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12.(世界が煙る)

   ◆Precent day 12


 どうやら寝入ってしまったようだ。

 見ていた夢の記憶は、早くも朧になっていく。


 ファラリスは、そうっと殺した気配を感じたが目を開けなかった。

「どうした」


 エルフの娘はファラリスのそばに立ち、「坐っていい?」訊ねてきた。


 依然ファラリスは目を閉じ、僅かに躰を動かした。


 小柄なエルフがちょこんと坐る。

「痛む?」


「いや」云いかけ、「ああ」素直に認めた。


 クリムの指先が角のあった場所に触れた。

 ファラリスは好きなようにさせていた。


「ごめんね」クリムが云った。「ごめんね、ファラリス」


「謝るようなことでない」


「あの時、あなたが来てくれたから、」


 違う。そんなことはない。我々、〝ナイトハイク〟は出遅れたのだ。


 それが心に刺さっている。

 杭のように刺さって抜けない。


「ファラリス」

「なんだ」


「後悔してる?」

 どうだろうか。「分からぬ」


「ならやはり、わたしの所為」


 ファラリスは目を開け、小さなエルフの瞳を真っ直ぐ見つめ、「違う」強く云った。


「違わない」


 ファラリスは小さなエルフの手を取り、「そんなことを考えてはいけない」


 クリムは俯き、握られた手に視線を落した。


「自分を許せなくなる。何かを恨み、呪いながら生きることに、意味は無い」


「ファラリス」

「どうした」


 クリムは屈んで、角があったところに顔を寄せ、舌で撫でると、そっと唇を押し付けた。


「ファラリス」

「なんだ」


「ファラリス」

「だからなんだ」


「ファラリス」


 声が滲んでいた。だからファラリスはエルフの顔を見ようとしなかった。


「ファラリス」

 小さなエルフは腕を首に廻し、抱きついてきた。


「ファラリス」

 涙で濡れる。ファラリスはエルフの背を、大きな手でそっと慈しむように撫でる。


「ファラリス。ファラリス。ファラリス」


 小さなエルフは、かそけき声で、何度も何度も名を呼んだ。


   ▲フラッシュフォワード 4


 町が燃え、世界が煙る。

 熱風が、全身を焦がした。


 陽はとうの昔に沈んでいたが、空は依然、朱けに染まっていた。

 炎が夜空を舐めていた。


 城が音を立て崩れ落ちた。

 種族を超えた者たちの間で、悲鳴と呻きが広がった。


「陛下……」

 女騎士ト・モエは、力なく膝を突いた。


 傍らに立つ王女は、唇を真一文字に結び、燃え上がる王都を見据えていた。


 女騎士の視界が滲む。


 相打ちではない。

 負けたのだ。


 その事実に、女騎士は涙した。

 我々は──負けたのだ。


 すい、と王女は近衛の女騎士から離れ、燃える都を背にして立つ。


「国王陛下が崩御されました」凛として云った。「これより、わたくしは女王として即位します」


「姫さま、」


「千年の歳月が王国を作ったのならば、千年の歳月を費やし、国を興します」


 彼女は近衛の女騎士に微笑み、「それはつまり、これまでと変わらない。そうでしょう?」


 女騎士は濡れた瞳で見上げ、そして頭を垂れた。


「その通りであります」声を振り絞った。


「良かった」


 屈んで、騎士の剣に手をやって。

 鞘から抜いて立ち上がる。


 炎を背負って大地に立つ。

 大地に剣を突き立てる。


「ここに我が帝国の建国を宣言する」


 それから七日七夜、空と大地は燃え続けた。


 ─了─


   ◆Present day XX


 発掘調査:於・廃都

 今日こんにちに至るまで復興の痕跡・記録は見つかっていない。

うら若き女騎士ト・モエ、魔王退治にいざ参る!(参った)

★オークと勇者と静かな森

https://ncode.syosetu.com/n1764eh/

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