異世界からチート救世主が来たのはいいのだが
続きが気になるという方はコメントなどを頂けると助かります。
(現在、何をメインで書くべきがあぐねいている作者からでした)
世界は魔王によって支配されている。
魔王に逆らう者には死が与えられ、私達は反逆することもできずに貧困に喘ぐ日々を過ごしている。
魔王に仕えている十二の神具使いにより、各地は統括されーー市民を使い捨ての駒のように翫び、蹂躙する。
その目的に明確な動機や定理はなく、道楽によって尊厳や命は容易く奪われる。
奴隷として扱われている私は、目の前でミスを犯した友人が首を刎ねられ、手足をもがれたのをまざまざと見せつけられてきた。
もはや、かつてのように感情もなく、私は十二の使者の一人ーー雷神の二ドルに対し、酒を汲む。
「笑顔が足らんぞ、貴様」
「申し訳ございません、二ドル様」
腹が煮えくる怒りも、今はもう起きない。
こんな露出度の高いメイド服を着せられても、羞恥心もない心を亡くした痴女と成り果てたのだ。
他の奴隷達はたわわに実った果実を二ドルに押し付けている。
あぁ、どうせ私は鉄板まな板のように平面で表現できる貧相な体ですよ、だ。
「なんだ、貴様。奴隷のくせに何を考えている」
「私めの考えなど、二ドル様にお伝えする価値はないと思います」
「貴様……我に対し、口答えをするというのか」
巨軀で筋肉の塊のような男の蹴りを、私は無防備に無残にも真正面から喰らうことになった。
「ほほぅ。やはり呪われた小娘はしぶといな」
雷神は嘲笑った。
本来守るべき民を見捨て、魔王に寝返ったクズに私は殴られ続けている。
ーー神具さえなげれば、こんな奴なんて一捻りにできるのに。
私には親友がいた。
だけど、彼女の代わりに奴隷になることを選び、こうして尻尾を振るだけの雌犬と化している。
ーー何してるんだろう、私……。
取り留めのない言葉が頭を埋め尽くしていく。
かつて魔王を倒した一族の末裔が、今まではこうも成り果てたのかとか。
どうして、こんな世界になってしまったとか。
私にも、抗う力が欲しいとか……。
「君、大丈夫?」
優しい声を誰かに囁かれる。
「貴様、誰だ? 我の宮殿にどうやって入ってきた」
「そうですね。ここで説明するのもなんですし……」
突如として凶々しい漆黒の扉が現れ、二ドルはそこへ吸い込まれていた。
少年も扉に入り、気がつくと扉さえも消えていた。
そして声を発する暇もなく、再び扉は現れた。
そこから出て来た少年は、何事もなかったように扉を閉め、素っ頓狂な顔をしてーーーー。
「二ドルという方は、もうこの世界には現れないですよ」
無表情でとんでもない事を口にした。
それがどれだけ凄いのかも知らないような顔をして。
街は宴で盛り上がっていた。
かつては勇者が私欲に塗れ、欲望の限りを尽くした城で。
市民達は一様に祭りだと言って酒を煽り、肉を喰らい、少女達は活き活きと踊り明かす。
「若い男の方がよろしかったですか?」
「いえ、そういう訳では……」
「勇者の末裔でいらっしゃったとは……。知らぬとはいえ、あなた様に助けて貰えて我々としては非常に助かっています」
「はっ、はぁ…………」
二ドルに媚を売っていた男はこうも手の平を返すように、私のご機嫌を取ろうとしている。
そして、私も同罪なのだと気付く。
少年から頼まれたとはいえ、私が二ドルを倒したことにされている。
当てつけのように、少女に神具を渡してまで。
見たことも聞いたこともない扉によって、二ドルは吸い込まれて、勝敗は一瞬にして決着した。
けれど、神具を持たない者が神具使いを倒すなんて考えられない。
だとすると、彼は神具使いだ。
それも、この世界には存在しないはずの十三の神具なのだろう。
二ドルを倒した少年は当てつけのように、魔王を倒さないといけないと行って旅支度に必要な物を要求しただけだった。
無欲過ぎる少年のおかげで、私は勇者と崇められ、城と金と名声を手に入れた。
今もこうして、綺麗な衣装になれない耳飾りまでしている。
それなのに、心は全くといっていい程に晴れ晴れとせず、胸のモヤモヤは消えることはなかった。
少年が雷神の神具を無条件でくれたとか。
これで友人を助け出すことができるとか。
やりたいことや、したいことは沢山ある。
だけどーーそれじゃあ駄目なんだ。
ーー私は走り出していた。
少年を目指して、脇目も振らずに駆けていた。
「何か用ですか?」
「私、じゃなくて私も魔王を倒したいんです。だから、一緒に私も連れてって下さい。お願いします」
告白をするように、頭を下げる。
だが、私の期待していた言葉はなくーーーー。
「君が思っている程、僕は高尚な理由で世界を救うなんて考えないよ」
「えっ?」
少年は当惑していた。
今の状態じゃ仕方ないかとか、万能じゃ無くなるのは不便だなとか、訳のわからない単語を呟いた後に、一言。
「僕も一応、この世界では魔王に分類されるから、君の願いを叶えることはできないんだ」
私は現実を許容することが、どうしてもできないようだ。