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第二話「性格破綻とロリ系美少女3」

 「来道、どうしてこんな時間に昼食なんだ?」


 私の豪快な溜め息をよそに、天音君は冷めた眼差しでロリ系美少女を見つめた。

 因みに時計の針はすでに16時を回ろうとしている。

 昼食にしてはかなり遅いし、夕食にしては早すぎる、という訳だ。


 「うん? だっていと君のこと待ってたら、食べるタイミング逃しちゃったんだもん!」

 

 ふくれっ面で性格破綻者のことを、ファーストネームで呼ぶロリロリちゃん。

 その表情は夫の仕事が忙しくて一緒に食事をする時間も無い、といった可愛い嫌味を言うに新妻のようだった。

 うーん、もしかしてこの二人は付き合っているのだろうか? 

 私がそんな事に考えを巡らせていると、夫(仮)こと天音君が溜め息交じりで口を開き始めた。


 「来道……」


 夫(仮)は妻(仮)に優しい眼差しを向けた。


 「なあに?」


 妻(仮)はハニカミながらその視線を受けとめている。


 「口……さっきから玉子サンドの具が付いてる」


 夫(仮)は少し寂しげな表情を浮かべた。


 「ああ……うん」


 妻(仮)は全く気にする素振を見せない。 

 夫(仮)は玉子サンドの具を一向に取る気配のない、妻(仮)に単純な疑問を投げかけた。


 「口のそれ、取らないの?」


 「うん。食べ終わったら取るよ」


 「高校生なんだよね?」


 「そうだよ」


 「一応、女子なんだよね?」


 「そうだよ」


 「見た目を気にする年頃じゃないの?」


 「そうだよ」


 「だったらいますぐ取らなきゃ」


 性格破綻の問題児は、可哀そうな子をあやすように優しく語りかけた。

 するとロリロリ美少女はまるでいま初めて気付いたかのように ”なるほどね” と元気一杯に言いながら天音君に顔を近づけていく。そしてキスをせがむように、静かに瞳を静かに閉じたのです。


 「ねえ、取って……いと君の舌で」


 「取りあえずキミのスマホを貸してくれ。ストーカーからのメールが見みてみたい」


 天音君はロリロリちゃんをガン無視すると、何事もなかったように私に視線を合せてきた。

 って言うか舌でって……何なのこの子は? 

 幼児のように口の周りにサンドウィッチの具をたっぷりと付けながら、挙句の果てに性格破綻者にキスをせがむロリ系美少女こと来道リツさん……類は友を呼ぶ、私は心の中で一人納得した。


 「おい、聞いてるのか?」


 「えっ?」


 「スマホだよ、スマホっ!」


 来道さんの奇行に目を奪われていた為、結果的に天音君の言葉が全く耳に入ってこなかった。

 すると彼は苛つきながらもう一度スマホを私に催促してきた。正直なところ他人にはあまり覗かれたくない。

 天音君にそう伝えると、ストーカーからのメール以外は読まない、と約束してくれたので私はしょうがなく彼にスマホを手渡した。

 すると性格破綻の問題児は慣れた手つきで素早く操作を始めた。

 めまぐるしく動く眼球と忙しなく画面を滑らせる人差し指。

 ものの数分で彼はすべてのメールを読み終えた。


 「犯人は女性、キミの友人もしくはそれに準ずる身近な人間の可能性が高い」

 

 天音君は一気にまくし立てると、静かに私を見据えてきた。

 そして暫くの沈黙のあと、苛立ち気に制服のジャケットからポケットティッシュを取り出す。


 「いつまでやってんだっ!」


 先程からめげずにずっとキスをせがみ続けている、ロリ系美少女の頭を押さえつけると、天音君は強引に彼女の口周りをティッシュでふき取った。

 この二人の漫才のようなやり取りはもかなり気になったが、いまは性格破綻者の口から飛び出した犯人像のほうが最重要だった。

 そう、彼はハッキリと言ったのだ。犯人は私の身近にいると。


 「たった一回メールを読んだくらいで、そこまで分かるものなの?」


 「一回読めば十分だ。それにこれは断定じゃない、あくまで可能性の話だよ」


 「可能性?」


 「これは僕の独自な見解だが、男女では文章の書き方に若干の差異がある。それらは感情的表現の多用や漢字の頻度、文章の構成など数多く存在する」


 「それをふまえた上で犯人は女性の可能性が高いと?」


 「ああ、そうだ」


 「じゃあ、犯人が女性の可能性が高いと言うのは百歩譲って構わないけど、私の友人や身近な人達と言うのは納得がいかないんだけど」


 「キミの友人だって人間だ。華やかな世界にいるキミを妬みもすれば嫉みもするさ」


 「私の友人たちはそんな事しないっ!」


 「そうか、なら僕の思い違いかもな」

 

 性格破綻者はは私の非難のこもった視線を受け流すと、涼しい顔で先程同様にシャーペンを回した。


 「全くそうは思ってないように聞こえるんけど」


 「だろうね、全くそうは思っていないから。いいかい? 言いにくいが犯人はキミの()めて(・・)プライベート(・・・・・・)な事まで言い当てているんだぞ」


 厄介な問題児のこの発言により、自分の顔が紅潮してゆくのが手に取るように分かる。

 いまの私の顔色は間違いなく、お猿さんのお尻のようになっているはずだ。


 「これはただキミを遠くから眺めているだけじゃ、絶対に分らない事だ」


 性格破綻者はそう言って持っていたシャーペンを私に向けてきた。

 因みにいま彼が言った極めてプライベートな事とは……。

 犯人からのメールには私の女の子の日を言い当ててるような内容のものが含まれていたのだ。

 これを見た時は流石に寒気が止まらなかったのを、いまでも鮮明に覚えている。


 「何か心あたりは?」


 「そんな急に言われても……」


 気まずい空気が夕日の差し込む、放課後の教室に訪れる。

 そんな中、俯く私にロリ系美少女こと、来道リツさんがチロルチョコを手渡してきてくれた。

 

 「はい、玲ちゃんも食べて。甘い物はね、お脳に良いんだよ」


 「ありがとう」


 「おい、お前はどれだけ食べれば気が済むんだ?」


 机の上に散らかされたチロルチョコの包み紙、パッと見20個以上は食べたと思われる。

 この子いつの間にこんなに食べたんだろう? 

 私が驚いていると、ロリ系美少女は冷やかな視線を送る性格破綻者に笑顔を向けた。


 「イト君も食べなよ。甘い物はね、心に小さなオアシスを作ってくれるんだよ」


 そう言って来道さんは得意げな顔を天音君に向けた。

 すると彼はその後、10分程度 ”心のオアシス” 発言の真意と意味をロリ系美少女に問いかけ続けた。

 結果、彼女は二度とドヤ顔を浮かべながら、意味深げな発言はしないと性格破綻者に誓いを立てさせられたのであった。

 その後も結局ところ私に思い当たる人物は一人も浮かばず、これ以上の進展はないと判断した天音君は素早く帰り支度を始め、程なくして3人仲良く下校するはこびとなった。




                    ☆

 



 「キミの交友関係が知りたい、出来るだけ詳細に送ってくれ」私を自宅まで送り届けると、天音君はタブレットPCのメールアドレスを伝えてきた。「念の為に言っておくけど、僕がストーカー犯を追っている事は他言しないように。悪戯に犯人から警戒されたくない、いいね?」


 天音君はそう言い残すと、ロリ系美少女を連れて駅へと逆戻りしていった。

 ああ、しんどかった……私の心と体にドッと疲れがどっと襲ってくる。今日は一日中心労が絶えなかった。

 私は小さくなってゆく変人二人の後姿を見つめながら、静かに肩をすくめた。

 

 それにしてもヤツは噂以上に濃いキャラだった。

 これからの私の学園生活は一体どうなってしまうのだろう? 

 恐ろしく大きな不安を抱えながら、私は夕焼けの空に目を向けてみた。

 するとそこには、いましがた別れたばかりのドSの性格破綻者の顔が浮かんでいた。

 私は大げさに溜め息を漏らす。そして「消えろっ、この性格破綻者がっ!」と、言いながら夕焼けの空に渾身の右ストレートを繰り出したのだ。

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