第1話 静かな湖畔の 小屋の外から
ほんの少し前に昇ったばかりの、真っ白に輝く太陽が照らし出しているのは、鮮やかな緑に覆われた、巨大な平原。
地面のほとんどが、足首にも届かないだけの柔らかな草に覆われて、そんな草の生えない場所には、剥き出しの土色が空を見上げている。
少し辺りを見渡せば、茶色の木々が伸び、灰色の岩場が点々としていて、それらがこの広い平原の、ちょっとした装飾の役割を担っている。
その向こうまで目を見張ったなら、そんな木々が密集している場所。林や森の姿も見えて、川や泉の青色が光る。
そんな、鮮やかで、美しい自然に囲まれた空間を、年若い三人組は進んでいた。
ズリ、ズリ、ズリ……
三人組の内、最前列を歩いているのが、長く伸ばしすぎた前髪で、上半身の半分や、顔のほとんどを隠した、髪も、服も、靴も、全てが黒い、背の低い少年。
その後ろに、剣を二本腰に下げ、青いティーシャツを着た背の高い少女と、白のワイシャツの上に緑の皮ベストを羽織った、弓矢を背負うスカートの少女。
二人が並んで、少年の後ろを進んでいた。
ズリ、ズリ、ズリ……
ここで敢えて、前を行く少年――リアが、歩いて、と言い、後ろの少女二人――フィールとレナが、歩いて、ではなく、進んで、と表したのには、理由がある。
今この瞬間、確かに三人は、前へと進んでいた。
しかし、少なくとも今「歩いて」いるのは、リア一人だけである。
「……ねえ、リア」
「……ん?」
そんな事実に堪りかねたフィールが、前を歩くリアに声を掛けた。
「その……ここまでしてくれなくても、普通に歩くから……」
「気にするな。昨夜から寝てないんだ。寝られるうちに寝ておけ」
フィールに対して、リアはいつもの調子の、ボソリとした声で返事を返した。
「いや、それは、そうなんだけど……」
「……まあ、臭うし、これだけ揺れてたら、寝るのは難しいだろうけど……」
(違う、そうじゃない……)
事実の指摘に、フィールは内心そう思いながらも、口を閉じてしまう。
レナは、元より何も言い出せない様子で座り込んでいる。
リアの言った通り、ついさっきまで生きていた、巨大な二頭のイノシシの毛皮は、獣臭さに泥臭さ、血生臭さ等、不快な臭いが染みついている。
おまけに、両手に一頭ずつ握ったそんな物の上に乗せられて、引っ張られ、引きずられていては、下がいくら滑らかな草地でも、振動は生じる。
臭い上に、揺れていては、眠るのは難しい。当たり前だ。
だが、二人が感じているのはそんな現実ではない。
誰かに見られたらという羞恥心と、リアという子供にこれだけの負担を強いていることへの罪悪感と、負担を強いざるを得ない、リアに比べての自身の貧弱さ。
それらもろもろの負の感情である。
(何でこんなことに……)
三人で村を出たのは、まだ月が高く昇っていた頃。そんな時間の中、リアが歩き、その後ろへ、ただついていく。
特に考えも、会話さえも無くそれを続けていくうち、月は沈み、夜は明るくなり、やがて、太陽が顔を出した。
その後も延々、リアは疲れを見せず歩き通していたが、その後ろへついていく二人は、徹夜と疲労のせいで、やがて限界が来た。
それを正直に話すと、リアは休憩を提案し、休むことになった。
二人が休憩している間に、朝食として、巨大なイノシシ二頭を狩ってきて、少年少女三人には少々重い朝食を振る舞った。
その直後には、たまたま目の前にやってきた、剣やらナイフを持った三人の暴漢がカツアゲしてきたのを、三人とも鉄靴を履いた蹴り技のみで圧倒し、最後に刀で武器を破壊して脅すというお決まりのパターンで、逆にカツアゲしてしまった。
奪った三つの財布から、中身の金は公平に三等分し、腹も懐も膨れたところで、先行きの見えないこの旅にも多少の光明が見えたのだが……
ズリ、ズリ、ズリ……
そもそもリアは、休憩する気など無いらしい。
どこへ行きたいか知らないが、とにかく遠くへ、そして早く、村から離れたいらしい。
そのために、二人を休ませつつ、村から離れる手段として、食べ終わったイノシシの毛皮をソリ替わりとして有効活用していた。
そして、そんな状況を快く思わないのが、誰あろう、運ばれている二人である。
(確かに、徹夜で歩き通しだから疲れてるけど……長旅になるなら、楽ができるに越したことはないけど……だからって……)
疲れていると言っても、何もリアに対して、これだけの負担を強いるほどでもない。普通に歩くことくらいはできるし、戦うことも一応はできた。
そんな二人のことを、リアは不必要に気遣い、こうして運んでくれている。
(……いや、気遣ってくれてるっていうより、ただ立ち止まりたくないだけ、なのかな……)
自らの手で引き千切ったことで、前や横に比べてすっかり短くなった後ろ髪を揺らしながら、ひたすら前へ進む、小さな背中を見ながら思う。
優しくて純粋で、なのに、誰よりも強過ぎる力を持ってしまった少年の背中は、ひたすら細くて小さくて、弱々しかった。
「あれか……」
引きずられながら、聞こえてきたリアの声に、二人とも視線を、足もとから正面に向ける。そこから見えた景色に、二人は同時に息を吐いた。
「ルオーナ湖だ」
「ルオーナ湖……て、危険地帯じゃない!」
「湖に入らなければ大丈夫だ」
木々と平原の緑と、湖の青。早朝の晴れ渡る空の下に広がる絶景。
そんな景色に、ジッとしていたレナは、二人の会話も聞かずイノシシの毛皮から立ち上がった。
「おい……」
リアの呼び掛けを無視しながら、白い太陽を反射させる水面へ走る。
「ちょうど喉乾いてたんだよね……」
景色への感動と、喉の渇きから、水際に立ち、水面に手を伸ばそうとした……
その時、突然両手が水面から離れた。
かと思えば、足が、体が宙に浮き、地面から遠く離れた。
直後、水面が、ザバァッと、大きな音と水しぶきを上げた。
「村の連中や、学校でも習ったろう。ここは危険地帯だ」
その声に振り向くと、リアは右手に長刀を握っている。
その切っ先を、レナのシャツの、襟に引っ掛け、持ち上げていた。
そんな刀を動かし、レナは優しく地面に下ろされる。代わりにリアが水際に立った。
ぽちゃり、と水面に長刀を突き立てる。すると、その水面は赤く濁った。
「これって……」
レナの混乱をよそに、刃が持ち上がる。
その先端には、刀より遥かに巨大な物が刺さっていた。
見た目は魚にも見えるが、丸く大きな頭に対して、胴体が蛇のように長い。焦げ茶色の硬い鱗が全身を覆っていて、ヒレは先端が獣の爪のように尖っている。
口は大きく、鋭い牙を光らせ、既に光は無いが、見るからに凶悪な目を見開いている。
「『水リュウ』の、『湖生種』だ。この湖には大量に棲み着いてる。今のお前みたいに、水を飲みにやってきた動物を食うために、水辺を見張ってる」
そんな説明をしながら刀を振った。
刺さっていた水リュウは、元いた場所から数メートル離れた水面に落ちた。
その途端、死骸の周囲の水が、バシャバシャと騒がしく音を立て始めた。
「水を飲むなら今がチャンスだ。あまり知られてないが、『湖生種』は『河川種』と違って、生物以上に死体を好む。共食いしてるって気付かないくらいにな……」
リアは髪の毛に手を突っ込むと、小さな水筒を二つ取り出した。
それに水を入れ、一つをレナに手渡す。
「あ……ありがと。助けてくれて……」
同じように、後ろのフィールにも投げてよこす。
そしてリアも、自身の髪を全て後ろへかき分け、両手両ひざを着き、水面を十分に確認してから、顔を水面に着け、水を飲み始めた。
「……」
だいぶ昔に学校で習って、とっくの昔に忘れていたルオーナ湖がどう危険かはよく分かった。だが、それ以上にレナが気になったのは、そんな水リュウの脅威よりも、目の前で水を飲む、小さな男の子の脅威だ。
その小さな男の子も、ひとしきり水を飲み終えたようで、立ち上がる。
顔の水を拭い、前髪で顔を隠しながら、二人を促しその場から離れる。
直後、ザバァッ、という音と、水しぶきを上げながら、大口を開けた水リュウが飛び出したが、その時には既に、三人とも水際から遠く離れていた。
「どこ行くの?」
「……あそこなら、休める」
レナに答え、差した人差し指の先には、木製の小屋があった。
何年も前に作られた物らしく、表面は削れていたり、色褪せていたり、コケむしていたり、ツタが絡みついていたり。
大人が十人から二十人程度入れるだけの面積はあるようだが、小屋の雰囲気からして、単純に物置として建てられたものだろう。
そんな小屋を差しながら歩き、残り十メートルの距離まで近づいた時。
三人から見て右側、林側のドアが開き、そこから男が一人、出てきた。
顔からしていかにも柄の悪い、ボロボロな茶色の服を着た、体格だけは野太い、立派な男。
「おやおや……」
男は三人に気付くと、見た目通りの野太い声で、いかにもなニタリ顔を浮かべて見せる。
「おーい! 新しいエサだぞー!」
下卑た笑顔で、小屋に向かって嬉しそうな声を上げた。
「コドモ一人に女二人、おまけに女二人はかなりの上玉だぞー!」
そんなことを叫んでいる辺り、かなりの単細胞だと分かる。
三人がそんな単細胞に呆れていると、新たに三人、小屋から出てきた。
「……な!」
「ひ……!」
新たに出てきた三人は、エサだ、と言われた方向を見て、その瞬間に気付いたらしい。
「ば……ば……ッ!」
ついさっき、自分達の有り金全部を奪った、黒服の化け物が、目の前にまた現れた。
その現実に、分かり易い恐怖を浮かべ、体を震わせている。
「おい、なにやってんだ? 早くしろ。コドモはエサにして、女は売り飛ばすぞ、手伝え!」
コドモも女も、三人とも目の前にいるのに、野太い男はそんな物騒な発言をする。
絶対に逃がさないという自負があるのか知らないが。それとは別の三人は、恐怖に震えていた。
「おい!」
野太い男が、また大声を上げた時……
三人の男は、視線をその男に移し、その顔を恐怖から、怒りに変えた。
「うるせえ! ならテメェが一人でやりやがれ! 誰がそんな化け物の相手するか!」
「そんなんで大ケガするぐらいなら、普通にカツアゲしてた方がマシだ!」
「やるなら一人で勝手にやってろ!!」
ひとしきり叫んだ後で、三人とも逃げるように去っていった。
「おい! テメェら!! あのゴミクズどもぉ……ッ」
三人にも負けないだけの怒声を上げるも、既に、三人の背中は小さくなっている。
そんな三人の役立たず達に向けていた怒りは、やがて、別の三人に向けられる。
「何だテメェら! あいつらを追い返しやがって! ざっけんじゃねえぞクソガキども!!」
「……あいつは、なにを怒ってるんだ?」
「さあ……」
「理解不能ね……」
いくら怒鳴られようが、その理由が分からない以上、感じる感情は恐怖でも怒りでもなく、疑問しかない。
三人とも、ただ金を落としていった、卑しいだけの三人組の顔など、わざわざ覚えていなかった。
「……ぶっ殺す……」
そして、そんな三人の事情など知らない男は、腰に差してある剣を抜き、三人に向けた。
「ぶっ殺してやるよぉ……どうせ、あの三人も、用が済めばエサにするつもりだったんだ。テメェら、代わりにエサになりやがれ……」
反り返った片刃曲剣の切っ先を向けながら、怒りに歪んだ顔で、殺意全開の声を上げる。
「なに一人でごちゃごちゃ喋ってるんだ? あのおっさん……」
「分かんない……独り言が楽しいのかな……」
「あまり関わりたくないタイプね。近づかないで欲しいわ……」
そんな男には興味もくれず、そんなことを言う三人の少年少女達。
ただでさえ怒り心頭な男から、何かが切れる音が聞こえた。
「テメェら! そこ動くんじゃねえぞコラァ!!」
剣を真上に振り上げ、野太い大声を上げながら、三人へ向かう。
リアが一歩、男に向かって踏み出した……それと同時だった。
横から、ヒュー、という、空気を裂く音と、正面から、ガキン、という金属音。
「何だ……?」
男は、すぐに落とした剣を拾おうとした。
だがその瞬間、再び空気を裂く音。そして、ドスッという、何かが地面に突き刺さる音。
落ちた剣の間近に、矢が一本刺さっている。
「次は当てる」
その声に、男が振り向いた先。そこではレナが、男に向けて弓を構えていた。
「……ンだとッ、このゴミクズ野郎ォオ!」
だが、男はそれに怯むよりも、更に怒りを爆発させたらしい。
頭には血が上り、額には青筋まで浮かべて、拳は硬く握って、三人を睨みつけている。
「ここまでバカだと、いっそ清々しいわね……レナ、リア、悪いけど、私にやらせて。私も、憂さ晴らしがしたかったの」
レナの弓を制しつつ、二人の前に出るフィール。
「……うん、分かった」
「……好きにしろ」
リアもレナも、同意しながら後ろへ下がる。
「逃がさねえぞ!! チビ二人ィィィイイイイイイ!!」
男は野太く絶叫しながら、リアとレナへ走り出した。
フィールの存在も忘れて。そのせいで、
「うおッ!」
出された足に引っ掻けられて、簡単に転ばされるのだった。
「小さな子供にしか興味が無いの? 大の男が情けないわね……」
「……ンだと、このアバズレがぁ!!」
リアとレナを見ていたと思ったら、一言二言で簡単に怒りを別に向ける。
(どこまでバカなんだか……)
フィールも、後ろの二人も、そう思った。
そう思っている間に、男は立ち上がり、拳を振った。フィールは、あっさり避けた。
その後も、両方の拳、時々足が、フィール目掛けて飛んでいく。
それらを全て避け、或いはさばいていく。
フィールを狙う攻撃は、皮膚皮一枚、長い髪の毛一本にすら、掠りもしない。確かに目の前に立っているのに、攻撃が全く当たらない。
続けているうち、野太い体に限界が来たらしく、肩で呼吸をし始めた。
「ハァ……ハァ……ざっけんじゃねえぞ……このアマァ……」
だが、フィールを睨みつけるその目は、こうなる前と変わっていない。そのくせ、疲れ果てた様子のせいで、まるで迫力を感じない。
「無様ね……」
呟いた、その直後。
右の拳が、男の顔面に直撃し、その野太い体を、真後ろへブッ飛ばした。
「……リアの拳だったら、死んでたでしょうね……」
皮肉を呟きつつ、倒れた男に近づいていく。
「て、テメェ……!」
「どうしたの? せっかく剣があるんだから。使えばいいじゃない」
そんな冷たい声を掛けられて、男は鼻血を押さえながら、ハッと気付いた。
いつの間にやら、チビ二人から引き離され、そして、殴り飛ばされた先の地面には、ついさっき、小娘の矢のせいで落とした剣が落ちている。
「ほら、どうしたの? 普段持ち歩いてるくらいなんだから、使えるんでしょう? それとも……剣があっても、女一人にも勝てないのかしら?」
分かり易い誘導と、分かり易い挑発。
男は、再び分かり易く青筋を浮かべた。
「ぶっ殺す……ぶっ殺すッ!!」
さっきから同じ言葉を繰り返し、拾った剣を両手に構えて、フィールに振りかざす。
威力だけの大振りを、フィールはかわしていく。
大振り、かわし、大振り、かわし、大振り、かわし……
「……単調過ぎるな」
「うーん……わたしでも、避けられそう」
退屈な光景の繰り返しに、リアとレナは、呆れ果てていた。
当たればタダでは済まないだろうが、男のバカさ加減を体現したような単調な太刀筋は、狙いがフィールでなくとも、全く当たる素振りも、気配すら感じさせない。
それは張本人であるフィールも同じようで、仕舞いには欠伸まで漏らしている。
そのせいで、男は更に怒りを浮かべ、太刀筋はより大ざっぱに、動きはより単調に、思考はより、単純になっていく。
「ぶっ殺す……死ねよ! 当たれよ! 今すぐぶっ殺されて死ねよ! このアマァァア!」
「……もういい」
男の絶叫に対して、フィールが一言で答えた次の瞬間……
キィィン、と、儚い金属音が響いた。
上を見上げると、男の握っていた剣が宙を舞っている。
その下にいるフィールは、いつの間にやら腰の剣を二本とも抜いていた。
「ちょっとはお手本になったかしら? 剣の扱いの……」
剣の切っ先を突き付けながら、威圧的に言い放つ。
男の顔は、怒りや青筋をそのままに、それ以上に分かり易い、恐怖が浮かんでいた。
「すごい……フィール強い! 速い! リア、今の見た? いつの間に剣抜いたのかな?」
「……最後にあのバカが、後ろに振りかぶった時。剣が振り下ろされる直前に右手で左腰の剣を抜きながら弾き飛ばして、そのすぐ後に抜いた左手の剣をあのバカに突き付けた」
「……リア。今の、全部見えてたの?」
「……? それがどうかしたか?」
「う、ううん……なんにも……」
(……速さにはちょっと自信があったんだけど……リアにはまる見えか……)
興奮していたレナも、レナの反応に少しだけ気を良くしたフィールも、相変わらずのリアの様子に、溜め息を吐く。
と、フィールの意識が、男からリアに向けられたほんの一瞬。
「てめ……てめ……」
男は、何かを呟きながら、背中を向けて走り去っていった。
フィールも気付いた物の、追う気も無い。だが、男は走りながら、
「死ねえぇェエエエエエ!!」
そんな奇声を上げ、フィールに向かって、何かを投げつけた。
石でも投げたのか? 三人ともそう思ったものの、それは、ヤケに高さがあった。
「あれは……!」
「リ、アァアッ!?」
リアの声に振り返った時、リアはすでに、フィールの目の前まで走っていた。
そんなフィールのマヌケな絶叫を無視して、リアはその場から跳ぶ。そして、目の前に立っているフィールの右肩に、足を掛け、踏み台とし、上へ向かって大きく跳躍。
ジャンプし、到達した高さで体を回転させ、飛んできたものに向かって足を伸ばす。
鉄靴に蹴られたそれは、勢いよく湖面にぶつかり、沈んでいき……
「……!!」
その爆発音と衝撃に、フィールは、そしてレナは、身を怯ませた。
「爆弾、だったの……?」
レナの言った通り、湖の中心に落ちたそれは、爆発音と共に巨大な水柱を立てた。
同時に、津波と、小規模な雨を降らせ、そこにたまたまいたらしい、水リュウ達を死骸に変えて浮かべる。
そして、そんな爆弾を蹴り飛ばしたリアは、平然と二人の前に着地した。
「リア……あ、ありがとう……」
リアに踏みつけられたことで、思わず尻餅を着いていたフィールは礼を言った。
「……」
だがリアは、二人を見てはいない。
「……?」
リアの視線の先へ、二人も顔を向ける。
爆弾の落ちた箇所には、大量の水泡が湧き出ている。
最初、爆弾で死んだ水リュウの死骸に、別の水リュウ達が群がっているのだろうと思った。
だがそれにしては、水泡の量が多く、そして大きい。
量も大きさも、どんどん増えていく。
水面は、水泡に白く染まっていき、同時にその液面に、黒い影が浮き出てくる。
そして……
「……え?」
その巨大な影に、レナは、マヌケな声を出すしか無かった。