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第1話 『ワッフル&メープル』

カフェの中だけの物語もいいと思うんです。

 王都の一角に人知れず小さなお店がある。

 『Closed』と書かれた木札を扉に掲げ、その奥では不思議と落ち着く様な深みのある香りが店の中に漂っていた。


「やべ……砂糖切らしてるわ」


 陽の光がほぼ入らない店。中を照らすのは魔法灯と呼ばれる明かりだけだが、逆にそれは店の雰囲気にとてもあっていた。

 そんな中、一人の青年が弱ったように透明な陶器の蓋をあけながら、頬を掻いていた。

 銀製の掬いを陶器にカンカンと音を立てさせながら、中にあるサラサラとした白い粒をかき集めるがそれはひとつまみ程度しか集まらない。


「ザラメ、メープル、蜂蜜、調理用砂糖は――あるか。珈琲にこいつら使ってよかったかな」


 うんうんと頭を探りながら唸っている時であった。店の扉が軋むような音を立てながら開かれ、客入りを知らせる鈴の音が静かに2つ鳴る。


「お嬢さん、いつも言うけどこの時間は準備中ですよ」


 青年の視線の先。そこにはローブで顔も微かにしか見えないようにしているのに、それでも隠せずにいる気品を纏う女性が扉を丁寧に閉め、申し訳無さそうに頭を下げていた。


「あはは……申し訳ございません……」


 そう言いつつフードを外し金色の髪をパサリと垂らす彼女。

 青年はその様子にため息を付きながらも、カウンター席を引いて座らせる。


「今日は砂糖を仕入れ忘れたので紅茶でいいか?」

「あら……それでしたら暖かいミルクが欲しいです」

「悪いな。蜂蜜はどうする?」

「おねがいします」

「あいよ。新しくワッフルっていうの作ったから食べるか?」

「ぜひ」


 慣れた問答。カプチーノを作る約束をしていたのだが、彼女は砂糖がないと飲めない。申し訳ないので、ワッフルと一緒に小さな入れ物でメープルシロップを渡す。


「これは?」

「ワッフルに気に入ったら少しかけてみてくれ。甘すぎるかもしれないから程々にな」


 ワッフルの上には蜂蜜を粉末状にしたものが既にかかっているので、水っぽさのあるメープルでも流石にかけすぎては甘い。

 

 フォークとナイフを上品に使い、カチャカチャといった音を立てずにワッフルを切り分ける。

 彼女は食べる姿も絵になるなと思いつつ、出来上がったハニーミルクにカプチーノのようなクリームを作り、カウンターに置く。


「おいしいですわ」


 その言葉に安堵する。彼女の舌は出されたものの欠点を初めてでも瞬時に見抜く。それに粗末なものを出した時が恐ろしい。


「そか」


 肩の重荷を外すように息を吐き、また作業に戻る。

 ゴリゴリと珈琲豆のグラインド。


 少し嬉しく、顔が緩みそうになるが集中。しかしこちらを見ていた彼女はクスクスと笑う。

 




「ごちそうさまでした。また来ますね」

「出来ればちゃんとした時間にな」


 悪態を受け流し、店を出る前に再びローブのフードを被る。

 ――認識齟齬のローブ。そんなのを持ちだしてまで来たい場所かね。と首を傾げつつも、手を振り見送った。


 

 『カフェ イッサ』

 

 そう呼ばれる店の主は、例えこの国の城へ帰る女性であろうと拒まず一杯と一食を提供する。

 

 ――実際には、そんな人物しか来ないだけの話だ。


 今日も彼は『Closed』の木札を出したまま、人を待つ――

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