訪問者2
「グ〜」
「プッ・・・クククッ・・・」
そういえば朝から何も食べてない。恥ずかしいやらなんやらいろいろあるけど、何だか凄くスッキリした気分だ。
「ご飯にしようか。美味しいお茶のお礼に僕が作るよ。」
「え・・・、いいんですか?すいません。」
「僕は謝られるよりありがとうって言って欲しいんだけどなぁ。それから敬語なし。もう家族なんだから。」
「う・・・はい、じゃなくて、ああ。わかったよ。ありがとう。叔父さん。」
「・・・秀一君・・・今なんて・・・」
「もういいだろ。腹へったから早く食べたい。早くしてね。叔父さん。」
酒井さん、もとい叔父さんはよっぽど俺に叔父さんと言われたのが嬉しかったのかもの凄くご機嫌に鼻歌しながら(凄く上手だ)オムライスを作ってくれた。ふわふわで味付け丁度いい。この人もしかしてめちゃくちゃハイスペックなんじゃないか?
「そうそう。後ね、秀一君。今、君に夢とか、目標とかってある?」
「夢?」
俺は特別やりたいことはない。将来に困らない程度に勉強はしてきたが、これといって目標はないのだ。何より、今まではばあちゃんとの平凡だけど、暖かな生活を守る事が一番大事だった。だから友達もほとんどいない。わずかな友達、といってもクラスで少し話す程度だ。
黙り込む俺に、叔父さんは急に真剣な眼差しを向けてきた。その変化に思わずたじろいてしまう。
「実は僕ね。君の歌、偶然聴いたんだ。君が土手で歌ってる時に。」
え。土手ってまさか・・・ギター始めた時の?え。よりによってあれ聴かれたの?
「ギターは、多分始めたばかりだったんだろうね。拙いけど、一生懸命上手くなろうとしてる君何だか情が湧いてきちゃってね・・・。その時はまだ君が兄さんの子供だとは知らなかった。毎日君の上達ぶりを聴きに行ったんだ。」
しかも毎日聴かれてた・・・一応周囲には気をつかってたのに・・・。
「しばらくはそうやって聴きに行ってたんだけど、仕事の都合で2週間行けなくてね。久しぶりに聴きにきたら驚いたよ。君がギターで弾き語りの練習をしていてね。ギターの上達ぶりもそうだが、君の歌声と、歌そのもの。どちらをとっても本当に素晴らしかった。何より、大事な人へのメッセージが良く伝わってきて、感動したんだ。」
なんかめちゃくちゃ褒められて恥ずかしいような嬉しいような・・・。
「君には、きっと音楽の才能がある。いや、それだけじゃない。君には人を惹きつける内側からの輝きがあるように思う。芸能界に入ってみないか?」
何か話凄い方に向かってない?ていうか
「げ、芸能界?」
「そうだよ。僕の知り合いが町田プロダクションの社長やってるんだ。そこの社長に君の歌を聴いて貰ったんだよ。そしたら、十分素質あるからいつでも来てくれればデビューさせてくれるって。」
「〜〜〜!!!俺のうた聴かれた!しかもプロに!恥ずい。めちゃくちゃ恥ずい!!!なんてことしてくれちゃってるの!」
「恥ずかしがらなくていいよ。プロに認められたんだから。なかなかない事だよ。」
「そういう問題じゃない!」
「という訳で、どうだい?やってみないか?」
「・・・・・・」
いくら認められたとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。まして、大勢の人に何て・・・。
でも、確かに、俺は歌を歌ってるとき、ばあちゃんに歌を聴いて貰っているとき、何より俺の歌を聴いて喜んでくれることに喜びを感じていた。やりたいことのない俺にとって、これは神様がくれたチャンスなのかもしれない。
「わかったよ。やってみる。」
「本当に?嬉しいよ。早速町田プロには連絡入れるね。・・・と、そろそろ今日は帰らないと行けないから、明日また来るよ。明日は、僕の奥さんにも会って欲しいから、出かけられる準備だけしておいてね。」
「叔母さんに・・・。うん。分かった。これからよろしくな。」
「こちらこそ。よろしくね。秀一君。」
叔父さんが帰った。何だか今日一日で物凄く環境に変化が起こってる所為か、物凄く疲れた。お風呂入って、今日はもう寝るか。