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ウェカピポVS大家さん

作者: ピコ


ウェカピポはブラックコーヒーを飲まない、苦いのは苦手だから。

ウェカピポは朝シャンをしない、毛髪を少しでも減らしたくないから。

ウェカピポは笑顔を絶やさない、日本人と仲良くしていたいから。


「オハヨウゴザイマース!!」


とても威勢の良いおはようございますに大家の婆さんも自然と笑みがこぼれる。


「おはようウェカピポ、今日も元気ねぇ」


ウェカピポは大家サンが好きだ。日本に来て右も左もわからない頃にとても親身になってくれたのが大家サンだ。ウェカピポにとっては日本でのお母さんとも言えるべき人なのである。


大家サンは日本での生き方を示してくれる素晴らしい人だとウェカピポは思っている。日本人は曖昧に濁す人が多い中でダメな物はダメとはっきり言ってくれる貴重な存在であった。


「ウェカピポ、これ家で作ったから良かったらお裾分けするわ。お口に合うかどうかわからないけれど食べてちょうだいね」


「ナンデスカー!?凄く嬉しいデース!アリガトゴザマース!!!」


凄く威勢の良いアリガトゴザマースに大家の婆サンは少し腰を仰け反らせたが梅干しの入った瓶をウェカピポに渡すとニコニコしながら立ち去って行った。


ウェカピポは瓶に入った赤い果実の様な物を眺めて思考を張り巡らせた。

これは・・・噂に聞いた事がある。ウメボシというヤツでは・・・ゴクリ・・・


ウェカピポは出掛ける予定を取り消して今日は梅干しを堪能するために部屋へと戻った

ウェカピポは梅干しの存在を知っていたが未だに食べた事は無かった。酸っぱいらしいという情報しか持ち合わせていないウェカピポ。とりあえず1つ摘んで口に放り込んでみた。

歯で梅干しを挟み噛んだその瞬間、口内に衝撃が走った!!


「アウチッッ!!」


手作り梅干しは塩気たっぷり酸っぱさ抜群でウェカピポの口内から神経を伝わり脳に衝撃を与えた!

まさにソルト&ビネガーを物質化し具現化したのではないかと思わずにはいられない赤い果実にウェカピポは戦慄した。


コレを・・・単独で・・・食べるのは・・・危険だ・・・

ウェカピポは瞬時に察した。これは直接食べる物では無く調味料なのだと。

試しにパスタを茹でて梅干しを2粒ミキサーにかけペースト状にしてオリーブオイルとチーズと和えてみた。


恐る恐るパスタを啜ってみるウェカピポ


酸味をチーズがまろやかに抑え込みオリーブオイルが潤滑に梅肉をパスタにまんべんなく絡めている。程よい塩気がアクセントとなりウェカピポの口内で日本とイタリアが愛を分かち合っている様であった。

あまりの美味さに感動していると来客が来たのかドアをノックする音がした。


「ハーイ!今行きマース!」


威勢よくドアを開けると大家サンだった。


「梅干し食べれたかい?」


わざわざ様子を見にきてくれたらしい


「パスタソースにして丁度今食べてマシター!チーズに合いますネー!」


すると大家はあからさまに怪訝な表情をしたかと思うとウェカピポに言い放った。


「梅干しはそのまま米と食べるんだよ!それが基本の食べ方。アレンジに挑戦するのは悪くは無いけれど基本を知ってないのにアレンジに走るってのはちょっといただけないわねぇ。まぁ外人サンだし仕方ないのかしらねぇ・・・」


それだけ言うと大家はフゥと溜め息を吐き帰って行った。

しかしウェカピポはその場から動けなかった。

30分程立ち尽くし既に冷め切ったパスタを喉に流し込むと気分をリセットするために洗面台へ向かい顔を洗おうと鏡を見て自分が涙を流している事に気付いた。


外人だから仕方ないと切り捨てた大家も許せなかったが、基本の食べ方を調べようともせず大家を落胆させてしまった自分自身も許せなかった。

しかしウェカピポは明日も元気に大家に威勢よくオハヨウゴザイマスを言うだろう・・・もちろん明後日も・・・


その威勢の良さだけが彼の取り柄なのだから。

それを失えばウェカピポはウェカピポじゃ無くなるのだから・・・

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