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ネロ・バーサーク  作者: 大海
第一章
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序章  ある日森の中 化け物にであった

こんにちは~。


はじめまして~。


挨拶もしたから、は~じめ~るよ~。




「化け物だ……」


 誰かがそんな、恐怖に震える声を漏らした。


 場所は、木々が生い茂る森の中。

 時刻は、輝く月が高く上った頃。


 その場所には、そんな声を漏らした誰かしらを含む、十人ばかりの男達。

 彼らの周囲には、剣が、ナイフが、弓が……

 形はどうあれ、大よそ武器と呼べるものが散らかっている。

 それらの武器と、彼らの人相の悪さを鑑みれば、少なくともこの世界では、誰もが盗賊だと呼ぶだろう。


 そんな、盗賊と呼ばれる十人全員、へたり込み、目を見開き、震えていた。

 全員が全員、一箇所に視線を向けながら、固まっていた。



「……」


「うぅ……ッ」


 彼らの視線の先に立つもの。その足もとには、彼らとは別のもう一人が、腹を踏みつけられ倒れている。

 そのもう一人も、踏まれながらその姿を見上げていた。


 身長は、おそらく150センチにも満たない。

 身体の線は身長相応に細く、華奢と言って良い。


 そんな人物の、まず視界に入る黒髪は、とにかく長い、という一言に尽きる。

 いつからか知らないが、年単位の長い間、洗う以外のまともな手入れや、理髪すら一度も行わなければ、おそらくはこんな髪型が出来上がるだろう。


 毛先が肩や胸元を超え、ヘソに届くまで伸びた前髪は、鼻先や、口元の一部を除いた顔の八割方を隠し、両耳も、更には上半身の多くを隠している。

 顔の左右は、もみあげや耳が全て隠れ、ヘソどころか腰を超え、太ももに届くまでに伸びていて、後ろに至っては、もう少しで地面に届きそうだ。


 それだけ伸びているものだから、普通は流れていそうな所々が跳ね、曲がり、ねじれ、とがっている。

 これだけ見れば確かに、見た全員が、髪の毛の化け物だと呼ぶ見た目をしている。


 そんな奇抜に過ぎる髪の、下に見える服装は、上下同じ黒色の生地。

 上のシャツは、襟は伸びきっていて、肩は普通に隠れているが、代わりに鎖骨や胸の上部がいやに色っぽく露出している。

 そんなくたびれ方をしているせいだろう。

 本来なら手首までの長さしかないはずの袖口は、手の甲まで伸び、小さな手の半分が隠れてしまっている。


 だが、上がそこまでくたびれていながら、下はそうでもない。

 裾の長さは、足首よりは少し上、くらいしかなく、歩いていて、かかとで踏みつけてしまう、という心配は無さそうだ。


 破れや穴や虫食い、派手な色褪せこそ無い物の、ガラも飾りけも無い。

 ファッション性が皆無なら、最低限のポケット以上の機能性すら無い。

 そして古い。

 あまりに粗末な、普段着、というよりも、寝間着だった。


 足もとに見える黒い靴だけは、硬そうに光っているものの、傷だらけで、どの道古い。

 おまけに、その中に見える足は、靴下すら履いていない。


 服も、靴も、髪も、全てを黒で統一した、小さな少年。

 だが、夜を照らす月光を反射する素肌の色だけは、それとは対照的な白だった。

 手も、指も、足も、胸元も、一部しか見えない顔も。

 質感こそ、身長と同じく幼さを感じさせるが、そんな幼さを交えた艶めきの白は、月光の下ではより映えて見えた。


 顔立ちは、夜の暗さと、多過ぎる髪のせいで見えないが、体格だけ見れば、誰もが女の子かと思うだろう。

 それでも、彼が少年だと一目で分かるのは、女の子にしては、あまりに粗末に過ぎる服装と、あまりに奇抜に過ぎる髪型と、そして、彼が右手に握る、武器が理由だった。


「何なんだよ……あの、刀……」


 小さな少年の右手の、小さくもしなやかな指に握られている、一本の刀。


 服や靴以上に黒い、柄と鍔。

 そこから地面に向かって伸びる、柄から先端にかけて緩やかに反り返った刀身だけは、刀らしく銀色に輝いている。

 装飾や刻印といった飾りけも無い、黒と銀の二色だけでできた無機質な刃物。


 百人が見れば百人全員が、一目見て、刀じゃないか、と言うだろう。

 そして、二目見た瞬間には、百人全員、刀じゃないのか、と言うに違いない。

 刀、という呼び名は、ソレに限って言えば、あまりに可愛らし過ぎた。


 まず、柄の長さだけで、少年の肩幅や腕を余裕で超える長さがある。

 当然、刃渡りはそれ以上に長く、それだけで彼の身長を超え、柄との長さを合わせれば、間違いなくこの中にいる誰の背丈よりも長い。

 全長二メートルか、二メートル半か、もしかしたらそれ以上か。

 少年の小さな手に握り閉められている辺り、柄から伸びた刃は普通にも見えるが、よく見れば、それだけの長さに相応な、いかにも折るのが難しそうな太さを備えている。


 そんな、細長く美しくも、怪物のような見た目の刃物は、刀の一言で片づけるには、あまりにも長く、大きく、異様過ぎた。


 だが、今この場で化け物と呼ばれているのは、そんな大きすぎる刀ではない。

 女を踏みつけながら、そんなバカでかい刀を右手に持つ、この場の誰より小さな少年だった。




 少年は、座り込む男達の見ている中、その刀を真上に持ち上げて見せる。


「ひっ……!」


 それだけで、また誰かが悲鳴を上げた。

 その悲鳴の直後、少年は、髪の毛まみれの頭を横へ向けた。

 反射的に、見上げていた女も、他の男達も、そちらを見た。


 ガサガサ……ガサガサ……

 風も多少吹いてはいるが、その草の音は、明らかに風に擦れる音とは違う。

 証拠に、その音は徐々に大きく、こちらへ近づいてくる。

 そして、最初に少年が振り向いた、約十秒後……それは草むらから姿を現した。


「うわああ!! イノシシだあああ!!」


 姿を現したものに向かって、また盗賊の誰かが悲鳴を上げた。

 体高は二メートル以上。全身を覆う毛と、丸い鼻、巨大な牙を光らせる。森の中なら出くわしても珍しくない、強く、危険で、厄介な獣だ。


 そのイノシシが、ノシノシと姿を現すなり、目の前の少年に向かって、その突き立てた牙を向け走り出した。


「ぐぅ……ッ」


 少年は右手から刀を放ると、踏んでいた女を前へ蹴り飛ばしながら、一歩、後ろへ下がる。

 ちょうど同じタイミングで、イノシシは少年の目の前を横切った。

 だが、なぜか少年の真ん前の位置で、その足を止めてしまった。


「まさか……!」


 蹴り飛ばされた女が声を上げ、その直後に、女の想像した通りの光景が繰り広げられた。

 巨大なイノシシの体は、正面ではなく、上に向かって浮かび上がった。

 と思ったら、急激に引っ張られ、少年の立っていた真後ろへ、背中から叩きつけられた。

 その衝撃は、轟音と共に、彼らが座り込む地面を揺らすほどだった。

 そして、イノシシがそんなことになっている原因が……


「ウソ……だろ……」


 彼らの前に立つ、黒い服と長すぎる髪の少年……化け物の両手が、真っ逆さまにひっくり返ったイノシシの体毛を握り締めていた。

 勢いによる衝撃からか、真っ直ぐ地面に伸びていた足は、重たそうにひざを着いている。

 そんなひざを立て、再び地面を踏みしめて、毛を握り締める両手に力を込めて……


「――ッ!」


 ガンッガンッガンッガンッ

 僅かに声を漏らしながら、体ごと両腕を振り回し、何度も、何度も、地面に叩きつけた。

 地響きを起こすほどの衝撃で、何度も、何度も。

 人間より遥かに頑丈なはずのイノシシは、一度音が鳴る度に、確実に、そして、致命的に、その力を奪われていく。

 化け物は逆に、何度も、何度も、何百キロという巨体を振り回しておきながら、その両手は、力強く体毛を握り締めたまま。

 何度も、何度も振り回し、叩きつけて、踏みしめた足がガクガクと震え始めた時……


「うぉおお……!」


 盗賊の悲鳴の中、今度はその巨体を、遥か真上に向かって投げ飛ばした。

 その勢いと重さに振り回された化け物は、今度は地面に捨てた刀を拾い上げ……


 グサリ……

 耳には聞こえないそんな擬音を、盗賊達は、確かに耳にした。

 化け物の右手から、真上に向かって投げ飛ばされた、長すぎる刀は、間違いなく、イノシシの脳天を貫いていた。


 絵に描いたような串刺しにされたイノシシの巨体は、上を見上げている化け物の真後ろに、また地響きを起こしながら叩きつけられた。


「ば……ば……」

 それらの動作を目の前で行い、今も自分達を無言で眺めている。

 そんな少年の姿に、もう一度……



「化け物だああああああああああああ!!」



 叫んだと同時に、彼らは一斉に立ち上がり、散らかった武器をそのままに、一目散に、振り返ることなく、ただ恐怖に声を上げ続け、逃げていってしまった。

 ただ一人、動くことができずにいる、ついさっきまで化け物に踏みつぶされていた、長い髪の女一人を残して。




「……」


 残された女は、化け物の顔を見上げながら、息を呑んだ。

 イノシシが落下した衝撃で起こった、小さな風。

 その風と衝撃が、空を見上げる化け物の、多過ぎる髪を揺らし、月の光が、その顔を照らしだしていた。


 目の形は丸くて大きいが、両端は切れ長に伸び、まつ毛が長い。

 つぶらながらも凛々しさを感じさせる左右の目の下には、一つずつ泣きぼくろが浮かび、その目の大きさと、形の美しさを強調しているように見える。


 大きく、美しく光る黒い瞳と、小さいが、高い鼻と、薄いが、はっきりと艶めく桃色の唇。

 そんな、人形のように整った顔をした化け物が見上げた先には、雲一つ無い夜の空に、月と、星々の輝きが見える。

 月光に照らされたその顔は、どこか物憂げで、どこか切なげで、どこか儚げで……


「きれい……」


 女自身も気付かぬうちに、そう声を漏らしていた。

 声を漏らしたところで、女の体から力が、意識が、途切れた。


「……」


 化け物はただ、そんな女を見下ろしていた。




 キッカケは、この二人の出会いだった。

 始まりはいつからだ、と問われれば、最初から、と、答えるしかない、そんな物語。

 それが、この二人の出会いをキッカケに、大きく動き出すことになる。

 一人の化け物が紡がされた、広くも狭い世界を渡る、冒険の物語。


 もっとも、この世界には、空想の中によく見聞きするような、モンスターはいない。

 いるとすれば、人間と、少し体が大きな、普通に生きている獣だけ。

 同じように、この手の話にはおなじみな、魔王も、勇者も、どこにもいない。

 いるのは、どこの世界にも普通にいる、ただの大人と子供だけ……




化け物の持ってる武器……



ぶっちゃけて言うと、FF7のセフィロスを思い出してくれれば早いっすわ。


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