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第二話「性格破綻とロリ系美少女2」

 「いやあ、しかし綾瀬さんにはガッカリしたよ。だって僕ひとりあの巨大女のもとに残して、自分はしれーっと出て行くんだもんなあ……正直目を疑ったね、僕は」


 性格破綻の美少年は冷たい眼差しと、非難のこもった言葉を私に向けてきた。

 因みに彼がいま言った ”巨大女” とは百合先生の事である。

 理由は単純、彼女は身長175cmを超える大柄な女性だったからだ。


 「だって、怖かったんだもん……それに原因は天音君が余計な事を言ったからでしょう?」


 非難の眼差しを向ける天音君に、私は上目づかいで訴えた。


 「まあ、確かにキミの言う通り僕は余計な事を言った。それは認める。でもね、あんな理不尽な要求をされれば一矢報いたくもなるじゃないか。その結果、1ミリたりとも興味のない話を2時間も聞かされた挙句にこれ(・・)だよっ!」


 厄介な問題児はそう言うと、原稿用紙の束を私たちの目の前につき付けてきた。

 彼は昼休み終了から先程まで生徒指導室にて、百合先生と最近別れた彼氏との出会い、そして別れまでの、ほんの三ヶ月あまりの短い思い出を事細やかに聞かされていたらしい。

 そして最後に乙女を傷つけた代償として原稿用紙10枚、およそ4000文字以上の謝罪文の提出を要求されたそうだ。

 結局、自ら面倒事を増やしてしまった性格破綻の天音君。そんな彼に私は先程から気になっていた疑問を投げかけてみた。


 「ねえ、どうして百合先生が彼氏と別れたって知ってるの? って言うかそもそも先生に彼氏がいること何で知ってるわけ?」


 「そんなの誰がどう見ても明らかじゃないか。キミの色素の薄いその大きな瞳は只の節穴か?」


 性格破綻の問題児は頬杖をつきながら、呆れ顔で私を見据えてきた。

 この嫌味なほどに自信満々の態度には、温厚な私でも流石に腹が立たずにはいられない。


 「一体、何がどう明らかなのよっ!」


 「大声を出すなよ。唾液が飛散するじゃないか」


 ああ言えば、こう言う。

 こいつに口で勝とうとするのは、どうやら無駄な努力のようね……。

 それじゃ、セオリー通りここは一つ(しゃく)ではあるけど低姿勢でいきますわ。


 「それじゃ、無知な私にどうか分りやすくご教授して頂けますか? 天音先生(・・)


 「はじめから、そう言えばいいんだ」


 ドSの美少年はそう前置きすると、私の疑問についての答えを授業を行う教師のようにをよく通る声で語り出した。


「3ヶ月ほど前から神楽先生の化粧が変わったのは、いくら観察眼のないキミでも知っているだろ? あれはね、彼氏の好みに合わせた涙ぐましい巨大女の無駄な努力、というやつだ」


 「嘘っ! 先生、メイク変わってた?……全然、気付かなかった」


 「あの女教師に興味がないのは痛いほど分るよ。でも同じ女性として化粧の変化くらいは気付いてあげなきゃ……でもまあ、結局は無駄な努力だった訳だけどもね」


 これは痛いところをつかれた。

 私とした事が……っていうか、百合先生って相手の男に合わせるタイプだったんだ。

 うーん、ちょっと意外だなあ。

 私がそんな事に思いを馳せているのをよそに天音君の講義はさらに続く。


 「週明けの月曜日は決まって小テストが行われる。これは流石(・・)のキミでも当然知っているね?」


 「当たり前でしょ、バカにしないでしよっ!」


 ”流石のキミ”ってどういう意味よ? ったくいちいちムカつくわあ。


 「ではどうして決まって月曜日なのか、これについてはどうだい?」


 「えっ、何か理由でもあるの?」


 そう聞き返すと天音君は当然だろ? と言わんばかりに頷いた。

 そして私が答えるのを無言の圧力をかけながら待つのだ……。

 あのう、待たれても正直言って全く分らないんですけど。

 って言うか本当に理由なんてあるわけ? 

 そう思いつつ小首をかしげていると、ドS性格破綻者は私に一つのヒントを与えてきた。

 そのヒントとは ”休日は昼過ぎまで寝ているので、週明けはいつも一人時差ボケになる” と百合先生が以前に言っていたというものであった。


 「どうだい、流石にこれで分かっただろ?」


 「ごめん、皆目さっぱり」

 

 私は即座に首を横に振った。

 そりゃそうでしょ? こんな訳の分からないヒントで、正解を導こうなんてどだい無理な話でしょう。 そんな私の思いとは裏腹に、目の前の性格破綻者は出来の悪い生徒を憐れむかの様に静かに溜め息を漏らした。


 「いいかい? 昼間たっぷり取った睡眠のおかげ目が冴えてしまった深夜、神楽先生は特にする事がないので小テストの作成に勤しむんだ」


 「ああ、そう言えば月曜日はいつも眠そうだったかも」


 「それが化粧の変化と時を同じくして、何故か月曜日の小テストは行われなくなる。この理由は?」


 「ええと……ごめん、全然分んない」


 私は苦笑いを浮かべながら、素直に首を横に振った。

 それを見た天音君はまたまた嫌味丸出しの溜め息を漏らす。

 そして致し方なく質問のハードルをほんの少し下げてくれた。


 「ではどうして彼女は日曜日の深夜に小テストを作っていた?」


 「ええと……目が冴えて眠れないし、特にする事もないから」


 現在の私は鬼教師の問いかけに恐々答える、気弱な生徒といった感じであった。

 そんな出来の悪い生徒役の私に鬼教師の講義はさらに続く。


 「じゃあ、なぜ深夜にも関わらず彼女の目は冴えてしまった?」


 「昼間、たっぷりと睡眠を取ったから」


 「ではどうして彼女は昼過ぎまでダラダラと寝ていられる?」


 「休日だし……とくに予定がないから?」


 「そうだ。逆に言えば何か予定があれば彼女はいつも通り起床する。結果、深夜に目が冴える事もない。つまり?」


 性格破綻の鬼教師は、吸い込まれそうな黒く大きな瞳で私を見据えてきた。

 綺麗な瞳……いやいや、違う違うっ! また危うく見惚れてしまうところだった。

 私は心を入れ替えて彼の質問のみに集中することにした。


 「休日に何か予定があれば……月曜日の小テストは作成されなくなる?」


 鬼教師は器用にペンを回しながら ”正解” と言った。

 そして続けて百合先生の表情の変化についても語り出した。


 「週明けは決まってテンションの低かった彼女が、ここ数ヶ月は笑顔も増えて肌艶も良くなっている。おそらく休日のデート等で、彼氏から活力を貰っていたんだろう。実に単純だ」


 「女の子は恋をすると綺麗になるからね」


 「そして極め付きは左手の薬指にはめられた、あのごついシルバーリング」


 「シルバーリング?」


 「そう、シルバーリング。彼女の服装センスからあのシルバーリングのチョイスは不自然だと思わなかったかい? それも左手の薬指にだ」


 「うん、確かに」


 「じゃあ、どういう事だと思う?」


 「誰かからのプレゼント!」


 「正解。彼女自身が購入したとは考えにくいから、誰かからのプレゼントとだと考えるのが妥当だ。ではそれは一体誰から?」


 天音君はシャーペンを私に向けながら問いかける。

 1~2秒の沈黙――すると痺れを切らした鬼教師が相変わらずのよく通る声で語りだした。


 「例えば友人だろうか? いいやそれは考えにくい。何故ならなら友人であれば彼女の趣味を把握しているはずだからだ。では一体誰から?」


 「恋人?」


 「正解、あれはモロに彼氏の趣味だ。恐らく真夏でもレザーパンツにエンジニアブーツ。加えてシルバーのウォレットチェーンが、ワイルドなロックミュージシャン系の男だと僕は踏んでいる」


 「はあ……」


 「今週の月曜日からは三か月ほど滞っていた小テストが再開された。加えて左手の薬指からはシルバーリングが綺麗さっぱり消えている。そして彼女はいつもの眠たげな表情に戻り、豪快な欠伸も連発。これだけ揃えば僕でなくともおのずと答えは出てくる」


 何なのこの人……まるで取扱説明書でも読んでるかのように、表情や僅かな仕草だけで百合先生の全てを完璧に見抜いてる。

 なるほど、どうして百合先生がこの厄介な性格破綻者を助っ人に選んだのか、その疑問がいまようやく理解出来た……うん? と同時に私の中にもう一つ浮かんできた。


 「ねえ、ひとつ聞いて良い?」


 「何だい」


 「天音君って、百合先生のこと好きなの?」


 「殴るよ、キミ」


 性格破綻の問題児は、今日一の鋭い眼差しを私に向けてきた。

 恐らくいまの一言がよほど気にくわなかったのだろう。

 天音君、そこまで嫌がらなくても……百合先生が可哀そうでしょ。


 「だって先生のことをよーく見てないと、絶対に分らない事じゃない」


 「キミならそうだろうけど、僕は違う」


 「……嫌な性格ね」


 「文句なら両親に言ってくれ」厄介な問題児は吐きすてるように言う。そして思い出したようにこう続けた。「因みにこれは余談なんだけど、別れた原因はやっぱり僕の読み通り彼氏の浮気だったそうだ」


 「最低、その男!」


 「ああ、同感だね。でもね今回の彼氏の浮気相手は……」ドSの性格破綻者は珍しく私の意見に賛同した。そして吐息を漏らしながら「先生の方だったんだよ」と、続けた。


 「……えっ?」


 「要するに本命は向こうの女性で、先生のほうが2号だったというわけだよ」


 彼氏の為にメイクやアクセサリのー趣味まで変えたのに……百合先生、切なすぎるよ。


 「まあ、キミが引くのも分るよ。よしっ! こんな切なすぎて心が凍てつく話はここまでにして、こっからは一つ切り替えていこうじゃないか。取りあえず最優先で解決すべき問題は二つ。キミのストーカー被害と僕の謝罪文(・・・)だ」


 天音君はそう言うと当たり前のように、私と先程からダンマリを決め込んでいるツインテールの美少女に原稿用紙を手渡してきた。


 「何これ?」


 「見ての通り原稿用紙だ」


 「うん、知ってる。私が聞いているのはどうして私と来道さんに、原稿用紙を3枚ずつ配ってるの? ってこと」


 「何言ってるんだよ、原稿用紙がなきゃ謝罪文が書けないじゃないか。もう、しっかりしてくれよ、綾瀬さん」


 「……私たちも書くの?」


 「ああ、分担制の方が効率がいい。取りあえず一人称は私で、あとは口語的な文章や稚拙な表現はひかえてくれ」


 「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして私たちが? って言うか筆跡でバレるでしょうが」


 「その点は心配するな、僕があとでリライトするから問題ない」 


 ドSの性格破綻者の一言ですんなりと問題は解決した。

 もう誰かコイツを何とかしてよ……。

 私はがっくりと肩を落しながら、隣に座るロリ系美少女に視線を送る。

 すると彼女はその小さいお口を目一杯に開いて、無心でサンドウィッチを頬張っていた。

 何故にこの状況でお食事を? 

 私はどうでもよい疑問を感じながら、本日三桁は超えたことであろう、深い溜め息を漏らした。

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