第1話 お顔を出した子 一等賞
「これが都会……初めて見た」
「まあ、故郷に比べれば都会だが……実際には、聖地への入り口っていうだけの街だ」
レナの言葉に対して、リアが補足した。
「聖地に住めなくなった奴や、夢を持って目指した聖地から追い出されたりして、他に行き場の無くなった奴らが集まって、聖地から流れてきた中古品やゴミをリサイクルしながら生きてる奴らのスラム街。通称『スカーフ街』」
「すかーふ?」
「首に巻く襟巻きのことよ」
「……襟巻き? フケとか垢って意味だって、本には載ってたぞ」
「え? スカーフって、首に巻く襟巻きのことじゃないの?」
「……まあ、どちらにせよ、いらない余計な物って意味だろ」
思わぬ収穫を得たと大喜びで去っていったアシュと別れ、三人は、巨大な建造物や金属の山に囲まれた街、『スカーフ街』へ足を踏み入れた。
前髪を上げ、素顔を見せながら歩くリアと、その隣を歩くフィールは、慣れた様子で平然と歩いている。しかし、後ろを歩くレナは一人、キョロキョロと落ち着きなく視線を泳がせていた。
「なんか……窮屈な場所だね」
見渡しながら、率直な感想を漏らした。
周囲をざっと見渡しても、故郷には当たり前にあった、森や川は、一つも見掛けない。
雑草は生えている場所もあるが、木の一本も見当たらない。
獣も、今のところ一匹もいないし、そもそも、この中にそんなものがいるわけがないと、本能的に理解させられる。
諸々、レナの知る物の代わりに見えるもの。
形や大きさは色々あるが、縦長で、四角い形をした建物が、普通の家と一緒に隙間なく並び建っている。そんな、諸々の建物のほとんどは、人がいないと見れば分かる。
そんな家やビルの間には広い道が通っているが、そこに土は見当たらず、代わりに岩よりも暗い灰色をした、見るからに、そして、踏むからに硬い地面が広がっている。
規模も、広さも、全てはレナの知る、故郷の村の比ではない、巨大な街。
そして、そんな場所を見て、最も目を引きつけられるのが、そこを歩く人達の姿だ。
誰もかれも、薄汚れた服と体で、歩く姿に覇気は感じられない。
覇気があるのは、多分、金がある人達だろう。それも、無い人達より遥かに少ない。
大勢の人間が、世捨て人も同然に前を向くことをやめて、届かない空を見上げるか、硬いだけの地面を見下ろすかだけしていた。
「……良くも悪くも、吹き溜まりの街ってことだ」
リアが再び、歩きながらボソリと言った。
「それと、言い忘れてたけど、歩く時は周りに注意しとけ」
「え? なんで……」
レナが聞き返した瞬間……
ブオオオッ、と、けたたましい音が聞こえた。その一瞬の後、レナと、リアの服の襟首が、かなりの力で引っ張られ、一瞬でフィールから遠く離れた。
「こうなるからだ……」
けたたましい音と、体にぶつかる風、そして、突然の出来事で混乱の極致に達しているレナの耳に、リアの声が聞こえた。だがそのすぐ後には、別の声が聞こえた。
「コドモだ! それもかなりの上玉だぜ!」
「二人も捕まるなんてな! こいつは高く売れるぞー!」
けたたましい音に負けないだけの、巨大な、卑しい男達の声が耳に響く。
このまま連れていかれるとまずい。そう思いながらも、乗ったことも、触ったことも、見たことも無い、『バイク』の上で、レナは動くことができなかった。
そんなレナを見ながら、リアは顔を上げ、自分達を捕まえた、男を見上げる。
「ぐああああああああああああああ!!」
リアに、右手首を握られ、思い切り握りしめられた男は、体勢を崩した。
「うわ!」
リアは、レナを掴んで跳び、レナは思わず声を上げる。
直後、二人の乗っていたバイクは派手に地面を転がった。
後ろに続いていたバイクが五台、周囲に停止し、リアとレナは、その後ろに着地した。
「おい! ……テメェ!」
男の一人が、転がった男に呼び掛ける。返事が無いのを見て、今度は後ろの二人に叫んだ。
「こういうことだ。確かにコドモは無価値だが、金持ちの中には、俺達みたいな可愛い顔をしたコドモを欲しがる奴らもいる。そいつらが、下手にカツアゲするよりも高い金で買ってくれるから、こうして誘拐しようって考える奴もいる。大勢な」
冷静な声で、さり気なく褒められて、レナは思わず赤面した。そんなレナを無視しつつ、リアは前に出る。
バイクから降りた男達は、倒れた男を除いて、二人乗りをしていた者も含め、六人。
全員が、凶悪な顔で、異様に光る目をギラつかせ、リアを睨み据えている。
「やれぇ!」
六人の中の誰かが叫び、六人で一斉にリアに襲い掛かる。その手には、鉄パイプやら、角材やら、コンクリートブロックやら、武器が握られていた。
走ってくる六人に対して、リアは、ゆっくりと歩いていく。
そして、先頭を走っている男が目の前に立った時……
「ぐおッ!」
武器を振り下ろすより前に、リアの飛び蹴りが、男の胸にぶつかった。
男はその一撃だけで後ろへ飛んでいき、派手に転がった。
それを見ていない五人も、同じように武器を振り下ろした。
それを、リアは簡単に避けて見せ、かわして見せる。
一度かわされた後も、すぐにまた攻撃した。
しかし、それもかわされて、直後、足もとを蹴り出され、体を縦回転させられた。
別の男は、両手で鉄パイプを振り下ろすも、避けられて、地面を叩いた鉄パイプを踏みつけられた。
その鉄パイプを踏み台にされて、肩に乗られて、両脚で首を絞められる。
「お……おおぉぉおお……ッ」
そんなリアに、後ろからまた別の男が、鈍器を振り下ろした。
だが、それが当たるよりも前に肩から飛び降りた。
当然のこと、リアの代わりに、絞められていた男の頭に鈍器がぶつかる。
それに動揺した一瞬、リアが、殴られた男の胸を押し出した。
そのせいで、殴られた男は真後ろへ、勢いよく吹っ飛び、振り下ろした男もそれにぶつかり、二人して地面を滑り、気絶した。
そのすぐ後に左を向き、走る。
そこにいた男は目の前に角材を構え、防御の体勢を取った。が、リアの飛び蹴りが角材を真っ二つ砕き、顔にぶつかり、ブッ飛ばされた。
後ろを振り向くと、鉄パイプを持つ男が、一度震えた後、後ろを向いて、走った。
逃走する男に向かって、地面に落ちているコンクリートブロックを蹴り飛ばす。ブロックは男の後頭部に直撃し、そこへ更に、そのブロックを砕く、鉄の靴底がぶつかった。
「きゃっ……!」
男の飛んでいった先には、レナが立っていた。
泥まみれな顔の、鼻から、口からも血を流しながら、ニタリと笑みを浮かべる。
そして、ゆっくりと立ち上がりながら、怖がるレナに向かって、両手を伸ばす……
「ひっ……」
思わずレナが目を閉じた時……すぐ後ろから、誰かが走ってくる音がした。そして、自分に向かってきた腕は、いつまでたっても届かない。目を開くと、
「フィール!」
だいぶ後ろに置いて行かれたはずの、フィールが、やや息を切らしながら、伸ばした男の手を握り締めていた。
「ぶッ……!」
顔面を殴られ、吹っ飛ばされた。
リアからのダメージも相まって、そのままのびてしまった。
「大丈夫か?」
男達が一人残らず伸びたところで、聞こえてきたリアの声に、レナは頷く。
「前から思ってたが……レナって、獣や遠くの敵には強いくせに、目の前にいる人間には弱いよな」
「う……」
的を射た、そのものズバリな事実を指摘され、胸にグサリと来る痛みに顔をしかめる。
そんなレナの肩に手を置きながら、フィールがリアの前に立った。
「仕方ないわよ。いくら強いって言っても、誰にだって得意不得意はあるわ。私だって、あなた達がいないと、獣とマトモに戦える自信なんてないんだから」
「……けど、最初のころはともかく、最近はちゃんと戦えてるよ」
「本当? ……ありがとう」
思わず礼を言ったフィールも、そしてレナも、気まずくなって、視線を伏せてしまった。
特にレナは、フィールを見ながら、感じてしまった。
(わたしより背は高いし、色んなこと知ってるし、言いたいことハッキリ言えるし、美人だし、おっぱいは大きいし、それに、すごく強くて、カッコいいし……)
そんな、自分にない、自分が欲しいもの全部を持っているのを見て……
逆に何も持ってない、三人の中で一番弱い自分を見て……思ってしまうこと。
(わたし……いらないじゃん。この二人には……)
「……まあいい。ちょうどいい稼ぎになった」
そんなレナの心情など知らないリアは、服の裾を持ち上げた。
すると、リアの足もとに、ボロボロの財布が七つ、ボロボロと落ちた。
「え? 戦いながらスってたの?」
「……乗り物に乗ってる奴は、大抵、金持ってる」
リアはしゃがみこむと、奪った財布を開き、中身を見る。たまに、シケてるな、と文句を呟きつつ、全部の財布を開き、中身を三人分に分けると、二人にそれぞれ手渡した。
「大昔にはこんなふうに、カツアゲした金で世界を冒険する、ユウシャって遊びが世界中で流行ってたそうだ」
(なに、その物騒な遊び……?)
(ていうか、もしかして、このためにわざと捕まったの? いつもと違って素顔を見せて……?)
「おい」
二人が同時に、珍しく前髪を上げて歩いていたリアの姿を思い返していると、そのリアは、いつも通り前髪を下ろしながら言った。
「聖地に向かう。二人とも、俺から離れるな」
「あ……はい」
「分かった」
二人して返事したのを見て、リアは歩きだし、その後ろへ二人も続いた。
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三人が今歩いているのは、ついさっきまでいた所に比べれば、随分と賑やかな場所だった。
空っぽだと分かる家が多かった入口とは違い、目に見える家には、どこかしら看板が掛けられて、出入口には大人が立っていて、客の呼び込みを行っている。
色々とアクセサリーや服、武器や本、生の食材等、手に取れる商品を並べている家もあれば、窓から湯気が出て、食欲のそそる香りを漂わせる家もある。
そういう家には多くの人々が出入りをし、総じて笑顔を見せている。
リアとフィールは、そんな場所の中でも、平然と歩いていた。
レナは相変わらず、そんな街や人々の様子に、不思議そうに首を動かしていた。
レナが今日まで、村では感じたことのない、『活気』を肌で感じてのことだった。
「さっきまでと全然違うんだね……」
「さっきまでいたのは街の入口だ。落ちぶれてここにいられなくなった人間や、暴力的なせいでここから追い出された人間、外から来た人間を襲うために待ち伏せてる人間もいる。そういうこと全部が禁止されてる唯一の場所が、この『中心街』だ」
「へぇ……」
リアの説明を聞き、改めて周囲を見てみる。誰がどこで生まれた人間か、レナには分からないが、それでもこの街の外から来た人か、中にいる人か、くらいは、雰囲気で分かる。
店に並んだ何かしらを手に取り、それを笑顔の店主に勧められ、金を出して買っていく。
金を受け取った店主も、商品を受け取った客も、満足げな笑顔を見せ合いながら挨拶を交わして、客は店を去っていく。どの店も、大抵の光景がそれだ。
「これが、都会での買い物かぁ……」
レナやリアの村にも当然、買い物という習慣はあった。もっとも、周りを森に囲まれた小さな集落での買い物となると、大抵は農作物の物々交換が中心で、現金を使っての買い物は、あまり縁が無かった。
一ヶ月に一度くらいは、遠くからやってきた物売りが、武器とか服とかを売りに来ることもあるにはあった。レナやリアもそれで買い物をしていたし、新しい服や家具を楽しそうに買う村人達の姿も見掛けたが、それも、もっと事務的で静かなやり取りだった。
「……子供が一人もいないね……」
もう一つ、感じた疑問を口に出す。それに対しても、リアが冷静に返す。
「子供がやってる店に、客が集まるわけないだろう。俺でもそんな店には行かない」
「……いや、そういうことじゃなくて……」
「ここは外地だぞ。子供がまともに生きていけると思うか? 周りを見てみろ」
そんなことを言われて、改めて周りを見てみた。
店の店主は、ほとんどは目の前の客の相手をしている。だが、その客が帰った後は、こっちに目を光らせている。
店主だけじゃない。ここを歩くほとんどの大人が、三人に向けているのは、警戒と、汚い物を見る、気持ちの悪い目だった。
「小さな子供は、店に近寄っただけでまず殴られる。金を持ってない、買い物の仕組みも知らない子供の盗みが多いからな。子供ってだけで、金があろうが、買い物も飲み食いもさせない店も、少なくない」
色々な意味で、深くは考えたくない答えに、これ以上、この話題を考えるのはやめた。
「リアは、ここに来て何か買ったりするの?」
「外から来る人間は大抵、賞金稼ぎでなければ買い物がほとんどだぞ」
「そう、なんだ……」
「ああ。大抵は、日持ちする食材をいくつか買ってた。電気と水道はあったが、冷蔵庫は無かったからな。後は……母が喜びそうな本を見つけて買ったりな」
リアのお母さんは、本が好きだったんだな……
そんなことをレナが思った時、今度はフィールがリアに尋ねた。
「そう言えば、リアの部屋にも、随分たくさん本があったわね。リアも本が好きなの?」
「……別に。役立ちそうな本なら読んでた。それだけだ」
「そっか。だからリアって、あんなに物知りだったんだ」
納得した、というレナの声に、フィールも同じように納得する。
この街へ着くまでの道中、狩りや獣の知識と言い、地理と言い、本でも読まなければとても身につかない知識を、リアはいくつも有していた。それだけの知識を有していることに、いつの間にやら疑問にも思わなくなっていたものの……
また一つ、リアのことが分かったことに、二人とも嬉しさを感じた。
「……そう言えば、フィールは何しにここに?」
「私? 私は……」
レナに答えるより前に、フィールは顔を左右に動かし始める。
「確か、この辺りに……あった」
そう言って立ち止まり、指を差した先には、建物が一つ立っている。
大きさや規模は、周りでよく見掛ける店と同じに見える。が、その前にたむろし、座り込んでいる男達からは、周りの住民達にはある、気の良さや、親しみは感じられない。
周囲に攻撃的な目を向けつつ、その目と共に、腰やら背中やらに背負った武器をギラつかせている。
「『賞金ギルド』。そう呼ばれてる。スカーフ街のあちこちに……この街の外にも、ああいう場所はあるわ」
「ぎるど?」
「組合とか、協会って意味だ。要するに、共通の目的を持った連中の集まりのことだ」
リアの説明に、レナは頷く。そんな意味だったのか、と、フィールは密かに頷きつつ、続けた。
「それで、そこに貼り出されてる仕事を引き受けて、達成することができればその仕事に懸けられた賞金を受け取ることができる。リアみたいな賞金首だったり、他にも危険な仕事を色々とね」
「……そんな怪しい仕事、誰がしたがるの?」
レナの素朴な疑問の声に、フィールは冷静に答えた。
「危険はあっても需要は高いわ。大金が必要な人とか、私みたいに、他に何もできない人間にとってはね。ケガや命の危険がある代わりに、報酬は高いから。張り出されてる仕事自体が古すぎたり、依頼主がケチって、賞金が出ないってこともザラだけど……」
説明をしながら……フィールは悲しげな、遠い目になった。
「私自身、小さいころに盗みをしながら、たまたまここのことを知って、生きるためにどんな危険な仕事も引き受けてきた。『黒い化け物』を殺せっていう仕事を見つけた時も、いつもと同じ。たまたま見つけた仕事の報酬が魅力的だったから、受けることにした。それだけ。仕事の相手のことを考えたことなんて、一度も無い……」
「……」
表情を曇らせたフィールの様子に、レナは、どう言えばいいのか分からなくなった。
ほんの素朴な疑問だったのに、落ち込ませちゃうなんて……
困っている間に、リアが動いていた。
「……え?」
「ちょ……!」
フィールが気付き、振り返った時には、リアはフィールの長身の、背中に手を回し、抱き着き、顔を、その胸元に押し付けていた。
「え、ちょ、リア……?」
「な、な、な、なにしてんの……?」
フィールは赤面し、レナは慌てた声を上げている。そんな二人にリアは、
「……何も言わず、優しく抱き締めてあげなさい」
「え?」
「女の子が落ち込んだ時は、こうして慰めてあげなさい……母からそう聞いた」
「えぇ……?」
リアのお母さん……ネアさんは一体、息子にどんなことを教えてきたんだ?
二人が同時にそう感じた時、再びリアの声が聞こえた。
「心配するな。力を入れて、背骨をバキリ……なんてことはしない」
「え……あ、うん……いや、そうじゃなくて……」
「……まあ、こんなチビにされても効果があるのか知らんが……効果はあるか?」
そう、疑問に顔を上げ、フィールの顔を見上げる。そんなリアの仕草に、二人は……
(か、可愛すぎる……!)
見上げたことで、長い前髪は左右に割れ、そこから覗く上目遣い。
フィールの長身に抱き着くという仕草と合わせ、二人とも声ではなく、心で唸った。
「……あ、ありがとう。元気、出たわ」
フィールから肯定の返事が聞こえ、手を離し、顔を前髪に隠す。
勿体なかったかな……自分から離れたリアを見て、フィールは密かに、そう思った。
なんて羨ましいんだ……フィールから離れたリアを見て、レナは密かに、拳を握った。
「これからは、俺が二人を守ってやる」
歩き始めるなり、リアはそう言った。
「過去を忘れろとは言わんが、少なくとも、これから先、二人に起こる危険からは、俺が守る」
二人の間を歩く、二人より小さな少年の言葉。全てを委ねたくなる頼もしさと、信頼のおける説得力。二人にとっては、これ以上ないくらいに心強い言葉だ。
だが……
「……逆よ」
そう、フィールが声を出し、リアの肩に手を置く。
「私達が、リアを守るわ」
「……俺を?」
「そうだよ」
続いてレナが、逆側の手を握った。
「聖地に行ったら、わたし達は家族なんだから。そしたら、わたし達がリアのこと守るんだよ」
「……」
いつものリアなら、何かしら言い返していたかもしれないが、これには返す言葉が無い。
聖地に行くために必要なのが魔法使いなら、重要なのは二人の方だ。
いくら二人を超える強さがあろうと、ここでは何の意味も無い。
「……ああ。頼む」
表情を前髪に隠したまま、二人にそう言った。
そんなリアの心境など分かるはずもなく、二人とも、ただその言葉に嬉しさを感じた。
形はどうあれ、リアに頼りにされていることが、二人にとっては誇らしかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スカーフ街の入口から、中心街へ。その中心街を超えて、更に奥へ。
アスファルトが無くなり、代わりに黄土色の土で覆われた地面のその先。
そこに、見上げるほどの巨大な壁がそびえ立っていて、その中心に、壁と同じ高さの、巨大な扉は佇んでいた。
「あれが……」
「そう。あれが聖地への入口よ」
既に、物々しい扉の隙間からは、『向こう側』の景色の一部が見えている。
辺り一面が暗く寂れたスカーフ街とは違い、景色も空気も澄んでいて、そこへ行けば、全てが変わるような、そんな期待を抱かせてくれる。
そんな希望に満ちた景色が、段々と、狭くなっていく……
「マズイ、走るぞ……!」
「え、どうしたの?」
「あの扉は定期的に閉まるようになっているの! いつ閉まるのか誰も知らないし、一度閉まれば、また開くのは明日か明後日か……どの道、しばらく聖地へは行けなくなるわ!」
説明を聞いたレナも、慌てて走る足に力を込めた。
扉は徐々に閉まっていくが、閉まる速さからして余裕で通りぬける時間はある。
狭くなっていく隙間から見ても、向こう側の希望は輝いて見えた。
目に見える希望に近づいてきながら、レナもフィールも、新たな希望を胸に抱いた。
(あそこでリアと、フィールと、三人で暮らすんだ)
(もうこれ以上、リアを辛い目に遭わせないために、平和な聖地へ……)
二人がそれぞれ、仲間のことを思い、明るい未来を思い描きながら、そんな未来の待つ聖地へ、少しずつ、近づいていく……
「きゃああああああああああああああああああああああああ!!」
「……え? フィール!」
突然、地面から聞き覚えのある、うるさくはないが、耳障りな音が響いた。
かと思った次の瞬間、レナの前、リアのやや後ろを走っていたフィールが、街中に聞こえるくらいの悲鳴を上げた。
フィールの全身から、目に見える電流が溢れ、それが地面に向かって吸われていく。
それに二人が目を奪われていると、今度は土の下から何かが飛び出した。
飛びだしたいくつものそれは、フィールとレナ、二人の全身にびっしりとくっついた。
「『魔力吸着盤』……それに、探知機付の『魔吸板』? 前には無かったぞ、こんなの……!」
リアが、絶句しながら、倒れたフィールの身を受け止めた時……
「おい、見たか?」
「ああ。見た。確かに見たぞ」
フィールの絶叫が、始まりの合図だった。
「女二人とも、全身に『黒丸』が着いてやがる」
「それに見ろ。あの小さいのは、呪文でデカい女の傷を治してるぞ」
聖地への扉の、周囲にいる者達。全員の視線が、三人に集まっていく。
声は徐々に広がっていき、視線はどんどん集まっていく。
リアがそれに気付き、レナがちょうどフィールの体の傷を癒した瞬間。
開いていた聖地への扉は、固く閉じられた。
「逃げるぞ。今すぐに」
「え?」
リアは言いながら、気を失ったフィールを担ぎ上げ、持ち上げた。
それに、レナが未だ混乱している中……
「魔法使いだー!」
「聖地への切符だー!」
「奴隷だー!」
「あの女どもは俺のもんだー!」
「いいや俺のだ! 俺が聖地へ行くんだー!!」
目の色を変え、不満と鬱憤、そして欲望を爆発させた者達の目が、三人へと向けられた。




