闇駆ける
_____星が一つ生まれた。
濃い霧の中に小さな黒い二つの影が生まれた。
馬の蹄の音でさえこの濃密な霧に吸い込まれそうだ。急いでいるのだろう。鞭を使って馬を急かしている_______二頭の馬の主たちは黒いマントを羽織りまるで死神が舞い降りたようにも見える。
二つの黒い影は霧を切って進み小さな門の前で止まった。
その小さな門の前では、でっぷりと太った男がぽつりと立っている。男の隣には息子だろうか。男の後ろに少年が恥ずかしそうに隠れている。
男は、二頭の馬の主を見ると人の良さそうな笑みを向けながら丁寧にお辞儀をした。
「ささっ、こちらへどうぞ。こらルカ!ぼおっと突っ立ってねえでお馬をお連れろ!!」
ルカと呼ばれた少年は、男に小突かれて半ば這い出るようにして馬の手綱を引いた。
小さな門をくぐると質素ながらも住みやすそうな石造りの家が見えてきた。
二頭の馬の主は、黒いマントを翻しながら地面に降り立った。
「何日か__泊まらせて頂きたい・・・もちろん、食事代・・・宿泊代はこちらが払う」
「へぇ___承知しましたです」
あの人たちの身体にはおいらたちと同じ血が流れているのかな。___もしかして本当に死神だったりして・・・・
「ルカ!!!早くしねえとぶん殴るぞ!」
男が、大きな拳を上げたのでルカはまるで放たれた矢のように早く馬のもとへ向かった。
馬は疲れているらしく酷く機嫌が悪い。ルカは力を込めてやっとこさ馬小屋に運んだ。
馬小屋を出ると辺りが霧で覆われていた。
深い_______深い_____________深い・・・霧・・・
こんな霧________始めて見た。
少年は目をぱちぱちさせ濃厚な霧に触れてみた。まるで朝、母さんが入れてくれるミルクのようだ。
指が一本濃い霧の中に消えた。もっと奥に入れてみよう______少年はそう思い腕を濃厚な霧の中に沈めた。
面白くなって少年は、手を出したり入れたりした。
声が聞こえて来た____遠くから微かに聞こえてくる・・・・段々・・段々・・大きくなる・・・・まるで悲鳴のような・・鳴き声のような・・・大気を引き裂く声_______________
馬たちが怯えている。
何かが____何かがおいらの霧の中にある手を掴んでいる。
霧の中に・・”何かいる”・・・
ひんやりと冷たいその手は少年の心をだんだんと凍らせていく。
________あの二人・・・・やっぱり彼らは死神だったんだ。
______________奴らを連れてきてしまった。
卑しい暗闇の存在である普段心にも気に留めない_____奴ら・・・・
掴まってしまった!!!!______掴まってしまった!!!!!
少年は濃厚な霧に吸い込まれていった。