殺すよ。でも、我々がやった、と分かるようなことはしない。大方、仲間割れでもした、と云う体を取るってだけ。
──はぁ。
なんか面倒いじゃん。こっちに火の粉かかるの。でも、ひとりでも逃がしたらバレるじゃん。だから全員、〆るの。どうせ山賊なんだし。誰が損をするの? あ、俺たちが損するンだよな。山賊退治の報酬、どうにか引っ張ってこないと牛にドヤされる。
──ところで、このあいだの続きですが。
ああ、もう。面倒くさいなぁ。でも約束しちゃったからなぁ。手短に頼むよ?
──善処します。襲撃は、いつも二日目なのですか?
色々あってな。まず、いい奴隷から売れていく。これはいいな? うん、いいな。で、あえてここで残ったもの、と云うのがミソなのだ。
──醤油でなく?
味醂でもない。ハケなかった者は、もっと悪い環境に身を落すと震えておる。理不尽には限りがないからな。で、ウチらで余りモンを引っとらえ農奴にする。メシを食わせ、農地に放つ。
──炊き出しでは?
いや、働かせるンだから違うってば。奴隷は奴隷のままなんだってば。でも、メシ喰わないと働けないンじゃい。働かせるのに、メシも喰わしてやってるだけじゃい。
──慈善事業ですね。
慈善とはな、ククク……。地獄への道は善意で舗装されているのだ……ククク……。
──善意って認めましたね?
それはそれ、これはこれ。だいたな、あいつらも大概だぞ、メシが不味いだの旨くないだの。
──同じ意味ですね?
まぁ、元気でやってもらわねば。
──それから?
同族で憎み合うよう仕向ける。
──おお……なんと恐ろしい!
早々に買われていったヤツへの憎悪もあるさ。よく働くぞ、めちゃくちゃ儲かるぞ! フハーハッハッ!
▼フラッシュバック 7
「我々は同じ言葉を使う」
ファラリスは食い下がった。「こうして対話をすることができる。未来に希望を見出せないのか」
「愚問だ。徒労と云うのだよ、世迷言よりなお悪い」女剣士は取り合わなかった。
「わたしは今日、この場で、あらゆる未来に対する危険を、この刀でもって切り捨てる。絶ち切る腹積もりである。いいか、牛頭。かって私の父母の父母の父母が犯した間違いは、相手の子を残したことにある」
「お前たちは、……何だ?」
「遠い昔、私たちが二本足で森を出た日は、祝福ではなく呪われた日なのだよ、牛頭。分かるかい?」
女は相手の言葉を待たずに続ける。「賛同も反駁も、同情も憐憫もいらない。ただの事実だ。私たちは、二本の足で立ち上がり、森を出た。ただ、それだけのモノだ」
▲フラッシュフォワード 1
「よう、ロジャー。お前は変わらないな」
「ゴール。お前は老けたな」
中天から秋麗の陽光が降り注いでいた。
ロジャーとゴールは、フィストバンプ、拳と拳を突き合わせた。
銀色の髪と髭のゴールは、口の端をにやりと曲げ、「いぶし銀の魅力ってヤツよ」顔に深い皴が刻まれた。「ルーシィは?」
「来ない」
「フム?」
「いや、来れない」
「そりゃ結構」
「そうだな」
「居たら居たで鬱陶しい」
「そうだな」
「居なけりゃ居ないで物足りない」
「そうだな」
「意地の悪さは隠れみのなんだろ?」
「そうだな」
ふたりは視線を互いの足下に落した。不意に影が被る。
顔を上げれば、兜を手にした鎧姿の女騎士がいた。「はぐれ者のカネの亡者は、こちらでしたか」
「イブキ・メブキか」
壮年の女騎士は頭を下げた。「我が姉、ヤマブキがお世話になりました、マイティ・ロジャー」
「ああ」ロジャーは頷く。「残念だった」
「ええ、全くです。それで──あなたがいると云うことは、」
「ああ」ロジャーは頷く。「そうだ」
メブキはキッと強い視線を向け、「お初にお目にかかります。やっと逢えました、拳銃使いのゴールデン・ゴール」
「う、うん?」
「姉がお世話になりましたァ!」
「はい!?」
「姉を誑かしたのを許す気はありません。でも理解はしようとは努めます」
「あ、ありがとさんよ……」
「勘違いしないで下さい。誑かされた姉も姉です。揚げ句、子供を置いて自分だけさっさと彼岸に渡るなどと……」
「子供!?」
「会わせませんよ! もうおっきくなってますよ! 立派に育ちましたよ! なんだか反抗期に入ってますよ! 自慢の子ですよ! ……でも、あの子に父親はいないのです!」
「おい、ちょっと!?」
「呼集します! さっさと中庭に、集合場所に移動してくださいね!!」
メブキは、どすどすと足を鳴らしながら去っていった。
その背に、「9X」と、ロジャーはのんびり言葉を投げた。
「なんだってンだよ」ゴールがボヤく。
「似てるような似てないような姉妹だな」ロジャーは素直な感想を口にした。
「いや、似てるだろう?」
ロジャーは、ぶらぶらと歩き、地べたに座って二丁の銀色の拳銃を、手持無沙汰に玩んでいる赤い肌の若い女の前に立つ。「お前もカネに釣られたクチか」
「マイティ・ロジャー?」女ガンマンが訝しげに見上げる。「さっきの隊長さんは、何を喚いていたの?」
ロジャーはそれに答えず、「初めまして、じゃあないな。通り名は?」
「シルバリー・ローズ」立ち上がって、二丁拳銃をホルスターに収める。「アナタの噂はよく聞いている」
「ほう?」片方の眉を上げ、「良い噂か」
「どちらかと云えば最悪……災厄? ですかね」
「噂は嘘が混じる」それからふと、付け足すように、「ゴールはいい教師だったか?」
ロジャーの問いに、ローズは少し驚いた様子で、「……厳しい師匠でしたよ」伏し目がちに答えた。
「それは自慢していい」ロジャーは云った。「俺とは、お前がちんまい頃に会ったはずだ。忘れたか?」
ローズは形の良い顎の下に手を添えて、これまた形の良い眉を寄せる。
ふと、何かに思い当たったようで、しかし自信無さげに、「……銀の馬?」
「村はどうなった」
ローズは、寂しげな笑みを口に浮かべた。「私に帰る場所はありません」
「そうか」
「あと数年もすれば、私のような赤い肌をした人々のことは忘れられるでしょう」
「そうか」
「世界はそうして均されていくのだと思いましたよ、マイティ・ロジャー」
「いっときの夢だ。また、互いに剣先を向け合う間までのことだ」
「でも、今暫くはその心配をしないでいいのなら、少しは価値のあることでないでしょうか、勇者・ロジャー?」
「分からんね」ロジャーは云った。「俺には分からん」