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第一話「性格破綻と美少女モデル2」

 この数分間で私のプライドは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の骨のように、ポキポキと折れまくっていた。

 言うまでもなく原因は性格破綻の美少年こと、天音イトの執拗かつ陰険な嫌味攻撃である。

 面と向かってここまでハッキリと文句を言われるのは、16年生きてきて初めてです。

 って言うかある意味では気分が良いわね。いままで気づかなかったけど私ってもしかしてドM?

 明かな現実逃避。

 だけどそうでもしなければ、このドSの性格破綻者と一緒の部屋にいるのは無理だった。

 ああ、一刻も早くこの場から去りたい……。


 その後、天音君による精神的攻撃により私は完全にへこんだ。

 するとその様子に気付いた百合先生は、デリカシーの欠片もない発言を繰り返す問題児に対し、教師がそこまで言っていいの? と思うほどの罵詈雑言を彼に浴びせ続けた。そして説教の最後はこう締めくくられたのだ。


 「学園のアイドルをこれだけ傷つけたんだから、ちゃんと責任は取りなさいよ」


 「因みにどういう形で?」


 「だからさっきから言ってんじゃないのっ! ストーカーよ、ストーカーっ!」


 「はいはい、分りましたよ」


 「あれっ、いやに素直じゃない」


 「ええ、でも条件が一つ」


 「条件って何よ?……あっ、エロいことは嫌よ」


 相良先生は軽く身を引きながら胸元を両手で覆った。


 「先生、鼻の下ブン殴っていいですか?」


 「ダメよ。おもいっきり急所じゃない、そこ……で、条件て何?」


 「放課後、先生に無理やり手伝わされている資料整理の免除。これが条件です」


 天音君はそう言って弁当箱にそっと箸を置くと、天使のような微笑みを百合先生に向けた。

 すると彼女はうっとりとした表情を浮かべると微かに口角を上げた。

 見つめ合う性格破綻のドS美少年と女前の教師。すると暫くして百合先生が静かに口を開いた。


 「相変わらず綺麗な顔してるわね」


 「よく言われます」


 「お人形さんみたいだわ」


 「よく言われます」


 「ホント、喋らなければ完璧なのにね」


 「よく言われます」


 「先生(わたし)のこと好き?」


 「ええ、大好きです」


 「因みにどれくらい?」


 「まあ、、核兵器よりかは」


 「あら、嬉しいわ。ありがとう」


 「いえいえ、こちらこそ」


 「それじゃあ、資料整理の方もお願いね」


 「嫌です」


 にこやかに微笑んではいるが目は全く笑っていない百合先生。

 一方、相変わらず天使のような微笑みを全く崩さない問題児。

 睨み合う二人……どうやら両者とも一歩も引く気はないらしい。

 もう、勘弁してよ……っていうか、相談する相手間違っちゃった。

 私は二人の不毛なやり取りを見つめながら、心の底から溜め息を漏らした。


 「引き受けるのはどちらか一つです」


 数分続いた睨み合い。暫くして問題児が口を開いた。


 よしっ、いまだわっ! いまこのタイミングでハッキリと協力要請を断ろう。

 そうしなければこの先、こいつと暫く行動を共にする事になる。

 それだけは絶対に避けたい、っていうかストレスで円形ハゲになる可能性も、無きにしもあらずだ。

 そうなってはもうストーカーどころの騒ぎじゃないわ。

 私が意を決し口を開こうとしたその時だった、一瞬早く天音君の声が生徒指導室に響き渡った。


 「一方は可愛い教え子の相談事、もう一方はズボラな性格が招いた自身の雑務。先生の優先順位はどっちですか?」


 ま、まずい。この展開はかなりまずい……いまここでハッキリ言わなきゃっ!

 

 「百合先生、私は大丈夫だからどうか資料整理の方を――」


 「勿論前者よ、天音君」

 

 私の言葉を遮ると百合先生はにこやかにウィンクをしてきた。

 その表情は ”教師にとって生徒より優先する事柄などない” といった、誇らしげなものだった。

 百合先生、それ完璧な勘違いです……。

 その後、私はありとあらゆる言葉を用いて百合の勘違いを正しにかかった。

 だけど女前教師は満面の笑みを浮かべながら ”大丈夫、私に任せて” というばかりだった。

 要するに私の気持ちとは全く届かなかった、ということである。

 これだけ言っても全く分ってもらえない……私は廃人のように目の前の性格破綻者をボンヤリと見つめた。すると彼は食べ終えたお弁当箱を片付けるとゆっくりと、こちらに視線を合わせてきた。


 「綾瀬さん、僕は本当のところはこんな事を口にしたくはないんだ。だがこれだけは知っておいてほしい」


 ドSの問題児はそう前置きすると更にこう続けた。


 「どうして僕がこんな面倒事を背負い込まなければいけないんだ? 正直、いまはそんな気持ちで一杯だよ」


 また始まった……私はそう思いつつ無気力に頷いた。自分の顔は見えないが、いまの私は毎日の家事に追われ疲れきってしまった主婦のような表情をしていることだろう。


 「言いたくはないがキミが厄介事を持ちこんでこなければ、誰もこんな嫌な思いをする事は無かったんだ、それは分るよね?」


 もう頷く事しか、いまの私には出来ない。


 「でもキミの気持ちも分らないでもないよ。確かにストーカーは気味が悪い。特に女性にとってはね」


 「はあ……」


 「だから引き受けたからには全力を尽くそうと思う。だが嫌々だという事は忘れないでくれ」


 「すんません……」


 「それじゃ、これからよろしく綾瀬さん」


 ドS性格破綻者は天使のような微笑みを浮かべながら、片手を差し出してきた。

 もう、ここまでくると何も考えることが出来ない……。

 私は座ったままの姿勢で天音君の握手に応えた。

 その瞬間、不覚にも目の前で佇む性格破綻者に暫しの間見とれてしまった。

 近くで見ると本当に綺麗な顔……。

 私はそう思いつつ自分よりも幾分まつ毛の長い厄介な問題児をボンヤリと見上げた。

 

 今日の運勢カウントダウン。

 登校前に必ず見る情報番組の運勢占いだ。今日の私の運勢は最下位の12位。

 備考には ”本日の異性との出会いは最悪、必ず避けるべし” とあった。

 

 怖いぐらい、超当たってるし……。


 「それにしてもキミは手汗が酷いな。何かストレスでもあるのかい?」

 

 ストレス? ブチッ……頭の中で小さな破裂音が響き渡った。


 「ほっとけっ、この性格破綻者っ!」


 私はそう言って彼を睨みつけると、握っていた手にめいっぱいの力を込めた。


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